建設業の年収は?建設業界の現状と今後の動向も
人手不足や少子高齢化が深刻化する中、建設業で働くこと(転職・就職・将来的な独立)を考えている人にとって、建設業界の職種や年収、将来性など様々な点で気になる部分があるかと思います。
そこで今回の記事では、建設業界の構造や現状を踏まえ、職種や年収など働く上で気になる項目、これからの建設業界の方向性などを分かりやすく解説していきます。建設業界を目指す方はぜひご参考ください。
目次
1 そもそも建設業界とは?そして現状は?
まず、建設業界とひとくくりにしても、業種の中には様々な分野・業態・業務が存在します。国土交通省が定義する建設業の業態だけでも、29種類に及び、いかに建設業という産業の裾野が広いかが伺えます。
最初は建設業界全体の部分に目をむけ、そこから各業種、それぞれの現状・課題などをさぐっていきましょう。
1-1 建設業界の全体像と各業種について
建設業界を考える上で重要なのは、業界全体の構造をつかみ、その上でどんな業種があるか、どの業種が自分に適しているかを考えておくことです。
まず、公的資料として、国土交通省が作成した、「建設産業を取り巻く現状」という資料をひもといてみましょう。
建設業界は、「土木」「建設・住宅」「建設・非住宅」の3つに大別できます。公共投資の部門においては、国土交通省・都道府県に申請し、建設業許可を取得することが必要とされています。
建設業許可を要する公共投資の部門は、ピラミッドのような構造が存在します。大型建造物を構築するスーパーゼネコン(5社)が頂点に存在し、全国展開する大手ゼネコン(47社)、地域を地番とする中堅ゼネコン(約2万件)、その他建設業者、専門工事業者が裾野を支えるという形です。
また、本業は異なるが、本業と関連があるために建設業許可を取得している事業者も多く存在します。
「土木」も建設業許可が必要な分野であり、道路などの交通インフラ整備・水道などの生活インフラ整備、治水・崖崩れ防止などの災害対策など、住宅・ビルなどの建設以外を全て包括する形となります。
以前から、特に地方においては交通インフラやいわゆる「箱物」の建設など、「道路を作る」、「施設を作る」ということが重要視されてきました。また、政治家も自身の実績を示しやすい手法として、地元にハコ物(各種大型施設)を建設するということに注力し、バブル期までは特にハコ物重視の傾向が強かったことが推察されます。
しかし、水源の確保の重要性、阪神・淡路大震災や東日本大震災、東日本豪雨や各地での水害・山崩れなどの発生や、インフラの老朽化で、「作る」だけではなく「水資源を守る」「整備する」「治水・治山など守る」ことに対しても、スポットライトが当たるようになりました。
国土交通省でも、水管理・国土保全に関するポータルを作るなど、建設以外にも国土の保全に関して、強化を図っていることが伺えます。
1-2 建設業界の現状と課題
それでは、建設業界全体としては、どのような流れが見られるでしょうか。建設産業そのものは、公的投資・民間投資の合計が平成4年にピークを迎えました。当時の政府・民間の投資額は約84兆円、就業者数は619万人、中小零細含め、53万1千の事業者が存在する、一大産業でありました。
しかしそこから、平成3年~平成5年にバブル崩壊の影響が建設業に波及しました。建設業は、バブル崩壊のダメージを業界全体として大きく受け、投資額・就業者数・事業者などが減っていき、平成22年には、建設業界全体への投資額が約42兆円と、ほぼ半分という状況まで減ってしまいました。
ただ、平成22年で、一旦業界全体の投資額としては底を打ちました。現在は回復傾向にありますが、それでも約52兆円と、バブル当時に比べると、かなりの減少傾向にあることが見て取れます。
ただ、現状でポジティブに見るべき面は、統計データで平成22年に底を打ってからは、各年が回復か、横ばい気味の若干回復傾向にあり、民間・政府全体としては投資額の落ち込みが見られないという点です。
要因としては、
- ●東日本大震災の復興需要
- ●各種災害の復興需要
- ●東京オリンピックに関する建設需要
- ●国が建設業の重要性を認識し、各投資の圧縮がさけばれる中でも、投資を増やしたり、減らす場合でも最小限にとどめたこと
など、様々な複合要因が見て取れます。
以前は、建設業界に対し、ハコ物作り・道路建設に対し、市民団体などから税金の無駄遣いという批判などもあったといわれています。
