建設業現場が変わる!生産性向上のポイントを解説
生産性の向上と言うキーワードはニュースや記事などでほぼ毎日取り上げられています。生産性の向上は、全ての日本企業が取り組むべき課題で、建設業界も生産性の向上に取り組んでいます。
建設業は、社会インフラの建設ならびに保守と言う大きな役割を担っている一方、社会的なニーズに対応していくためには、技能労働者の高齢化と若い技能労働者が働くことを好まない労働環境をより良くするための働き方改革と生産性向上が必須で、例えば国土交通省では建設現場の生産性を2025年までに2割向上させることを目指して動いています。
そこで、今回の記事では、建設業の現場での広がりを見せる生産性向上の取り組みについて、その具体的な内容やポイントを解説します。
目次
1 生産性とは
生産性とは、労働や設備や原材料などの投入した量から、それによって生産される生産物の産出量の比率です。言い換えると、生産性とは『投入量=投資』に対して『生産量=利益や価値』をどれだけ生み出せるかの指標になります。生産性を測ることで、産業や企業の評価をすることができます。
例えば、1の投入量で2の生産物を作りだす企業Aと、1の投入量に対して3の生産量を作り出す企業Bがあるとします。この2社を比較すると、企業Bが企業Aより1.5倍生産性が高いと言えます。
生産性が高いことは、少ない投入量でより多くの生産量=価値を作り出すことができることを意味します。そのため、産業や企業は常に生産性を高めることで産業や企業の価値を高めることができます。
●労働者生産性件
生産性の中でも、労働時間と言う投入量にフォーカスしているのが、労働生産性です。労働生産性は、労働者1人の1時間の労働時間における生産性を言います。同じ労働時間で今まで以上の生産物を生み出すことでより多くの利益や企業価値を高められます。
少子高齢化が進む日本や建設業界においてこの労働者生産性を高めることが急務となっています。なぜならば、少子高齢化によって今後長期的に労働者が減少するからです。
働く人が少なくなれば、労働時間の総量が少なくなります。少なくなった労働時間でも日本社会や産業に必要なサービスや生産性や価値を提供することが求められます。
●生産性を高める方法
生産性を高める方法は、2つあります。
- ・成果を維持しながら、投入量を下げる
- ・投入量を維持しながら、成果を高める
建設業の工事の受注で説明します。
成果を維持しながら投入量を下げる:工事価格を維持しながら、工事現場で働く職人の労働時間の短縮、資材などの工事原価を下げるなどを行うことなどがあります。
投入量を維持しながら成果を高める:同じ工事原価や労働量や時間を維持しながら、工事価格を上げる、もしくは納期を短縮するなどがあります。
1-1 建設業界の生産性への今までの取り組み
建設業による生産性向上の取り組みは、大きな課題として過去から取り組まれています。なぜならば、建設業界も労働力人口の減少に直面しているためです。
建設業のこれまでとこれからの状況
建設業界のこれまでは、基本的には今まで建設投資を実行するのに十分な労働力人口が確保できていました。そのため、豊富な労働量をベースに建設工事が行う生産体制を確立していました。
建設機械の導入などの技術進歩の恩恵を受けて工事技術の進歩や効率化は継続的に進められた面はありますが、人手不足が発生することを想定しての動きではありませんでした。また、業界としての取り組みとしてではなく、各企業の競争力確保のたえの効率化となっていた一面がありました。
一方、これからの状況は日本全体の労働力人口の減少と、国内の他の産業との人材確保競争への対応が建設業界として求められます。具体的には、340万人いた技能労働者のうち120万人が高齢化によって離職する試算もあります。そのため、建設業は他の産業以上に労働力の低下に対応する重要度が高いと言えます*。
つまり、『他の産業と比較して選ばれる労働環境の整備』と、そもそもの『労働力人口の減少に対応できる生産性を確保』がこれからの建設業界全体で克服しなければいけない課題となっています。
参考:国土交通省『建設生産システムにおける生産性向上等に向けた主な課題』
