建設業の「特定技能」とは?取得に必要な要件・書類も解説
建設現場で活躍している外国人就労者が増えています。2019年時点で、1,658,804人の外国人が日本国内で就労者として日々働いています*。また、建設業では同年で93,214人の外国人が就労しています。建設業全体での外国人就業労働者は2011年12,830人から2019年までの8年間で726%も増加している数値になります。
これからも建設業全体の課題である、就業労働者の高齢化と減少に対する対策として、外国人の就労は増加していくと予想されます。
建設業や建設工事の需要は横ばいを続けています。そのため、建設業全体として労働者不足の課題解決に今後も取り組む必要があります。全ての建設業者が今までも取組をしていましたが、これからも取り組むべき課題とも言える労働者不足の解決策の一つが特定技能制度であり、特定技能外国人です。
労働者不足を補うために過去、技能実習生として外国人労働者の採用を積極的に取り入れている企業も多くありました。
しかし、技能実習生制度には受入企業の常勤社員数に応じた制限が厳格で採用が進まない課題がありました。特定技能制度においては、「特定技能者は、常勤社員数と同じ人数まで採用が可能」「技能実習生から特定技能者に変更ができ、雇用期間も延ばせる」など改善しており、着実に外国人労働者を雇用するメリットを増やしています。
今回の記事では、特定技能制度の概要や特定技能外国人受入の要件や手続き、実際に特定技能外国人の採用方法などを解説するので、参考にしてみてください。
目次
1 特定技能とは
2018年(平成30年)12月14日『出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(平成30年法律第102号)』が交付されました。この交付で、新しい在留資格制度である『特定技能』がスタートしました。
特定技能制度は、建設業を含めた人材確保が難しい産業分野について企業の即戦力になれる外国人を採用できる制度です。
なお、企業の即戦力になるために特定技能者となれる外国人には一定の技術や専門性が求められます。
1-1 建設分野特定技能制度の概要
特定技能によって、就労者不足が課題となっている14の業種における新しい外国人就労者の雇用制度になります。
● 特定技能の在留資格
外国人が日本で働く場合に必要となる資格が在留資格です。在留資格とは、外国人が日本に在留する期間とその期間中にできることを定める資格になります。
在留資格の種類の中で、就労(報酬を得られる)ができる資格の1つが特定技能になります。特定技能には、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類の在留資格があります。
・特定技能1号
- 特定技能1号の在留期間は5年になります。企業の即戦力となるよう就労後にすぐに一定業務ができる水準が求められ、各産業が求める一定の知識や経験があることが取得条件になります*。
一定の知識・経験の有無を測るために、特定技能評価試験があります。
・特定技能2号
- 特定技能2号の在留期間は無期限更新が可能です。そのため、ビザの取消事由に該当しなければ日本に永続的に在留できます。また、1号では認められていない家族帯同も2号には認められます。
特定技能2号は、建設業と造船・舶業で就労する特定技能者が対象です。特定技能2号の取得には、各業種で定められた技能基準を満たさなければなりません。そのため、特定技能1号の5年の在留期間を経れば、特定技能2号に移行できるわけではありません。また、特定技能1号の取得もしくは就労期間がなくても技能基準を満たすことで特定技能2号の取得は可能とされています。
しかし現状で、特定技能2号の申請手続きやガイドラインなどが定められていない状態です。今後入管庁からの開示が待たれています。
●特定技能と技能実習
外国人の在留資格として混合されやすい制度が、技能実習制度です。この2つの資格と制度は異なるものながら、つながりもあります。
特定技能は、即戦力の労働力の確保が制度の目的にあります。一方で、技能実習は国際貢献が主たる目的です。日本で働きながら技術を学び、その技術を自国に持ち帰って経済発展に活用する流れをとります。
技能実習法第3条第2項では技能実習制度を労働力の需要のための利用を禁じています。つまり、技能実習の就労においては単純作業などの移転する技術がない労働には従事できません。
それに対して特定技能は、外国人の方を労働者として受け入れる在留資格です。特定技能は、労働力の確保が目的のため、従事する仕事に制限がない点が大きな違いと言えます。