しかし近年は、建設の重要性だけでなく、災害の多発で、施設の耐震整備・災害時の代替ルート確保のための自動車専用道建設など、災害の被害の防止や緊急時の対策に対する社会の理解も深まり、重要性が見直されているといえます。
また、今後の動向として、各種社会インフラに対する、将来の維持管理に対する費用の増加が大きく見込まれています。
先の国土交通省の資料によると、
“社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会「社会資本メンテナンス戦略小委員会」での審議を踏まえ、国土交通省において試算した結果によると、2013年度の維持管理・更新費は約3.6兆円、10年後(2023年度)は4.3~5.1兆円、(2033年度)20年後は4.6~5.5兆円程度になるものと推定される。”
と記されています。
建設業全体としては大きな割合を占めるわけではないですが、業態としては、必然的に伸びるのがインフラ整備の分野と言えましょう。
一方で建設業は、「人材確保」という面で大きな課題を抱えています。建設業就業者の減少、技能の承継は、建設業にとって極めて大きな課題となっています。
建設業の就業者は、平成9年の685万人をピークに、平成27年には500万人まで減少しています。現状ここ6,7年は、東日本大震災などの復興需要もあり、就業者の絶対数は横ばいですが、技術者も平成9年の41万人から平成27年の32万人、技能労働者も平成9年の455万人から平成27年には331万人まで減少するなど、建設業従事者、特に技能を持つ人が減少しているというのが現状といえます。
あわせて着目すべき点は、建設業の就業者の年齢構成です。前述の国土交通省の資料では、建設業就業者は55歳以上が約34%、29歳以下が11%と高齢化が進行しています。55歳以上と言えば、多くの企業が役職定年を迎える年代でありますが、建設業では55歳以上が3割以上を占める一方、20代以下は1割しかいないのです。この点で、次の世代へいかに技術を継承するかが課題となっています。
また、資料には記されていませんが、技術を持つ中小・零細事業者の事業承継の問題も、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になる2025年を軸として、この10年で顕在化してくることが想定できます。
そのため、建設業全体として、若手・中堅世代に対するニーズが非常に強い業態と言えましょう。
2 建設業の職種・年収
建設業で働くことを考える上で、どのような職種があるか、どのようなスキルが必要か、年収のラインはどれくらいかを知っておくことは重要です。職種・資格・年収という面で、建設業を考えてみましょう。
2-1 建設業の職種にはどのようなものがあるか
前の章で、建設業は、特に公共部門においては、スーパーゼネコンを頂点とするピラミッドがあると記しました。
スーパーゼネコンや大手ゼネコンは、「各建設業者を統括する、総合的な元請け」としての側面を持ちます。
同時に、特にスーパーゼネコンは建設業という業態だけではなく、不動産開発・医療福祉・エンジニアリングなど、建設業という業態を主軸としながらも、他の分野にも積極的に算入しているため、募集職種も、
- ●施工管理・設計
- ●電機・機械
- ●営業
- ●不動産開発
- ●バックオフィス
- ●IT
など、極めて多様です。
また、建設現場で現場統括の責任者として入る場合は、現場で作業を行う親方・職人などと適切なコミュニケーションをとれるかも重要です。
建設業界という業態で「ピラミッドの構造が存在する」という現状がある以上、理想なのは、できるだけスーパーゼネコン・有力ゼネコンクラスの会社に、自分が得意とするスキルで入ることでしょう。
一方、現場で働きたい、もの作りを自分たちの力で行いたい、現住所で働けるところに就職したいという場合は、地場の有力ゼネコンや、独自の技術を持つ会社に入るというのも一つの選択といえます。
また、地場の建設業も含めると、建設業の扱う業種というのは、非常に幅広いといえます。
国土交通省の資料(各都道府県も同様です)では、建設業を29の業種に区分しています。この区分は、昭和46年に制定されています。
非常に長い量になりますが、どのような業種があるのかを確認してみましょう。
業種名 | 内容 |
---|---|