*参考:一般社団法人日本建設業会連合会『10年後の建設産業を見据えた生産性向上について』より
●今後の課題に対する基本的な視点
建設業界は、複数のプロセスや業者などの相互関係から成立している建設生産システムになります。このシステムの円滑な連携を継続的に活用するためには、建設業界全体の取り組みが必要となります。
一方で、建設業に係る個別企業においてもイノベーションや業務効率の改善などの、企業努力も引き続き継続することが必要です。
≪具体的に変化が求められる建設生産システム≫
- ✓生産プロセスにおける“手戻り”の回避など、そのプロセス自体の生産性向上
- ✓生産プロセスに参加する発注者、設計者、施行者、メーカーなどのプレーヤーのコミュニケーション強化による生産性向上
- ✓生産性向上につながるITツールなどの最新技術の導入
- ✓プロセスの中で、人を頼る部分とICTや機械に依存していく部分とそもそも簡素化していく部分などの線引きを実施していく
- ✓生産性向上と品質向上や確保を両軸で進めていくことへの対応
参考:国土交通省『建設生産システムにおける生産性向上等に向けた主な課題』
1-2 建設業の生産システムにおける生産性向上の主な課題
前述の県政生産システムを変化が求められた部分を課題にまで落とし込まれています。それらの課題は以下になります。
①施工に手戻りや手持ちを生じさせない設計・適切な積算
作業手順を間違えて作業をやり直すこととなる“手戻り”の発生は、生産性を悪化の要因となります。
若干古い資料になりますが、社団法人建設産業専門団体連合会『建設専門工事業の労働生産性に関する調査報告書』によると、手戻りが発生する主たる原因は以下になります。
- ✓事前調査不足
- ✓図面や設計の間違い
- ✓頻繁な設計変更
- ✓不適切な工程計画
- ✓作業の必要以上の細分化
上記のうちで最も発生割合が多いのが、『不適切な工程計画による手持ち』です。この手持ちが発生する原因は、各プロセスにおける相互に関係していることを考慮することなく工程計画を構築したことによることが多くあります。これは、各建設生産システムに関連していく業者間のコミュニケーション不足や検討不足に起因することが多くなっています。
また、不適切な工程計画は『図面や設計の間違い』や『頻繁な設計変更』の要因にもなりやすく、その結果労働生産性を大幅に低下させる要因となります。
工事計画の問題を解決するための施策としては、以下の施策が挙げられます。
事前の現地調査の徹底 | 現地調査を実施し、計画とその実行手順上の問題を確認する。 |
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工法・手順の改善提案および設計変更提案 | 発生する問題を予想して施工検討会などを通じて明示し改善や設計変更を検討する。 |
四者会議(発注者/設計者/元請/下請)などの開催提案 | 発注者や設計者の意図やニーズを実現させるための元請や下請からの専門的知見をもとにしたコミュニケーションの強化。 |
②BIM/CIMの活用拡大への対応
BIMとは、Building Information Modelingの略になります。3次元のCADデータとして作成された『形状情報』と、室などの名称や面積に加えて部材や仕上情報などの『属性情報』を併せもつ建物情報モデルを構築することを言います*。
BIMを活用する主たるメリットは以下のようになっています。
設計内容の可視化 | 一見して分かる可視化によって理解度が高まり、合意形成が簡潔にできます。 |
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建物情報の入力/整合性確認 | 施工する前段階で整合性を確保することができるため、手戻りリスクを回避することができます。 |
建物情報の統合/一元化 | 建物情報モデルが構築され、施設の運営と監理に活用することができます |
CIMとは、Construction Information Modelingの略になります。建設分野で実施されるBIMを土木分野で実施し、BIM同様に調査から維持管理までの一連のプロセスについて3次元モデルの導入によって生産性向上を図る取り組みになります.
