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建設業の女性活躍が求められている理由とは

従来から男性社会といわれる建設業では、未だ女性の就業者が少ない状況が続いています。
しかし、近年は建設業の人手不足を背景に、女性の労働力へのニーズや女性の持つ様々な能力を建設業で生かしてもらいたいとの期待が高まっています。そのため、女性も快適に働くことができるよう、建設業界全体で労働環境の改善や職場イメージの刷新に努めているところです。

この記事では、なぜ建設業で女性の活躍が求められるのかについて解説するとともに、建設業で女性が活躍している職種や女性活躍に向けた対策について紹介します。

1 建設業における女性従業者数の現状

初めに、建設業における女性従業者数の現状についてみていきましょう。

 1-1 産業別女性従業者の比率

総務省が公表している令和2年労働力調査年報によると、産業別の就業者総数、そのうち女性就業者の数、女性就業者の比率は、以下のとおりとなっています。

【産業別就業者数に占める女性の比率】(万人)

産業 就業者総数 女性就業者数 女性の比率%
農業、林業 200 79 39.5
漁業 13 3 23.1
鉱業、採石業、砂利採取業 2 0 0
建設業 492 82 16.7
製造業 1045 312 29.9
電気・ガス・熱供給・水道業 32 5 15.6
情報通信業 240 68 28.3
運輸業、郵便業 347 74 21.3
卸売業、小売業 1057 551 52.1
金融業、保険業 166 91 54.8
不動産業・物品賃貸業 140 56 40.0
学術研究、専門・技術サービス業 244 86 35.2
宿泊業、飲食サービス業 391 241 61.6
生活関連サービス業、娯楽業 235 138 58.7
教育、学習支援業 339 195 57.5
医療、福祉 3862 651 75.5
複合サービス業 51 20 39.2
サービス業(他に分類されないもの) 452 182 40.3
公務(他に分類されるものを除く) 247 74 630.0

資料出所:令和2年労働力調査年報(総務省)

(注1)調査年報の数値は2020年平均。就業者数の単位は万人

(注2)就業者数には、休職者も含む

(注3)女性の比率は、小数点以下第2位を4捨5入

上表をみると、女性就業者の比率が50%超と高い産業は、次のようになっています。

  1. ①医療、福祉

    就業者総数862万人に対し、女性就業者数は651万人で、女性の比率は75.5%です。
  2. ②宿泊業、飲食サービス業

    就業者総数391万人に対し、女性就業者数は241万人で、女性の比率は61.6%です。
  3. ③生活関連サービス業、娯楽業

    就業者総数235万人に対し、女性就業者数は138万人で、女性の比率は58.7%です。
  4. ④教育、学習支援業

    就業者総数339万人に対し、女性就業者数は195万人で、女性の比率は57.5%です。
  5. ⑤金融業、保険業

    就業者総数166万人に対し、女性就業者数は91万人で、女性の比率は54.8%です。
  6. ⑥卸売業、小売業

    就業者総数1057万人に対し、女性就業者数は551万人で、女性の比率は52.1%です。

医療・福祉系は、看護や介護職種を中心に女性の人気が高いことから、女性就業者の比率が高くなっています。また、ホテル業界や飲食業界も、女性の関心が高い業界であることから、多くの女性が活躍しています。

その他、生活関連サービス・娯楽関係や教育、金融・保険、卸売・小売など、女性の関心を惹く業界が女性比率も高くなっています。

逆に、女性就業者の比率が20%未満と低い産業は、次のとおりです。

  1. ①鉱業、採石業、砂利採取業

    就業者総数2万人に対し、女性就業者数は0人で、女性の比率は0%です。
  2. ②電気・ガス・熱供給・水道業

    就業者総数32万人に対し、女性就業者数は5万人で、女性の比率は15.6%です。
  3. ③建設業

    就業者総数492万人に対し、女性就業者数は82万人で、女性の比率は16.7%です。

鉱業・採石業や電気・ガス・水道などのライフライン関係、建設業などは、女性就業者の比率が特に低く、女性人気の低調さが伺えます。

 1-2 建設業は女性従業者の比率が低い

上で各業界における女性就業者の比率をみてきました。その中で、建設業は、就業者総数に占める女性就業者数の比率が16.7%と低くなっています。これは、女性就業者の比率が低い方から数えて3番目です。

