建設業で入っておくべき保険は?保険の種類を一挙紹介!
どのような事業にも事故や人的災害などのリスクがあり、リスクに備える方法の一つが保険です。建設業を始める時や建設業の中の新しい業種に挑戦する場合、適切な保険加入が必要になります。建設現場などでは危険も多く、特有の下請け業者を活用するピラミッド構造になっているため、リスクが複数あります。
ポイントとなってくるのは保険選びですが、工事の保険は複数あるので、どれに加入する必要があるのか基本的な知識も必要になるほか、保険商品を理解するためには金融の専門用語を理解することも大切です。
また、適切でない保険を選んでしまうと、実際に事故などが発生した場合、大きな問題に発展することも考えられます。実際に、事故などによって賠償責任が発生した際に保険が利用できないと賠償すべき責任に対応しきれなくなる可能性が高くなります。
そこで今回の記事では、建設業の方が加入しておくべき保険について詳しく解説します。保険加入前の検討時や、現在の保険についての見直しなどのご参考にしてみてください。
目次
1 建設業とリスク
建設業には、29の専門業種があります。例えば「土木一式工事業」と「建築一式工事」の2つの専門業種がありますが、この二つでは工事内容が大きく異なり、そのため必要となる専門知識も技術も異なってきます。
また、建設業は独自のピラミッド構造となっており、同じ建設現場に元請け業者と下請け業者など複数の業者が出入りします。
建設業種によって危険が異なり、業者によっても対応すべきリスクも異なってきます。一方で、建設業のどの業種でも共通して発生するリスクもあります。
1-1 建設業の共通リスク
建設業界で共通しているリスクは以下の3つが挙げられます。
<建設業で共通するリスク>
- ① 建設工事に従事する職人や従業員が怪我や事故が発生するリスク
- ② 工事中や完了後に依頼主や工事周辺住民などに損害を与えるリスク
- ③ 経営者の死亡などによる経営者が不在になるリスク
以下でそれぞれのリスクの詳細を見ていきます。
① 建設工事に従事する職人や従業員が怪我や事故が発生するリスク
建設業の工事現場は、危険を伴う作業が多くあります。もちろん、安全に配慮された措置も多く取られており、継続的に安全への取り組みをおこなっています。
しかし、怪我や事故が発生するリスクについて考慮は必要です。厚生労働省が令和3年5月に令和2年の労働災害発生状況が発表*されています。建設業の労働災害による死亡者数は258人と前年比▲11人となっています。258人という数値は全業種合計802人の約32%を占めており最多です。
しかし、建設業における労働災害による死亡者数は3年連続で減少しています。これは平成29年(2017年)の死亡者数323人から5年で15%(約46人)の減少を目標として、労働災害防止計画を進めています。
また、労働災害発生状況には死傷者の数も発表されており、令和2年の死傷者の数は14,977人(前年比▲206人)と全業種合計131,156人の約11%を占めています。全業種の死傷者数は前年比で増加している中で、建設業は減少しています。
*日本工業経済新聞社「【労働災害】20年の建設業は死亡、死傷者数が前年比で減少」より
<建設業の死傷者が発生するケース>
建設業で死傷者が発生する事故は以下のような状況で発生しています。
- ・高所での現場作業中に、足を滑らせるなどして発生する作業者の転落
- ・金づちなどの工具で誤って作業者自らの手など身体を殴打
- ・資材などの倒壊などが原因で、作業者に落下や接触
- ・建設現場への資材の運搬等で出入りする自動車の交通事故
作業者自らの不注意によって発生する事故や怪我もある一方で、自身での注意を怠っていない中でも発生する事故・怪我が起こるのが建設工事現場と言えます。
② 工事中や完了後に依頼主や工事周辺住民などに損害を与えるリスク
工事現場は、その作業者だけでなく周囲の第3者にも事故や損害を与える場合もあります。
<工事現場周辺の住民などに損害を発生するケース>
- ・ビルなどの高所での作業が必要な工事において、工具や資材が工事現場の外側に落下して死傷者がでた場合
- ・工事作業を行っているクレーンなどの重機が道路側に横転し、自動車や近隣の家屋が倒壊した場合
- ・塗装工事のペンキなどが工事現場の外を歩く通行人の衣服に付着した場合
- ・工事現場に出入りする自動車と通行人が接触する交通事故が発生した場合
これらは、工事中に発生する損害の代表例になります。一方、建設工事が完了したのちにも損害が発生するケースもあります。