特定技能と技能実習のつながりは、現在雇用している技能実習生を、特定技能に移行することが可能な点になります。
技術を学び仕事も覚えた技能実習生を、特定技能に移行して雇用を継続することは即戦力の労働力の確保の実現になります。
1-2 特定技能者ができる仕事とは
特定技能で働く外国人が就労できる建設業の職種は以下の通りです。
≪特定技能外国人が就労できる建設業種≫
- 型枠施工/左官/コンクリート圧送/トンネル推進工/建設機械施工/土工/屋根ふき/電気通信/鉄筋施工/鉄筋継手/内装仕上げ/表装/とび/建築大工/配管/建築板金/保温保冷/吹付ウレタン断熱/海洋土木工
上記の建設職種に応じた必要な試験が定められています。
例えば、特定技能1号『建設機械施工』の職種では『指導者の指示・監督を受けながら建設機械を運転・操作し、押土・整地、積込み、堀削、締固めなどの作業に従事』する業務区分が指定されています。
特定技能1号『建設機械施工』の技能水準及び評価方法は『建設分野特定技能1号評価試験(建設機械施工)』が定められています。また、日本語能力水準及び評価方法は『国際交流基金日本語基礎テスト』または『日本語能力試験(N4以上)』が定められています。
それぞれの建設業種に応じた技能水準や評価方法などの詳細については、国土交通省『建設分野における新たな外国人材の受け入れ(在留資格「特定技能」)』のページ内にリンクがある対応表で確認できます。
1-3 雇用形態と報酬など
特定技能1号の資格を持つ外国人を採用する場合には、その雇用形態は直接雇用に限定されています。
直接雇用は、企業と労働者間で直接雇用契約を結ぶ雇用形態を言います。直接契約には正社員・契約社員・パート・アルバイトなどの複数の雇用形態があります。
●報酬
企業が特定技能外国人を雇用するために求められる要件に報酬に関連する事項があります。その報酬に係わる要件は以下になります。
- 令和元年の技能実習生の失踪者は8,796人いました。これは同じ年の技能実習によって日本に在留する外国人41万972人から考えると、2.1%もの技能実習生が失踪していることになります*。
この技能実習生が失踪する原因となっているのが給与などの報酬の未払などが原因でした。そのため、令和2年4月に給与の支払い額が確認できる方法で実施することが義務化されました。
この支払額が確認できる方法での給与支払の義務化は、特定技能者を雇用する企業に対しても義務化されています。
*令和2年12月第7次出入国管理政策懇談会 報告書『今後の出入国在留管理行政の在り方』より
・同一技能同一賃金(建設告示3条3項2号)
- 告示では“同等の技能を有する日本人が従事する場合と同等額以上の報酬を安定的に”支払いすることが求められています。つまり、求められる技能が同じであれば、賃金は日本人就労者と同額以上の賃金としなければなりません。
実務的には、賃金規定がある場合はその規定に順じて給与を決めます。賃金規定がない場合は、社内で雇用する同程度の技能を持つ日本人就労者と比較して同額以上の賃金体系を採用します。
また、その賃金が各都道府県労働局の提供するハローワークの求職賃金などと比較が必要です。同一地域/業種/技能で低水準にならないようにしなければなりません。
企業は労働基準法に則っても差別的な取り扱いをすることは禁じられています(労働基準法第3条)。労働基準法では、労働者の国籍や心情や社会的身分を理由に賃金や労働時間やその他の労働条件を差別的取り扱いはしてはならないと規定しています。
外国人労働者は、日本人と比較して安く雇用できる、と言った誤った認識は正さなければなりません。外国人労働者も日本人労働者と同様に、労働基準法や労働契約法、最低賃金法に準じた雇用をしなければなりません。
・安定的な賃金支払い
特定技能外国人を雇用する場合には、月給制などの安定した雇用を結ばなければなりません。受注状況などによって基本給などの報酬が変動してはならないことになっています。
同じ企業の日本人の就業者が月給制ではない場合であっても、特定技能者の報酬体系は月給制を適用する必要があります。特定技能者への報酬額はこの場合でも日本人に支払いされる平均的な1ヶ月分の平均報酬と同程度以上が求められます。
・技能習熟に応じた昇給体制
特定技能者との雇用契約や受入計画で、習得する技能が習熟することが昇給に連動することを昇給見込み額などの予め具体的に記載することが求められます。
技能の習熟度を表す指標には、以下があります。