なぜ女性就業者の比率が低いのかについては、

①業界に対する女性の人気が低いため、人が集まらない

②業界特有の事情が影響している

などの理由をあげることができます。

2 建設業の女性就業者が少ない理由

次に、建設業にはどうして女性従業者が少ないのか、その理由をみていきましょう。

 2-1 労働環境による敬遠

建設業に女性従業者が少ないのは、労働環境が女性に向いていないという理由で敬遠されるからです。女性が避けたい労働環境には、以下のものがあります。

①建設業界は、女性用トイレ・更衣室などの環境が未整備である

建設工事の現場では仮設トイレが設置されますが、女性専用のトイレの設置が難しいケースがあります。現場の敷地に十分な広さがあれば、女性用トイレを独立して設置できますが、狭小地などの場合は仮設トイレ1台だけしか設置できず、男女共用になってしまうからです。

また、更衣室や休憩所も女性専用の設置が難しいケースがあります。このように、建設現場を中心に、女性が快適に働けるような環境が整備されていないケースがあります。

②建設業の仕事は、出産・子育てとの両立が難しい

建設業の仕事は、出産・子育てとの両立が難しいとの認識を持っている女性もいます。

建設工事は、各工程の工期が決まっていますが、天候不順などの影響で作業に遅れが生じ、納期に間に合わせるために作業を急がなければならない場合があります。そのような多忙時には、健康診断のための休暇や育児休暇などを取得しづらいと考えられがちです。

また、妊娠中や子育て中の現場作業は、肉体的にも負担がかかるため、建設業の仕事は、出産・子育てとの両立が難しいと思われる傾向があります。

③建設業では、資材・工具の大きさ・重量が女性向きでない

建設工事現場で使用する資材や工具の大きさ・重量が、女性にとって扱い難く、そのために敬遠される一因となっています。建設資材は、軽くて丈夫な新建材などが登場していますが、その規格は統一されており、女性用の小さい規格品などはありません。

また、電動工具なども十分なバッテリー容量を有するプロ仕様のものは、かなりの重量になります。このため、建設資材や工具を扱わなければならない建設業界は、女性に敬遠されがちです。

 2-2 職場イメージによる敬遠

2番目は、建設業の職場イメージによる敬遠です。世間一般からみると、建設業は次のようなイメージを持たれています。

①建設業界は男性社会である

建設工事は、重い資材を持ち上げる、太い杭を打ち込むなどの力仕事を連想することから、腕力のある男性でなければ務まらないとのイメージを抱かれやすい仕事です。このため、建設業界で「仕事ができるのは男性」であり、「出世できるのも男性のみ」などと思われやすいといえます。

事実、建設工事の施工管理で、現場の作業員に指示を出し、指示違反や職務怠慢がある場合に厳しく注意することなどは、女性の立場からすると躊躇・遠慮してしまうのも頷けます。肉体的に力が弱い女性が、男性作業員をまとめながら工事の施工を管理していくことなど本当にできるのだろうか、との疑問が生じるからです。

以上のように、建設業界は男性社会で、そこで能力を発揮して出世できるのは男性だけというイメージがあるため、女性は敬遠してしまいます。

②建設業界は3Kである

3Kは、「きつい、汚い、危険」な職場という意味です。

建設業と聞いて、まず頭に思い浮かぶのが建設工事現場です。建設工事現場では、クレーン車やパワーショベルなどの重機が動き回り、電動ドリルの音が鳴り響く中で作業員たちが忙しく動き回っています。

確かに、建設工事の現場は、どの業務をみても楽なものはなく、土やコンクリート、鉄筋、油などで作業着が汚れる場合もあります。また、足場から落下する、積み上げた資材が崩れるなど生命・身体の安全が脅かされる危険もあります。

空調の効いたオフィスでパソコンを相手にするデスクワークに比べると、工事現場の仕事に対して、「きつい、汚い、危険」というイメージが付くことがあります。

このように、建設業といえば建設工事現場を連想して、その現場のイメージから3K職場と捉えてしまい、女性は避ける傾向にあります。

 2-3 敬遠は理解不足のケースが多い

これまで、女性が建設業を敬遠する理由についてみてきました。労働環境面では、①建設業界は、女性用トイレ・更衣室などの環境が未整備である、②建設業の仕事は、出産・子育てとの両立が難しい、③建設業では、資材・工具の大きさ・重量が女性向きでないなど、様々な面での問題が提起されています。