建設工事は、利用に耐えられる事が絶対条件になります。工事のミスなどによって利用に耐えられない場合には、工事完了後に障害が発生する場合があります。建設業だけでなく、製造業や様々な業種で、納品後の利用に責任を負う事が求められます。
<工事完了後に障害が発生するケース>
- ・実施した電気工事にミスがあったことが原因で、商業施設の電気機器が使用できずに、営業ができない期間を発生した場合
- ・配管工事の防水対応が不十分であったため、マンションで漏水が発生した場合
- ・建設工事の納期が遅れ、予定していた店舗開業に間に合わない場合
③ 経営者の死亡などによる経営者が不在になるリスク
企業において経営者は最重要人物です。個人事業の場合には、個人事業主こそ事業になります。
企業の規模ならびに業種によっては、経営者の不在は大きく影響しない場合もあります。しかし、小規模の事業者ならびに建設業では経営者の不在は会社の存亡に関わる事項である場合が多くなります。
代表がなくなる場合などは、その会社や事業や従業員が残される形になります。取引先へ連絡し、会社運営や事業を継続させるために活動をしなければなりません。
また、会社を解散する場合や事業をやめなければならない場合も、解散手続や従業員の解雇などの手続きが必要です。
代表者の存続が会社の経営や存続に影響しないよう、長期の怪我や万が一に備えておく必要があります。
●リスクの種類
前述したリスクは、共通している点は損害を発生する点です。損害には『人損』や『物損』とそれ以外の怪我や破壊はないものの不利益が発生するものがあります。
損害とは、事故などによって受ける不利益を言います。損害を発生させてしまった場合には賠償する責任を負うことになります。
人損は、人が死傷することを言います。物損は、動産や不動産などのものが滅失や損傷することを言います。前述のリスクは全て人損や物損に該当するものです。
人損や物損は、目に見えるものなので発生を確認することは比較的簡単です。一方で、目に見えない損害を与えてしまうケースもあります。
例えば、建設工事を予定通り進めることができず、その結果予定していた入居日までに入居できなかった場合には入居者はホテルや別の住居で生活をしなければなりません。
そのような場合には、本来予定どおりに入居していれば発生しなかったホテルや別の住居に住むために発生した費用は損害となる場合があります。
また、同様にテナントや商業施設の工事などでも同様に計画を大幅に遅滞した状況で依頼主や施設の利用者の営業活動ができなくなった、もしくは営業活動を行う上で費用が発生した場合なども同様に損害を与えたことになるケースがあります。
1−2 建設業者が加入すべき保険 ①損害賠償責任
前述のように建設業のリスクは業種によって異なります。しかし、共通しているリスクもあります。そのため、建設業者が共通して加入すべき保険の種類は、大きくは2つに分けられます。
<建設業者が加入すべき保険>
- ①賠償責任保険
- ②労災(ケガ)の保険
●賠償責任保険とは
建設業者だけでなく、損害を発生させてしまった場合には賠償する責任を問われます。これを損害賠償責任と言います。
損害賠償責任は、債務の不履行や不法行為を原因として、他人へ損害を与えてしまった場合には、加害者が被害者に対してその損害を補償しなければいけない責任です。
●損害賠償発生は『債務不履行』と『不法行為』があった時
損害賠償責任は、全ての状況で発生するわけではありません。損害が発生した原因に起因して発生します。損害が発生した原因の行為が『債務不履行』と『不法行為』であった場合に、発生します。
債務不履行とは、契約の違反行為を言います。例えば、建築請負契約には仕事完成義務という工事を完成させる義務があります。そのため、請け負った工事を完成できない場合には、債務の不履行(契約違反)に該当するケースがあります。
不法行為とは、法律に違反した行為を言います。建設業者は建設業法などの法律を遵守しなければいけません。遵守すべき法律を違反して損害が発生した場合には損害賠償責任を問われることになります。
これらの損害賠償責任を問われた場合に補償するのが賠償責任保険になります。
●賠償責任は高額になるケースもある
建設業では、工事中の不注意や事故によって物損や人損が発生することがあります。この場合に留意しなければならないのは、建設業者の規模や工事規模の大小に関わらずに高額な賠償責任が問われる場合があることです。
具体例1 損害賠償金額 1億円