③フロントローディングに向けた対応
フロントローディングとは、設計初期段階を重視し負担をかけることで、作業を前倒しで進めることを言います。具体的には生産性向上のために、設計初期段階に設計と施工を担当する業者が共同して設計図を作成することを指しています。フロントローディングを実施することで、コミュニケーションが円滑化され、建設プロセス全体の最適化を図ることができます。
④発注体制の弱い発注者が対応可能で持続的な発注精度の実現
発注体制とは、仕事を発注する上で必要な技術力や組織体制を言います。そして、発注者は建設プロセス全体の生産性向上のために、発注体制の強化が求められます。
具体的な対策として最初に求められるのは、自身の発注体制を自己点検して発注体制の強度を把握することになります。
例えば、市区町村などの公共団体は公共工事の発注を行う立場にありますが、技術職員が不足している状態でかつ技術研究や講習会などを実施していない実態がありました。また、発注に関わる事務量が多いことなども課題となっています。
これらに対応するために、メールや電話などの相談窓口を整備することや、実践的な総合評価方式の演習や講習の実施などを行っています。また、総合評価審査委員として国の職員の派遣なども実施されています。
参考:国土交通省『発注体制を整備できない発注者に対する支援のあり方』
⑤CMニーズへの対応
CMは、Construction Managementの略になります。CMとは、発注者の立場に寄り添ってCMR(コンストラクションマネージャー)が各種マネジメント業務を行うことを言います。アメリカや欧州では活用が進んでいるCMの主な効果は以下になります。
- ・多数の建設生産・管理システムの形成によって複数の選択肢を持てます。
- ・コスト構造の詳細を把握できるため、適正価格が把握できます。
- ・発注プロセスの公明性と透明性が確保でき、ステークホルダーへの説明責任が果たせます。
- ・品質管理を徹底できます。
- ・発注体制を強化できます。
⑥発注者と受注者の間ならびに元請と下請の間に生じる片務性への対処
片務性とは、契約における義務の在り方が対応ではないことを指します。契約における義務の在り方が契約者双方で対等の契約を双務契約と言います。
建設業界では、発注者と受注者の間や元請と下請の間の力関係は対等ではないことが実態となっています。そのため、当事者間の契約において義務が一方的である片務性が発生していました。
具体的には、発注者の支払い方法が曖昧であることや、一方的な工事計画や設計の中止や見直しに対して受注者の保証がないことや天災などの不可抗力な事由によって発生する損害についても負担を強いられるなどの片務性がありました。
これらの発注者と受注者の間の片務性を改善することで、元請と下請の間の片務性も改善することができていくことが期待できます。最終的なシワ寄せが起こりやすい下請の負担-極端に短い工期や請負代金の設定など―を軽減することができます。
⑦施工段階で発生する様々な追加リスクへの対応
当面は、民間工事指針を普及させることで、施工段階で発生するリスクを事前に協議することを推進していく方向性が示されています*。
民間工事指針とは、国土交通省が平成28年7月に策定した『民間建設工事の適正な品質を確保する為の指針』を言います。この民間工事指針を受けて、日本建設業連合会は『民間工事指針の活用方法』を策定し、この指針を建設生産プロセスにまで落とし込むことを目指しています。
*参考:国土交通省『建設生産システムにおける生産性向上』より
⑧プレキャストなど工事製品増加への対策
プレキャストとは、すでに成形されている製品を言います。建設現場において構築をするのではなく、すでに製品化された状態のパーツを組み合わせる工事を行うことになります。
具体的な例として、鉄筋のプレハブ化・型枠のプレキャスト化があげられます。型枠をプレキャスト化することで、鉄筋と型枠を高所で組み立てる従来の作業が省略することができます。また、最終的な脱型も不要になります。
このようにブレキャスト製品の利用は、従来の仕事の省力化と施工の工期短縮の面から生産性向上に寄与できることが期待されています。そのため、プレキャスト化製品は今後さらに利用が増加していくことが予想されています。プレキャスト化製品を活用しながら、品質確保のための対策が必要になります。また、プレキャスト化製品の搬入が必要となるため、製造と物流の面のより広い範囲での効率化などの取り組みが課題となります。
⑨ICT活用による資材納入などの効率化
建設業の労働力と同様に、運送業者の労働力の減少も顕在化しています。産業への新規労働力の流入が減少し高齢化が進む構図は建設業も運送業も同様と言えます。トラックドライバーの高齢化が進めば、近い将来退職を機に労働力不足が加速する懸念があります。
そのため、運送業者も建設業者同様に働き方改革などの労働環境の改善や生産性の向上を目指した活動を続けています*。
参考:国土交通省『物流を取り巻く動向と物流施策の現状について』
一方で、建設業としても前述のプレキャスト製品を含めた建設に使用する資材・部材の製作と運搬とその後の建設現場での組立・活用までをトータルにみた効率的なサプライチェーンマネージメントをICT活用で実現を目指しています。
⑩建設後のケアまでを視野に入れた生産と情報管理の仕組み化