また、職場イメージでも、①建設業界は男性社会である、②建設業界は3Kであるといったイメージをされやすいのも要因です。

確かに、従前の建設業界では、建設現場を中心に上記のような労働環境の整備遅れや女性に厳しい職場風土がありました。

しかし、近年では、建設業界における団体や各企業の取組によって、労働環境や職場風土は大きく改善されてきています。

後で説明しますが、国と建設業界が連携して取り組んできた「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」/やその後の新計画である「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」に基づき、官民一体となって改善に努めたことで、労働環境や職場風土は大きく変わってきています。

しかし、その取組や改善状況が外部の一般の人に周知・理解されているかといえば、未だ不十分といわざるを得ません。

建設業界の取組や改善状況が十分に伝わっていないために、世間一般の女性は、昔のイメージのままで建設業界を敬遠している例が多いのです。また、建設業にかかる良くないイメージは、そのほとんどが建設工事現場に関係するものです。

ここで最も重要なことは、「建設業=工事現場での仕事」と想像しやすいことです。工事現場は、建設業の仕事場の一部ではあっても、全部ではありません。その短絡的な想像が、建設業が敬遠される大きな要因となっていることに気付くことが大切です。

建設業界には、工事現場以外にも女性が活躍できる仕事が多く揃っているのです。建設会社には、他の業界と同じく、パソコンを扱う事務や対外折衝を行う営業の仕事があり、設計やデザインなどの専門的な職種もあります。これらの業務に従事している女性のほとんどは、工事現場で作業を行うことはありません。

そのことからも、建設業=工事現場と捉えて業界のイメージを判断してしまうのは、正しい見方とはいえないでしょう。

3 建設業で女性活躍が求められる理由

次に、建設業でなぜ女性の活躍が求められるのか、その理由をみていきましょう。

 3-1 労働力としての期待

建設業で女性活躍が求められる理由の1つ目は、労働力として期待されるからです。少子高齢化が進行するわが国では、若年労働力が減ってきていますが、特に建設業界では、人手不足が深刻化しています。

建設業界の人手不足は、建設業に携わる一般の就業者数だけではなく、型枠工や鉄筋工などの技能労働者の数も減っていることから、深刻な状況に至っています。建設業界の人手不足の原因としては、以下のものをあげることができます。

①若者の建設業界離れ

現在の若者には、3Kイメージのある職場はあまり人気がありません。先に説明したように、建設業は3Kのイメージを持たれやすいことから、女性ばかりでなく、一般の若者にも敬遠されやすいのです。そのため、新卒者をはじめとする若者が、建設業界にあまり集まってこない傾向にあります。

②離職者が多い

一旦建設業界に就職したにもかかわらず、離職する人が多いのもこの業界の特徴です。工事現場は、骨折や怪我などの危険が多く、また週休2日制も完全には定着していません。そのような労働環境から、就職しても長続きせず、辞めてしまう人が多くいます。

③建設需要の高まり

近年、国内の建設需要が高まってきたことも、建設業界の人手不足の要因です。2011年の東日本大震災により、住宅建設の必要が生じ、また、被害地区の瓦礫処理など復興作業の需要も高まりました。さらに、東京オリンピックで首都圏を中心に競技場や宿泊施設、練習施設、道路などの建設ラッシュが起きました。

以上のように、①~③の要因が複合的に重なり、建設業界の人手不足が深刻化しているのですが、従来のように男性の労働力だけでは、その不足を補うことができなくなっています。このため、人手不足解消の理由から、女性の労働力が求められている実態があります。

 3-2 女性の持つ能力への期待

建設業で女性活躍が求められる2つ目の理由は、女性の持つ能力が期待されているからです。あくまでも傾向なので、当てはまらない場合もありますが、女性は男性に比べ、次のような能力や特徴に秀でているといわれます。

