環境問題に取り組む上場企業の建設業者5選
住居、オフィスビル、商業施設、道路、橋梁、ダム、プラント、など人間が生活・活動する上で必要な構造物を作る建設業は、自然環境等に対して大きな影響を及ぼす産業の一つです。そのため、建設業における「計画⇒施工(・運用)⇒改修⇒解体」という事業活動において、環境負荷の低減が課題となっており、各事業者は前向きに取り組んでいます。
今回の記事では、建設業者の中で積極的に取り組む上場企業5社を取り上げ、環境問題への対応等をご紹介します。建設業のサステナブル経営などに興味のある方は参考にしてみてください。
目次
1 建設業者に求められる環境問題への対応とは
建設事業は、建設資材の生産・施工、完成後の運用・維持及び改修、使用後の解体、といった活動を行い、建物のライフサイクルを通じて、様々な形で環境に影響を及ぼしています。
例えば、産業部門からのエネルギー起源のCO2排出量を業種別に見ると、建設業は2%と他の産業より特に多くはないですが、建設資材の生産・加工段階、資材輸送段階、建設工事段階、建物の運用段階、などを含めると相当な量になるのです(全体の約4割という試算あり)。
また、使用する材料や廃棄物(日本の産業廃棄物の約2割)も多いため、活動で対策を講じなければ、資源の枯渇や自然破壊・汚染といった問題を深刻にさせかねません。
そのため、そうした問題を防ぎ自然環境や人間社会を保護するために、また、危険を伴うことの多い建設作業に従事する労働者の安全やより快適な労働環境の確保のためには、建設業は他の産業以上にサステナビリティの実現を含む環境問題の解決に取り組むことが求められているのです。
サステナビリティとは、「sustain(持続する)」と「able(~できる)」を組み合わせた言葉で、「持続可能性」と表現されます。サステナビリティの主な内容は、人々の健康や経済などを含むすべての環境や社会が、将来にわたって機能を失わずに持続できることであり、それを実現するシステムやプロセスも含まれます。
これまで人間は生活をより豊かにするために科学技術を進化させつつ産業を高度に発展させる過程で、石炭石油等のエネルギー、鉱物資源、森林資源、海洋資源などを大量に消費してきました。
また、生産時や使用時には膨大な量のCO2を含む排気ガスが排出されるほか、生産過程では自然を害する産業廃棄物が生成されます。
こうした人間の活動の結果、世界の気温が上昇し気候変動による災害の増加、エネルギーや鉱物資源等の枯渇の危機、生態系の変化による森林・海洋資源の減少といった現象がよく見られるようになってきました。
そして、環境・社会を保護するための活動が重視され始め、2015年9月の国連サミットでは「持続可能な開発目標のSDGs(Sustainable Development Goals)」が策定されたのです。
SDGsは、2030年までに持続可能なよりよい世界を目指す国際目標で、17のゴール・169のターゲットから構成されており、各国・各企業がそれに基づき目標を定めてサステナビリティの実現のために取組を始めました。
このSDGsの認識の広まりとともに、世界中で環境問題への意識が高まっており、企業には環境に配慮した事業活動が求められるようなり、特に建設業にはその要請が強まっているのです。
建設業の環境問題への対応について、一般社団法人「日本建設業連合会(日建連)」では、環境課題としている「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の統合的な実現を目指すために、会員企業が「環境経営」の充実を図るように促しています。
1-1 「脱炭素社会」への取組
気候変動による異常気象や自然災害の増大、生態系や植生の変化の進展などを阻止するため、温暖化対策による脱炭素社会の実現が必要とされています。建設業では、「CO2を出さない新エネルギーの有効利用やエネルギー効率の良い建物や街」の推進が求められており、日建連はその実現に向けた取組を促しているのです。
例えば、建設現場での取組では、建設機器等の「省燃費運転推進」や「バイオディーゼル燃料の活用」などが挙げられています。また、建設現場での作業では、風力発電・太陽光発電・LED照明、など環境に優しい新エネルギーや機材の活用を勧めているのです。
「省エネや再生可能エネルギーにより建物全体で使うエネルギー使用量をゼロに」を目指す「ゼロ・エネルギー・ビル」など、「エネルギー効率の良い建物」の施工を促しています。
さらに建物だけでなく、「街全体でエネルギーの無駄をなくし、エネルギー効率を高めた都市」づくりを目指す「エネルギー効率の良い街」の施工も勧めているのです。