建設業者が、ビルの改装工事を請け負い、作業によってスプリンクラーの配管を破損させました。結果、放水によってビルの地下にあったパチンコ店に水漏れ損害が発生しました。
この水漏れによって、パチンコ店は内装・設備・機器類の復旧や入れ替えを余儀なくされました(損害6,300万円)。また、上記対応のために4ヶ月の営業ができない期間が発生しました。
その結果、パチンコ店はこの損害をおこした建設業者に対して約2.3億円の損害賠償を求めました。この損害賠償の金額の根拠には、営業ができなかった4ヶ月間の営業損害約1億5,000万円も含まれています。営業損害は、被害者がその根拠を示す必要がありますが、損害賠償範囲に含めることが認められています。
この損害賠償は裁判によって争われました。裁判では休業に関わる営業損害の算定根拠が焦点となり、賠償金額は1億円で決着しました。そして、この訴訟から判決までに4年の歳月がかかりました。
具体例2 損害賠償金額 2億円
溶接工事を請け負った建設業者の工事(バーナーによる溶接作業)によって発生した火花で火事が発生した。この火事によって、工事を実施した建物とその隣接する建物2棟が全焼し、建物内の商品・設備も全焼することとなりました。
火事による被害合計約4億円は、損害被害者の火災保険会社が補償しました。その後、火災保険会社は火災をおこした建設業者に対して損害賠償を請求しました。
最終的には、建設業者は2億円の損害賠償金を支払うこととなりました。この2億円のうち1憶円は、加入していた損害賠償保険で賄うことができました。しかし、保険には限度額1億円の設定があったため、残りの1億円は建設業者が工面することとなりました。
この2つの事例ともに工事自体はそれほど大きな規模の工事とは言えません。また、工事自体も特殊性が高い工事ではありません。
しかし、両事例ともに損害賠償金額は1億円を超える金額になっています。生活インフラや社会インフラを支えているのが建設業であるということはよく言われます。そのため、一つの事故などで生活や社会活動に大きな影響を起こしかねない点には留意が必要です。
1-3 建設業者が加入すべき保険 ②労災(ケガ)の保険
一般的な労災保険は、広義の社会保険に含まれる労働保険のうちの1つです。そのため、事業主が社員などの雇用するスタッフについて、事故などの災害に遭遇した時の補償のために加入します。
前述のように、令和2年の死傷者の数は14,977人(前年比▲206人)です。令和2年の建設業就業者数は492 万人*なので、300人のうち1人が死傷している割合になります。労災保険の必要性が高い業界と言えます。
建設業は業務形態の特殊性から一般的な業種と異なる労災保険ルールになっています。
*国土交通省『最近の建設業を巡る状況について【報告】』参照
●一般的な労災保険とは
労災保険は、雇用されている社員やパートやアルバイトスタッフが仕事中や通勤中に発生した怪我や病気や傷害などに適用される保険給付制度です。一般的には、『労災』と略されます。
労災保険は、農林水産の一部の事業を除けば、パートやアルバイトを含めて1日・1人を雇用したとしても事業者には加入義務が発生します。労災は、日本国内において労働者として事業主に雇用され賃金を受けている方が対象です。
労災は、労災の補償対象と認められると療養費用について自己負担がなくなる点にあります。また、休業時の手当ては健康保険による傷害手当金と比較して手厚くなっています。
労災が適用されるのは、業務災害と通勤災害があります。業務災害は、業務上での怪我や病気などの障害や万が一の死亡などです。業務上とは、業務を行なっている上での事故などになるため、業務時間中に私的な行為によって怪我をした場合などは該当しません。
通勤災害は、労働者が家から職場に向かう、また職場から家に帰る往復など所定の移動の際に被った怪我や病気などを言います。通勤災害も、業務災害と同様に日用品の購入やそれに準じる行為以外の私的な行為が原因での怪我などは通勤災害と認められません。
●建設業の労災保険とは
建設業の労災保険の加入義務は、原則として元請け会社が全て行うことになります。
労働者を雇用する事業者や企業に加入義務がある一般的な労災保険とは異なり、建設業では下請けや孫請けの会社や事業者が雇用する社員などの労災保険は建設工事を依頼する元請け会社が行います。
建設業では、加入者が元請け企業になる理由は、労働基準法第87条で建設業に限って「本請負人は使用者」と定義しているためです。
ただし、建設工事の元請会社が加入する労災保険について、適用除外の対象がいます。それが、下請け会社の事業主や役員になります。前述の通り、労災は事業主に雇用されている労働者が対象となるためです。