①コミュニケーションが得意

女性は、男性に比べ、他人との意思疎通や情報交換などのコミュニケーションが得意です。

男性の場合は、一言二言で結論だけ相手に伝えることが多いのに対し、女性は、丁寧に説明して相手に理解してもらおうと努めます。

このようなコミュニケーション能力は、建設業において、設計や工事施工管理、インテリアコーディネートなどの分野で役立つでしょう。

設計やインテリアコーディネートでは、注文主や施工業者との連絡調整においてコミュニケーションが不可欠であり、また、工事の施工管理では、現場作業員との意思疎通や設計者・注文主・行政などの関係機関との密な連絡調整が必要になるからです。

②優しさ・繊細さがある

女性の特徴として、優しさや繊細さをあげることができます。女性は、男性であれば気づかない話し相手の感情の変化を読み取り、相手を傷つけないような言葉を選んでコミュニケーションを図る能力が自然な形で備わっています。

また、物を造り上げていく仕事の場合は、その完成品からは、男性の仕事にはない丁寧さや繊細さが伝わってくる場合が多くみられます。

このような女性特有の優しさ・繊細さを生かせる分野は、設計やインテリアコーディネート、左官や建具の製作、交通整理の警備員などのジャンルとみられます。

③辛抱強く着実にステップアップができる

女性は、男性に比べ、仕事や勉強の分野で辛抱強く頑張り続けることができ、1つずつ着実にこなしながらステップアップしていくことができます。

このように辛抱強く地道に続ける能力は、設計やCAD操作、また建設職人などの技能工、一般・特殊車両運転などの分野で生かすことができるでしょう。

④色彩感覚が優れている

女性は、一般的に色彩感覚が優れているといわれています。建設業界で、色彩感覚を生かす分野としては、建築デザインやインテリアコーディネートなどのジャンルが想定されます。

⑤生活感覚が優れている

生活感覚は、生活する上での主婦の目線といってもよい感覚です。女性には、どうすれば安全・安心・快適・便利に生活ができるかなどについて、男性が気付かない視点から、理解・判断する能力があります。

例えば、㋐どのような部屋の配置が動線上よいか(キッチンで洗い物をしながら風呂場の洗濯機を回し、合間に洗濯物を干すには、各部屋の配置や出入口はどこにすればよいかなど)、㋑どのような家具が便利で、センスがよいか、㋒衣料や寝具を収めるには、どこにどの大きさの収納庫があればよいか、㋓生活する上でどこに何の店があれば便利か、㋔自宅付近に、保育園、幼稚園、小・中学校、病院、役所が揃っているかなど、日常生活を便利・快適に過ごすための生活感覚に秀でています。

建設業界で優れた生活感覚を生かすには、設計やインテリアコーディネートの分野が最適です。

以上、建設業界が女性の能力に期待している点について説明しましたが、建設業は意外にも女性の能力や特徴にマッチした職種や仕事が多いことに驚かれたのではないでしょうか。

4 建設業で女性が活躍している職種

次に、建設業で女性が活躍している職種についてみていきましょう。

 4-1 設計士

従来から、設計業務は女性に人気があり、多くの女性が活躍している分野です。設計の中では、土木関係より建築関係、中でも住宅設計のジャンルに進出している女性が多くみられます。

住宅設計は、女性が持つ生活感覚が最大限に生かされる分野です。住宅設計では、日常生活における主婦の動線に基づく部屋の配置や使いやすさを優先した収納庫など、女性目線からしかわからない部分が多くあることがその理由です。

例えば、ある夫婦が工務店と住宅設計の相談をしている場合に、キッチンや浴室、洗面所などの水回り、リビングの形状、収納庫の場所や数などは、多くの場合妻の意見が優先され決められます。実際に家事を多くこなすのが妻の方であるという実態があるのは確かですが、それだけではなく、女性は男性に比べ、快適で住みやすい住宅の構造や使いやすい建具などについての感覚が優れているともいわれています。

以上のように、住宅を中心とする設計分野は、女性が最も得意とする職種といえるでしょう。

 4-2 施工管理士

施工管理士は、建設現場において施工計画を作成し、工程や安全、品質などの管理を行う職種です。施工管理士は、建設現場をまとめ、工事をスムーズに進行させる役割を持っているため、建設現場の巡回・点検や作業員への指示などを行います。

従来、施工管理の仕事は専ら男性が行っていましたが、肉体的な作業負担があまりないことから、女性の進出が進んでいる分野です。

施工管理では、設計者や注文主、行政などの関係機関と密に連絡をとり、情報交換することが必要ですが、女性特有のきめ細かいコミュニケーション能力が生かされる職種でもあります。

