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建設業許可の取得に必要な建設業会計とは

建設業許可の取得には「建設業会計」による財務諸表が必要となります。建設業会計は、一般的な企業経理で利用する「商業簿記」や「工業簿記」とは異なり、建設業特有の知識が必要とされます。建設業を営む際に守るべきルールを定めた法律「建設業法」により、建設業許可申請を行う際には「完成工事高原価報告書」が必要となり、完成工事高原価報告書は専門知識がなければ作成できないためです。

そこで今回の記事では、建設業会計の仕組みから具体的な仕訳例、各勘定科目、建設業会計を取り入れるメリット・デメリットを解説しています。今後、建設業許可を申請したいと考えている企業や個人の方は参考にしてみてください。

1  建設業会計とは何か

建設業の許可を申請する際には、事業期間(1年間)の財政状態や経営成績をまとめた資料である「財務諸表」を主たる営業所の所在地を管轄する総合振興局に提出しなければなりません。

建設業は、中・長期の工事期間を要する工事など、特殊な事例が多いことから一般企業の財務諸表とは少々異なり、「完成工事高原価報告書」が必要になります。完成工事高原価報告書は、一般企業で広く利用される商業簿記を利用して作成する帳簿ではなく、工業簿記の原価計算のような帳簿を作成しなければなりません。

注意点としては、建設業会計も企業の会計ルールを定めた「企業会計原則」の考え方がベースとしてあるため、一般企業の帳簿と全て異なるというわけではありません。会計処理で使用する勘定科目(完成工事高や未成工事支出金)や売上を計上するタイミングが一般会計と建設業会計では大きく異なります。

また、建設業会社の経理を探す際は「建設業経理事務士」を取得しているか否かが重要です。建設業経理事務士は、一般社団法人建設業振興基金が行っている「建設業経理検定試験」に合格した人のことを言うため、建設業会計の基本的な処理方法を理解している人と判断できます。

2  建設業会計で利用される勘定科目

建設業会計では、企業の財政状態を表す「貸借対照表」と企業の儲けを表す「損益計算書」のそれぞれの財務諸表で建設業特有の勘定科目が登場します。

2−1 完成工事未収入金

完成した工事に係る請負代金で未入金がある時に使用する勘定科目です。商業簿記でいう「売掛金」「未収入金」にあたる勘定科目です。

2−2 未完成工事支出金

工事に伴う材料代や外注費、手付金のうち、支払っていないお金がある時に使用する勘定科目です。商業簿記でいう「仕掛品」にあたる勘定科目です。

2−3 工事未払金

工事に伴う費用の未払額がある時に使用する勘定科目です。商業簿記の「買掛金」にあたる勘定科目です。

2−4 未成工事受入金

完成していない工事の請負代金を受け取ったお金がある時に使用する勘定科目です。商業簿記でいう「前受金」にあたる勘定科目です。

2−5 完成工事高

商業簿記でいう「売上高」です。

2−6 完成工事原価

完成工事高にかかった材料費や労務費、外注費、その他経費にかかる工事原価です。

3 「完成工事高原価報告書」は製造業の「製造原価報告書」に近い

建設業会計の知識を元に作成する「完成工事高原価報告書」は、主に製造業者の会計帳簿として作成される「製造原価報告書」に似ています。製造原価報告書は、工業簿記により製品の製造原価を算出するために用いられる製造業特有の財務諸表です。

材料費や加工費、賃金などの経費を原価計算によって1製品あたりの金額を算出します。「完成工事高原価報告書」も同じように考えるため、「未成工事支出金」や「完成工事原価」を材料費や労務費、外注費などを集計して1工事あたりの原価計算を行います。

4 工事完成基準と工事進行基準の違い

一般企業の売上は、商品を引き渡したタイミングなどの販売の実現により売上を計上する「実現主義」を採用しています。ただし、工事契約については、「工事完成基準」と「工事進行基準」の2つの売上計上タイミングの制度が設けられています。

「工事完成基準」は、文字どおり工事が完成した時点で売上・収益を計上するという方法です。実現主義の考え方から、建設業の多くは工事完成基準が採用しています。

しかし、中・長期的な工事を請け負う建設業者は、成果の実現を見積もることが可能であり、より正確な収益の認識に繋がることから「工事進行基準」を採用している企業も少なくありません。

