建設業の離職率が高い理由は?離職率を下げるポイントも
建設業を営む経営者や役員、幹部社員にとって、従業員の離職というのは頭の痛い問題です。できる限りの教育を配慮して行ったのに離職される、給与の高い同業他社や別業界へ転職されるなどすると、始めから採用・教育を行わなければいけません。人材の定着は、建設業のみならず、あらゆる業界での課題ですが、年齢の高齢化が進む建設業界では急務と言えます。
建設業を安定させるには、受注の拡大だけでなく、施行を行うスタッフの存在も重要です。加えて、建設業では工期の遵守、労働災害の発生が企業の信頼確保において重要なポイントになります。余裕のある人員、定着した社員同士による円滑なコミュニケーションが構築できないと、規模拡大どころか足元の業務もおぼつかない状況になりかねません。
そこでこの記事では、建設業の離職率が高い理由及び離職率を下げるポイントについて解説するので、参考にしてみてください。
目次
1 建設業の離職率はなぜ高いのか?
建設業における離職率の高さの理由として、以前より「3K(きつい、汚い、危険)」という言葉が語られてきました。近年こそ就業環境を整える会社も増えていますが、世間では以前の「負荷が高く、危険な業務である」というイメージがまだ拭いきれていない面もあります。
1-1 建設業の離職率の現状は
厚生労働省が公表している「令和2年度(2020年)産業別入職率・離職率」をみると、建設業の入職率は10.0%、離職率は9.5%となっています。他の産業、特に第三次産業では入職率を離職率が上回る中、比較的安定した職場となっています。ただし、鉱業・採石業や金融業・保険業、製造業よりは離職率が高く、アフターコロナでは入職・離職の比率が変化する可能性があります。
これは、コロナ禍による第三次産業の停滞に加え、以前に比べ建設業の魅力・社会に対する貢献性が見直された証左と言えます。ただし、有能な人材の確保・スキルのある人材の確保という点では、まだ課題を持つ建設事業者が多いのが現状と言えます。
1-2 なぜ建設業の離職率は高いのか
建設業は、大手ゼネコンから中小零細の企業まで、様々な規模の事業者が存在します。大手は待遇も良く、環境も整備されているため定着率が高い傾向がありますが、中小零細企業の場合は事業所によりけりと言えます。
ただ、傾向としては中小零細企業の場合、給与などの待遇が大手に比べ若干劣ったり、職場環境があまり整備されていない(分煙・禁煙・トイレなど)、下請け仕事が多い、完全週休2日制ではない、少数精鋭なので、休みが取りにくいなど課題は少なくありません。
加えて、現在こそ女性の活用が一部の事業者で進んでいますが、基本的に建設業は、男性中心かつ年功序列要素が高い世界です。これが現在のフラットな関係を好む若い人にとって、敬遠されている面もあることが考えられます。
仕事の面においても、建設業は現場監督・職人・作業員など、どのポジションでも様々な意味でハードと言えます。職人・作業員は力仕事と円滑な施工、そして安全管理が求められます。現場監督は、職人・作業員他現場で働く人の統轄だけでなく、予算折衝や近隣への配慮、工期の厳守、労働基準法の厳守など、様々な課題への対処が求められます。場合によっては、近所の住民や、ベテラン職人などから注意を受けることなどもあり得ます。
加えて労働災害の発生や役員の事件事故などで、業務停止や会社・役員に対する罰則、営業停止や業務禁止、最悪の場合は建設業許可取消などの処分が下る恐れもあります。
上記のような様々な負荷・プレッシャーが、建設業の離職原因の一つと言えます。
その他の要素を考えると、残業が多い、進行が間に合わないと休日返上で仕事を進めなければならない、給料が働きに見合わないなど、働く側としてマイナスになる様々な理由が考えられます。
多くの会社では、せっかく入ってもらった人材だからこそ、長く働いて欲しいという気持ちが大きいと言えます。ですが、社会において終身雇用・年功序列という旧来の伝統が崩れつつある現在、以前のようにずっと同じ会社にいて、一生懸命働き出世していくという価値観はほぼ崩壊しています。特に年齢が若くなるほど、「終身雇用・年功序列というものは現在の日本には存在しない」と達観している人も少なくありません。
1-3 建設業におけるイメージの問題
前述の通り、建設業には、「3K」のイメージを持つ人が未だ少なくありません。社会的に意義のある仕事とはいえ、建設業は、様々な意味で負荷が高く、危険を伴う仕事であるという意識が残っています。
加えて現在は、他業種に比べ給料が安いというイメージも広まっています。現在はネットがあるため、この仕事はこの待遇、この会社はこのような問題のある会社、給料が安い会社なのに同族役員は贅沢をしているなどという情報があっという間に出回ります。
