建設業の一人親方とフリーランスの違いは?
建設会社に雇用されることなく、かつ従業員を雇用せずに個人事業主として建設業に関わっている人が「一人親方」と定義されている一方、フリーランスは、業界を問わず、「組織に属さず、自身の様々な技術をクライアントに提供することを業として働く人」を指します。
フリーランスの定義は広く、一人親方も広い意味で「フリーランス」に含まれます。そこで今回の記事では、一人親方とフリーランスの特徴と違いについて詳しく解説します。労災保険の加入条件等で異なるポイントがあるので、確認していきましょう。
目次
1 一人親方とフリーランスの違いは?
一人親方とフリーランスは、ある程度近い存在と言える反面、いくつかの部分で異なる面も存在します。代表的なものが、国保・労災保険の特別加入など、社会保険の面です。
他にも一人親方とフリーランスの違いは複数存在します。まず一人親方・フリーランスの定義をより明確化した上で、一人親方とフリーランスの違いを見ていきます。
1-1 一人親方とは
一人親方の元々の定義は、現場で働く職人の中でも特に技術に秀でており、他の職人からも技能を認められるくらいの技術力を持つプロフェッショナルの職人を指します。
建設業の中で、見習いなど実務経験を経て、この人は技術に優れていると周囲が認める存在になると「親方」と呼ばれるようになります。
その中で「一人親方」は、直接雇用する人こそいない者の、現場では中心的な役割を果たすリーダー的存在と言えます。ホワイトカラーで例えると、エキスパート職のような、部下は持たないものの、極めて強い専門性を持ち、周囲に認められる存在と言えます。
「一人親方」は、企業と雇用契約を結んで働くわけではありません。つまり労働者という立場ではなく、代わりに文書・口頭などで請負契約を締結することで、基本的に完成した仕事に対して報酬が支払われるケースが多いとされています。(ケースによっては、委任契約の形で、働く日数や業務内容に応じ、報酬が支払われる場合もあります)
一人親方の場合、一人親方向けの労災保険や健康保険が存在しており、単独での労災加入や健康保険の加入も容易です。
1-2 フリーランスとは
フリーランスも、組織と雇用契約を結ばないという点においては同様です。一人親方と異なるケースとして、委任契約・請負契約両方のケースが存在するということが言えます。
ただ、フリーランスと一口に言っても、様々な職種がフリーランスの中に含まれます。一例を挙げます。
- ・エンジニア
- ・コンサルタント
- ・ライター・Webライター
- ・講師
- ・理容師、美容師
- ・写真家
- ・映像デザイナー
- ・広報、PRの専門家
- ・整体師・あんま師など
なお、下記の職種は一般的に自由業と言われますが、広い意味ではフリーランスに近い性質を持つと言えます。
- ・弁護士、税理士・司法書士、土地家屋調査士、行政書士・不動産鑑定士・公認会計士・社会保険労務士などの士業
- ・作家、作詞家、作曲家
- ・アーティスト
以上の通り、フリーランスの定義は幅広いと言えます。
一人親方とフリーランスの共通点は、自身の仕事において高い専門性を持ち、不特定多数に物を提供するというよりは、法人・個人問わず特定の相手に対して、技術・知識・サービスを提供する点です。
1-3 労災保険とフリーランス
一人親方については、一人親方向けの労災保険に加入する仕組みとなっていますが、フリーランスの場合は労災保険に加入できるケースとできないケースがあります。
大まかな意味で、何らかの危険を伴うことが多い業種の場合は、一人親方以外にも労災の特別加入が認められています。
例えば、下記のような業種が、労災保険の特別加入の対象です。
- ・自動車を使用して行う旅客又は貨物の運送の事業(個人タクシー業者や個人貨物運送業者など)
- ・漁船による水産動植物の採捕の事業
- ・林業の事業
- ・医薬品の配置販売の事業
- ・再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
- ・船員の事業
- ・柔道整復師の事業
- ・高年齢者が、高年齢者雇用安定法に基づき行う事業
また、以下の業種も、特定作業従事者として、条件付きで加入対象になります。
- ・特定農作業従事者
- ・指定農業機械作業従事者
- ・国又は地方公共団体が実施する訓練従事者(職場適応訓練従事者、事業主団体等委託訓練従事者)
- ・家内労働者及びその補助者
- ・労働組合等の常勤役員
- ・介護作業従事者及び家事支援従事者
- ・芸能関係作業従事者
- ・アニメーション制作作業従事者