しかし、建設業では「一人親方」と呼ばれる個人事業主などが多く活躍しています。一人親方は、仕事を受注してくるだけでなく自ら建設工事を行うのが一般的ですが、この場合には元請会社の労災保険には入ることができません。
●一人親方には労災保険特別加入制度が適用される
一人親方は、建設現場においては実態としては労働者と同じまたは近しい立ち位置になります。そのため、国は救済措置として労災保険特別加入制度を設けて、一人親方の労災保険加入を認めています。
労災保険特別加入制度は、労働者以外の人で、業務実態や災害発生状況から判断して労働者に準じて保護することが相応しいとみなされる人を、労災保険に特別に加入を認める制度です。
この特別加入ができる人は、中小事業主・一人親方・特定作業従事者・海外派遣者の4分類に大別されます。
●建設業の労災保険料計算と有期事業
労災保険料は、徴収法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律)に定められており、事業主が事業に使用する労働者に対する賃金総額に労災率を乗じて計算します。
建設業の場合は、元請け会社が建設工事に参加する下請けや孫請けの業者の労働者の労災保険に加入します。そのため、工事単位での加入となるため、労災保険料の計算方法は以下のようになります。
- 建設業における労災保険料計算:請負金額×労務費用×労災保険料
また、建設業の工事には終了時期があります。労災保険料の計算において、事業や建設工事などの終了時期があるものを『有期事業』と言います。一方で、一般的な事業のように原則継続する事業を『継続事業』と言います。
有期事業は、さらに以下の2つに分類します。
- ✓一括有期事業:労災保険料の総額見込金額160万円未満もしくは確定保険料100万円未満で、請負金額が1億8千万円未満の場合が該当します。
- ✓単独有期事業:一括有期事業に該当しない有期事業が該当します。
●労災保険の適用範囲外への保険
労災保険が適用される事態が発生すると、下記補償などが給付されます。
療養補償 | 怪我や病気に対して治療を行うための医療サービスを受ける費用を補償します。療養補償を利用する場合には、健康保険は利用しません。 |
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休業補償 | 怪我や病気によって、働くことができない期間の労働賃金を補償します。休業補償給付金は、以下の計算方法で算出されます。
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障害補償年金 | 労災による怪我や病気が治療開始から1年半を経過した時点で治癒しておらず後遺障害が認められる場合には、障害補償年金が給付されます。 給付金は、障害の程度*によって異なり、245~313日分の労働賃金と100~114万円の一時金が支払われます。 |
遺族年金 | 労災によって亡くなられた労働者の家族に支払される補償です。ただし、補償を受ける家族は亡くなられた労働者に養われていた家族となります。 |
給付金は、対象となる家族の人数によって異なってきます。詳しい内容は、厚生労働省の『遺族等年金』で確認ができます。
*障害の程度は、厚生労働省のWebサイト『障害等級表』で確認できます。
● 労災上乗せ保険とは
ここまでは、労災保険は充分な保険であるように見えます。ただし、実際には建設業では労災上乗せ保険を利用・検討している企業や事業者が多くいます。
労災上乗せ保険とは、労災保険では適用範囲外の部分を補うための上乗せの民間保険になります。労災上乗せ保険には、以下に2つの種類があります。
法定外補償保険とは、労災に上乗せした労災補償を手厚くするための民間の保険になります。政府の労災保険の適用範囲外、または法定給付金以上の補償を行うことを目的に行う保険になります。
法廷外補償保険は、政府の労災保険とは異なり任意の保険になります。そのため法定外補償保険は、従業員満足度の向上や他の建設業者との差を設けて採用や定着率の向上を目的に加入することになります。
●使用者賠償責任補償保険
労働者が労災にあった場合で、その事業主に過失があった、もしくは過失があったと疑いがある場合に、労災にあった労働者から損害賠償の請求を受けるケースがあります。
労災を受けた労働者に対して損害賠償を支払する必要がある場合、その補償に対する保険が使用者賠償責任補償保険になります。
従業員に対して使用者の賠償責任が問われるケースやその具体的な補償金額について幾つかの事例を紹介します。