 4-3 インテリア・コーディネーター

インテリア・コーディネーターは、建築物の内装をコーディネイトする職種です。建物内の建具や天井・床・壁などの材質や色、模様などを決めて組合せ、また、部屋の雰囲気に合う家具の選択や配置も工夫して、快適に過ごすことができる空間を演出する仕事です。

このインテリア・コーディネーターは、女性が多く活躍している分野です。女性が持つ美的感覚や生活目線での空間造りは、男性にはない優しさや繊細さ、生活上の便利さ追求などが特徴となっており、今後も一層の女性の活躍が期待できる職種です。

 4-4 CADオペレーター

CADオペレーターは、設計者やデザイナーが考案した建設物の形をパソコンにデータ入力し、設計図面を作成する職種です。そのデータから設計図面を作成するシステムをCADといいます。

従来、建設物の設計図は、設計者が直接紙に描いていましたが、現在はほとんどCADで作成します。

CADオペレーターはパソコンでの作業が中心で、肉体労働を伴わないことから、多くの女性が活躍している分野です。CADを操作するには、専門性や高いスキルが必要でもあることから、一定の習得期間が必要ですが、建設業界には不可欠の職種といえます。

 4-5 運転手

近年、建設業界で車両を運転する女性が多くみられるようになってきました。車両の中でも、建設現場で土砂や砂利を運搬する大型ダンプカーは、まだ男性運転手の領域ですが、そこまで大きくない資材や部品運搬用の中・小型トラックなどでは、女性運転手が参入しています。

建設業界では、宅急便などのように女性運転手が多い状態にはなっていませんが、車両運転手は、若い女性を中心に女性活躍が広がっている職種といえます。特に、車好き・運転好きの女性は、やりがいを持って仕事に打ち込んでいるようです。

 4-6 左官職人

左官職人は、建設現場で壁や土間、外構などの下地作りや仕上げを行う専門職です。近年、左官職人を目指す女性が増えており、第一線で活躍している女性も多くみられます。女性特有の手先の器用さや繊細さ、丁寧さなどが、左官の仕事に適しているからです。

左官職人になるには、数年間かけて左官の技術を身に付けなければなりません。さらに、現場で経験を積みながら、腕を磨いていくことが必要です。

建設現場で長時間にわたる作業を行うため、肉体的にも楽な仕事ではありませんが、ゼロから造形を行う「物造り」の楽しさを味わうことができる仕事です。この造形を行うという仕事の性質が、芸術や工芸などと通じる部分があり、女性の関心を惹いている理由でもあります。

 4-7 警備員

建設現場の警備も女性が活躍している分野です。建設現場の警備は、現場出入口や周辺道路の交通整理が主な仕事です。建設現場の出入口では、トラックなどの大型車両が出入りするため、通行人の整理や注意喚起を行います。また、周辺道路では、一般車両の片側通行規制や交通整理を主導します。

警備員は立ち仕事のため楽な仕事ではありませんが、重量物を持ち上げるなどの負担はないため、女性が進出している職種です。

5 建設業における女性活躍に向けた対策

次に、建設業における女性活躍に向け、実際に行われている対策についてみていきましょう。

 5-1 もっと女性が活躍できる建設業行動計画

「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」は、建設業における女性の入職者を増やすための官民一体の行動計画で、国が主導して2014年に策定されました。

この計画は、女性技術者・技能者を5年以内に倍増することを目標としています。具体的な取組みとしては、次の4つが柱となっています。

  1. ①建設業に入職する女性を増やす
  2. ②働き続けられる職場環境をつくる
  3. ③女性がさらにスキルアップできる環境を整える
  4. ④建設業での女性の活躍の姿を広く社会に発信する

①建設業に入職する女性を増やす

建設業に入職する女性を増やすには、業界団体や個別の企業による女性採用の数値目標やそのための行動指針の設定・策定を進めるとともに、業界団体や個別の企業に対し、女性の活躍にかかる情報提供や啓発を行うことで理解を広めます。