以上の通り、多くの業種は外出を伴う、危険物を扱う、作業を行う、長時間の作業を伴う、人に対して何らかの行為を行うなど、「自身、もしくは人に対して肉体的・精神的な影響を与える可能性がある業務」に対し、労災への特別加入等を認めています。さらに、海外派遣される人が特別加入できる制度もあります。
1-4 なぜ一人親方という仕組みができたか
建設業、つまり家や建築物を建てるという産業は、古来より存在します。日本最古の会社は、西暦578年に設立された「金剛組」と言われています。金剛組は、聖徳太子から四天王寺の建立を任された宮大工が創業しました。
宮大工は、大工の中でも頂点と言われるほど、熟練の技と繊細な技術が要される仕事であり、現在も、建設業界において一目置かれる存在です。金剛組は、現在でこそ大手建設企業のグループ会社となっていますが、今でも高い技術力で、数々の寺社仏閣の修復を請け負うなど、高い技術力と、1,500年を超える伝統を引き継いできたことには変わりがありません。
このように、建設業界には長い歴史があり、その歴史の中で培われたのが徒弟制度といえます。徒弟制度による「師匠(親方)」と「弟子」による教育関係によって、一朝一夕で伝えることが難しい技術が、現代に伝えられているといえます。
一方で、旧来の受け継がれた制度の大切さはあるけれども、この制度・文化を現代に適応させるという意味では、一人親方向けの労災保険など「社会制度で支える」という必要性があります。
長い歴史と文化・そして現代に要される労働環境や社会で支える仕組み作りを築き上げ、両立させる役割を果たす仕組みの一つが、一人親方に対する様々な制度と言えます。
1-5 建設業界の雇用は流動的
建設業は、「建築物を建て終える、もしくは修復など要される作業を行うと業務完了」という、継続的なビジネスというより、単発的なビジネスが主体です。
そのため、他業種に比べ、雇用の流動性が高いのが特徴です。また、特定の地域で建設・復興需要が出ることも多い業界と言えます。近年では西日本豪雨、関東での台風被害、以前では東日本大震災による復興需要など、特定の地域に集中して需要が発生することがあります。
このような業界特性・雇用の流動性をかんがみて、必ずしも従事者の多くが会社に正社員得雇われる訳ではないとして、一人親方の労災加入制度などの制度が整備されていると言えます。
1-6 一人親方の働き方の定義
一人親方の定義として、明確な定義というほどではありませんが、ある程度の基準は定めされています。一人親方の働き方の定義をわかりやすく定めた、国土交通省によるチェックリストによると以下の通りです。
- ・仕事先から意に沿わない仕事を頼まれて、断る自由はあるか
→断る自由がある場合は一人親方、ない場合は労働者 - ・日々の仕事の内容や方法はどのように決めているか
→毎日の仕事量・配分、進めた方を自分の裁量で判断できる場合は一人親方、毎日細かな指示、具体的な指示を受けて働く場合は労働者 - ・仕事先から業務の就業時間(始業・終業)を決められているか
→自分で決められる場合は一人親方、決められない場合は労働者 - ・自分の都合が悪くなり、頼まれた仕事を代わりの人に行わせる上では、どのようにしているか
→自分の判断で代わりの人を探す場合は一人親方、会社が代わりの人を探す場合は労働者 - ・自身の報酬(工事代金・賃金は)どのようにきめられているか
→工事の出来高により報酬決定の場合は一人親方、一日当たりの単価など、働いた時間による場合は労働者
他にも、一人親方か従業員かを分けるケースが複数想定できます。
- ・税務申告を誰が行うか
→自分で行う場合は一人親方、会社が行う場合は従業員 - ・法人や依頼主など、請負元から仕事の依頼があったり、あるいは職人間のネットワークや建設業の業務マッチングサイトで仕事を取っている場合は、一人親方
- ・代わりに立てた人の仕事の報酬を、会社ではなく自分が立て替えて支払う場合は一人親方
- ・仕事におけるミスや、作業トラブル・遅延時の損害について、自分が損害を金銭・労働の形で行う場合は一人親方
- ・最初の現場の仕事が早く終了すれば、他の現場に行ってもよい場合は一人親方
- ・仕事が早く終わり現場上がりしたり、逆に仕事に時間がかかって長い労働時間になっても、賃金が一緒の場合は一人親方
- ・請負元から、建設に従事する上での就業規則の提示、各種規則等へ従うようにという命令を受けていない、従う義務がないという場合は一人親方
- ・業務終了後、追加で無償作業を依頼されたが、自分の仕事ではなく、無償であるため断ることができる場合は一人親方