1-2 「循環型社会」への取組
資源を効率的に使用し、使用後においては再利用や再生を行って、資源を循環して環境負荷を低減させながら持続可能な社会を維持することも重要な課題と位置付けられています。建設業においても、この循環型社会の実現にむけた取組が要請されているのです。
例えば、資源の有効利用や3R(レデュース、リユース、リサイクル)に努め、適正な処理及び建設廃棄物の削減とリサイクルを一層推進するように日建連は促しています。
・レデュース(発生抑制)
この活動は、「無駄な資材の排除・分別」です。例えば、加工場でのプレカットで現場における端材発生を抑制する、梱包材の簡略化で廃材を削減する、混合廃棄物の削減のため廃棄物を現場分別して処理施設に搬出する、といった活動が挙げられます。
・リユース(再利用)
この活動は、「資源の再使用」のことです。例えば、プラスチック型枠やリターナブル容器(材料等の運搬)など、再使用可能なものを使用して、排出する廃棄物を減少させる、といった取組です。
・リサイクル(再資源化)
この活動は、「徹底したリサイクル」です。現場で発生した副産物を別の用途の資材として利用できるようにする、という再生利用になります。
以上の3Rの取組を通じてし、建設現場から出る廃棄物をゼロにするという「ゼロ・エミッション」も促されているのです。
1-3 「自然共生社会」への取組
建設業は国土資本や社会整備などを担う産業であるため、自然とのかかわりが深く、生態系や自然環境への配慮が他の産業以上に必要です。特に生物多様性の保全が重視される今日において、建設業はそのための技術開発やその普及・PRが必要とされ、日建連はこれらの取組を促しています。
例えば、「カニ護岸(カニが活動できるコンクリートパネル」、「アニマルパスウェイ(小動物専用の橋)」、「魚道(ダム等に設置する魚の通り道)」、「ビオトープ(生物が生息可能な環境)」などの開発や普及への取組が挙げられます。
1-4 「環境経営」への取組
日建連は、主に以下の3点から会員各社の環境経営の充実化を促しているのです。
●環境技術の開発
例えば、太陽光パネルを備えた「ハイブリッド外壁」、その場で土を綺麗にする「土地浄化システム」、構造や形を工夫した「景観への配慮」といった技術開発が挙げられています。
●環境保全活動の推進
日建連は「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」が統合的に実現されるように、会員各社が実施すべき内容を「建設業の環境自主行動計画」に取り纏めるように促しています。また、環境情報の開示(CSR報告書)や活動を推進するための啓発資料等の作成・活用も勧めているのです。
●環境社会貢献の促進
この活動は、環境イベントや現場見学会などを開催し、一般の人が普段立ち入れない建設現場等でその環境への取組を体験できる機会を提供する、などが該当します。また、エコプロダクツ展等の開催を通じた建設業の取組の紹介、緑化や装飾等による周辺環境への配慮、なども勧めているのです。
2 環境問題対策に熱心な大手建設業者
環境問題に熱心な上場企業の建設業者5社の取組内容を見ていきましょう。
2-1 大成建設株式会社
大手ゼネコンの1社である大成建設社の環境問題に対する取り組みは以下の通りです。
1)会社概要
- ・本店(本社)住所:東京都新宿区西新宿一丁目25番1号 新宿センタービル
- ・創業:1873年10月
- ・従業員数:8,579名(2022年3月31日現在)
2)環境問題への取組
大成建設グループは「持続可能な環境配慮型社会の実現」に向けて以下のような取組を進めています。
(1)環境方針
同社グループは「人がいきいきとする環境を創造する」というグループ理念とサステナビリティ基本方針のもと、「自然との調和の中で、建設事業を中核とした企業活動を通じて良質な社会資本の形成」に注力しています。
建設業者として、環境課題を重要なサステナビリティ課題と認識し、事業活動が環境に与える影響と環境から受ける影響を十分に把握し、「持続可能な環境配慮型社会の実現」を目指すとしているのです。
その実現に向け、環境関連法令等を遵守しつつ、グループの長期環境目標を達成することを責務として同社は認識しています。また、気候変動などの環境関連の「リスクと機会」を的確に捉えて、環境関連技術・サービスの開発と普及に努め、事業を通じて脱炭素社会、循環型社会、自然共生社会の実現に寄与すると示されているのです。
(2)脱炭素社会
同社グループは長期環境目標として「TAISEI Green Target 2050」を策定し、脱炭素社会を実現するための責務、事業を通じた取組を定めています。