建設業界内の職場だけでなく、他業種、他業種との職場との相対比較がされた上で、条件の良い業種・職場が選ばれます。この点は後ほどのトピックで触れます。
1-4 労働時間の問題
建設業の勤務時間の長さは、以前より問題視されていました。少し前のデータとなりますが、厚生労働省の「建設労働者を取り巻く状況について」では、全産業の平均労働時間が1,746時間なのに対し、建設業は2,066時間と、320時間も上回っています。
現在は改善されている可能性もありますが、他業種よりも平均だけで320時間上回るという状況は、やはり働く当事者としては相当な負担と言えます。
この長時間労働の体制が、現在も続いているという会社であれば、根本的な業務体制を見直す必要があると言えます。
1-5 責任・負担に対する給与の問題
建設業の男性労働者と全産業の労働者の賃金比較では、建設業が約409万円、全産業が約480万円と、完全に賃金が他の産業に比べ劣る状態です。
スーパーゼネコン、大手建設会社などでは700万円~1,000万円(竹中工務店の場合は、有価証券報告書に記載されている、2020年12月31日現在の平均年間給与は1,007万円)と幅が広く、大手の会社は十分な給与を得る一方、中小・零細の会社では、建設業平均以下の収入である会社が少なくないことも想定できます。
自分が会社を探す立場であれば、給与が低く、仕事の負荷も多い、そして労働時間も長い、そういう会社に入ろうと思えるかということを考えると、業務効率化だけでなく、給与の向上も重要と言えます。
1-6 職場など人間関係
建設業は歴史のある業態である反面、昔ながらのやり方が引き継がれているという側面も想定できます。
また、社内の人間関係だけでなく、社外、特に元請会社や下請会社、プロジェクトに参画する親方・職人等との折衝は大きく神経を使うことになると言えます。
ビジネス上は対等という建前こそあれ、やはり力関係は、元請>下請です。特に下請サイドは、元請の様々な要求(工期・コスト・設計など)を呑まざるを得ません。
加えて、建設現場の親方・職人の方は、長い時間をかけて経験を蓄積しているので、自身の技術に対して自負心を持っています。以前から建設の技術職は、「徒弟制度」の側面が強かったので、「背中を見て覚えろ」という風習も強く残っています。
それだけでなく、叱責や強い口調での指示のように、昔では当たり前のようなことが、今はパワハラとして扱われるケースもあります。録音も容易にできるようになりましたので、録音されてしかるべき所に駆け込まれると、それだけでアウトになる恐れがあります。
若い世代が上に神経を使うのはもちろん、上の世代が下の世代に対し、パワハラ・セクハラなどのようなハラスメント行為を起こさないようにしないといけないため、上の世代も、下の世代も、それぞれが相当に神経を使っていると推測できます。
2020年6月に、パワハラ対策が事業主の義務となり・セクハラ等の防止対策も強化されました。
厚生労働省は、パワハラ・セクハラ撲滅のために、様々な義務を事業者に課しています。殴る、蹴るなどの身体的な暴力・暴行は当然のほか、目標を達成できなかったら丸坊主にしたり、正座を強制したりなども暴行に当たり、他にもやり方によっては暴行に近いものと見なされる恐れがあります。
・脅迫や名誉毀損、侮辱、暴言
(「お前使えない奴だな」という表現や、「お前」という呼称、「親の顔が見たい」など本人だけでなく家族・親族も揶揄した表現、「○○大学でてこの程度かよ」とか、「これだから高卒は」など学歴による差別も当然いけません。
また、昔の職場であれば良く飛んだ、「やる気がないんだったら帰れ!」、ノルマを達成できなかった社員に「給料泥棒!」ということも、もちろん現代ではパワハラとして捉えられかねません。
当然、能力が不十分な社員を上司、もしくは集団で「詰める」、つまり能力不足を徹底的に攻め続けることも、パワハラになります。
・人間関係からの切り離し
特定の社員を追い出し部屋に入れたり、仲間はずれ、無視したりすることも、パワハラとなります。また、会社の問題を内部告発した人に対して上記のような行為を行う事もパワハラとなります。
・過大な要求
業務上明らかに無理なノルマを与えたり、不要なことの強制、仕事の妨害を行う事などもパワハラになります。
・個の侵害
私的な事への過度の立入も問題になります。例えば、有休取得で理由を聞く、親はどういう人かを聞く、結婚・出産予定の有無を聞く、休みに何らかの事に付き合わせるなどは、個の侵害とみなされるケースもあります。