土木一式工事 | 総合的な企画、指導、調整のもとに土木工作物を建設する工事(補修、改造または解体する工事を含む。以下同じ。) |
建築一式工事 | 総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事 |
大工工事 | 木材の加工または取付けにより工作物を築造し、または工作物に木製設備を取付ける工事 |
左官工事 | 工作物に壁土、モルタル、漆くい、プラスター、繊維等をこて塗り、吹付け、またははり付ける工事 |
とび・土工・コンクリート工事 | イ 足場の組立て、機械器具・建設資材等の重量物のクレーン等による運搬配置、鉄骨等の組立て等を行う工事ロ くい打ち、くい抜き及び場所打ぐいを行う工事ハ 土砂等の掘削、盛上げ、締固め等を行う工事ニ コンクリートにより工作物を築造する工事ホ その他基礎的ないしは準備的工事 |
石工事 | 石材(石材に類似のコンクリートブロック及び擬石を含む。)の加工または積方により工作物を築造し、または工作物に石材を取付ける工事 |
屋根工事 | 瓦、スレート、金属薄板等により屋根をふく工事 |
電気工事 | 発電設備、変電設備、送配電設備、構内電気設備等を設置する工事 |
管工事 | 冷暖房、冷凍冷蔵、空気調和、給排水、衛生等のための設備を設置し、または金属製等の管を使用して水、油、ガス、水蒸気等を送配するための設備を設置する工事 |
タイル・れんが・ブロツク工事 | れんが、コンクリートブロック等により工作物を築造し、または工作物にれんが、コンクリートブロック、タイル等を取付け、またははり付ける工事 |
鋼構造物工事 | 形鋼、鋼板等の鋼材の加工または組立てにより工作物を築造する工事 |
鉄筋工事 | 棒鋼等の鋼材を加工し、接合し、または組立てる工事 |
舗装工事 | 道路等の地盤面をアスファルト、コンクリート、砂、砂利、砕石等により舗装する工事 |
しゆんせつ工事 | 河川、港湾等の水底をしゆんせつする工事 |
板金工事 | 金属薄板等を加工して工作物に取付け、または工作物に金属製等の付属物を取付ける工事 |
ガラス工事 | 工作物にガラスを加工して取付ける工事 |
塗装工事 | 塗料、塗材等を工作物に吹付け、塗付け、または貼り付ける工事 |
防水工事 | アスファルト、モルタル、シーリング材等によって防水を行う工事 |
内装仕上工事 | 木材、石膏ボード、吸音板、壁紙、たたみ、ビニール床タイル、カーペット、ふすま等を用いて建築物の内装仕上げを行う工事 |
機械器具設置工事 | 機械器具の組立て等により工作物を建設し、または工作物に機械器具を取付ける工事 |
熱絶縁工事 | 工作物または工作物の設備を熱絶縁する工事 |
電気通信工事 | 有線電気通信設備、無線電気通信設備、ネットワーク設備、情報設備、放送機械設備等の電気通信設備を設置する工事 |
造園工事 | 整地、樹木の植栽、景石のすえ付け等により庭園、公園、緑地等の苑地を築造し、道路、建築物の屋上等を緑化し、または植生を復元する工事 |
さく井工事 | さく井機械等を用いてさく孔、さく井を行う工事またはこれらの工事に伴う揚水設備設置等を行う工事 |
建具工事 | 工作物に木製または金属製の建具等を取付ける工事 |
水道施設工事 | 上水道、工業用水道等のための取水、浄水、配水等の施設を築造する工事または公共下水道若しくは流域下水道の処理設備を設置する工事 |
消防施設工事 | 火災警報設備、消火設備、避難設備若しくは消火活動に必要な設備を設置し、または工作物に取付ける工事 |
清掃施設工事 | し尿処理施設またはごみ処理施設を設置する工事 |
解体工事 | 工作物の解体を行う工事 |
以上、業種を挙げるだけでも膨大な数になることが、おわかりいただけるかと思います。
業種により、必要な技能・資格や行う業務も異なってきます。
いわゆるゼネコン・スーパーゼネコン以外は、上記の業種に関し複数の取り扱い、国・都道府県の許可を受けているケースが多いと言えましょう。
なお、2都道府県以上を管轄する場合は国土交通大臣、1つの都道府県のみの場合は都道府県知事の許可を得る形となっております。都道府県知事の建設業許可を得ている会社よりは、国土交通大臣の建設業の許可を受けている事業者の方が、規模が大きいケースが多いと言えます。
2-2 建設業界を目指す上で必要な資格は?