- ・現場の工具・器具は自分で購入し、持ち込んでいる場合は、一人親方、会社が用意してくれる場合は従業員
- ・社会保険が国民健康保険や建設業の組合保険、国民年金保険であり、厚生年金・協会けんぽ等、2階建ての2階部分の年金ではない場合、一人親方、厚生年金・協会けんぽ等に加入している場合は従業員
上記の通り、様々な判断基準がありますが、一言で言うと「依頼先からある程度独立性を保って、一人親方自身の裁量で働けるか」が一人親方の基準となると言えます。
2 一人親方・フリーランスの保険制度について
一人親方に対しては、一人親方向けの労働保険など、各種社会保険制度が整備されています。その中でも、建設業界は危険・事故と隣り合わせの可能性が高く、かつ体と技術が資本であるため、労働保険・健康保険の重要性が極めて大きい業界です。/
また、フリーランスの各種保険、社会保険制度についても合わせて解説、各種の社会保険について、詳しく検討します。
2-1 一人親方向け労災保険の意義とメリット
通常の労災保険と若干異なる形ですが、一人親方も労災保険に加入できる制度があります。以前、最高裁判所の判決で、「現場において実態として労働者的な扱いを受ける一人親方であっても、元請の労災保険の対象とはならない」という判例がありました。
この判例は、「元請側としては、労災保険に加入していない一人親方は、補償や万一のトラブルを考えると、現場に非常に入ってもらいにくい」ということを意味します。そのため、一人親方で労災保険に加入するケースは年々増えています。建設業界全体のコンプライアンス意識の高まりと、万一の際の責任問題の明確化という点があり、今後も、一人親方の労災加入は事実上必須という流れは強まると考えられます。
つまり、一人親方の立場からすると、いくら技術力に自信があっても、「労災保険に加入していない」という事実だけで、現場に入ることが難しくなるという可能性が大きくあるのです。さすがに、技術・心身の状況以外の理由で現場に入れないというのは、職人に取って不本意と言えますが、様々な規制もありますので、致し方ないとも言えます。
また、一人親方が労災保険に加入していない状況で事故に遭遇した場合、通常の労災保険に加入していれば受けられた様々な支援制度を、全く受けることが出来なくなってしまいます。具体的な支援制度は後ほど述べるとして、まず一人親方向けの労災保険の特徴を見ていきます。
2-2 一人親方向けの労災保険の特徴とは?
一人親方向けの労災保険の特徴として、主に5つが挙げられます。
・国が行う公的保険制度である
民間企業ではなく、国が行う公的保険制度のため、安心感があります。
・掛金全額が社会保険料控除の対象
CM等で国民年金基金が、「掛金全額が社会保険料控除の対象」ということをアピールしていますが、一人親方向けの労災保険も、社会保険料控除の対象となっています。つまり、労災保険全部が、自営業におけるいわゆる経費の対象となり、結果として節税ができることとなります。
自営業・フリーランスの方ならご存じの通り、「経費の対象となるか、そうでないか」は、確定申告後の税金・社会保険料負担に影響を与えます。掛金全額が社会保険料控除の対象、つまり経費として扱われるのは、非常に大きなメリットと言えます。
・業務災害・通勤災害における治療費や入院費は自己負担ゼロ
業務において生じた災害だけでなく、現場までの通勤途上における災害についても、治療費・入院費が0というのは極めて大きいメリットです。通常の通院・治療であれば、健康保険から一般的には3割負担となります。この費用が期間を定めず、完治するまで、もしくは症状が固定するまで0になる(後遺症がある場合は別途給付がある)というのは非常に大きいと言えます。
・傷病が治癒するまで給付が継続
労災で生じたケガなどが完治する、もしくは症状が固定するまで、保険の給付が続くというのも強い利点です。健康保険+民間の傷害保険だと、限度日数や上限金額などが定められているケースが多いですが、労災保険の場合は、期間を定めずに治療に対する給付が続くため、医療費の心配をせずに済みます。
・休業補償は給付基礎日額の80%を補償(特別支給金を含む)
事故などでケガをすると、気になるのは治療費・入院費だけでなく生活費です。労災保険に加入していると、給付基礎日額の80%を補償してくれるため、生活費の負担に対する心配を減らすことができます。
なお、この給付基礎日額という概念は少しややこしいですが、厚生労働省の解説をよりかみ砕いて説明します。
給付基礎日額をシンプルに定義すると、「原則として労働基準法の平均賃金に相当する額」となります。この、労働基準法の平均賃金に相当する額の定義が複雑ですが、実際の想定計算例を元に見てみます。
