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建設業は60歳以上でも働きやすい?高齢化する建設業界の今後を予測!

日本の高齢化率は深刻です。1994年(平成6年)には高齢化率14%に到達し、2065年(令和47)に38.4%の予測となっております。同年に日本の人口は9,000万人を割り込み、約2.6人に1人が高齢者という状況です。

加えて、内閣府によると継続的な出生率の減少傾向により、2065年の日本の生産年齢人口(16才から65才)は4,529万人まで減少します。2020年1月の生産年齢人口が7,612万人になるので、2020年から65年まで毎年平均68.5万人ずつ減少していく計算です。

一方、建設業界も労働力の減少と高齢化が進んでいるため、3K(キツイ、キタナイ、キケン)の環境の改善など高齢者も活躍ができる環境作りが若者世代を取り込むための急務となっているのと同時に、60歳以上の労働力の活用は重要課題として位置づけられています。

そこで今回の記事では、60歳以上の人材活躍が期待される建設業について、高齢化を中心とした視点からその現状と今後と建設現場で取り組むべき課題などを解説していきます。

1 高齢化と建設業の現状

ビルや施設、道路やトンネルや橋など生活を支える生活インフラは人々がより良い暮らしをするためになくてはならないものです。その生活インフラを建設し、メンテナンスしていく建設業もまたなくてはならない業種と言えます。

東京オリンピック特需は建設業にも大きく影響を与え、終了後も引き続き大型工事や公共設備のメンテナンスなど底堅い需要が続くことが予想されています。そのような中で、建設業の人手不足がより深刻化しています。

まずは、建設業界の雇用と人手不足の状況を確認してみましょう。

1-1 高齢化の現状

建設業の高齢化は進んでいます。建設業の就業者で、65歳以上の割合を2009年(8.1%)から10年後の2019年(16.4%)へ急速な高齢化が進んでいます。

さらに、45歳以上が占める割合が60%を超えているため、今後も継続した高齢化が進む業界と言えます。また、全産業のなかでは不動産業(26.4%)、サービス業(22.6%)、生活関連サービス(18.2%)に続く4番目に高齢化が進む産業に位置しています。

高齢化が進む産業においては、労働力の維持をするためには若い労働力を産業全体として増やしていくことが求められるのと同時に、高齢となっている労働力の活用も必須となります。

2021年7月時点の建設業就業者数は469万人となり、前年同月比で▲1.3%となっています。また同様に雇用者数は375万人となり、前年同月比で▲1.9%となっています。同時期の日本全体の就業者は6711万人であることから、建設業は就業者構成率7.0%となります。*

*総務省統計局『労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)7月分結果』より

●建設業の建設技術者の雇用動向など

2021年3月時点の建設業における建設技術者は、38万人で前年同月比▲7.3%となっています。

また、ハローワークにおける建築・土木・測量技術者をあわせた有効求人倍率が6.02倍です。6倍の有効求人倍率は非常に高い数値ではありますが、建設業の有効求人倍率は1年以上も前年同月比を下回っている状況が続いています。一方で、有効求人数は3ヶ月連続で増加傾向にあることから、建設技術者の必要性が回復をみせる兆しが垣間見ることができます。

1-2 高齢者雇用安定法とは

高齢者雇用安定法は、2020年3月に改正法が成立し2021年4月に施行します。この改正法の主旨は、今まで65歳だった就労機会を70歳まで確保することを企業の努力義務とした点にあります。

この背景には、高齢者の雇用を安定させようとする政府の狙いがあります。前述の通り、日本の総人口に占める高齢者の割合が大きく、労働人口が減少している現在と将来を考え、高齢者の雇用を安定化させることで必要な労働力を確保する狙いがあります。

また、労働力のみではなく高齢者が増えて労働人口が減少すると公的年金制度の維持に深刻な影響を与えることになります。公的年金制度の維持のための財源確保と、現役世代の負担軽減のために年金の受給開始年齢を段階的に遅れさせています。そのため、定年と年金受給開始の時期に空白期間を生じさせない為にも、65歳までの継続雇用の仕組みを構築する必要が政府にはあります。