- ✓実務経験キャリア
- ✓資格の取得
- ✓建設キャリアアップシステム*で採用する能力評価 など
*建設キャリアアップシステム(CCUS)とは、建設業全体で技能者の資格や建設現場での仕事履歴などの情報を蓄積し、技能者の適切な評価によるキャリアアップ実現を目指す仕組みです。また、2020年1月には、外国人技能実習生の登録が義務化されています。
2 特定技能外国人の受入
前述の報酬の解説部分でも触れましたが、特定技能外国人の受入には受入企業側も満たすべき要件があります。建設分野で特定技能外国人を受け入れようとする場合には、国土交通省からの「建設特定技能受入計画」の認定が必要です。
認定を受けるためには、前述の受入計画の策定・申請・承認が必要になるので、一定期間が必要です。
そのため、将来的に特定技能外国人採用を検討する企業は、事前に受入要件を満たすための準備期間と行動が必要です。
2-1 受入要件
特定技能受入計画の申請するためには、最低限以下の基準を満たす必要があります。
≪特定技能受入計画の申請要件≫
- ①建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録完了
- ②特定技能外国人受け入れ事業実施法人への加入
- ③適正な報酬体制
- ④受入外国人の母国語での重要事項説明書面の用意
- ⑤特定技能外国人の受入後、特定技能外国人が受入後講習受講をできる体制準備
- ⑥特定技能外国人の受入後、巡回指導を受ける体制準備 など
●建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録完了
特定技能外国人が技能習熟によってキャリアアップ・昇給が行える事前準備として、建設キャリアアップシステム(CCUS)へ企業側の登録を完了させておくことが求められます。
●特定技能外国人受入事業実施法人への加入
特定技能外国人受入事業実施法人は、建設業独自の特定技能制度が適正かつ円滑に実行されるための取り組みを行うことを目的とする法人です。技能外国人を受け入れる企業は、特定技能外国人受入事業実施法人に加入しなければなりません。
特定技能外国人受入事業実施法人は、特定技能外国人に対して『入国後研修』や『求職求人マッチング支援』『母国語相談窓口での相談対応や助言指導』を実施します。また、受入企業に対して『特定技能外国人のあっせん』や『企業への巡回訪問と助言指導』を実施します。
特定技能外国人受入事業実施法人と混合されやすい機関として、登録支援機関があります。登録支援機関は、特定技能外国人を受け入れる企業が、『任意』で委託する機関です。登録支援機関が実施する事項は以下になります。
- ・入国前の生活ガイダンス
- ・入国時や帰国時の空港などへの送迎
- ・住宅確保、金融機関口座開設や携帯電話契約などの生活準備支援
- ・日本語習得支援
- ・各行政手続き支援
これらの支援は、任意であり受入企業側が対応しても問題ありません。ただし、特定技能外国人の受入開始当初はノウハウなどもないため登録支援機関の利用を行うことが一般的です。
●受入外国人の母国語での重要事項説明書面の用意
受入外国人が雇用契約に係わる重要事項を理解するために、受入外国人の母国語での書面を用意します。
記載すべき本事項は以下になります。
①基本賃金 | 基準内容 |
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②諸手当 | 残業代など、諸手当がある場合には、その手当の『内容』『金額』『計算方法』を記載します |
③支給概算額 | 基本賃金と諸手当の合計額を記載します。 |
④控除項目 | 『税金』『社会保険料』『居住費・食費』など③支給概算額から差し引かれる控除項目の内容と金額、最終的な控除額合計を記載します。 |
⑤手取り支給額 | ③支給概算額から④控除額合計を差し引いた金額合計を記載します。 なお、欠勤や時間外労働の割増賃金など実際の労働によって発生・差し引かれる金額は除かれます。 |
⑥業務内容 | どこで、どのような業務を行うかを具体的に記載します。 |
⑦昇給 | 技能習熟などに応じた昇給条件と評価方法と昇給時期などを記載します。 |
⑧安全衛生教育 | 労働者や作業従事者の安全や健康を守るため、また労働災害などの企業のリスクを防止するための新たに雇い入れる従業員へ実施する教育になります。その安全衛生教育の実施時期やその内容と方法を記載します。 |