工事進行基準を採用することで、工事の途中でも売上を計上しても良いとされていますが、税務上、長期大規模工事には工事進行基準が強制適用される点には注意が必要です。

工事完成基準と工事進行基準の違いを簡単にまとめると、工事の進行途中でも売上を計上して損益計算書に反映させる「工事進行基準」と、工事完成後に売上を計上して損益計算書に反映させる「工事完成基準」のどちらかを選択し、長期大規模工事の要件を満たさない工事は任意であるが、長期大規模工事の要件を満たしている工事は「工事進行基準」しか選べません。

5  建設業会計の仕訳

ここでは、建設業会計の仕訳例をご紹介しています。

5−1 完成工事高との仕訳

1月1日に10,000千円の請負工事が完成し、目的物の引き渡しが完了した。10,000千円は2月1日に現預金で入金される。

借方 貸方
1/1 完成工事未収入金 10,000千円 1/1 完成工事高 10,000千円

5−2 完成工事原価の仕訳

「工事進行基準」を採用している請負工事が完成し、目的物の引き渡しが完了したため、未成工事支出金100,000千円を完成工事原価に振り替えた。

借方 貸方
一完成工事原価 100,000千円 未成工事支出金 100,000千円

5−3 完成工事未収入金の仕訳

1/1に行った請負工事の10,000千円が現預金に入金された。

借方 貸方
2/1 現預金 10,000千円 2/1 完成工事未収入金 10,000千円

5−4 未成工事支出金の仕訳

「工事進行基準」を採用している請負工事に支出した材料費2,000千円、労務費2,000千円、その他経費1,000千円を未成工事支出金に計上した。

借方 貸方
完成工事未収入金 5,000千円 材料費 2,000千円
    労務費 2,000千円
    その他経費 1,000千円

5−5 工事未払金の仕訳

請負工事中に労務費1,000千円、その他経費1,000千円が新たに発生した。新たに発生した費用については工事の完成後に支払う契約としている。

借方 貸方
労務費 1,000千円 工事未払金 2,000千円
その他経費 1,000千円

5−6 未成工事受入金の仕訳

「工事進行基準」を採用している長期請負工事のうち10,000円が現預金に入金された。

借方 貸方
現預金 10,000千円 未成功時受入金 10,000千円

6 原価計算の仕訳

工事に要した材料費、労務費、その他経費などは、「未成工事支出金」や「完成工事原価」に振り替える必要があります。以下では、工事費用が発生したときの仕訳を見ていきましょう。

6−1 材料費の仕訳

工事で使用する材料5,000千円を仕入れ、代金は掛けとした。

借方 貸方
材料費 2,000千円 工事未払金 2,000千円

6−2 労務費の仕訳

工事作業員に賃金2,000千円を現預金で支払った。

借方 貸方
労務費 2,000千円 現預金 2,000千円

6−3 経費の仕訳

工事中の宿泊代に伴う水道光熱費等100千円を現預金で支払った。

借方 貸方
労務費 100千円 現預金 100千円

6−4 外注費の仕訳

工事作業を他の業者に1,000千円で一部外注した。代金は工事の完成後に支払う契約としている。

借方 貸方
その他経費 1,000千円 工事未払金 1,000千円

7 消費税は「税抜き処理」or「税込み処理」

国や地方公共団体などからの請負工事には、経審(経営事項審査)を受ける必要があります。経審に申請する財務諸表では、消費税の納税義務が免除されている免税事業者を除き、「税抜き処理」で帳簿を作成しなければなりません。

途中で税込み処理から税抜き処理への転換は、経理処理に手間と労力がかかるため、経審を受ける事業者は最初から「税抜き処理」を採用しましょう。

8 単位・端数処理は「千円未満」切り捨て

原則、建設業財務諸表の単位・端数処理は、「切り捨て」「四捨五入」「切り上げ」のどれでも構いません。昔の法律では、切り捨てが義務付けられていたこともあり、千円未満切り捨てを採用している建設業が多いです。