一方で、高齢者の中にも労働意欲を持ち続けている人も多くいます。60歳以上で仕事を継続している人の8割は働き続ける意思を示しています*。

また、事業主にとって働く意欲と豊富な経験や熟練の技術を持った高齢者は必要不可欠なリソースとなっています。

*内閣府『平成29年版高齢社会白書(全体版)―高齢者の就業』より

●2012年の改正

高齢者雇用安定法は、2012年に以下の改正が行われています。

  1. 定年を60歳未満とすることを禁止
    ✔︎65歳までの雇用確保措置を事業者に義務付け
     事業主は、下記3つのうちから措置が義務づけされました。
    ・定年を65歳まで引き上げ
    ・65歳までの継続雇用制度を導入
    ・定年制度の廃止

2012年の改正においては、65歳まで雇用機会を引き上げる措置を進めました。

●2020年の改正

雇用機会を70歳まで引き上げるための改正です。対象となる事業主は、以下の2つに該当する事業主になります。

  1. 定年を65歳以上から70歳未満に定めている事業主
  2. 継続雇用制度を65歳までとしている事業主

上記に該当する事業主は、努力義務として以下の5つのうちのいずれかの措置を取ることに努めなければならなりません。

  1. ・定年の70歳までの引き上げ
  2. ・70歳までの継続雇用制度を導入
  3. ・定年制度の廃止
  4. ・70歳までの継続的な業務委託契約の締結を行う制度を導入
  5. ・70歳までの継続的な以下の事業従事ができる制度の導入
     a.事業者が自ら行う社会貢献事業
     b.事業主が委託や資金提供や出資などを行う団体での社会貢献事業

2020年の高年齢者雇用安定法の改正におけるポイントは、努力義務にあります。2012年の改正において、事業者には義務が課せられる形となりました。しかし、2020年においてはその措置は努力義務になっています。

この努力義務は、従わない場合の罰則はなく、強制力は低いと言えます。これは、事業主によっては2012年の改正からまだ8年しか経過していない段階でさらに5歳も定年時期を引き伸ばすことに対して企業の財政力や競争力への負担が大きすぎる企業への配慮になります。

ただし、努力義務を怠ることは推奨できません。なぜならば、該当する高年齢者がいない場合であっても、高年齢者雇用安定法はすべての企業に適用されるからです。また、罰則はないものの、行政指導の対象となります。行政指導に従わない場合には、社名が公表されるなど評判を下げることに繋がりかねません。

●65歳超雇用促進助成金

65歳超雇用促進助成金とは、意欲と能力のある限り年齢にかかわらず働き続けることが可能になる生涯現役社会の実現に向けて、必要な措置を行う事業主を助成するものです。以下の3つのコースが用意されています。

①65歳超継続雇用促進コース

以下のいずれかの制度を労働協約または就業規則にて実施した企業が助成金の対象となります。1事業主は1度支給を受けることができます。

  1. ・65歳以上への定年の引上げ
  2. ・定年の定めの廃止
  3. ・希望者全員に66歳以上の年齢まで継続雇用制度を導入

また、上記制度の規定によって経費を活用したことと、高年齢者雇用等推進者の選任と高年齢者雇用管理に関する措置を実施している事業主であることなどが支給対象者の条件になります。

なお、詳細は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「65歳超継続雇用促進コースの詳細」で確認できます。

②高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

このコースは、高年齢者の雇用管理制度を整備する以下の2つを実施した場合に受給の対象となります。

  1. ✔︎雇用管理整備計画の認定
    高年齢者の雇用管理制度を整備することを目的として、雇用管理整備計画書を作成し、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長からの認定を得ることが必要です。上記の雇用管理整備計画書には、「能力開発と評価」「賃金体系」「労働時間などの雇用完成度の見直し」「健康診断の実施」を含めることが必要です。
  2. ✔︎高年齢者雇用管理整備措置の実施
    上記、雇用整備計画に則って実行することが必要です。

なお、詳細は(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構「高年齢者雇用管理整備措置」で確認できます。