⑨技能の習得 | 技能検定の受験合格による昇給や資格手当などの報酬への繁栄方法と検定自体のスケジュールについて記載します。 |
⑩個人情報提供の同意 | 一般社団法人建設業振興基金(建設キャリアアップシステム運営)と、適正就労管理機関、特定技能外国人受入事業実施法人へ認定書記載内容への同意実施状況を確認します。 |
●特定技能外国人の受入後、特定技能外国人が受入後講習受講をできる体制準備
建設業で特定技能外国人の受入認定を国土交通大臣から得た場合には、実際に特定技能外国人の受入の実施後原則3か月以内に受入後講習を受講させる義務があります。
講習の目的は、建設業で働く特定技能外国人が制度の仕組みを理解することで安心して仕事に取り組めるようにすることにあります。そのため、建設業の特定外国人に対する『受入体制』や『保護の仕組み』を説明し、自らの雇用条件などを再確認する場を提供します。そして、そのうえで自らの将来キャリアを考えるきっかけを提供します。
これらの研修は、特定技能外国人の母国語に対応している講習になっています。
受入企業は、3か月以内に講習が受講できるように、講習を行う機構やスケジュールや受講予約を整えておかなければなりません。
●特定技能外国人の受入後、巡回指導を受ける体制準備
特定外国人が適切に受入されているかを確認するために、建設業界では「適正就労管理機構」が受入企業への巡回訪問を行います。
巡回訪問で実施されることは主に以下の事項を確認します。
✓受入責任者と担当者からの特定技能者の状況のヒアリング |
✓賃金台帳と出勤簿などの書面確認 |
✓特定技能外国人との面談(母国語での対応) |
●事前巡回指導と事前ガイドライン
特定技能外国人の受入準備をおこなう企業に対して、『事前巡回指導』や『事前ガイダンス』を行うこともできます。これらは任意になるため、希望する企業は申込が必要です。
事前巡回指導で実施される主たる事項は以下になります。
✓下記書面に関する指導と助言 重要事項事前説明書・雇用契約書 |
✓雇用契約締結への立ち合いと適正な雇用契約締結の確認 |
✓特定技能者になろうとする外国人との面談による契約内容などの理解度確認 |
事前巡回指導を受けることで、適切な特定技能者受入の準備ができます。また、雇用契約の立ち合いを受けた特定技能外国人には受入後講習受講は免除できます。
事前巡回指導では、受入外国人の母国語に対して指導を受けられるため、言語対応が難しい企業にとっても大きな支援になります。
また、事前ガイダンスでは在留外国人に対して留意すべき事項について情報提供を受けられます。
2-2 支援計画
慣れ親しんだ自分の国を離れて、外国で働くことは簡単ではありません。そのため、特定技能外国人を戦力化するためには、慣れない国や環境で働く特定技能外国人を支援する必要があります。支援は、仕事上はもちろん生活全般を含めた支援を計画的に行う必要があります。
特定技能制度では、上記支援を1号特定機能外国人受入企業に求めます。前章で比較した”技能実習”制度を含めた他の在留資格では求められませんが、特定技能では受入企業が認定を受けるためには支援計画の策定が求められます。
支援計画は、特定技能外国人が日本に入国したタイミングから始まります。入国後の移動やその後の私生活の支援、日本語学習や日本文化に馴染むための支援、生活や仕事を開始した後の相談や苦情などをヒアリングするための定期的な面談機会などが必要です。
●支援計画の具体的内容
特定技能を受け入れる企業は、その特定技能外国人を以下の3つの生活に対して『安定』かつ『円滑』な生活ができるように支援が必要です。
職業生活 | 日々の仕事部分の生活ができる |
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社会生活 | 日本の社会の一員として生活ができる |
日常生活 | 日々の仕事以外の部分の生活ができる |
具体的な支援計画を実行に移すために、支援計画の策定と合わせて支援全体の実行を管理する『支援責任者』とその実行を担当する『支援担当者』をあらかじめ定めて申請時に提出します。
また、支援の実施を外部の者に委託することもできます。特定技能外国人の受入企業から委託を受けて特定技能外国人を支援するのが登録支援機関になります。
登録支援機関は、地方出入国在留管理局への登録が済んでいる個人または団体になります。登録支援機関へ支援を委託する場合には有償となりますが、支援計画に基づく支援のすべてを登録支援機関が実施します。そのため、受入企業の業務負担が軽減されることと特定技能外国人が安定かつ円滑な生活が早期に実現しやすいメリットがあります。