事例1:長時間労働などによる過労で従業員が倒れた
長時間労働が続いたことにより従業員の過労が蓄積し、意識を失い突然倒れる事態となりました。一命は取り留めたものの、脳の障害が残ったため起き上がることができない身体となってしまいました。
従業員の家族が会社を相手に損害賠償を請求しました。最終的には家族と会社の間で和解が成立し、1億9千万円の損害賠償金が支払いされました。
事例2:いじめが原因での従業員の自殺
職場でのいじめやパワハラを原因として、総合失調症となってしまった従業員が最終的に自ら命を絶ってしまいました。残された遺族が、会社を相手に安全配慮義務違反があったとして損害賠償を請求しました。
最終的には、この会社に対して約1,000万円の損害賠償金の支払いを命じる判決が下されました。
事例3:高所での工事中の転落・死亡事故
ビルの屋上に看板設置工事を行なっていた作業員が、誤って転落して死亡しました。残された遺族が損害賠償を請求した結果、1,000万円の賠償金を支払いすることとなりました。
事例4:解体工事中の事故による作業員の死亡事故
ビルの解体工事において、重機による解体作業中にコンクリート片が落下する事故が発生しました。落下したコンクリート片があたった作業員が死亡しました。
遺族の訴えによって訴訟となり、死亡した作業員の一部過失も認められましたが最終的には企業に対して損害賠償を支払いする判決となりました。
●安全配慮義務とは
安全配慮義務は、従業員が安全かつ健康に労働するために企業側が負う義務になります。企業は、「作業環境」と「健康管理」の2つの面から対策を講じる必要があります。
作業環境は、安全に業務・作業ができる環境を整えることが求められます。具体的には業務や作業に必要な設備機器の導入と機能を維持させるためのメンテナンス、安全に利用できるよう従業員への指導・指示などがあります。
健康管理は、従業員の身体的ならびに精神的な健康を管理することが求められます。過去は身体的な健康についての管理が求められていましたが、近年では精神的な健康管理が求められる傾向が強くなっています。具体的には、長時間労働の防止や有休取得の奨励、健康診断やメンタルチェックなどを実施することが求められます。
2 建設業の保険種類
建設業には、建設業固有のリスクがありそれらに対応する保険が複数あります。「絶対大丈夫」ということはありません。そのため、危険や事故はできるだけ減らす努力と、発生しても大事に至らないようにする取り組みを継続させながら、保険に加入して万が一に備えることで安心と安定が得られます。
ここでは、建設業者が加入することが多い代表的な保険の内容とメリットを紹介します。
<建設業での代表的な保険>
- ① 建設工事保険
- ② 土木工事保険
- ③ 組み立て保険
- ④ 請負業者賠償責任保険
- ⑤ PL保険
- ⑥ 業無災害補償保険
- ⑦ 法人向け自動車保険
- ⑧ 企業財産包括保険
2-1 工事で分けられる保険(建設工事保険/土木工事保険/組立保険)
建設工事保険と土木工事保険は、それぞれ建設工事と土木工事という工事について補償範囲を設定している保険になります。また、組立保険は、建設工事の中でも組立における作業に対する保険です。
①建設工事保険
建設工事保険は、住居や店舗やビルなどの建物の建設工事を対象とした保険です。
建設工事作業において発生する作業ミスやミスに関連して発生する火災など工事物件に物損が発生した場合に建物の被害に対して保険金を受け取ることができます。
保険の適用範囲は、以下になります。
- ・工事の対象物件に生じた物損や損害を補償するための費用
- ・事故が発生したことで発生した費用や片付けのための費用
一方で、建設工事保険というものの、建設全てに関わる保険ではありません。保険会社によって、保険の範囲が異なってきます。そのため、保険契約を検討するときには、どのような工事が対象になるのかを確認しなければなりません。
建設工事保険の保証対象外となる工事もあります。代表的な対象外の工事は以下のようになります。
- ・土木工事保険や組立保険の対象となる工事
- ・船舶や橋などの海上に関わる工事
建設工事の保険料は、一律ではありません。工事内容(工事場所・期間・工事対象となる建物の構造など)によって保険料が変わります。詳細は保険会社に確認することになります。
②土木工事保険
土木工事保険は、土木工事で発生する災害やトラブルによる賠償を補償する保険です。
土木工事保険が適用される災害やトラブル例は以下の事項になります。