建設業で行う業務は多岐にわたるため、様々な資格が存在します。
その中でも、重要である、各業種で設置義務がある、建設業の許可申請や入札に関与する上で重要な資格などに関して、ピックアップしていきます。なお、この資格はほんの一部ですので、ぜひ自分の関心のある分野に関して、より深く調べてみることをおすすめします。
①技術士
技術士は、建設業の資格でも、有していることで一目置かれる資格といえます。
技術士を取得するためには、まず原則として7年の実務経験(状況により、年数が変わる場合がある)を要し、試験内容も幅広く、相当な難関といえます。
②建築士(一級・二級)
こちらも相当な難関で、設計・工事管理・各種手続き(行政への申請など)複数の職務を含む複雑な資格です。
建設の専門教育を受けていない場合、まず二級建築士の受験資格を得るために7年の実務経験をへて二級建築士に合格する必要があります。
さらに二級建築士としての実務経験を4年以上行うことで、初めて一級建築士の受験資格が与えられますので、タイムラグなども含め、最低で12年の期間がかかることになります(ただし、学校等で専門教育を受けている場合は、期間が内容に応じ短縮されます)。
いずれにしても、取得までに相当の期間と労力を費やす資格といってよいでしょう。
③安全管理者
労働安全衛生法において定められている資格で、建設業を初めとする特定業種で、常時50人以上の労働者を雇用している場合、少なくとも1人、専任の安全管理者を配置する必要があります。(業態によっては、300人~2000以上の労働者を使用する業務に専任の管理者が求められるケースもあります)
建設物の安全確保や、設備・器具の定期点検、作業訓練、消防・避難の訓練など扱う分野は多岐にわたりますが、職場の安全をマネジメントする上で、重要な立場と言えます。
④測量士
土地等の測量を行う専門職で、難関資格です。
測量業を営む上では、営業所ごとに最低1人の専任管理者が存在しなければならず、5年ごとの登録更新も要されます。
受験には、大学などでの測量に関する学習経験・実務経験か、測量士補に合格し、実務経験を積むなど専門性が求められる職種と言えます。
その他、建設業にかかる資格をピックアップすると、膨大な数になります。始めに資格ありきというより、実務を通して必要とされる資格を取得していくという形が、資格を実践に活かすという観点でも大切です。
2-3 建設業の年収目安は?