支援計画に求められる以下の事項が自社内で実施できるかを検討して、外部委託を検討します。
≪支援計画に求められる10の事項≫
①事前ガイドライン | 受入企業と特定技能外国人の雇用契約締結を実施した後でかつ在留資格認定証明書交付申請または在留資格変更工許可申請の前に、以下の事項を対面またはテレビ電話などで特定技能外国人に直接説明をします。
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②日本国内での出入国時の送迎 |
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③住居の確保と生活に必要な契約支援 |
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④生活オリエンテーション | 円滑な社会生活を送れるように日本生活におけるマナーやルール、公共機関の利用の仕方や連絡先、災害などの緊急事態が発生した際の対応方法などを説明 |
⑤公的手続きなどの同行 | 居住地や社会保障、税金などの手続きが必要な場合は、窓口や手続きへの同行や書類作成の補助 |
⑥日本語学習の機会提供 | 日本語教室や教材の情報提供や日本語教室などへの入学案内 |
⑦相談・苦情への対応 | 生活や職場における相談や苦情などについて、特定技能外国人が理解できる言語や応対で、内容に適した必要なアドバイスや指導など |
⑧日本人との交流促進 | 自治会などの地域住民との交流や、地域のお祭りなどのイベントや行事の案内や参加をサポート |
⑨転職支援 | 受入企業の都合で雇用契約を解除する必要がある場合には、特定技能外国人の転職を支援します。
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⑩定期的な面接・行政機関への通報 | 3か月に1回以上、支援責任者は特定技能外国人とその上司に面談を定期的に実施する。面談の中で、労働基準法に違反事項がある場合などは通報する |
支援計画の実施は、簡単ではありません。また、実施すること自体に一定の要件を満たしている必要があります。求められる要件の主たる一つに『中長期在留者の受入の実績がある』となっています。
中長期在留者の受け入れ実績は、以下の3つのいずれかに該当することが求められます。
- ・過去2年間で就労資格がある在留者を受け入れたもしくは管理を適正に実施した実績が企業にある。
- ・企業の役員や従業員が、過去2年間に就労資格がある在留者の生活相談業務を実施した経験があるものがいる。(この役員もしくは従業員が、支援担当者に選任される必要もあります。)
- ・上記2つに該当するものと同程度に支援事業が実施できる者がいることを出入国在留管理長官が認める場合
また、受け入れ実績があっても過去5年以内に支援計画の実施を怠った事実がある事業者は、支援計画の実施者として認められません。
支援の実施において、特定技能外国人が十分に理解できる言語での実施が必要ですが、通訳を雇用する義務まではありません。ただし、雇用契約書や雇用に係る重要事項の説明については母国語での書類作成や説明が必要になります。
2-3 受入手続き概要
建設分野における特性を含めた国土交通大臣が定める特定技能所属機関=受入企業の基準に合致していることが求められます。
建設業における特定技能所属機関の基準は、以下になります。
- ①1号特定技能外国人の在留資格審査を通っている
- ②受入計画が国土交通大臣による審査・認定を受けている
なお、上記2つの審査は並行できます。
●外国人受入れに係る行動規範
一般社団法人建設技能人材機構は、特定技能外国人の受入実現に向けた建設業界共通の行動規範を設けています。
この行動規範の中で、建設業での受入企業の義務と元請企業の役割についてもそれぞれ示されています。
受入企業の義務は、他の特定技能外国人受入業種と共通する点が多くなりますが、外国人を企業としては受け入れていないわけではない元請企業についても役割が発生している点は建設業特有と言えます。
≪受入企業(雇用者)の義務≫
- ・特定技能外国人が在留資格を適切に有していることの常時確認
- ・同等技能、同等報酬、月給制など、技能の習熟に応じた昇給などの適切な処遇
- ・外国人を含めた被雇用者に対して必要な社会保険に加入
- ・契約締結時の雇用契約重要事項ならびに契約書自体の特定技能外国人の母国語での起債と説明