③高年齢者無期雇用転換コース

このコースは、50歳から定年の年齢を迎えていない有期契約の労働者を無期雇用へ転換を、以下の2つによって実施した場合に受給の対象となります。

  1. ✔︎無期雇用転換計画の認定
    無期雇用転換計画を作成し、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長からの認定を得ることが必要です。
  2. ✔︎無期雇用転換措置の実施
    上記、無期雇用転換計画に則って有期契約の高年齢労働者を無期雇用労働者に転換することが必要です。

なお、詳細は(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構「高年齢者無期雇用転換コース」で確認できます。

●経過措置の助成金など

高年齢者雇用安定助成金(平成29年3月31日廃止)や、65歳超雇用推進助成金―高年齢者雇用環境設備支援コース―(平成31年3月31日廃止)などと混合しやすいので留意してください。

また、助成金の相談や申請などは最寄りの都道府県支部の高齢・紹介者業務課で実施することができます。都道府県支部の住所や電話番号は(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページで確認できます。

1-3 建設業の現状と課題

建設業界ないしは日本に限らず、現在世界中のあらゆる業種に影響を与えているのが新型コロナウイルス感染症拡大です。

帝国データバンクの発表によると、2021年上半期(1~6月)の日本の倒産件数は3083件です。この数値は、2000年以降の20年間で上半期の最小倒産数となっています。2016年以降の上期平均倒産数は4083件なので、約25%少ない状況です。

そのなかで、建設業の2021年上半期の倒産件数は530件(前年同期比▲16.4%)と、半期で過去最少となっています。

1-3-1 現状

建設業界の現状と規模と、事業者数と就業者数の面から今までの推移と現状をみます。建設業の規模が大きくなればそれに連動して事業者数と就業者数が増加していき、規模の減少につれて事業者数と就業者数が減少していく流れになっています。

● 建設投資の動向

大きな流れとしての建設業の規模は、1992年に建設投資額約84兆円とピークを迎えました。その後、減少傾向が続き2010年には約41兆円とピーク時から半減まで落ち込みます。その後、東日本大震災の復興事業や東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた工事需要などを受けて、穏やかな回復が続いていました。

しかし、2020年以降は新型コロナウイルス感染症や東京オリンピック・パラリンピック開催関連の工事の終了などにより再び建設投資額の減少する局面となっています。

2021年の建設投資額*は58.1兆円(前年度比▲8.9%)となる見通しになります。20年の建設投資が63.8兆円(前年度比▲2.3%)だったので、2年間で建設投資額は10%以上減少している状態です。

21年の建設投資額見込み58.1兆円のうち、政府による建設投資の見込みは21.2兆円になります。

政府建設投資は『防災・減災、国土強靭化3カ年計画』や東日本大震災復興特別会計に係る事業などが20年までは多く見込まれていました。一方で21年は、以下の要因などから20年度比▲18.1%となっています。

  1. ✓2020年度の第1次と第2次補正予算が新型コロナウイルス対策中心であり、公共事業関係費がほぼ手当されていない
  2. ✓『防災・減災、国土強靭化3カ年計画』の計画期間満了
  3. ✓東日本大震災復興事業がほぼ終了
  4. ✓東京オリンピック・パラリンピック関連の公共事業がほぼ終了

ただし、防災・減災、国土強靭化は今後も政府と与党に更なる対策を講じる方針が示されているため、財政措置などが実施されることでマイナス幅が縮小する可能性があります。

*建設投資額とは、日本国内の建設市場の規模を把握することを目的に、全国の建設全活動を出来高ベースで集計したものになります。

21年の民間住宅投資の見通しは、14.4兆円(前年度比▲4.4%)と予測されています。

民間住宅投資を測る上で重要なのは、住宅着工戸数になります。住宅着工戸数は以下のように2019年から減少を続けています。

(表1)住宅着工戸数の推移/単位:千戸

  2010 2015 2019 2020
全体 819 920 883 797
前年比 5.6% 4.6% ▲7.3% ▲9.8%

これは、新型コロナウイルス感染症の影響でハウスメーカーなどの十分な営業活動ができなかったことや2019年10月の消費税増税前の駆け込み需要などの影響やマンション価格の高止まりによる契約率の減少など複数の要因がありました。

そして、21年の住宅着工戸数は80.2%(前年度比0.2%)となります。これはコロナショックの長期化によって、企業業績が継続的な悪化とそれによる所得の低下や雇用情勢の悪化など収入の減少が経済全体を押し下げる要因になっている状態が続いていることが影響していると考えられています。