建設物が完成したのちに引き渡しがなされます。建設物は建設して終わりではなく、建設してから利用が開始します。そのため、アフターケアを効率的に実施できるよう、生産段階から情報管理の一元化などに取り組む必要があります。
⑪AIやIoTなどの最新のIT技術の積極的な活用
AI(Artificial Intelligence)やIoT(Internet of Things)やクラウド管理やビックデータ活用など、最新のIT技術を積極的に活用することで生産性向上に寄与することができます。
例えば、建設業許可などを取得する際に作成する書類や保管書類などを電子化で進めていくことがあげることができます。また施工データも同様に、リアルタイムにクラウドサーバなど内部外部を問わず複数の人が同時にアクセスできる環境にアップすることでリアルタイムかつ円滑なコミュニケーションを実現できます。
また、今までどうしても施工プロセスなどの管理は書類で伝達することをメインで実施していたため、リアルタイムに複数の人が把握することはできない環境でした。この施工プロセスの管理を、タブレットなどを利用して入力後すぐにデータ化することで距離が離れた建設現場の状況もリアルタイムに確認・把握することができます。
AIなどの情報処理能力と、クラウドサーバなどの情報蓄積能力の改善などIT技術の進歩によって膨大なデータの処理と蓄積が可能となってビックデータの活用が進んでいます。以下の事項は、建設業におけるビックデータの活用が進められている主な事項になります。
- ✓経営事項の審査結果
- ✓キャリアアップシステム運用実施によって発生する情報
- ✓建設確認申請情報
- ✓公共インフラの保守点検情報
- ✓地盤情報
- ✓空き家バンクの情報
- ✓トラックなどの車両の走行データと道路交通量
- ✓エリア毎の人の滞留量と移動量
- ✓気象や天気情報
1-3 建設業の電子商取引の取り組み
電子商取引とは、インターネットや専用線(VPN)などの電子的に行われる商取引を言います。電子商取引を行うことで詳細は後述しますが、生産性の向上を図ることができます。
建設業における電子商取引が実施できる範囲は広がっています。電子商取引の活用を促進するために、建設業界ではCI-NETと呼ばれる電子商取引の標準ルールを整備しています。CI-NETに準じて、建築主と建設業者と各メーカーが以下の契約を電子商取引で実施できます。
≪電子商取引が可能な事項≫
見積・購買・契約・出来高管理・請求業務
●CI-NETとは
CI-NETとは、Construction Industry NETworkの略になります。CI-NETは、建設産業に関わる企業の情報をデータで結ぶシステムです。CI-NETに対応するASPサービスや業務ソフトを導入することで、電子商取引が可能になります。
●電子商取引を行うために
建設業での電子商取引を実施するためには、CI-NETを利用が必要です。具体的には、理容の前に企業識別コードや電子証明書の発行を行うことが必要です。
企業識別コードの発行には約2~3万円/3年の費用が必要になります。また、電子証明書発行には6,500円費用が掛かり、サービス提供会社利用料が別途かかります。
CI-NET以外の電子商取引のシステムを利用することも、建設業法第19条第3項に合致するシステムを利用すれば建設工事については可能です。
●建設業における電子商取引のメリット
建設業において電子商取引を行うことは、具体的に複数のメリットがあります。
①生産性向上
紙の契約書を活用しないことで、契約に関わる事務作業(書き写しや入力や送付など)を省略でき、処理速度が改善できます。
②費用削減
電子商取引では、印紙が必要ありません。そのため、印紙代を削減できます。また、削減できる事務作業の人件費や郵送料も削減が可能です。
③電子データ利用
電子データを蓄積・一元管理をすることで調達力を強化しながら、調達状況をリアルタイムに把握できます。また、一定期間経過後の見直しなどの整理作業も手間がかかりません。
④コンプライアンスへも寄与
取引の証明がそのままデータ保存でき、追加や変更などの契約処理にも対応できるため、取引遍歴や契約状況などの見える化や管理力の強化に繋がります。
参考:国土交通省『建設生産システムにおける生産性向上』
2 今後さらに進んでいくIT化 “i-Construction”
平成28年1月4日、国土交通大臣が、人口減少が進む日本社会においても、社会のあらゆる生産性向上を実現させることで経済成長を目指せることを会見で発表しました。
その会見中に社会資本整備について賢く投資・賢く使うインフラマネジメントへの転換とi-Construction、ならびに国土交通省がその総力をあげて生産性向上の取り組みを進める考えが発表されました*。つまり、i-Constructionは官民一体となって進めている建設業界の生産性向上のプロジェクトという大きな流れになります。
2-1 国土交通省生産性改革プロジェクト
国土交通省が生産性向上へ取り組むために立ち上げたのが「国土交通省生産性革命プロジェクト」になります。これは、日本経済の持続的かつ力強い成長を支えるために以下の3つの分野で生産性向上を目指しています。
●≪3つの分野と具体的内容≫
3つの分野 | 具体的内容 |