- ・日本人ではないことを理由に待遇での差別的取り扱いの禁止
- ・暴言や暴力やいじめなどハラスメントの根絶、職業選択上の自由を尊重
- ・建設キャリアアップシステムへの加入、技能の習得や資格取得を促進
- ・安全確保に必要な技能や知識などの向上させるための支援、元請企業が実施する安全指導に対する順守
- ・社会生活や日常生活に対する支援
- ・直接的、間接的を問わず、悪質な引き抜きの禁止
- ・機構が実施する共同事業に係る費用の負担
≪元請企業の役割≫
- ・建設キャリアアップシステムの活用などを活用しての在留資格などの確認を徹底させ、不法就労者と失踪者などの工事現場への立ち入りを禁止させる
- ・不当な理由で、特定技能外国人を工事現場からの排除の禁止
- ・特定技能外国人への適切な安全衛生教育と安全衛生管理の実施
- ・自社が監督する工事現場に就労する特定技能外国人について労災保険の適用を徹底
2-4 受入手続き詳細
建設業における特定技能受入計画は、オンラインの申請になっています。オンライン申請のURLは国土交通省『建設分野における新たな外国人材の受け入れについて』のサイト内に申請URLがあります。
この申請サイトでは、特定技能受入計画における以下の申請屋と届出がオンラインで実施できます。
- ・新規申請
- ・受入報告
- ・変更申請
- ・変更届出
ここではオンラインで実施する新規申請について解説します。(それ以外のやり方もサイト内の手引きが参照できます。)
●新規申請必要添付書類
特定技能受入計画の新規申請には以下の添付書類が必要です。
①登記事項証明書(履歴事項全部証明書) | 新規申請時のみ、申請した日から3か月以内に法務局から発行された現在事項証明書を添付します。(新規申請以外の申請や届出では、履歴事項全部証明書を貼付が必要です) |
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②建設業許可証 | 特定技能外国人が従事する業務と、受入事業者が取得している建設業許可業種の一致は求められません。ただし、特定技能外国人は在留資格で認められている業務のみ従事できます。 建設業許可の更新申請を行っており新しい許可証が手元にない場合、更新前の許可証と更新許可申請書の写しを提出し、新しい許可書が到着次第差し替えします。 |
③厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書 | 受入企業で常勤職員の数が分かる書類を添付します。 常勤職員数は、下記に該当する者がカウントできます。
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④建設キャリアアップシステム関連 |
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⑤特定技能外国人受入事業実施法人(JAC)の加入証明 | JACの会員のなりかたによって、提出する証明書が異なってきます。 申請事業者が所属する建設業者団体がJAC正会員として加入している場合には所属する建設業者団体が発行する会員証明書の写しを添付します。 JACに賛助会員として加入の場合には、JAC発行の会員証明書の写しを添付します。 |
⑥ハローワークの求人票 | 申請する日から1年以内の建築・土木作業員の正社員の募集を実施したことがわかる求人票を提出します。求人票に記載されている給与額が、申請する1号特定技能外国人の基本給与と同額以上である事が必要です。そのため、特定技能外国人が従事する業務と同じ求人票であることが求められます。 求人票の提出は、受入企業が『職員の適切な処遇、適切な労働条件を提示した労働者の募集その他の国内人材の確保の取組を行っていること』(告示第3条第3項第1号ホ)の条件を満たしていることを確認する目的があります。もし、ハローワークの求人実績が直近1年以内にない場合には、求人を行った後に申請を実施しなければなりません。 |
⑦報酬説明書 | 国土交通省のWebサイトからダウンロードできる『同等の技能を有する日本人と同等額以上の報酬であることの説明書』を必要事項記載の上添付します。 |
⑧経歴書 | 特定技能外国人と同等の技能がある日本人の実務経験年数を証明する書類として経歴書などを添付します。 |