21年の民間非住宅建設投資の見通しは、16.4兆円(前年度比2.2%)と予測されています。

2020年までは新型コロナウイルス感染症の影響などにより、企業の設備投資の減少傾向が継続しました。また、宿泊施設や店舗の減少が見込まれていました。一方で、倉庫や流通施設などが堅調となっていました。

2021年も引き続き倉庫や流通施設の建設・設備投資は堅調であり、全体としても徐々にではあるものの回復の傾向が見えてくることが予測されており穏やかな回復を示すことが予想されています。

21年の建築補修(改築・改修)投資の見通しは、7.5兆円(前年度比0.9%)と予測されています。2020年まで政府建築補修1.42兆円(前年度比2.0%)と増加していましたが、民間建築補修が6.0兆円(前年度比▲9.0%)と大幅に減少していました。

2021年の予想は、政府建築補修は引き続き増加の1.45兆(前年度比2.0%)となり、民間建築補修も6.1兆円(前年度比0.7%)と僅かながら上向く予測となっています。

● 許可業者数と就業者数

建設業の許可を受けた業者は、1999年末601千業者とピークを迎えました。その後、減少傾向が続き、2016年末時点で465千業者までおよそ3/4まで減少しています。

同様に就業者数も、1997年に685万人とピークを迎えました。その後、減少傾向が続き、2010年に500万人規模まで減少すると、それ以降は横ばいを続けています*。

*国土交通省『建設産業をめぐる現状と課題』より

1-3-2 建設業の課題

建設業には、社会インフラの建設・維持を行う社会的使命があります。特に今後は社会インフラの維持のためのメンテナンスの必要性が高まっていることが予想されており、必要とされる建設業従事者の維持は緊急性の高い課題となっています。

国土交通省『建設産業をめぐる現状と課題』に建設業従事者の確保しなければいけない課題に対して、大きく以下の3つに課題を分解することができます。

  1. ✓収入の課題
  2. ✓労働条件の課題
  3. ✓地方での課題
●収入の課題

建設業の収入が、過去全産業や製造業と比較して低い状態にありました。2012年時点で建設業の平均年収は483万円(全産業比▲8.6%)となり、製造業と比較しても▲10.3%と低い状態でした。

特に、建設現場を支える生産労働者の2012年の年収は391万円と、同年の製造業生産労働者の年収447万円と比較すると▲12.5%の差が全体よりその差が大きくなる結果となっていました。

この要因として、建設業の収入のピークが40代後半となっている点があげられました。製造業や他の産業は50歳代がピークとなっており、建設業は5年から10年早いタイミングで年収増加がピークアウトしている状態でした。

これは、建設業が体力のピークと賃金のピークが重なっているため、体力勝負でスキルやマネジメント能力などが充分に評価されていないことに起因していることが窺えます。

●労働条件の課題

建設業の労働条件の課題は、大きく労働時間が長い点と社会保険の加入状況などの雇用条件に分けることができました。

建設業の総実労働時間は、他の産業と比較して高い状況が続いています。2016年時点で製造業と比較すると、年間105時間(1ヶ月で8.5時間)の差が生まれていることになります。また、産業全体と比較すると、年間336時間(1ヶ月28時間)とさらに大きな差になっています。

(表3)年間総実労働時間比較 (単位:時間)

  産業計 製造業 建設業
2007年 1807 1993 2065
2016年 1720 1951 2057

また、2016年時点で建設工事全体の働き方として半数が4週間に4日の休みも取れていない状況であること、全体としても4週あたり休暇日数が4.90日と少ない状態になっています。

また、社会保険3保険(雇用保険、健康保険、厚生年金)の加入状況も課題となっています。2011年時点での社会保険3保険全てに加入している建設業就業者は、全体の57%に過ぎない状況でした。それから5年後の2016年時点では、3保険全ての加入割合は76%と1.3倍まで増加していますが、いまだ1/4の就業者が社会保険3保険全てには加入できていない状況は課題といえます。