また、教育現場と連携して建設業の魅力・やりがいを情報発信し、女性向け説明会を実施します。

②働き続けられる職場環境をつくる

トイレ・更衣室など女性が働きやすいハード環境の整備、長時間労働の縮減、計画的な休暇取得に向けたソフト環境の整備、産休・育休など仕事と家庭を両立させるための制度の導入・活用を進めます。

③女性がさらにスキルアップできる環境を整える

女性の登用を即すモデル工事の実施、女性を活用しやすい教育訓練の充実、活躍する女性の表彰などを行うことで、女性がさらにスキルアップできる環境を整えます。

④建設業での女性の活躍の姿を広く社会に発信する

女性が活躍する情報を発信する総合ポータルサイトを創設するとともに、地域の関係者が一体となって女性の活躍を支える取組を支援します。

以上のように、「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」に基づき、官民一体による様々な取組が行われた結果、女性技術者は平成26年に1.1万人でしたが、平成30年には1.8万人と1.64倍増加し、女性技能者は、平成26年に8.7万人であったのが、平成30年には10.4万人と1.19倍まで増えました。

また、各企業や建設現場の労働環境の改善や各地で女性活躍に取り組む団体で構成する「建設産業女性活躍推進ネットワーク」が構築されるなどの進展がありました。

 5-2 女性の定着促進に向けた建設産業行動計画

2014年に策定された「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」による取組は、一定の成果を上げましたが、その後、建設業界を取り巻く以下の環境変化により、当計画を見直すこととされました。

  1. ①建設業界でも、「働き方改革」を推進する必要性が高まる
  2. ②「建設キャリアアップシステム」の運用が開始

    (注)建設キャリアアップシステムは、建設技能者の就業履歴などの情報に基づく能力評価のシステム
  3. ③人材確保や多様な価値観を尊重する職場環境の整備などの必要性が高まる

以上のような環境変化に対応するため、2020年に、以降の5年間を見据えた新たな計画として「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」が策定されました。新計画は、次の3つの柱からなっています。

  1. ①働きつづけられるための環境整備を進める
  2. ②女性に選ばれる建設産業を目指す
  3. ③建設産業で働く女性を応援する取組を全国に根付かせる

①働きつづけられるための環境整備を進める

女性の入職者数に対する離職者数の比率について、令和6年までの間、前年度比で減少させることを目標とします。なお、建設業における女性の入職者数に対する離職者数の比率は、2017年度は66.7%(産業計では92.0%)となっています。

この目標を達成するために、以下の取組を進めます。

㋐社内広報などで、イクボス宣言を見える化するなど「建設産業の女性定着に向けた意識改革」

(注)イクボス宣言=就業者がワーク・ライフ・バランスを保ちながら安心して子育てに取り組めるよう、男女ともに働きやすい職場環境を整備していくことについて、官庁や企業が公に宣言すること

㋑施工時期の平準化や適正な工期の設定など「働き方改革の取組の推進」
㋒短時間勤務制やフレックスタイム制、テレワーク、ワークシェアリングなどの導入による「「働きがい」と「働きやすさ」が両立できる環境の整備」
㋓工事現場における快適トイレや更衣室などの導入による「働きやすい現場の労働環境の整備」
㋔建設キャリアアップシステムを活用して職場復帰時に就業履歴を証明するなど「復職に向けたサポート環境の整備」
㋕Web学習プログラムなど職場外での技術・技能向上に向けた機会の提供による「更にスキルアップできる環境を整える」

②女性に選ばれる建設産業を目指す

入職者に占める女性の比率について、令和6年までの間、前年度比で増加させることを目標とします。

この目標を達成するために、以下の取組を進めます。

㋐学生と保護者に対する建設産業の魅力のPR活動など「建設産業の魅力、働きがいの発信などによるイメージ戦略」
㋑女性定着に関する企業事例の発信など「企業や業界団体の女性定着に関する理解の促進」
㋒建設産業における働き方改革の取組に関する情報発信など「新しい建設産業の魅力を創造・発信」
㋓事例収集と情報発信による「女性が活躍している仕事例の紹介」
㋔認定取得に向けた取組の実態把握やその結果を踏まえた実効性のある取組を業界と連携して行うことによる「えるぼし、くるみん認定取得に向けた取り組み」

(注)