・責務
同社グループは、その事業活動による脱炭素社会への移行に関連する様々な影響を十分に把握し、「事業活動等に関連するCO2排出量を2050年までに0にする」ことを責務としています。
・目標
グループ長期環境目標として、以下の目標が立てられ実現に向けた取組が開始されているのです。
2030年目標 | |
---|---|
CO2排出量(2019年度比) | |
売上高あたりの排出量 | スコープ1+2 ▲50% スコープ3 ▲32% |
総排出量 | スコープ1+2 ▲40% スコープ3 ▲20% |
*スコープ1:直接排出量
スコープ2:間接排出量
スコープ3:その他の排出量
2050年目標 | |
---|---|
CN(カーボンニュートラル)の実現・深化
・スコープ3 サプライチェーンCO2排出量0 |
また、下図のようなKPI(重要業績評価指標)も設定されています。
・取組内容
以上の目標を実現するために下表のロードマップが作成され、取組が進められているのです。
(3)循環型社会の実現に向けて
「TAISEI Green Target 2050」のもと、循環型社会の実現に向けた責務、事業を通じた貢献、取組が定められています。
・責務
事業活動による循環型社会への移行に関連した影響を把握し、グリーン調達率の向上と建設副産物の最終処分率の低減を進め、サーキュラーエコノミーを実現する、と示されました。
・事業を通じた貢献
同社グループは、循環型社会の実現にかかわる「リスクと機会」を把握し、土壌・地下水汚染対策や廃棄物・最終処分場などに関連する技術・サービスを開発・普及させ、また産業副産物の再資源化を推進することにより、「循環型社会」の実現に努めています。
・目標
グループ長期環境目標「TAISEI Green Target 2050」では「サーキュラーエコノミーの実現・深化」として、以下の目標が設定されました。
- グリーン調達率 100%
*同社は再生材料の使用や再生使用に配慮した材料の選定を含むグリーン調達を推進しており、「2050年のグリーン調達率100%」を目標としています。
- 建設副産物の最終処分率 0%
また、「2030年グループ環境目標」では、以下の目標が設定されました。
- 建設廃棄物の最終処分率3.0%以下
- グリーン調達の推進
・取組内容
以上の目標を実現するために下表のロードマップが作成され、取組が進められています。
(4)自然共生社会の実現に向けて
自然共生社会への取組は以下の通りです。
・責務
同社グループは、事業活動による自然共生社会への移行に関連した影響を十分に認識し、「大成建設グループ生物多様性宣言」を遵守して、建設事業により生じる自然環境及び生物多様性への負の影響を最小化することを責務としています。
・事業を通じた貢献
同社グループは、自然環境の保全・創出や生物多様性の向上などに資する技術・サービスを開発・普及し、自然と共生する事業の推進を通じて、自然環境及び生物多様性に対する正の影響を最大化して、「自然共生社会」の実現を目指しているのです。
・目標
グループ長期環境目標「TAISEI Green Target 2050」では「ネイチャーポジティブの実現・深化」を目指し、以下の目標が設定されました。
- 建設事業に伴う負の影響の最小化
- 自然と共生する事業による正の影響の最大化
また、2030年グループ環境目標は「ネイチャーポジティブに貢献する提案・工事の実施」と定められており、環境目標値は以下の通りです。
年度管理目標 | 2021年度 目標値 |
2021年度 実績値 |
2022年度 目標値 |
|
---|---|---|---|---|
生物多様性に配慮した提案の実施 | 生物多様性向上に貢献するプロジェクトの推進 | 35PJ以上 | 49PJ | 40PJ以上 |
生物多様性に配慮した工事の実施 | 10PJ以上 | 23PJ |
・取組内容
以上の目標を実現するために下表のロードマップが作成され、取組が進められています。
上記の分野のほか、「森林資源・森林環境」や「水資源・水環境」も環境問題への取組テーマとして、実施されています。
2-2 清水建設株式会社
清水建設社の環境問題に対する取り組みは以下の通りです。
1)会社概要
- ・本店(本社)住所:東京都中央区京橋二丁目16番1号
- ・創業:1804年
- ・従業員数:10,688人(2022年3月31日現在)
2)環境問題への取組
同社の環境問題への取組は以下のように行われています。
(1)環境方針