- ・爆発や火災などの被害
- ・大雨による土砂崩れなど突然の天災を原因とした損害
- ・工事中に発生する盗難事件による損害
- ・従業員の過失や第三者の悪意によって発生するトラブルの被害
- ・材質や施工や製作における欠陥を原因とする事故で、他の部分に影響や被害が及ぶ場合
- ・航空機の落下や船舶の衝突などによる事故
- ・不測かつ突発的な事故
上記の場合であっても、重大な過失が認められる場合には保険金の支払い対象外となる場合もあります。具体的には、工事をおこなった人間やその企業に法令違反があった場合、故意による事故や損害の発生、本来防ぐことができることであったが明らかな注意不足が認められた場合などがあります。
③ 組立保険
建設工事保険や土木工事保険が広くそれぞれの工事を補償していたのに対して、組立保険は組立という作業にのみ適用される保険です。
組立工事とは、機械や鋼構造物などの据付や組み立てを言います。この組立工事の際に発生した暴風雨などの自然災害や火災や作業ミスなどの不測かつ突発的な事故などによって、工事の対象物や仮設物などに生じた損害が補償の範囲になります。
対象となる工事は、ビルの中の冷暖房や電気設備・ボイラ・発電プラントなどの組立工事や据付工事になります。一方で、以下の工事は保険の対象外となってきます。
<組立保険の対象外の工事>
- ・解体や撤去や取片づけ工事
- ・建築工事が主体の工事
- ・土木工事が主体の工事
- ・船舶や橋などの海上に関わる工事
組立保険は、その保険の対象が明確に定められています。
<保険対象>
- ・工事の目的物
- ・工事の目的物に付随する型枠工や足場工などの仮工事の目的物
- ・上記の工事のために必要となる工事用仮設物(電気配線や照明設備や保安設備など)
- ・工事現場の事務所や工事用の仮設建物などと工事に使用する什器や備品(家具や衣類や寝具や非常用具など)
- ・保険の対象となる工事に必要となる材料や仮設材
一方で、組立保険の対象外になるのは、自動車などの車両関係や書類関係や原料・燃料などがあります。
保険金額は、工事自体の請負金額になります。保険金額が請負金額と比較して少なくなる場合には、少なくなっている分を割合に直して、保険金が計算されることが一般的です。保険金額については保険会社に確認が必要です。
2−2 賠償に関連する保険(請負業者賠償責任保険/PL保険/業務災害補償保険)
賠償責任が問われるようなことがないようにする対策を講じる必要があります。一方で、どんな発生しないような対策を講じても、賠償責任を追求されるリスクは消えません。
万が一、賠償責任を追求されるような事態になったときに補償するための保険が「請負業者賠償責任保険」「PL保険」「業務災害補償保険」になります。
④請負業者賠償責任保険
請負業者賠償責任保険は、以下の2つを原因として発生する対人事故や対物事故によって発生する損害賠償責任を負担する場合の損害を補償する保険です。
契約する方法は、「スポット契約方式」と「年間包括契約方式」があります。
スポット契約方式は、工事や作業毎に契約を行います。工事期間が開く場合などはスポット契約方式が総合的にコストを抑えられるなどのメリットが出る場合が多くなります。
年間包括契約方式は、1年間などの予め定められた保険期間のうちに実施する工事や作業員などを包括的に補償する契約です。年間包括契約方式は、契約の手間が圧倒的に少なく、保険を掛け忘れなどのリスクも軽減できます。
<請負業者賠償責任保険の対象となる原因>
- ・工事や作業などの遂行
- ・工事や作業などを実施するために使用・管理・所有する施設
工事や作業などの遂行が原因となる事故の具体例は、以下の通りです。
- ・作業中に操作を誤り駐車されていた自動車の上にクレーンが倒れた結果、自動車の破損が発生
- ・工事作業中において、足場仮設に利用していた鉄パイプが落下し、工事現場の外にいた歩行者が負傷
同じく、工事や作業などを実施するために使用・管理・所有する施設が原因となる事故の具体例は、以下の通りです。
- ・所有する資材置き場において立てかけられた木材が倒れて、付近を歩いていた歩行者が負傷
請負業者賠償責任保険では、保障されている損害が定められています。
工事や作業などの遂行が原因となる事故の具体例は、以下の通りです。
- ・法律上で定められている損害賠償金
- ・争訟費用(賠償責任についての訴訟や弁護士費用など)
- ・損害防止軽減費用(求償権*の保全や行使など)
- ・緊急措置費用(事故が発生した際の応急手当など)
- ・協力費用(保険会社の要求に伴う費用など)