●地方での課題

建設業は地域のインフラ整備・維持の担い手になります。それは地域社会の安全と安心の確保のためにも必要不可欠な存在です。

しかし、業者数は減少している中でも都市部と比較して地方の減少が大きくなっています。

地方公共団体の土木部門の職員数は、1996年の19.3万人から、2016年には▲28%の13.8万人まで減少しています。これも建設投資に連動しており、同様に1996年と2016年を比較すると建設投資も▲26%減少しています。

地方の仕事が減少している中で、業者数も就業者数も減少していくが、地域インフラの整備・維持に必要な仕事を賄うために必要な建設業者を確保しなければいけないことが地方の課題となります。

2 建設で活きる高年齢労働者

60歳を超えた高年齢労働者は、建設業で活躍できるのでしょうか。建設業は前述の課題解消に取り組んでおり、2020年の建設業の一般労働者年収は521万円、製造業の年収500万円を上回るまでに至っています。

前述の2012年の建設業全体の年収391万円から、1.3倍の増加に成功していることになります。また、2020年の年間総実労働時間は2036時間と2016年より減少はしているものの、全産業が新型コロナ感染の影響もあり減少していることから製造業との総実労働時間の差は109時間と2016年と大きく変わっていない状況となっています。

しかし、建設業の就業者数は2021年2月段階で488万人と500万人を下回る状況となっています。一方で、ハローワークにおける新規求人数は7.8万人と増加傾向になります。

つまり、年収面などで課題の改善が進んでいる部分もありますが、結論として就業者数の改善にまで至っておらず、必要な就業者の数にまでは至っていない状況です。

そのため、経験も知識も技術もある高年齢労働者の活躍が建設業においては重要となります。高齢者が活躍できる場所を建設業界で作り上げていくことが求められています。

2-1 建設現場の60歳以上の作業

建設現場の仕事は危険を伴うほか、体力も求められます。そのため、60歳を超えたシニア層や女性にとっては一見向かない仕事のように思われるかもしれません。また、危険性に対処するための高齢者に対する年齢制限などがあっても不思議はありません。

●建設現場の年齢制限

建設現場の作業者において、法的な年齢制限は定められていません。また、実運用上も年齢によって、仕事ができないわけではありません。もちろん、ゼネコンなどの大企業で働く社員には定年があります。

しかし、建築現場においてはシニア世代の現場経験やスキル・ノウハウを活用するメリットの方が大きいため、60歳を過ぎても現場で活躍する作業員が多数います。

一方で、高齢になれば健康面に不安があることや、体力の減少など安全を確保する上で不安要素も出てきます。そのため、高年齢労働者の活躍を促進するために、危険性が高い作業についてはより安全性を高めて高齢者が行う作業に制限をかけていくなどの対策を講じていく必要があります。

危険性が高い作業を高年齢労働者が行う上で、その安全性を高める動きや対策について建設現場の“高所作業”において具体的に説明します。

高所作業とは、地上2メートル以上の場所で行う作業を言います。高所作業は危険性が高いため、労働安全衛生法によって18歳未満の実施は禁止されています。しかし、18歳以上であれば作業が認められ、上限年齢は定められていません。そのため、高所作業の危険性を考慮して現場の自主規制として高齢者の高所作業を制限している場合があります。

しかし、年齢と能力が人それぞれ大きく異なるのが高年齢労働者です。高所作業で必要な技術・技能も経験もある作業者を年齢だけで制限することは、現場の生産性を下げるだけでなく作業者のモチベーションを下げる結果になります。

そのため、年齢で制限を設けつつ個別のスキルや経験を考慮する動きをとる中で、高年齢労働者の安全性を考慮して作業を実施させる必要があります。

安全帯を使用するなど、通常の高所作業での安全性確保の施策の徹底が基本です。そのうえで、高齢者に配慮した作業前の健康状態の確認など体調面を留意していくことが大切です。

2-2 高齢者作業で留意すべきポイント

高年齢労働者が活躍してもらうためには、建設現場の在り方に注意が必要です。ここでは具体的な建設現場の在り方におけるポイントを解説します。

●墜落・転倒災害防止

年を重ねると、平衡機能が低下します。そのため、躓くことや転倒するなど身体のバランスを崩すことが増えます。建設現場において身体のバランスを崩すことは、墜落などの重大事故につながるリスクがあります。