一昔前であれば普通に話していたことが、今はパワハラ・セクハラに該当するということは相当存在します。ゆえに、当事者各々が意識をアップデートする必要があります。
また、今はボイスレコーダーやスマホの録音、録画機能が強化されている時代です。いつの間にか録音・撮影され、労働基準監督署やマスコミ、各種団体など外部に持ち込まれたら、役員を中心とした会社の管理体制が厳しく問われ、場合によって何らかの罰則の対象になる恐れもあります。
とはいえ、仕事に基づく正当な指導が全てパワハラとされては、仕事になりません。そのため、パワーハラスメントの3要件として、下記の要件を全て満たすことが前提となっています。
- 1 優越的な関係を背景とした言動
- 2 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 3 労働者の就業環境が害される
特に3番に関しては、「当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快な物となったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等該当労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること、判断に当たっては「平均的な労働者の感じ方」、すなわち同様の状況で同じ言動を受けたときに、一般の人が「ひどい」と感じるような言動であるかがベースになります。
当然、業種によっても一般の人の基準が異なりますが、純粋に「普通の人が聞いてどう感じるか」というのがポイントになると言えます。
もちろんセクハラも許される物ではありません。建設現場では男性が多いですが、様々なことがセクハラと捉えられる要因になり得ます。ともかく個人のプライベートに立ち入った発言はしない、特に中高年の場合、自分はあくまで仕事場でビジネスのために話しているという意識を持ち、仕事以外で余計なことは言わないのが重要です。これは(現在こそほぼないものの)酒の席などフランクな場でも重要です。
1-7 旧態依然とした人事教育制度
建設業の世界では、ITを活用し、技術継承を円滑にしている大企業・中小企業と、昔ながらの「親方の背中を見て育て」という姿勢の中小企業・個人事業主とでは、教育体制に雲泥の差があります。
確かに、様々な教育ツールが発達していなかった昔ならともかく、現在はIT、特にVR・ARや動画の活用など、技術継承を行いやすい土壌が広まっています。
特にVR(ヴァーチャルリアリティ)は、ゴーグルをかぶり、あたかも自分が実際に作業をしたり、見たりするような体験ができるため、一度技術士・熟練職人などの手法を記録し、後から見られるようにすることで、教える側も一度の作業で済み、教わる側も自由な時間で、繰り返し理解するまで見ることができます。
他にも、現在年功序列が崩れつつある中、これまでの社員(特にバブル期・氷河期)等とのバランスを図りつつ、若手の抜擢、そして伸びる芽を潰さない人事・教育を心がけていく必要があります。
2 離職率を下げるポイント
離職率を下げるための根本的な考え方として「自分がこの会社で働き続けるなら、どういう環境が整備されているといいか」という観点で考える必要があります。
ただ、まっさらな状態で考えるのは大変ですので、このような手法はどうかということで、改善手法をピックアップします。
2-1 Z世代・30代の意見を柔軟に取り入れる
Z世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)は、デジタル技術を空気のように使いこなす世代です。現在のミドル・シニアでも昔からパソコン・スマートフォンを活用していた人は少なくないと思います。
ただ、Z世代はスマートフォンがあらゆる行為の起点になった現代で、一番ITをナチュラルに使いこなせるスキルがある可能性が高いです。(一方で、パソコンに不慣れという層も若干いるかもしれませんが)
違う世代から見ると、「この業務はいらないのでは?」「この連絡はビジネスチャットなどで行えば良いのでは?」など、これまでの世代では発見できなかった新しい観点からの業務効率化を提案してくれる可能性が想定できます。
また30代も、多くがパソコンとスマートフォンを両方使いこなせるデジタルネイティブである可能性が高く、業務を理解した中堅として、様々なIT・ICTの活用を提案してくれる可能性があります。
また、Z世代に限らず、中高年も意外とエンターテインメントやコミュニケーションの窓口として、スマホを使いこなしているケースが多いです。
ただし、IT・ICTサービスと実務のリンクや、現場の課題を把握した上で「ここはまだ改善の余地がある」と考えるのは、Z世代・30代の方がより見つけやすいと考えられます。