同社は1997年4月に「環境基本方針」を制定して、全社的な取組を強化し、その後、2003年、2004年、2006年、2019年に改訂しながら現在に至っています。これに基づき、以下の行動指針が設定されています。
1.SDGsの達成に向けて、「地球温暖化防止」「省資源・資源循環」「生物多様性保全」に関連した目標を定め取り組む
2.目標達成のために以下の施策を実施する
- ・建造物のライフサイクルにおける省エネと再生可能エネルギーへの転換
- ・廃棄物の削減と有効利用の促進
- ・生物多様性の保全・指標化のための活動促進
- ・環境課題の解決と事業競争力強化のための技術研究開発
3.環境マネジメントシステムの継続的改善と環境法令の順守
4.顧客との対話による環境技術の採用促進、環境ボランティア及び支援活動等
5.環境教育等による環境意識向上と知識習得
(2)脱炭素
脱炭素社会の実現ために、自社の作業所・オフィスからのCO2排出量を0にするほか、設計施工建物の運用時のCO2排出量0が目標とされています。また、再エネ施設の建設、再エネ事業の推進、脱炭素のための技術開発など、多方面での脱炭素化の活動が推進されているのです。
●CO2排出量削減の中長期目標
中期目標として、「エコロジー・ミッション2030-2050」が策定されており、施工時、自社オフィス、省エネ設計の各カテゴリーで目標が設定されました。
また、グループ環境ビジョン「SHIMZ Beyond Zero 2050」に基づき、2050年度には、CO2排出量を0とする目標が掲げられています。
・施工時CO2削減
- 2021年度実績:排出量20.1万t-CO2 1990年度比62%削減
- 2022年度目標:1990年度比59%削減
・自社オフィスCO2削減
- 2021年度実績:排出量0.70万t-CO2 1990年度比60%削減
- 2022年度目標:1990年度比 52%削減
・省エネルギー設計による建物運用時CO2削減
- 2021年度実績:排出量10.01万t-CO2 1990年度比54%削減
- 2022年度目標:1990年度比50% 削減
●施工時CO2削減の取組
・ICT施工の活用によるエネルギー生産性の向上
測量データ・設計データ等の三次元データを、重機に搭載するモニターに表示して重機オペレーターがリアルタイムで施工状況を管理できるICT土工が展開されています。
・軽油代替燃料の活用
大型重機などに環境負荷の小さい軽油代替燃料(ドリムシ由来の次世代バイオディーゼル燃料 等)が利用されるようになりました。
・ベルトコンベヤによる骨材・土砂の運搬
工事に伴う土砂や砕石を、ベルトコンベヤで運搬し、ダンプ運搬で発生するCO2排出量の削減が進められています。
●自社オフィスCO2削減の取組
・本社ビルでカーボンフリーの実現
本社ビルについて、昼間の照明電源として外壁面に設置した太陽光パネル由来の電力の利用、その他は水力発電由来のグリーン電力の利用で、全使用電力のカーボンフリー化が実現されました。
●省エネ設計による建物運用時のCO2削減の取組
・ZEBの普及
ZEBは、建築設計の工夫による日射遮蔽・自然エネルギーの利用、高断熱化、高効率化による大幅な省エネルギーの実現や、太陽光発電等によるエネルギーの活用により、年間の消費エネルギー量を大幅に削減できる最先端の建築物です。
同社はその普及を推進しており、2016年に同社が設計施工で完成した木造建築施設が、日本で初のZEBに関する第三者認証を取得しました。
その他の取組では、建物付帯型水素エネルギー利用システムの「Hydro Q-BiC®」開発、既設のコンクリート構造物を利用して大気からのCO2吸収を促進する技術「DAC(Direct Air Capture)コート」の開発にも成功しています。
(3)資源循環・環境汚染防止
同社の循環型社会に貢献する取組は以下の通りです。
ⅰ 資源循環と廃棄物削減
●建設副産物の減量化・再資源化
建設工事に伴う建設副産物(建設時の土砂、解体時のがれき等)について、その減量化と再資源化のために同社は4R活動(リフューズ、リデュース、リユース、リサイクル)を推進しています。
●建設副産の目標管理
作業所で排出される建設廃棄物の年度実績を、建設副産物データ管理システム「新Kanたす」を活用して集計し、最終処分率の低減及び建設副産物総量原単位の削減をKPIに設定し、目標管理が実施されています。
●作業所での省資源化と資源の有効活用(4R活動)の取組
「4R活動」を計画・推進とともに、省資源化、副産物の減量化・再資源化に注力されており、また、これらの取組に関する社員への教育にも熱心です。
- Refuseリフューズ 入れない:梱包レス、工場プレカット、ユニット化