厚生労働省が発表している労働災害統計によると令和2年の死亡災害事故は、産業全体で1年間に802件発生しています。その中で、最も事故が多い業種が建設業で258件(構成率32.2%)です。建設業の死亡事故の種類で最も多く発生しているのが、墜落・転倒で令和2年の発生件数は95件(構成率36.8%)となっています。

高齢者の転倒を防ぐため、段差を作らないことや段差に手すりの設置や滑らないための配慮などが必要になります。配慮とは、照明を明るくして足元がいつでも見えやすくすることも一つです。また、整理/整頓/清掃/清潔の4S運動を行い、床に物を置かないことや作業現場を清潔に保つことでいつでも水や油など足を滑らせる原因になるものがあれば発見・清掃できるようにすることも配慮となります。

そして、何より転倒やその他の事故を未然に防ぐのは作業員への注意喚起になります。そのためには、事故防止の掲示を目立つ場所に大きく行うことや毎日の朝礼での伝達など日々の意識が必要です。

●身体能力の変化への配慮

高齢になると、身体が変化していきます。筋力は衰えていき、重いものを持つ力が失われ、筋力の回復が遅くなります。そのため、重いものを持つ作業や体力を多く使う作業は高齢者に向いていません。

そのため、できるだけ身体に負担が多い作業を高齢者の作業にならないよう配慮が必要です。また、近年では工事器具や重機や運搬機械などを導入し、重いものをもつなどの作業をできるだけ機械化することで人の作業を減らすことも対策になります。

また、加齢によって前屈姿勢をとることが辛くなってきます。そのため、高さ調節ができる作業台を利用することで、膝を曲げる作業や背伸びなどが必要になる作業を少なくすることで高齢者の作業中のケガ防止になります。

さらに、体力自体が落ちることに対しても配慮が必要です。具体的には特に、建設現場の作業の多くは集中力や注意力が必要であるため、作業時間を短くし、適時休憩時間を作るなど体力の消耗を抑える工夫が必要です。

建設現場は野外での作業が多く、天候の影響を直接的に受けることが多くなります。加齢が進むと体温調整機能が低下して暑さが辛くなります。高齢者の熱中症が多いのはこのためです。そのため、夏場の作業はWBGT指数を利用して指数に応じた作業時間と作業量を考慮して、休憩時間や作業時間を決めていく必要があります。

一方で、冬場の作業では防寒対策を行い、体調に留意して作業時間を決めていくことも必要です。

身体の変化が起こりやすいのも高齢者の特徴です。身体的に今までできていたことができなくなります。そのことに安全に対応するためには、建設現場での配慮が必要になります。また、目に見えない身体の変化に気づけるように、また健康の維持のためにも定期的な健康診断の受診も重要になります。

健康診断の受診は、病気の予防や身体の必要な機能を維持する上で重要です。健康診断によって高血圧や糖尿、心肺機能の低下や肝機能の異常など初期の段階でその兆候を発見することができれば生活習慣や食習慣の改善などで生活に大きな支障なく対応することができます。

3 高年齢労働者に配慮した職場改善事項

高年齢労働者は、急速に高齢社会になっていく日本において必要不可欠な労働力となります。2020年の厚生労働省の労働力調査によると、55歳以上の就業者の数は2,078万人で、6,676万人の就業者全体に占める割合はすでに30%を超えています。そして、今後は高齢労働者の割合は増えていく傾向が続きます。

一方で、高年齢労働者の災害発生率は、若年労働者と比較すると高いことが分かっています。労働者1,000人あたり1年間に発生する死傷者数を示す年千人率では、60歳以上の死傷者数は3.6人となっており、20代や30代の1.8倍と2倍近い数値になっています*。

これらのことから、建設現場だけでなく高年齢労働者が能力を発揮できる環境づくりは今後の経営において重要な要素になっていきます。その上で、高齢労働者の安全面と健康面に考慮して高齢労働者が持っている経験や知識や技術を活躍できるための職場づくりが求められています。この高齢労働者が活躍できる職場づくりのポイントを紹介していきます。

*参考:厚生労働省『高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル~チェックリストと職場改善事項~』より