⑨雇用契約書及び雇用条件書 | 必要事項の記載と署名捺印された特定技能雇用契約書および雇用条件書を添付します。 雇用契約の開始日は、申請する日から半年以上期間を開けていないことが必要です。有期雇用の契約期間は、労働基準法で3年までと決められています。その他、労働基準法など適法に締結された契約書ならびに雇用条件書を提出しなければなりません。 健康診断内容の記載は、入社前3ヶ月以内から入社後1ヶ月以内に実施した健康診断の内容を記載します。 |
⑩変形労働時間制に係わる書類 | 変形労働時間制を採用している場合には、以下の書類を添付します。
労働基準監督署へ提出したことが分かる受理印がおされた有効期限内の書類が必要です。 |
⑪雇用契約に係わる重要事項事前説明書 | 特定技能外国人が十分に理解できる言語で併記し、雇用契約前に書面交付して説明するための書面になります。 |
●新規申請方法
申請は、外国人就労管理システムにアクセスして、『仮登録』後に『本登録』を行います。
始めての申請の際には、利用者仮登録が必要です。利用者仮登録を行い、ログインIDとメールアドレスを登録することになります。
メールアドレスは、企業のメールアドレスとして登録され、原則1度認定を受けるまでは変更できません。仮登録完了後に、登録されたメールアドレス宛に仮パスワードが送信されます。また、仮登録や本登録後も国土交通省からの重要連絡事項や国際建設技能振興機構(FITS)などのお知らせなどが送信されることがあります。
これらのことから、登録するメールアドレスは申請企業の複数人が確認できるメールアドレスを登録することを推奨します。個人の担当者宛を登録すると、退社や社内の異動などによって担当変更があった場合や重要な連絡を見落としてしまうリスクがあります。
本登録は、仮パスワードを利用してログインを行い、パスワードの設定を行います。また、建設業の許可番号が入力を行います。万が一、認定前にパスワードを紛失や忘れてしまった場合の再設定に使います。
本登録後には、メニュー画面の建設特定技能受入計画欄の『新規申請』を選択して、画面に沿って必要事項を入力し、添付書類をアップロードしていきます。
添付書類のアップロードの際には、ファイル名を書類名とします。全部事項証明書を添付する場合には、ファイル名を『全部事項証明書』とします。また、雇用契約書などは雇用者氏名を付け加えて、『〇〇〇〇(氏名)_雇用契約書・雇用条件書』とします。
計画の必要情報のすべてが登録・添付ができた後に、『確認』ボタンを押して登録を完了させます。
●申請時のポイント
登録を終了するまでには、入力ページが複数にまたがります。また、確認しながらの入力になるなど、初めての新規申請には時間がかかります。各ページには「一時保存」ができるボタンが設定されています。入力の途中でも一時保存は可能なため、小まめな保存をお勧めします。
行政書士や弁護士などによる代理申請が可能です。代理申請を行う場合には『代理申請者に関する事項』の入力が必要です。なお、行政書士若しくは弁護士ではない者が報酬をえて申請書などの行政書類の作成をすることは法律(行政書士法及び弁護士法)で禁じられているため、注意が必要です。
申請を完了させるためには、『適正な修道管理及び労働環境の確保に関する事項』に対して、『宣誓』を行うことが必要です。内容を確認の上、『同意宣誓』ボタンを押してください。
同意宣誓を行うと、計画申請は完了となります。計画申請が完了すると、メニュー画面の特定技能受入計画下のステータスが『新規申請』から『計画確認』に変更されます。新規申請を完了させたのちには、ステータスが変更されていることを必ず確認してください。
●申請後のステータス
また、『計画確認』ボタンを押すと、申請中画面に移行し、計画申請状態が確認できます。計画申請状態はステータスによって状態が分けられ、修正や取消げなどができるタイミングが異なってきます。
≪計画申請状態ステータス別の状態≫
ステータス | 状態と修正・取下げ |
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申請中 | 申請は受理前の状態です。 受理前の申請内容は修正が可能です。『引戻し・再編集』を選択して修正できます。 |
審査中 | 申請は受理され、審査が開始された状態です。 受理後は申請内容の修正はできません。申請自体を取り下げたい場合は『取下申請』を選択して実施できます。 |
差戻し中 | 審査担当者から申請が差し戻されている状態です。 差戻された内容の確認や修正対応は『編集』を選択して実施できます。差戻し項目のみ修正が可能です。差戻しではない項目はグレーになっていて、修正ができません。 差戻し項目全てが修正できたら、『登録』を押します。 なお、差戻しの修正中も一時保存は可能です。修正項目が多い場合など、一時保存を有効に活用することを推奨します。 |