・えるぼし認定=女性の活躍推進に関する取組状況が優良な事業主は、厚生労働大臣の認定を受けることができる

・くるみん認定=一定の要件を満たした場合に、子育てサポート企業として厚生労働大臣の認定を受けることができる

㋕建設業の現場における労働法制の影響を整理するなど「建設産業に関係する制度の整備など」

③建設産業で働く女性を応援する取組を全国に根付かせる

令和6年までに、計画内容の認知度100%を目指します。なお、令和元年における計画内容の認知度は約24%となっています。

また、令和6年までに、都道府県単位で活動している団体の「建設産業女性定着支援ネットワーク」への加入をすべての都道府県で目指します。

これらの目標を達成するために、以下の取組を進めます。

㋐計画策定委員会に参加していない業界団体に対するPR方法を検討するなど「計画の普及を図るための広報活動」
㋑建設産業女性定着支援ネットワークの構成団体が各地で行う地域ぐるみの活動を支援するなど「建設産業女性定着支援ネットワークのさらなる活動の充実、全国展開」
㋒各地域で女性定着のための取組を推進することによる「地域中小建設企業における女性技術者・技能者の確保・育成」

6 建設業で女性活躍を進めるポイント

それでは、建設業でどのようにしたら女性の活躍を進めることができるか、そのポイントをみていきましょう。

 6-1 女性が快適に働けるよう労働環境の整備を進める

建設業で女性活躍を進めるための1つ目のポイントは、当然のことですが、女性が快適に働けるよう労働環境の整備を進めることです。

女性が快適に働けるための労働環境を整備するには、ハードとソフト両面からの取組が必要です。

①ハード面の環境整備

ハード面では、建設現場の男女別トイレ、男女別の更衣室、休憩所などを整備していくことが最も重要です。

ただし、建設現場が狭小地であるため、トイレや更衣室、休憩所などを男女別に設けることが難しい場合があります。そのようなケースでは男性作業員のみの配置とし、女性は男女別設備の設置が可能な現場に配属するよう配慮することも必要でしょう。

また、建設現場で扱う資材や工具類の大きさ・重量が女性にとって負荷が大きいという問題もあります。重量がある資材や工具を扱う作業は、可能な限り男性従業員が担当することとし、女性は軽い資材や工具を受け持つなどの作業分担も重要になってきます。

②ソフト面の環境整備

㋐施工時期の平準化、適正な工期の設定

公共工事などでは、工事の発注時期が年度の下半期に集中している傾向があるため、年度の上半期は建設業者が仕事不足となり、逆に、年度の下半期は、工事の大量発注により建設業者が繁忙となるため、長時間労働や休暇取得への支障が生じやすくなります。また、年度末に近い工事の発注は、適正な工期を設定し難いとの問題もあります。

これらは、発注者側の事情が大きく影響している課題ですが、建設業界からも発注者に対し、年度を通じた施工時期の平準化や適正な長さの工期設定を働きかけ、労働時間の適正化や休暇取得の促進により、工事従事者の安全と健康を守り、快適に働ける環境を整備することが求められます。

㋑短時間勤務制、フレックスタイム制

妊娠・子育て期の女性は、通院や体調変化などの諸事情により、決められた時間に固定勤務を続けることが難しい場合があります。そのため、短時間勤務制、フレックスタイム制などの導入を進め、より柔軟な勤務形態を整備することも重要です。

㋒テレワーク、ワークシェアリング

仕事の種類にもよりますが、可能な職種では、テレワーク、ワークシェアリングの導入を進めることも必要です。

テレワークにより子育てと仕事の両立が可能となり、ワークシェアリングにより労働時間が短縮されることで、できた時間を自分自身や家族のために使うことができるワーク・ライフ・バランスの推進に繋がるからです。

㋓技術・技能の向上、キャリアアップ

女性就業者は、ただ快適に働けることだけを望んでいるわけではありません。仕事を続けるからには、当然、自分の技術・技能を向上させ、キャリアアップに繋げたい思いがあります。

そのため、職場内・職場外の教育訓練の機会充実、技術者・技能者のレベルに応じた職務や仕事の設定、技術・技能の向上に伴う企業内でのステップアップの仕組みなど、就業者が「仕事のやりがい」、「生きがい」を持てるシステムを整備することが重要です。