なお、上記の応急手当と協力費用以外は費用の支出前に保険会社の同意が必要になるのが一般的です。また、損害賠償金は契約した保険の支払い限度額の範囲内で受け取ることができます。
一方で、保険会社が保険料を支払いしない詳細も定められていることが一般的です。保険契約を締結する前に「保険金をお支払いできない場合」などの約款を確認することが必要です。
具体的な保険料を受け取れない事例は以下のようなものがあります。
- ・契約者もしくは被保険者の故意
- ・施設外部から施設内への雨や雪などの侵入や吹き込み
- ・自動車や原動機付自転車などの所有や管理や使用
- ・サイバー攻撃
⑤PL保険
PL保険は、生産物賠償責任保険を指します。PLはProduct Liabilityの略になります。
製造物責任は、製品や商品(生産物)などを製造する企業や事業者に対して製品の欠陥に対して責任を求める制度です。具体的には、製品の利用が原因で利用者が負傷などの損害を被った場合に利用者が損害の原因が製品の欠陥にあったことを証明することで損害賠償請求ができる制度です。
建設業においては、工事業者がその工事や作業の結果が原因でその利用者に怪我や損害を与えた場合には製造物責任を問われることになります。この製造物責任を問われて賠償責任請求に備える保険がPL保険になります。
PL保険も請負業者賠償責任保険と同様に、保険が適用される範囲や保険が受け取れない詳細が定められています。必ず、内容を確認の上、保険を検討するようにします。
⑥ 業務災害補償保険
建設業は、パワーショベルやクレーン車などの重機を活用する機会が多く、野外での作業も多く暑さや寒さの影響を受けやすい仕事環境といえます。そのため、慎重に安全に考慮したとしても、労災が発生するリスクを全て回避することはできません。
そして、労災によって発生する怪我や病気などの症状も重度の後遺症が残ることや不幸にも死亡するケースも出てきてしまいます。
このような時に、労災保険だけでは補償を賄うことができません。労災の上乗せの保険が、業務災害補償保険です。
労災事故が発生した場合に、企業側に安全配慮義務違反があった場合には従業員やその家族から損害賠償請求が実施される場合があります。
このような場合に、労災上乗せ保険があることで政府の労災保険でカバーできない慰謝料や訴訟費用などを補償できます。
業務災害補償保険は、従業員はもちろん役員や下請け業者の職人や派遣社員や委託作業者など幅広く補償します。また、補償内容も死亡補償、後遺障害補償、入院補償、手術補償、通院補償、休業補償などの幅広い補償範囲があります。
加えて、基本的な補償内容とは別で変更・追加・削除できる特約がある保険も多くあります。
<業務災害補償保険の特約>
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フルタイム補償特約
業務外で発生した事故で身体障害が残った場合に保険金が支払いされる
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天災危険補償特約
一般的な保険では、保険金の支払い対象とならない「地震や噴火や津波などの天災」による身体障害が残った場合に保険金が支払される
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疾病入院医療費用補償特約
業務中に発病した病気に加えて、業務外で発病した病気の入院時の治療費や食事療養費や差額ベット代などの公的な医療保険対象外の費用を対象に保険料が支払いされる
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特定感染症危険「後遺障害補償保険金、入院補償保険金、通院補償保険金」補償特約
補償の対象者が新型コロナウイルス感染症などの特定感染症に感染した場合で、保険期間中の発病によって被保険者に発生した損害に対して保険金が支払される
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使用者賠償責任補償特約
業務中に発生した事故によって使用者が被る身体的障害について事業者が負担する賠償責任についての補償
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雇用慣行賠償責任補償特約
補償対象者がハラスメントや差別的行為や不当解雇などの不当行為について事業者への賠償損害についての補償