3 特定技能外国人の採用
特定技能外国人の受入企業の申請とあわせて重要となるのが、実際の採用活動です。即戦力となる従業員を採用することは日本人でも簡単ではありません。そのため、採用には十分な準備と時間をかけて挑むことが重要です。
3-1 採用手段
特定技能外国人を採用する流れは、どこにいるか(日本国内か/海外か)と特定技能での在留資格をもっているか/いないかで大きく4つに分けることができます。
- ①日本国内にいる特定技能での在留資格を保有する外国人を採用する
- ②日本国内にいる特定技能での在留資格を保有していない外国人を採用する
- ③海外にいる特定技能での在留資格を保有する外国人を採用する
- ④海外にいる特定技能での在留資格を保有していない外国人を採用する
採用が難しいのは、特定技能での在留資格を保有する求職中の外国人を探すことです。これは日本国内や海外を問わず、特定技能の在留資格者がまだまだ数が少ないことと募集する企業が多ければ多いほど難度が増していきます。
ただし、一定数は特定技能有資格者が転職を目指すタイミングをとらえて、新規人材採用を行うことが可能です。
海外の新規人材を採用するには、元技能実習生や特定技能評価試験合格者などの採用を目指します。海外の人材を探す場合には、特定技能の在留資格を1から取得することは簡単ではないため、特定技能の在留資格を持つ人材や技能実習を修了しており特定技能に移行をしやすい人材などを採用することが一般的です。
●採用手段
具体的な採用方法は、紹介会社や登録支援機関から紹介を受ける方法と求人媒体を通じての応募などがあります。
人材派遣や紹介会社を介しての紹介による採用は最も効率的に採用に繋がる利点があります。人材派遣や紹介会社を介しての採用は、40~80万円ほどの費用が掛かるものの採用が決まって費用が掛かる形になっているため無駄に費用をかけなくても良いのが利点になります。
求人サイトの掲載は、費用面では派遣会社や紹介会社を利用するよりは安い1ヶ月20~40万円ほどの費用が掛かります。求人サイトへの掲載は、サイトに掲載することに費用が発生する形なので、複数名採用できたら採用コストが抑えられる結果になります。逆に、1人も採用できないで終わることもあり、その場合でも掲載コストは必要になります。
また、求人サイトにも成果報酬型のサイトやプランもありますが、結局コストは高くなる傾向があります。
特定機能外国人の採用に対して知見がない企業は、特定技能外国人を支援する機関である登録支援機関に委託することが一般的です。
登録支援機関は、1号特定技能外国人の職業的・日常的・社会的生活の支援を行うことを目的としており、特定技能外国人とその受入企業のマッチングも業務の一つとして実施しています。
登録支援機関に採用を委託する場合には、数万円の費用が毎月発生することになりますが、登録支援機関の紹介実績次第では非常にコストパフォーマンスが高い採用方法と言えます。
3-2 採用後の留意点
採用を決めたのちにも特定技能外国人に関する留意点はあります。
まず、出入国に関する法令順守が必要です。在留資格があったとしても、パスポートがなければそもそも日本に入国できません。また、出入国に関する法令を遵守しなければなりません。
社会保険に加入することも特定技能外国人を採用する時には留意しなければなりません。建設業全体で広義の社会保険への加入徹底に取り組んでいますが、特定技能外国人も例外ではありません。特定技能制度を活用して外国人労働者を採用しようとする場合、社会保険の加入状態は必ずチェックされます。
そして、外国人を受け入れる企業は定期的に届出を行う義務が発生します。必要な届出を怠ると義務違反となり、指導や罰則の対象となります。
4 まとめ
就労人口の減少を課題とする建設業における特定技能制度の活用は、課題解消の一助になることは間違いありません。また、今後を考えると特定技能制度など活用した外国人就労者の活用はより一般的になっていくことが予想されます。
一方で、特定技能制度の申請ができるまでの準備や実際の採用活用についてはその手続きが非常に複雑になっています。必要な人材を必要なタイミングまでに確保することが売上確保には重要になります。
特定技能制度全体の理解をしたうえで、外部の専門家へのアウトソーシングを含めた綿密な計画と時間の確保と担当を決定し、受入を成功させることが必要です。