特に現場・バックオフィス双方につきまとう事務作業は、効率化の余地が相当あります。
一つ一つは細かな物でも、導入することでビジネスが円滑になりそうな手段を挙げます。
- ・チャットワーク・Slackなどのビジネスチャットの導入
- ・請求書・領収書などの電子発行
- ・各種契約書の中で、電子契約に移行できるものは電子契約に移行(印紙税・契約書の作成・署名捺印が不要になる)
- ・紙ベースの書類で、紙で保存しておく必要がないものは電子化し、社内ネットワークで閲覧できるようにしておく
- ・社内の高スキル職人の作業手順を、動画で記録し全社的に導入できるようにする
- ・作業現場にセンサーや監視カメラを設置、異変がすぐわかるような仕組み作りをする
- ・VRゴーグルを使い、実際の作業現場や、労働災害の発生しやすいケースなどをリアルに体感させる
- ・RPAの導入により定型業務を自動化
他にも様々なIT・ICTの活用が望める分野は多くありますので、経営者や役職員が、ITツールに関する情報をアップデートしていく必要があります。
もちろん、社内だけで導入が難しく、外部の事業者・コンサルタントを頼る必要があるケースもありますが、Z世代・30代だとコンサル側の提案内容が理解でき、スムースに、かつ本当に必要で全世代の社員が使いこなせるシステムを取捨選択してくれることが望めます。
2-2 完全週休2日制の導入
社会で終身雇用・年功序列の概念が完全に崩れ、かつ共働きの夫婦が増える現在、完全週休2日制の導入は必須です。特に家族を持つ世代になると、土曜日などに学校のイベントが行われることが多く、
2-3 優秀な施行を行う社員の顕彰
全国各地で、優秀な公共事業の担当者・会社に対して賞が与えられることがあります。このような優良社員の存在は、本人のイメージアップだけでなく、会社の大きなイメージアップにも繋がります。
このように、外部から顕彰を受けた社員の社内での表彰・好待遇や、社員を支えたチーム全体に対しても表彰を行う事で、優秀な社員に取っては技術を社内でより共有していこうというインセンティブが働きます。また、一人の社員の活躍の背景には、優秀だけれども目立たない社員の支えがあるというケースも少なくありません。
そこで、個人に加えチームを評価・好待遇を与える事で、今後の仕事に対しても前向きに取り組んでくれることが望めます。やはり、マイナス評価だけの人事ではどうしても新しい事に対し後ろ向きになります。
一方、個人やチームの出した結果や、プラスの部分をトップ・役員が評価する空気ができると、「新しい事をやろう」「改善しよう」「外部から顕彰される仕事をしよう」という意識付けができます。
2-4 ミスマッチを防ぐ採用前の話し合い
建設業界に限らず、どの業界であっても「入ってみたら違った」ということは少なからずあることが想定できます。そこで、面接時に労働条件や給与の提示、仕事の社会的意義、求めている人材像の具体的な提示などを採用側が細かく説明し、納得してもらってから入社するということが重要です。
建設業界の場合、工業高校等を卒業した高卒の生徒を新卒採用するケースもあるため、特に新卒の場合は、親に対する説明も含めた、情報開示が重要です。
現代の若年層は、素直な人が多い反面、産まれてからずっと失われた30年の社会を過ごしているため、必ずしも未来に希望を持っているとは限りません。それゆえ、現場で厳しいことがあるとすぐに投げ出す、転職する、退職するという可能性もあり得ます。
もちろん、Uターンや家庭の事情、会社でのリストラなど様々な理由で中途入社する社員も、不安や疑問を抱えていることは同じです。金銭という面で優遇する事が難しくても、きちんと育てる、適切な労働環境を整備する、自主学習やOJT・社内教育で学び、結果を出すなど、「成果を挙げる必要があり、ぬるま湯ではないが、働きやすく居心地の良い会社」という「心地よい熱めの適温環境」を作る必要があります。
かつ、社長や役員、もしくは親方が監視していなくても、自主的に努力や工夫を行う「ひとづくり」も重要です。経営者や役員、親方の指導が最小限でも、自身で判断、報告・確認が必要な要所ほど上に判断を仰ぐという、上司の負荷を減らす工夫をできる人材を育て、自走式の人材が増えることで、企業の長期的な成長が望めます。
今の環境に甘んじて成長しない人は不要だが、努力し結果を出す人、あるいは工夫して負荷なく結果を出す人に対しては徹底的に居心地の良い環境を作る、信賞必罰もしっかり行うなど、飴と鞭の使い分けが重要です。
2-5 ICTの積極導入による業務円滑化