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社会のベース | ・ピンポイントの渋滞対策 ・首都圏高速道路の新たな料金体制の導入 ・湾岸におけるクルーズ新時代への対応 ・密度の経済を実現させるコンパクトプラスネットワーク ・不動産や土地の最適活用 |
産業別 | ・本格的なi-Constructionへの転換 ・新しい住宅循環システム構築と住生活産業の成長 ・物流生産性革命の推進 ・観光産業を革新させ、基幹産業への成長 |
未来型 | ・リスクを事前特定する科学的な道路交通安全対策 ・インフラ海外展開による新たな需要創造と市場開拓 |
これらの中で、建設業の生産性を大幅に向上させることが期待されている取り組みがi-Constructionになります。
●国土交通省生産性改革プロジェクトのねらい
ねらいは、人口減少に伴って必ず現実となる労働者の減少に対して、それ以上の生産性向上を実現させることで経済成長をさせることにあります。
このねらいを実現させるための政府の取り組みとして、『働き方改革』と『未来への投資』を行っています。
働き方改革 | 1億総活躍社会の実現にむけた最大のチャレンジになります。働く人が「より良い将来の展望を持てる」よう、以下の事由の実現を目指す改革です。 ・多様な働き方の追求 ・中間層の増加 ・格差の固定化を回避など |
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未来への投資 | 将来の成長に資する分野へ官民が連携して進めていく投資プロジェクトになります。未来への投資を拡大するために、成長戦略と構造改革の加速を図っていきます。 この未来投資会議の第1回目で、当時の安倍総理が建設現場の生産性を『2025年までに20%向上させる』と言う目標を公表しました。 |
2-2 i-Constructionとは
2025年までに生産性を20%向上させる目標を実現させるために、建設現場で推進されたのがi-Constructionになります。
i-Constructionは、2016年から以下の3つのトップランナー施策として推進されています。
- ① ICTの全面的な活用
- ② 全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化など)
- ③ 施工時期の平準化
① ICTの活用
3次元データの活用をするために、15の新基準や積算基準を整備しました。その上で、国の大規模土工においては、発注者の指定としてICT活用を促進しています。また、中小規模の土工も同様に受注者の希望でICT土工を実施できるように整備が行われています。
その結果、初年度に年間約730件以上のICT土工の発注方式での公告が予定されました。そして、実際にICT土工が実行されていきました。導入したことにより、工期が大幅に短縮された点や手元作業員の配置が不要になったことによる重機との接触の危険性がなくなったことでの安全性の増加などの導入効果が挙げられています。
そして、橋梁やトンネルやダムなどの維持管理へもICTの活用を拡大していく動きが進められています。公共工事の3Dデータ活用を実施するためのプラットフォームを構築し、AIやロボット技術の活用などが促進されています。
② 全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化など)
建設現場の生産性が向上しない理由の一つとして、一品生産や部分別最適設計が挙げられます。そのため、工期や品質で優位性を発揮できるための技術を研究することが阻害されてきました。
これらを改めて、建設生産プロセス全体を最適化するための全体最適の考え方の導入により生産性向上をはかる動きが取られています。
具体的には、部材規格の標準化などを進めプレキャスト製品やプレハブ鉄筋などの工場生産を実現させ、コスト削減や工期短縮の実現を目指しています。
③ 施工時期の平準化
公共工事には、その工事量に偏りが見られました。具体的には4~6月の工事量が少なくなって人材や機材が充分活用されない閑散期がありました。閑散期がある一方で、繁忙期があり管理技術者などの人材や機材の不足などが発生しました。その結果、技術者は閑散期には収入が下がり、繁忙期には収入が増加する代わりに十分な休みが取れないなどの建設業からの人材の流出につながる要因となっていました。
閑散期や繁忙期をなくして、平準化された工事件数を実現するために、発注者の計画的な発注業務の遂行などの取り組みが進められています。具体的には、早期発注や債務負担行為の活用などを採用することで、平準化が進んで閑散期の工事の落ち込みがい一定程度改善する見込みが広がっています。
参考;国土交通省『i-Constructionの推進』
3 まとめ
深刻な人材不足や、技能労働者の高齢化など長期的な課題に取り組んでいる建設業がその課題克服のために取り組む生産性向上についてまとめました。
建設業に若い層や女性などを含めた技能労働者の数を増やしながら長く働ける環境を作るために、キツイ/汚い/危険と言う3Kのイメージをもつ労働環境から新3K(給与改善、休暇が取れる、希望がもてる)の環境へ生まれ変ろうしています。
この新3Kを実現するためにも引き続き実施される生産性向上に向けた建設業界の動きは今後も注目することが大切です。