建設業の業務を考える上で、年収目安は非常に気になるところです。まず、建設業全体の平均年収を、厚生労働省のデータを確認してみます。
平成30年賃金構造基本統計調査では、建設業の全年代・大企業・中小企業を問わない統計データで、男性349万1千円、女性246万1千円という数値が出ています。
このデータは、あくまで全体の平均ですので、専門的な資格を有していたり、スーパーゼネコン・大手企業に勤めている場合ですと、平均よりもかなり大きな金額が望めるでしょう。
例えば、あるスーパーゼネコンでは、モデル年収例として、
A社
年収600万円/30歳/大卒(賞与・手当込)
年収900万円/40歳/大卒(賞与・手当込)
B社
30歳600万円
35歳750万円
管理職1,000万円以上
(時間外・通勤手当については別途)
など、業界平均を大きく上回る水準のモデル年収例を提示しています。
その他の会社も見ても、規模が大きければ大きいほど、大きな年収が見込めます。
かといって、中小規模の会社でも、「様々な点で大企業にない柔軟性がある」「実務者・現場監督者としてダイレクトに建設業に関われる」「様々な会社で事業承継が課題となる現代で、小規模の会社で跡継ぎがいない場合は、会社の事業を承継できる可能性がある」「組織が実力主義のため、結果を出せばスピード感のある昇進・昇格・昇給が望める」など、組織がコンパクトであることが逆にメリットになるケースも想定されます。
ただし、規模がコンパクトな組織であるほど、トップや社員を含め、「この人たちと公私にわたって長く付き合えるか?」という観点は持った方が良いでしょう。
建設業はチームワークが大切で、昔ながらの日本企業的側面を持つ会社も多いです。そのため、組織規模を問わず、親睦イベントや行事などが行われることも想定されます。このような場で他の社員、そしてトップと抵抗なく関わっていけるかは、一つの重要な要素と言えます。
3 建設業界の今後はどうなる?
建設業界は、内需という側面においては、東京オリンピックに備えた準備で一つの山を迎えた感覚があります。
ただ、2025年に大阪で行われる日本万国博覧会や、各地でのIR・統合型リゾート事業の推進による、滞在型施設・エンターテインメント施設やホテルの建設需要など、東京オリンピック後も様々なニーズが望まれると想定できます。
ただ、2020年2月現在、新型コロナウイルスの影響が各方面に波及しており、今後建設業も含めた様々な業種に影響が広がる恐れがあります。
この点も踏まえ、建設業界の今後について考えます。
3-1 東京オリンピック建設特需の反動は?
本年(2020年)開催予定の東京オリンピックに向け、様々な施設の建設や、付随する建物、都市部の再開発など、東京全体で様々な建設事業が行われています。
また、各地に高級ホテル・滞在型施設が整備されるなど、国内だけなくインバウンド需要も見込んだ施設建設も相次いでいます。
また、関東・九州をはじめとする、各地の地区で発生した豪雨・土砂被害の復旧需要も、まだまだ様々な部分で求められています。
それに加え、これまででも述べた、老朽化したインフラの整備や既存建物の補修など、今改めて建設業の様々な業種の力が求められている状況にあると言えます。
そのため、東京オリンピックの特需自体は落ち着いても、今後建設されるホテル・施設や大阪万博、その他IR施設など大型建設の需要から、個人宅の建設・補修需要も伸びることが想定されます。
また、現在空き家の問題が都市部・地方問わず深刻化しており、空き家の解体に関するニーズも高まっていくでしょう。
現在は、空き家などを更地にすると、小規模住宅用地(200平方メートル以下の部分)は固定資産税が6分1、一般住宅用地(200平方メートルを超える部分)は固定資産税を3分の1の評価額とされる措置がなくなるため、一般的な住宅では一気に固定資産税が6倍に跳ね上がるという状況があります。
そのため、空き家をそのままにしておくことに経済的合理性があったわけですが、国土交通省が主体となり、空家等対策の推進に関する特別措置法が制定されました。
平成28年度の税制改正で、空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)として、“平成28年からは、空き家を改修・更地にして相続日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日までに、被相続人の居住の用に供していた家屋を相続した相続人が、当該家屋(耐震性のない場合は耐震リフォームをしたものに限り、その敷地を含む。)または取壊し後の土地を譲渡した場合には、当該家屋または土地の譲渡所得から3,000万円を特別控除する。”とすることで、空き家を改修したり更地にすることで、税制面の優遇を図っています。
また、空家の除却等を促進するための土地に係る固定資産税等に関する所要の措置として、荒れ果てている空き家の場合、特定空き家として扱われ、固定資産税の減免措置がなくなる可能性があります。
空き家になった原因は様々であり、住民・地権者の資力が限られるケースもありますが、今後は空き家の解体(付随して遺品整理など)のニーズも高まっていくでしょう。
なお、遺品整理業に関しては、2020年2月現在、許認可や規制する法律が存在しません。そのため、事業者の質が玉石混交となっており、遺品整理に関するトラブルも消費生活センターなどで注意喚起されています。
国土交通省・都道府県知事の許可が必要な建設業と異なり、参入障壁が存在しない遺品整理業ですが、今後は信頼構築のための自主規制団体の整備、各業者の適切な事業が強く社会より求められてくるでしょう。
3-2 海外での感染症流行など、国内以外の注意すべき要因は?