3-1 高齢労働者のためのチェックリスト

高年齢労働者が安全かつ働きやすい環境をつくるポイントと、それにかかるコストや導入後に継続して発生するコストも計算しておき、成果と比較して導入を検討します。また、設備投資や新しい用具の購入が無くてもできることがあります。それが、高年齢労働者に配慮した作業負担管理状況チェックリストになります。

このチェックリストは、厚生労働省が作成したチェックリストです。このチェックリストは、高年齢労働者がもっている特性やスキル・技術を充分に活用しながら、良好な生産性を発揮して働くことができる職場環境や労働条件を整備することに使用でき、改善すべき項目とその目標となる指標を示すことができます。

但し、このチェックリストに従うことが正解とは言い切れません。なぜならば、高齢労働者と一括りにしても、身体的機能や生理的機能やその経験や技術などは個人差が非常に大きいためです。そのため、それぞれが負担と感じるものは何かを確認・把握し、作業配分や職場環境を用意することが必要です。

チェックリストの主旨は、何が不足しているのかを自ら気づくことになります。そのため、チェックリストをつけるのは、現場の管理監督者など環境整備全体を把握・管理する人が適切です。

具体的なチェックリストは以下になります。

A.就労条件への配慮

① 作業標準など作業内容を具体的に指示することができて、作業者が実際に作業を行う前に作業計画を立てることができる

② 適度な休憩時間がある…作業によって疲労は異なります。そのため、作業に伴う疲労感に応じて休憩の頻度や時間を設定しているかをチェックします。

③ 適切な休憩スペースがある…疲労を軽減させるためには、心身ともに作業から離れることが効果的であるため、休憩するスペースが設置されていることが望ましい。

④ 夜間勤務の有無、もし夜間勤務がある場合には十分な配慮があるか…高齢になると昼と夜の逆転は若い時とは異なり簡単ではありません。そのことからできるなら高齢労働者には夜間勤務を避け、どうしても夜間勤務が必要になる場合には夜間勤務の前後で調整や休息が充分にとれるように配慮することが必要です。

⑤ 半日休暇や早退制度など、体力や疲労に応じた柔軟な勤務体制がある

B.作業者への配慮

① 年齢や個人の経験・能力に応じた仕事内容や強度や作業時間などを調整している

② 仕事内容の振り分けや職場配置において、本人の意向や適正に沿っている

③ 高齢作業者本人が、仕事量や達成度合いを確認できる

④ 高齢作業者の想いなどコミュニケーションをとる機会が定期的に設けられている

C.作業負担の提言への配慮

① スピードを求められる判断や行動が必要な作業が割り当てられていない

② 作業者が作業ペースや量などをコントロールすることができる

③ 強い筋肉ないしは長時間筋肉を要するなど、身体的負担が多い作業を減らす。もしくは筋肉の活用を最小限にできるよう、補助機などを導入している

④ 高い注意力もしくは断続的かつ継続的な注意力を櫃世とする作業は、短時間で区切ったうえで十分な休息をとれるようにする

D.作業姿勢への配慮

① 背伸びや腰・ひざを曲げる、腕をあげるなどの不自然な姿勢が必要となる作業分担を控える

② 立ち仕事を継続しないおう、座りながらでもできる作業を配置している

③ 作業に必要な工具が手の届く範囲に整備されている状態で、無理がない作業スペースが確保されている

④ 個人の身体的特徴に合わせて選択と調整ができる工具や作業台などを用意している

E. 作業環境への配慮

① 作業で取り扱う機器や書類やその他作業現場の掲示物や表示物において文字の大きさや色など高齢者が見やすい工夫を取り入れている

② 建設現場やそれ以外のスペースにおいても、通路や階段などに適切な照明が確保してある

③ 会話に支障が出るないしは、異常な音に気づけるように背景騒音が減らしている

④ 暑さや寒さに対して職場での対策を講じている

F.安全への配慮

① 熟練者などの“慣れ”が生む不注意などを起因とする事故を防ぐ工夫がある

② 危険度が高い現場作業はできる限り減らしている

③ 墜落・転倒防止対策として、足場やはしごや脚立などを使用数場合には安定性を確かめたうえで使用している。また、転倒防止対策として、段差や傾斜を減らし、滑りにくい床面を採用している