- Reduceリデュース 減らす:代替型枠、作業所での工業化
- Reuseリユース 再使用する:繰返型枠(エコ型枠)、改良土
- Recycleリサイクル 再利用されるようにする:再資源化施設への搬入、メーカーリサイクル(広域認定等)
ⅱ 環境汚染防止
環境汚染防止については、以下のものを重要管理項目として適正管理に注力されています。
- ・アスベスト
- ・ダイオキシン類、PCB、フロン・ハロン、騒音・振動
また、土壌環境については、そのトラブルを未然に防止するほか、汚染土壌の浄化に有効な対策技術を開発し、効率的・効果的な取組に努めているのです。
(4)生物多様性
同社グループは、事業活動が自然環境や生物多様性に及ぶ影響を定量化し、その負の影響を0にすることを目指しています。さらに、グリーンインフラを導入した街づくりや社会インフラ整備に取り組み、生物多様性がプラスとなる持続可能な社会の実現に取り組んでいるのです。
●グリーンインフラ+(PLUS)
同社は、自然の機能や地域の潜在能力をスマートに活用するグリーンインフラの考え方をもとに、同社が有するソフトや技術を「+」する「グリーンインフラ+(PLUS)」を事業コンセプトとして、取り組んでいます。
●シミズ生物多様性ガイドライン
同社は、業界に先んじて生物多様性を環境マネジメントの重要課題として取り入れ、その活動の継続・発展のために、2009年に「シミズ生物多様性ガイドライン」を制定しました。
生物多様性からの恩恵と文化的価値を次世代に継承し、持続可能な社会の実現に向けて、すべての事業領域で生物多様性の保全と共生に自ら取り組むことを目的とされています。
●生物多様性に関連する団体への参加
同社は、「一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)
など生物多様性に関する委員会やアライアンスに参画し、生物多様性の保全と向上に努めています。
2-3 鹿島建設株式会社
鹿島建設社の環境問題に対する取り組みは以下の通りです。
1)会社概要
- ・本店(本社)住所:東京都港区元赤坂1-3-1
- ・創業:1840年
- ・従業員数:8,080名(2022年3月末現在)
2)環境問題への取組
環境問題への取組は以下のように実施されています。
(1)環境方針
同社は“100年をつくる会社“として、長期的な環境ビジョンを全社で共有し、環境保全と経済活動が両立できる持続可能な社会の実現を目標とし、以下の点に注力しているのです。
1.自社の事業活動に伴う環境負荷の低減だけでなく、建造物のライフサイクルを考慮し、低炭素社会、資源循環社会、自然共生社会の実現を目指す
2.上記の取組を進めるための共通基盤として、以下の点を推進する
- ・環境保全とその持続可能な利用に役立つ技術開発の推進
- ・事業に関わる有害物質についての自主管理も含めた予防的管理の推進
- ・積極的な情報開示を含む、社会との連携
(2)脱炭素
鹿島グループでは、その温室効果ガス排出量(スコープ1、2、3)を0にすることが目標とされています。
Zero Carbonの達成には、現場など自社の事業活動での省エネやCO2の排出削減のみならず、再エネの活用・推進など多面的な取組が重要です。
そのため同社は、建造物のライフサイクルを考えた計画・設計段階、新築やリニューアル・解体などの施工段階、引き渡し後等の運用段階、など各フェーズで排出するCO2を削減するための取組に努めています。
同社は、事業活動の全フェーズでの取組を通じて環境負荷の低減を目指し、脱炭素社会の構築に貢献しようとしているのです。
ⅰ 自社事業における取組
●施工段階(現場)からのCO2排出削減
同社の事業活動で排出するCO2の約9割は施工現場から生じるものです。また、現場でのエネルギー消費量は、約3割が電力、約7割が重機などで使用する軽油に由来することから、現場でのCO2削減には軽油と電力の使用の削減が必要であり、その実現のために以下の2点に注力されています。
・現場のエネルギー削減に向けた「環境データ評価システム(edes)」の開発
同社は、すべての現場のすべての工程でCO2排出量を月単位で把握し、可視化できる「環境データ評価システム(edes;イーデス)」を開発しました。
・現場deエコ
同社が開発した「現場deエコ」では、現場の担当者がイントラネットでCO2排出量削減ツールにアクセスでき、工事規模に応じて削減メニューを選び、全体での削減量の算定が可能です。つまり、工事規模にあわせて、簡単にCO2排出削減計画が検討できます。
ⅱ 顧客の事業活動支援
●運用段階でのCO2排出削減