「平均賃金」の定義を整理すると、以下の通りです。
- ・原則として、事故が発生した日の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額がベース。ただし、賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日が基準。
- ・この総額を、その期間の日数で割った、一日当たりの賃金額
- ・「賃金」には、臨時的に支払われた賃金、賞与(ボーナス)など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まない
以上、複雑な制度となっていますが、実際の計算実例を見てみます。仮定として、このようなケースがあり、ここから給付基礎日額を計算するとします。
- ・月20万円の賃金を受け、作業に従事
- ・賃金(報酬)締切日が毎月末日
- ・事故が10月に発生
上記の例の場合給付基礎日額は、月の賃金20万円×3か月÷土日祝日も含む92日(7月:31日、8月:31日、9月:30日)=約6,522円(端数は切り上げ)
この6,522円を元に休業(補償)給付を計算すると、下記のようになります。
- ・休業4日目以降から計算開始
- ・実際に労災保険から支給される1日当たりの給付額を計算すると、
保険給付 (6,522円×0.6)=3,913円20銭
特別支給金 (6,522円×0.2)=1,304円40銭 - ・1円未満の端数を生じた場合には、切り捨て
- ・以上合計で、3,913円+1,304円=1日5,217円が休業(補償)給付の対象
このように、毎月受け取っている全額の補償ではないにせよ、基礎給付日額の80%が仕事をしていなくても補償されるというのは大きいと言えます。
2-3 遺された人のための給付
一人親方向けの労災保険制度は、業務上のケガや病気により、病院で治療を受けた場合の医療費の全額支給や、加入者が業務上のケガや病気による療養のために、仕事ができない時に休業した4日目から支給される休業保障給付がメジャーですが、他にも2種類の、「遺された人にとって助けとなる給付」が存在します。
それが、遺族(補償)給付と埋葬料です。遺族保障給付を整理すると、以下の通りです。
遺族(補償)年金
- ・加入者が業務上のケガや病気で死亡した場合に支給
- ・業務上の死亡は即死の場合だけでなく、 ケガや病気により療養(補償)給付等を受けていた方が悪化により死亡した場合にも給付対象
- ・支給額に関しては遺族の人数(受給資格者)によって決定される
- ・年金として年間6回に分けて妻は終身、 子供は18歳になるまで支給される
- ・遺族が1名~4名に対し、それぞれ年額下記の通りの給付
遺族1名:給付基礎日額の153日分
遺族2名:給付基礎日額の201日分
遺族3名:給付基礎日額の223日分
遺族4名:給付基礎日額の245日分 - ・これが毎年、指定期間になるまで続く
遺族(補償)一時金
- ・遺族(補償)年金を受け取る条件に該当する遺族がいない時や遺族(補償)年金受給権を失権し、 既に支給された額が給付基礎日額の1,000日分に満たない場合にその差額が、該当しない遺族に支給
- ・給付基礎日額の1,000日分(年額)―既に支給された額
埋葬料
- ・加入者が業務上のケガや病気で死亡した場合、葬祭の執行者に対し支給
- ・遺族以外でも請求可能
- ・315,000円+給付基礎日額30日分か、給付基礎日額の60日分のうち、いずれか高いほうが支給
- ・国民健康保険の埋葬料が5万円なのに対して、破格の金額
その他、障害補償給付、傷病補償年金、介護補償給付などの給付制度もあります。
加えて、建設組合は様々存在しますが、加入する組合により、建設組合独自の制度を受けることができます。具体的な制度例としては、以下のような制度があります。
埋葬料
- ・慶弔見舞金制度
建設組合の組合員本人や親族の結婚・出産・入学・災害などに対し、見舞い金を支給 - ・全国建設業労災互助会への加入
労災保険だけでカバーしきれない給付金を上積みするための制度の一つとして「全国建設業労災互助会」という組織が存在、より手厚い保障が受けられる - ・加入者が死亡した場合の、子どもに対する無利子等の奨学金貸与
- ・各種安全衛生講習会・研修会への参加やマニュアル配布など
上記のような、それぞれの建設業組合独自のサービスを受けることもできます。
2-4 労働災害として認められないケース