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メンタルヘルス対策費用特約
政府による労災認定がされた精神障害を原因とする休職者について職場復帰対策などにかかる費用についての補償
2-3 その他の保険(法人向け自動車保険/企業財産包括保険)
建設業以外の一般的な業種でも加入を検討する保険もあります。それが、法人向け自動車保険や起業財産包括保険です。
⑦法人向け自動車保険
法人向け自動車保険は、法人が加入する自動車保険になります。法人で加入するため、加入する法人の従業員が運転している場合に補償が受けられます。
建設業では、会社から現場への移動や建築資材の搬入・搬出などで自動車を利用する機会は多くあります。自動車の運転は細心の注意を払っての運転を心掛ける必要がありますが、自動車事故は日常的に発生しています。
法人で自動車を利用する以上、法人向け自動車保険は必須の保険と言えます。
⑧企業財産包括保険
企業財産包括保険は、企業が保有している財産全てを包括して1つの保険で補償できます。
事業者は、多くの高額な機材や資材を保持しています。特に、少子高齢化によって労働者が減っているため、IT化や機器の活用に投資をしている事業者が多くなっています。
建設業も同様に、就業者が減っている中でITや専門機器の導入を進めています。これらの機器や建築資材は資産になります。建設業の機器や資材は、自己管理をしなければならず常に盗難や火災などのリスクがあります。
資材などは、建設に使用すれば減少し、新しい工事のために仕入れもするために、都度保険をかけていると手続きが煩雑になりすぎます。そのため、起業財産包括保険に加入後に増えた財産についても一定範囲は補償の適用ができるようにできます。
3 保険選びのポイント
保険契約の必要性や種類について前章までで説明しました。
しかし、どの保険にどれだけ加入すればよいのかは建設業者それぞれの状況によって異なってきます。これは、同じ建設会社でも、元請け会社か下請け会社か、建設業種は何か、従業員は何人いるかなどでリスクが異なります。リスクが異なってくると、必要な補償範囲が変わってきます。
3-1 自らリスクを考える
保険を考えることは、自社のリスクは何があるのか?を考えることと同義です。
同業の建設業を経営する社長にアドバイスをもらうなど、参考となる情報を収集して自らリスクについて考えることが必要です。また、保険の補償を厚くすることは自らの経営リスクに備える目的もありますが、万が一の事故にあった時にきっちりと賠償ができるという従業員の安心感にもつながります。
発生する可能性が少しでもある事故や被害を一覧化してみることをお勧めします。
3-2 保険の専門家に相談する
現在、保険コンサルタントなどは複数います。リスクが分かったら、どんな保険が良いのか、いくらくらいの保険金を掛けるのが良いのかは、専門家に聞くのが良いです。
特に、複数の保険会社の保険商品を取り扱っている保険会社などは総合的な判断や情報を提供することができます。保険会社の販売員の場合にはどうしても自社商品を勧めてくるため、誤った判断になる場合があります。
金融商品は専門知識が必要なため、放置することや誰かに任せきりになっていることもあります。外部の保険会社などに任せることも信頼できる相手であればよいですが、信頼できる相手を見極めることが困難です。複数の専門家に相談し、信頼できる相手を探して、保険を決めていくことが必要です。
4 まとめ
建設業は、事故のリスクがつきものの業界と言えます。そのため、事故が起こらないようにすることとあわせて事故が起こったとしてもその影響を最小限になるように取り組む必要があります。
建設業で入るべき保険は、事故などの賠償する責任を負う事態になった時に影響を最小化するのに有益です。もし、賠償責任を問われて保険に入っていない場合には事業の存続が危ぶれる事態にもなりかねません。そのため、適切な保険に加入しておくことは事業の存続リスクに対応するための必要事項として、高い優先順位で対処していくべき事項であると言えます。
『政府などの公的な保険に加入しておけば大丈夫』『以前、保険の見直しを実施したから大丈夫』と考えるのは危険です。
新しく発生しているリスクを認識しないまま実際の事故などが発生して、賠償責任について対応ができなくなる危険があります。自社で発生する可能性のあるリスクの変化と、その保険の補償が十分か見直す機会を定期的に持っておくことが必要です。場合によっては、もはや発生しないリスクに対して補償がある保険があるなら保険を解約することでコスト削減にもつながります。