 6-2 女性の能力に適した仕事で活躍してもらう

2つ目は、女性の能力に適した仕事で活躍してもらうことです。元々、男性と女性とでは、持って生まれた能力が異なっています。肉体的に重い負担を伴う種類の仕事で、女性も男性と同じように働いてもらおうとしても、無理が生じてしまいます。

このため、女性には、女性に適した仕事で能力を発揮してもらうのが、最も適切な方法といえるでしょう。もちろん個人差は当然ありますが、女性の得意な分野でその能力を生かし、建設業界で活躍してもらうには、より多くの女性が就けるよう門戸を開放し、労働環境を整備していくことが重要です。

 6-3 建設業のイメージアップを図る

これまでみてきたように、建設業は、社会一般に対して、良いイメージばかりが持たれているとはいえません。特に①建設業界は男性社会である、②建設業界は3Kであるなど、どちらかといえば、良くないイメージが強く定着してしまっています。

それらの良くないイメージの中には、確かに真実の部分もあります。その真実の部分については、建設業界自身も十分に認識しており、業界内から改善に向けた機運が生まれ、実際の取組も行われているところです。しかし、業界の取組が未だ途上で完全には解決していないものもあることから、引き続き改善に向けた努力が望まれます。

また、良くないイメージの中には、建設業界以外の一般の人が理解不足や誤解をしている部分が相当あります。例えば、従前は男性社会であったものの、近年では様々な職種で活躍して出世する女性も増えています。また、3Kといわれた仕事環境についても、建設現場を中心に、省力化や安全・衛生対策などが推進されたことで、大幅な改善がみられるようになっています。

以上から、建設業の仕事そのものや労働条件、労働環境などについて、対外的に一層の周知・徹底を行い、建設業のイメージアップを図ることが重要なポイントとなります。

この「建設業のイメージアップを図る」というのは、決して良くないものを良いと見せかけることではなく、現在の建設業の実態や実情を正直ベースで発信することです。

そのことが、なぜ建設業のイメージアップに繋がるかというと、建設業の実態や実情が近年大きく改善されてきているからです。建設業の仕事環境や労働条件が大幅に改善されてきていることを知らない外部の人、特に女性層に改善されている状況を周知し理解してもらうことで、建設業のイメージアップを図ることができるのです。

一般の人に周知し理解してもらう方法は、誰もがわかりやすく、具体的にイメージできる方法が望ましいといえます。そのためには、直接視覚に訴えることができる写真や動画、図解を主体とし、説明を添えて情報発信を行うやり方などが候補にあげられます。

テレビ、新聞、雑誌などの広告媒体は、掲載費用が大きくかかることから、業界団体や各企業のサイトを中心に情報を掲載することで、出費を大幅に抑えることができます。

例えば、「建設業で働く環境は、大きく変わってきています」などのタイトルで、建設現場におけるハード環境面(男女別のトイレ・更衣室・休憩室など)やソフト環境面(施工時期の平準化・適正な工期の設定・短時間勤務制・フレックスタイム制など)の整備・導入状況について写真・動画・図解付きで説明・PRを行います。

また、建設業界の人事・労務管理面でも、建設キャリアアップシステムを活用した就業履歴の管理や復職に向けたサポート状況、建設技術・技能の向上に向けたスキルアップへの支援状況なども、積極的に現状を説明していきたいものです。

これらの内容は、「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」の中にも明示されている取組であることから、これらの情報を開示することは、同時に、計画の進捗状況を対外的に周知し理解してもらうことにも繋がるのです。

7 まとめ

建設業では、未だ女性就業者が少ない状況が続いていますが、それは、①労働環境、②職場イメージの両面で、女性が敬遠しているのが主な理由です。

しかし、労働環境の改善や職場イメージの刷新に向けて、建設業界や個々の企業の取組が進められてきたことで、建設業は、今や女性が快適に働ける職場に変貌しつつあります。

建設業界が女性入職者を求めているのは、業界の人手不足による労働力としての需要とともに、女性の持つ様々な能力に対して大きく期待しているからです。建設業には、意外にも、女性の関心を惹きつけ、女性の能力に適した、女性が活躍できる職種や仕事が多くあります。

これから就職活動を予定している女性の方は、建設業界における労働環境・職場風土改善に向けた取組や改善結果、建設業で女性が活躍している職種などについて、あらためて情報収集していただき、建設業も選択肢の一つに加えてみるのもよいのではないでしょうか。

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