ただし、単位や端数処理は大企業か中小企業、許可行政庁により異なることもあるので、帳簿を作成する前に、諸官庁へ確認してから端数処理を選択して下さい。

9 建設業会計のメリット・デメリット

建設業会計は、一般企業で使用されている「商業簿記」や「工業簿記」とは異なります。以下では、建設業会計を行うメリット・デメリットについて詳しくご紹介いたします。

9−1 建設業会計のメリット

建設業会計では、工事原価管理を行うので、1工事あたりの材料費・労務費・外注費が一目でわかるようになります。コストが細分化されている分、必要のない無駄なコストのチェックがしやすく、業務フローの改善にも繋げられます

工事着工前に過去の資料から詳細な費用を概算し、正確な売上を見積もれる点では、赤字にならないように調整しやすく、その後の施策や値段交渉に繋げられる点も建設業会計で帳簿管理を行うメリットといえるでしょう。

9−2 建設業会計のデメリット

建設業会計は複雑な経理知識に加えて、建設業会計をできる人の数が少ないため、人材を確保するのが難しいといった点はデメリットといえます。経理の仕事は、帳簿入力だけでなく、伝票の整理や請求書の発行などさまざまです。

経理負担を減らすために、Excel管理や建設会計に特化した会計ソフトを導入する建設業者も多くいますが、操作性や専門知識が難解であるために、引き継ぎや操作性を覚えるのに結局時間を要します。

手間を少しでも減らしたいと考える事業者は、ITツールや自動計算ソフトなどを導入し、少しでも経理負担を減らすことに重点を置くことで効率化が期待できるでしょう。

10 建設業会計に関する資格は?

建設業会計に関する知識を身につけたい人は、建設業経理士検定試験・建設業経理事務士検定試験を勉強するのが良いでしょう。会計に関する基礎知識に加えて、建設業特有の勘定科目の理解と建設業会計に必要な専門知識も身につけられます。

以下では、建設業経理士検定試験・建設業経理事務士検定試験についてそれぞれご紹介してます。

10−1  建設業経理士検定試験の試験概要

建設業経理士試験は、1〜4級に分かれており、3~4級は建設業経理事務士、1〜2級は建設業経理士検定試験としています。それぞれの試験は、3月(下期)と9月(上期)の年に2回開催され、3月は1〜4級、9月は1〜2級のみの試験となります。

国籍や学歴、年齢条件などの受験資格は設けられておりません。ただし、同日に1級と他の級を同時に受験することはできないと定められています。また、近年のコロナウイルスなどの影響により試験が中止されるという事例もあるため、3月と9月に必ず試験が行われる保証はありません。

建設業経理士1級の試験内容が複雑となり、合格要件である3科目全てに合格しなければ1級の合格とはなりません

10−2 建設業経理士検定試験の試験概要

各受験料金は以下の表のとおりです。

《建設業経理士検定試験の受験料》

1級(1科目) 8,120円
1級(2科目) 11,420円
1級(3科目) 14,720円
2級 7,120円
3級 5,250円
4級 4,220円
1級(1科目) 8,120円
2級・3級(同日受験) 12,620円
3級・4級(同日受験) 10,220円

建設業経理士試験の合格率は2・3級は30〜60%の間で推移しており、1級になると25〜30%の合格率になります。

10−3 建設業経理士検定試験の受験地

建設業経理士検定試験の受験地は、各47都道府県全てに試験会場が設けられているわけではなく、実施される会場の数が限られています。特に4級試験に関しては、受験地が毎年少ないので、4級から受験を考えている人は、受験地を必ずチェックしてから応募するようにして下さい。

11 まとめ

建設業会計は、一般企業で使用される企業会計と必要とされる知識が異なるため、高い専門性が問われます。一方で、建設業経理士の資格を取得できれば、需要のある職種でもあるため、就職や転職に有利になるメリットがあります。

何より建設業許可には建設業会計が必要になるので、建設業者には欠かせない人材であることは間違いありません。建設業に関する仕事の幅が広がるだけでなく、企業経理や会計事務所でも活躍する専門知識でもあるため、資格取得なども検討してみてください。

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