上記の通り、ICTの様々な分野への導入は不可欠です。社内では一人一台、専用のスマートフォン・タブレット端末を持たせ、建設現場の各種センサーや防犯カメラとのリンク、ドローンの活用や免許取得の促進、施工管理アプリの活用、パワーアシストスーツによる作業員の軽減負荷、レーザースキャナの活用など、様々な形でICTを活用できる環境が整っています。
幸い、現在はITツールの導入に対する「IT補助金」など、各種補助金が整備されており、国以外にも地方自治体で独自の補助を行っているケースがあります。全額ではないにせよ、半分や3分の2など、一定額の補助が望めます。ぜひITツールの導入の前には、各種公的制度が活用できないかも検討してみると良いと言えます。
2-6 女性人材の登用・労働環境の整備
女性人材の登用や労働環境の整備も急務です。今後様々な意味で人材不足が顕在化する日本社会で、早めに女性人材の採用を行い、かつ女性が働きやすい労働環境を整備していくことは重要です。
特に女性の場合、結婚や出産、配偶者の転勤、子育て、離婚などでブランクがあり、ポテンシャルのある人が単純労働に甘んじているケースも少なくありません。転勤など、物理的な移動がある場合はバックオフィスを任せ、今後の転勤時にはリモートワークで対応してもらうなどの措置は必要ですが、地域に定着して働きたい、シングルなので子供のために稼ぎたい、やりがいのある仕事がしたいなどのニーズを持つ女性人材は、積極的に活用していくべきです。
また、今の日本では、男性に比べ女性の所得は低い傾向にあります。そこで、男女問わず成果を出す人材には厚遇を行う事で、女性の定着や成長、自走化が望めます。あわせて、多くの地域で女性人材の活用や子育てと両立できる職場環境の整備が叫ばれているため、女性人材を技能・意欲に応じ積極的に登用していくことは、企業のイメージアップ、SDGs適合の観点からも重要です。
加えて、女性が働きやすい労働環境の整備は、女性のニーズをなるべく出してもらい、できるだけ取り入れるという意識が重要です。いかに働きやすく、かつ会社の中核人材として利益を挙げる人間に育ってもらうには、どうすればいいかを常に配慮し続ける必要があります。
2-7 キャリアアップが図れるプランの提示
この会社に居続けていいのか、ということは、多くの会社勤めの人が悩む課題の一つと言えます。自社に居続ける事で、キャリアアップが図れるという教育やOJTプラン、また収入など実利の面でのメリットをきちんと説明することで、一生懸命頑張り、キャリアアップすることできちんと報われるということを自覚してもらえると、より社員も「頑張る意義」が見いだしやすくなります。
もちろん、過度な頑張りで燃え尽きないように、プライベートや家庭の用事などではきちんと休みを認めるなど、無理ばかりを求めないキャリアアッププランであることも重要です。
また、定年後も嘱託社員・業務委託として、フレキシブルな働き方をしてもらいつつ、若い世代に技能を継承できる仕組み作りも今後重要になっていくと言えます。
2-8 相応の給与の確保
前述の通り、建設業界は給与水準が他の業界より低いと言われています。そのため、世間より高い給与水準を提示できるだけでも、建設業界で働こうという人に取っては魅力的に映ります。
ただし、給料を上げるためにはその原資が必要なのは言うまでもありません。そこで経営者・役員は、下請から元請など、建設ビジネスの上流への移行、ICTを活用した業務効率化によるコスト削減、若干の余裕を残しつつも、基本的には少数精鋭で回る仕組み作り、材料調達のローコスト化、自社のノウハウが生きる隣接業界・他業界への進出など、「より儲かり、かつコストを少なくする仕組み」を工夫し、今手元にあるリソースの中で、現在の社員・将来の社員の待遇をよくしていく必要があります。
また、経営の事を24時間考えている経営者・役員と社員では、意識に差があるのは当たり前と割り切る必要があります。その中で、社員に会社のコスト構造をきちんと話し、給与以外にも様々な出費があること、利益率の高い業務・体質作りがひいては社員の待遇向上に繋がることをしっかりと示す必要があります。
3 まとめ
建設業界は、今後ベテラン職人の退職により、人材不足が大変危惧される業態と言えます。
人は城なりという例えもありますが、労働集約の面がある建設業では、優秀な人材、そして一定量の人材の確保が必要です。また、当初スキルがない人材であっても、本人のやる気次第で育てる事ができることを示せると、外部からの幅広い人材登用が行いやすくなります。
加えて、トップがきちんとした成長を志向、成長の果実をきちんと従業員に分配していくことで、会社全体の活性化や優秀な人材の加入が望めるようになります。自社が「選ばれる会社」になるよう、経営陣等トップは積極的に意識していくことが大切です。