同社が設計する建物では、環境配慮、省エネに配慮した設計が実施され、2030年度以降に新築する建物はZEB/ZEH水準の達成が目標とされているのです。
●再エネ発電施設の建設
同社は、メガソーラー発電所・洋上風力発電所や、食品廃棄物利用のバイオマス発電などの建設を展開しています。
(3)資源循環
建設廃棄物のゼロエミッション(廃棄物を0にする)化のほか、循環資材の活用、建造物の長寿命化などによって建設事業でのZERO WASTEが目標とされているのです。
ⅰ 現場における資源循環・有効利用
建設現場のゼロ・エミッションの基本は、省資源による施工、建設工事から発生する廃棄物量の抑制、廃棄物の分別・リサイクルの推進、最終処分量の削減です。
環境負荷を軽減するため、梱包材を使用しない資材搬入、現場での加工を減らすプレキャスト利用、仮設廃材の発生を抑える工法の採用、など省資源や効率化の様々な取組に同社は注力しています。
●ライフサイクルを通じた環境負荷の低減
同社は、独自開発のLCA(ライフサイクルアセスメント)評価システムを用いて、建物のライフサイクルでの建設関連廃棄物を予測しています。その活用により使用材料や構工法を設計時に変更する、より適正な廃棄物処理方法を選択することが可能となり、リサイクル率の向上や最終処分量の削減、処理過程での環境負荷の軽減等が推進されているのです。
以上のほか、「より質の高いリサイクル~メーカーリサイクル活用推進」や「よりエコな建設資材~副産物利用コンクリートの開発」にも注力されています。
(4)自然共生
自然・生物への影響を抑制し、新たな生物多様性の創出・利用を促進することで、事業全体での「ZERO IMPACT」を同社は目標としています。具体的には、同社は都市の生態系ネットワークを強化する「生物多様性都市:いきものにぎわうまち」を目標とし、「鹿島生物多様性行動指針」に則って活動しているのです。
●プロジェクトを通じた自然共生の実現
同社は、上記の「生物多様性都市」を理念に掲げ、自然の有する力を積極的に活用する施設整備や土地利用を推進するグリーンインフラの整備に取り組んでいます。
例えば、同社は自社の技術研究所(東京都調布市)の建替え時において、周辺地域の緑地の構成種の調査結果を反映し、郷土種による雑木林の復元などを盛り込んだ緑化コンセプトを採用しました。
●施工段階での取組
同社は、建設現場における騒音や振動等の周辺への影響を最小限にする取組に努めるほか、希少種保全などの生物多様性保全活動等を計画段階から多角的に進めています。
開発計画段階では生物多様性への影響を含む環境アセスメントを実施し、その結果をもとに生物多様性を保全する計画(BAP)が策定・実行されていくのです。また、工事の進捗とともに地形や状況が大きく変わるダムや造成などの現場では継続的なモニタリングとそれを踏まえた対策も行われています。
2-4 東急建設株式会社
東急建設社の環境問題に対する取り組みは以下の通りです。
1)会社概要
- ・本店(本社)住所:東京都渋谷区渋谷1-16-14 渋谷地下鉄ビル
- ・創業:1946年3月12日
- ・従業員数:2,624名(2022年3月31日現在)
2)環境問題への取組
以下のような取組が進められています。
(1)環境方針
同社は、汚染の予防及び環境保護に注力し、環境と経済を両立させた「持続可能な社会」の実現のために環境配慮経営を推進する、としています。その環境配慮企業としての主な取組は、以下の通りです。
●環境保全活動及び環境負荷低減活動の推進
- 大気・土壌・水質の汚染防止
- 騒音・振動・粉塵の発生抑制
- 生物多様性保全の実施
- 温室効果ガス・建設副産物の排出抑制
- 資源・エネルギーの有効利用
●環境技術の開発・高度化、活用の推進
●地球・地域環境に配慮した設計の推進
●事業活動全般を通した地域への貢献
(2)気候変動への取組
気候変動への取組は同社の最重要課題の1つです。長期経営計画「To zero、from zero」では、「脱炭素」、「廃棄物ゼロ」、「防災・減災」を3つの提供価値と定めており、関連するイニシアティブへの積極的な参画や各種施策を通じて、下記のようなカーボンゼロへの取組が推進されています。
●温室効果ガス削減目標のSBT認定の取得
同社は、温室効果ガスの排出量削減に向けた国際的な枠組みであるSBT認定を取得して、パリ協定と同様の気温上昇を2℃未満とする目標を中長期目標として、その達成に向けた取組を進めているのです。具体的には、ZEBプランナーの認定を取得し、新築やリニューアルでのZEBが推進されています。
●CDP回答