④ 警告音は聞き取りやすさを考慮して、音量や音調を工夫している

⑤ 取り扱う部材や工具などの重さが目で分かるように、重量数値自体や重量を色分け表示などの工夫を行っている

⑥ 高齢従業者のために、上記以外の安全への特別な配慮をしている

G.健康への配慮

① 腰痛予防の知識習得やストレッチなどのトレーニングを主体的な取り組みの推進をしている

② 身体機能を維持するために必要となる運動や食事や休養に対する知識習得やアドバイスを受ける機会を設けている

③ 定期的に健康診断結果の説明を高齢就業者に受けさせている

④ 生活習慣病などに対する健康指導や健康教育を身に着ける機会を設けている

⑤ 健康状態に配慮して、適正配置を行っていて、健康状態の変化に対して配置変更を考慮する

H.新しい職場への適応の配慮

① 職務内容の難易度が高い場合には必要な導入教育期間を調整し、事前に職務内容に適用する準備を実施できるようにする

② 今まで実施したことがない新規の作業を割り振る場合には、過去の作業経験との関連性を活用した教育・指導を行っている

③ 作業標準を守れているかを確認している

④ 職務に必要な習熟度の確保のために、教育や研修などの機会が設けられている

以上がチェックリストになります。配慮する項目は非常に多いですが、高年齢労働者にとっても働くことが次第に簡単ではなくなっていく事実に対して十分な配慮を企業として一つずつ対策を講じていく姿勢が必要になります。

そのためには、このようなチェックリストを作成してどの程度配慮が実施できているのかを知ることはプラスが非常に多くなります。

3-2 高年齢労働者のための職場改善事項

チェックリストで配慮状況において職場での改善すべき事項に気づけたら、重要度の高い事項から改善に着手していくことが必要です。

一括りに高年齢労働者と言っても、加齢による影響度の強さは個人差が大きいのは前述のとおりです。しかし、多くの60歳代の作業者が無理なく仕事ができて会社が望む生産性をあげられることを目的に職場改善をすることが求められます。

具体的な職場改善は大きく以下の5つの事項に分けることができ、その詳細は18項目の配慮が必要となります。

≪具体的な職場改善項目≫

1)作業管理に関する事項 ①職務配置における判断や記憶力への配慮
②共同者との関係についての配慮
③安全の確保と心理的ストレスへの配慮
④作業継続時間への配慮
⑤作業時間帯と作業時間を短縮することへの配慮
⑥作業のペースとスピードへの配慮
⑦身体的な衰え(筋力の低下や不良姿勢)への配慮
⑧関節の可動性や身体の柔軟性への配慮
⑨生理機能低下への配慮
⑩事故防止への配慮
2)作業環境管理に関する事項 ⑪作業場の施設管理
⑫~⑮事故防止、負担軽減のための作業環境整備への配慮-安全面、視覚機能面、温熱環境面
3)健康管理に関する事項 ⑯健康管理
4)総括管理に関する事項 ⑰総括管理への配慮…職場の適正度の保持や健康障害防止のための配慮
5)労働衛生教育等に関する事項 ⑱労働衛生教育などへの配慮

4 まとめ

高年齢労働者について、社会的な必要性から建設業にとっての必要性を現状と課題から説明を行いました。また、高所作業などの危険を伴う建設現場で留意すべき事項をまとめ、より包括的に高年齢労働者にとって有効な職場環境づくりに向けた厚生労働省が作成している職場改善マニュアルを参考としてチェックポイントと改善点を解説しました。

高年齢労働者は、重要な労働力です。そのため、建設業に限らず、すべての業種・職場で最適な活用方法や職場環境を作り上げることが必要です。そして、何より忘れるべきではないのが自分もいつか高年齢労働者になります。

年金の受給開始が後ろ倒しになっている今、できるだけ長く働くことは日本のニュースタンダードになるはずです。その時には、まだ高年齢になっていない層もいずれ多くは高年齢労働者として若い世代や社会を支えていくことになります。

だからこそ、日本全体として高年齢労働者が活躍する社会や職場づくりを一歩ずつ実現していくことが大切です。

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