当記事を作成している2020年2月現在、新型コロナウイルスがアジアを中心に猛威を振るっています。
このような感染症・災害などの外部要因は、
- 建築材料のサプライチェーンの停止、材料の納品遅延
- 国内外での現場で働く人や外国人材への影響(体調不良や、自国へ帰るなど)
- 新規建設事業・建設中事業のストップや一時停止、スピードダウン
など、様々な影響が想定されます。
ただし、各影響はあくまで一時的なものとなる可能性が高いと想定されます。状況が回復すると、建設業全般に対してもマイナスの影響は減ってくるかと思われます。
また、一時的な好不況の落ち込みがあったとしても、建設業全般は、公的投資、民間需要共に常にニーズを有しているといえます。
好不況の波や、各種災害・感染症などの外部要因が存在しても、建設需要や補修、インフラ整備など、建設業に対するニーズがなくなることは、想定できません。
また、各地での災害の発生により、治水・耐震などの重要性が、国民にとって「リアルな実感として」大切であることが認識され、以前のような「いつ起こるかわからない災害に対し、対策で税金を使うのはいかがなものか」という意見も大きく減り、現在はむしろ、「防災・インフラ整備に対する公的投資」をプラスなものとして考える人も増えています。
財務省も、平成31年度予算及び平成30年度第2次補正予算についての中で
“3) 甚大な被害をもたらす災害への防災・減災を目的として、国民経済や国民の生活を支える重要インフラの機能維持を図るため、「臨時・特別の措置」の一環として、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」のうち、平成31年度に行う事業に対し1兆3,475億円を計上している。
- ・河川、砂防、道路等の防災・減災対策 7,153億円
- ・ため池、治山施設、森林、漁港等の防災・減災対策 1,207億円
- ・水道施設の耐震化対策等 259億円
- ・学校施設等の防災・減災、地震津波観測網等に関するインフラ緊急対策 1,518億円
- ・電力インフラ、製油所・油槽所の緊急対策 462億円
- ・災害拠点病院等における耐震化対策等 75億円“
と、予算に関する概要の部分で、
- ●国民の生活を守るために、重要インフラの機能を維持することが大切である
- ●「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」を打ち出した上で、インフラの機能維持を図ることを強調している
という点から、いかに国が建設・インフラ整備の重要性を改めて認識・重要視しているかがうかがえると言えます。
4 建設業界に関するまとめ
ここまで、建設業界の現状とこれからについて記してきました。「建設業は、日本の主要産業であり、様々な日本の機能を支えている基幹産業である」という点が言えます。
建設業と一口にくくると非常に範囲が広いため、「そもそも建設業は、具体的にどういうことをしているのだろう?」という視点が入りにくいケースがあります。
しかし、ここまでお読みいただくと、建設業は伝統と継承された技術に支えられた、日本を支える大切な業態であり、また世代の高齢化、後継者不足により危機を迎えている状況であることもご想像いただけるかと思います。
また、人数が不足している、今後不足する見込みが強いということは、「転職などで入りやすい、歓迎される」ということも想定できます。人数が足りない分、仕事量が増えることも想定はできますが、現在は建設業全般に、労働時間を含めたコンプライアンスの遵守、安全確保なども求められていますので、使用者側もその点は慎重に対応を行うでしょう。