2019年から気候変動に対する取組について、国際的な調査・評価機関であるCDPへの回答が実施されています。同社における初年度の回答では、A~Dの8段階のB-の評価が受けられました。
ほかにも気候関連財務情報開示タスクフォースへの情報開示(「TCFD提言への賛同」)や、事業活動での使用電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる「RE100」への加盟などが行われています。
●事業活動における環境負荷低減に向けた取組
具体的には以下のような取組です。
- ・自社設計物件での、ZEB・ZEH-Mへの取組の推進(2016年度から)
- ・ZEB、ZEH-M提案ツールの開発
- ・再エネ電力の使用
- ・GTL燃料(軽油と同等の性質を有する、天然ガス由来の液体燃料)の導入
- ・木造・木質建築ブランド「モクタス」を支える技術の開発
●工事現場における具体的な取組
以下のような取組が実施されています。
- ・掘削土等のダンプトラック運送からコンベア搬送へのシフト
- ・残土の適正処理と有効活用
- ・ヘドロの水質改善による搬出汚泥量の削減
●環境負荷低減型材料の開発
低炭素型コンクリートなどが開発されています。
(3)生物多様性への取組
同社は、生物多様性について、その保全活動、関係する地域社会との協調、環境技術の開発、などにも取り組むと環境方針に盛り込んでいます。具体的には以下のような取組です。
●エコロジカル・コリドー簡易評価ツール「CSET」
生物多様性に配慮した都市計画の立案に役立つ生態系ネットワーク評価システムとして、「エコロジカル・コリドー※簡易評価ツール(CSET)」が開発されました。
CSETは「HEP(ハビタット評価手続)」(生態系を評価する手法)や「GIS(地理情報システム)」を応用し、「生物の棲みやすさのポテンシャル」をスコア化(定量化)できます。東急建設社では、このCSETによる分析結果を入札案件の提案等に活用しているのです。
●生物多様性簡易評価システム「BSET」
BSETは「HEP」の概念を応用した評価システムになります。その特徴は、建築物及び敷地内を対象として、屋上緑化や壁面緑化、敷地内の植栽やビオトープの設置に伴う生態系保全効果等を定量的に評価するシミュレーション・ツールとして利用できる点で、設計段階での提案に有効です。
●生態系の評価手法の導入
同社は、自然環境に配慮した土地利用計画を検討するにあたり、環境配慮を計画に反映できるように、土地利用の変化に対する動植物の生息環境の変化を定量的に評価する「HEP」の手法を採用しました。
また、環境アセスメントの手続の過程や代償措置の検討などで、有識者や市民グループ等と意見を交わしながらの地域性に配慮した環境保全対策に努められています。
ほかにも「緑化にともなう害虫表示システム」「グリーンインフラ実証施設」「生物に配慮した環境保全活動」に取り組んでおられます。
(4)グリーンインフラの取組
自然が有する多様な機能を活用するグリーンインフラを導入すれば、自然環境への貢献はもとより、不動産価値の向上や地域活性化等様々なメリットを得ることができるため、同社は計画から維持管理、環境教育といった、グリーンインフラの活用にも積極的です。
具体的には、同社は以下のようなグリーンインフラ施工に取り組んでいます。
●南町田グランベリーパーク
同施設は複合商業施設や公園からなる再開発エリアです。同社は、商業施設の再開発において、防災減災に貢献するレインガーデンやバイオスウェルを施工しました。
●ザ・パークハウス 自由が丘ディアナガーデン
この施設は、地下1階地上3階建、総戸数44戸の低層マンションです。周辺自然環境の生態系に関する着工前の調査、地域の生態系に配慮した緑化計画、既存樹木の有効活用や生態系の基盤になる土壌の一部保全などを行い、生態系に配慮した緑地が創出されています。
●渋谷スクランブルスクエア
同施設は、渋谷駅に直結、地上47階、高さ229mの展望施設、オフィスフロア、共創施設、商業施設で構成される大型複合施設です。同社は、緑地の少ない都市部において貴重な緑地の一つになるビルの壁面緑化を実施しました。
そのほか、「循環型社会の実現」では、以下の目標の達成に向けた取組が推進されています。
- ・2030年度に最終廃棄処分率を3%以下、2050年度に0を目指す。また、特定建設資材廃棄物の再資源化率100%を目指す
- ・事務所内でのワークフロー改善と書類の電子化によるペーパーレス化で廃棄物の発生抑制に努める
2-5 株式会社奥村組
株式会社奥村組の環境問題に対する取り組みは以下の通りです。
1)会社概要
- ・本店(本社)住所:大阪市阿倍野区松崎町二丁目2番2
- ・創業:1907年2月22日
- ・従業員数:2,123人(2022年3月31日現在)
2)環境問題への取組
同社は「人と地球に優しい環境の創造と保全」を基本に据えて、環境汚染の予防、環境負荷の低減及び環境の保全に取り組んでいます。
(1)環境方針
同社は、経営理念、企業行動規範や社長方針を基礎に、環境面における全社計画として「奥村組環境自主行動計画」を策定し、役職員に展開してその達成に向けた活動を推進しています。
環境自主行動計画は、基本理念、行動指針、具体的な目標及び実施施策を定めた環境中期計画で構成され、2021年度は3カ年計画の「環境中期計画2020」の活動として実施されました。
その環境自主行動計画の主な行動指針は以下の通りです。
1.法規制等の順守、適正管理、緊急事態への対応を通じた環境リスクの低減
2.環境保全への取組についての情報公開と、利害関係者との環境コミュニケーションの推進
3.環境社会貢献への意識の向上、環境活動等への積極的な参加・協力
4.マネジメントシステムの継続的な改善を通じた効果的、効率的な運用
5.環境汚染の予防、環境負荷の低減、環境の保全活動の推進
- ・地球温暖化対策
- ・建設副産物対策
- ・生物多様性の保全
- ・環境配慮設計の推進、環境配慮・保全技術の提案の促進
- ・グリーン調達の促進
以降に「環境中期計画2020」の主な取組を紹介しましょう。
(2)地球温暖化対策
以下のような取組が実施されています。
●施工段階におけるCO2の排出抑制
主な実施施策は以下の通りです。
- ・建設発生土の場外搬出量の削減及び搬送距離の短縮
- ・重機や車両の省燃費運転指導及び適正整備の励行
- ・仮設電気設備や機器の効率化及び適正使用
- ・省エネに配慮した工法及び建設機械・車両の採用促進
- ・現場事務所等での省エ活動の推進、高効率設備・機器の採用(再エネ等の利用を含む)
●オフィスにおけるCO2等の排出抑制
主な実施施策は以下のようになっています。
- ・使用エネルギーの削減
- ・クールビズ・ウォームビズの実施
- ・こまめな消灯、空調温度、室内照度の適正化等の活動
- ・PC、テレビ、コピー機等の長時間未使用時の電源オフ
- ・ペーパーレス等によるゴミの削減
- ・フロン類の漏えい防止に向けた空調・冷凍・冷蔵機器等の適切な管理・指示
(3)建設副産物対策
以下のような対策が実施されています。
●建設廃棄物の対策
実施施策は以下の通りです。
- ・新築・新設工事での発生抑制及び分別排出
- ・解体工事等での分別解体・リサイクルの推進
- ・リサイクル制度の活用
- ・適正処理の推進
●建設汚泥の対策
実施施策は以下のようになっています。
- ・発生抑制への提案促進
- ・リサイクルの促進
- ・社員等に対する啓発活動の促進
2023年度の目標は、「再資源化・縮減率」が97%以上です。
●建設混合廃棄物の対策
実施施策は「建築の新築工事における発生抑制・分別排出の徹底」で、2023年度目標は、「建築の新築工事延床面積あたりの排出原単位を7kg/m2以下」となっています。
●建設発生土の対策
実施施策は以下の通りです。
- ・現場内利用や工事間利用の推進
- ・建設廃棄物を混入させない分別管理の徹底
- ・土壌汚染対策法の対象となる汚染土壌や対象外の基準不適合土壌等の適切な取扱の推進
●有害廃棄物等(石綿、PCB、フロン等)の対策
以下の実施施策が行われています。
- ・解体工事や改修工事着手時での事前調査の徹底、報告・届出の確実な実施
- ・事前調査結果に基づく物質に応じた適切な施工、適正な処理の実施(建物の購入・維持管理を含む)
(4)生物多様性の保全
「建設工事における生物多様性の保全」として、以下の実施施策が進められています。
- ・生物多様性に関する知識・情報を活用した技術提案や、生物多様性に配慮した計画、設計、施工の取組の推進
- ・生物多様性の保全と持続可能な利用に配慮した資材等の調達の推進
- ・生物多様性の保全に配慮した技術・手法の開発促進
以上の取組のほかにも「環境配慮設計の推進、環境配慮・保全技術の提案の促進」や「グリーン調達の推進」などに取り組まれています。
3 まとめ
SDGs等の認識が広まる中、人々の環境保護等に対する関心が一層高まっており、環境への影響度の大きい建設業には、より適切な対応が求められています。建設業が環境に対して正の効果をもたらせば、社会から評価を受け成長の可能性を広げられる一方、逆に負の効果をもたらす活動をすれば、市場から追い出されかねません。
今回取り上げた上場建設業者の環境問題への取組内容を参考にして、自社の環境問題への取組を再考してみてください。