家の建設やリフォーム、各種業務を請け負っても、ケースによっては労働災害と見なされないケースがあります。
典型的なケースとしては、「だれが請負元か不明確であるケース」、「注文請書・発注書・契約書等の書面関係が整備されておらず、仕事なのか、友人・知人へのお手伝いなのかの境界線が曖昧なケースです。
例えば、自身がとび職人をやっていて、友人の大家さんから「ちょっと高い所の作業をしてもらえる?」という口頭の依頼で請負い、事故に遭遇した場合、「労働基準監督署が仕事として認めず、労働災害の対象外となる」というケースもあり得ます。
労災保険は、あくまで仕事としての現場作業に対して適用される物であり、「仕事かどうかが曖昧なもの」に対しては、適用されない恐れがあります。
そのため、友人の「ちょっと手伝って」であっても、きちんと仕事とわかるようにする必要があります。請負元や注文請書・契約書・発注書等の明確化を行ったり、あまり友人からの依頼でも気軽に受けず、あくまで「仕事として請ける」というスタンスを取ることが望ましいと言えます。
2-5 フリーランスの社会補償について
フリーランスは、建設業と異なり、業種が多様かつ、最近新しくできたような産業も少なくないため、職域の健康保険が存在しなかったり、労災保険の対象にならない業務も多いです。
そのため、フリーランスの場合は、各種保険に積極的に加入したり、自分で万一の備えを行うことが必要になります。
また、年金も原則国民年金のみのため、付加年金(毎月400円を追加することにより、国民年金を200円×付加保険料納付月数で支給、2年以上の加入で元が取れる。なお、20歳から60歳まで40年間付加年金を納付した場合、200円×480カ月=年額96,000円が年金に上乗せされる)の加入や、国民年金基金への加入、小規模企業共済への加入など、できるだけ老後の備えをしておくことが要されます。
加えて、国民健康保険についても、市区町村の健康保険と、職域での組合による健康保険が存在します。
職域における健康保険組合の例を挙げます。
- ・建設国保
- ・弁護士国民健康保険組合
- ・税理士国民健康保険組合
- ・文芸美術国民健康保険組合(作家・美術家向け)
- ・関東ITソフトウェア健康保険組合(IT系フリーランス向け9)
- ・医師国民健康保険組合
- ・薬剤師国民健康保険組合
- ・美容国民健康保険組合
- ・全日本理美容健康保険組合
その他、様々な職域で健康保険組合が構成されており、通常の国民健康保険よりも負担が少ないケースが多いです。
また、フリーランスの場合、企業で原則行われるような健康診断・人間ドックの受診がないケースも多いですので、健康診断・人間ドックなどがどうしても後回しになるケースがあります。
建設業は特に体を酷使する業種ですが、他の業種であっても肉体的な負担、精神的な負担は存在します。健康保険組合において、健康診断や人間ドックの制度があれば積極的に活用するべきですし、特にフリーランスは体が資本と言うことを心得て、日々の健康管理に気を使う必要があります。
2-6 フリーランスは業務賠償責任保険・就業不能保険が必要
フリーランスの場合、会社勤務時と違い、納品物の瑕疵や様々なトラブルで訴訟等を受けても、本人の責任で対応する必要があります。
もちろん、契約時に契約内容に対して注意を払ったり、成果物に問題がないようにきちんと作る必要があるのは当然です。しかし、それでも理不尽な訴訟や、不可抗力に近い形で納品が出来なくなって、責任を問われるというリスクはゼロではありません。
そのため、民間なり職域団体での、業務賠償責任保険に加入しておくことが重要です。特に直接人の体を扱う仕事でなくても、お金や物品が関わるケースでは、業務賠償責任保険は不可欠です。特に税理士など、大きなお金に関わり、訴訟リスクも存在する業種等は、職域団体で保険を設けているケースが多いです。
それ以外でも、業種を基本的に問わず加入できる業務賠償責任保険があったり、収入の一定割合を補償する就業不能保険などもあります。
貯金で備えておくのは大原則としても、金額が大きい賠償問題になるケースや、働けなくなりお金が入ってこなくなるケースでは、十分な備えが不可欠です。
フリーランスの場合は、このような業務関係の保険に加え、自分自身の保険にもしっかり加入することが望ましいと言えます。
3 まとめ
以上、一人親方とフリーランスの違いを見てきました。一人親方は、建設業界が歴史を持つ業界であることから、様々な形での一人親方を守るための制度の整備が既に行われています。
ただ、自身の働き方が、一人親方なのか、従業員なのかという部分に関しては、万一の際の労災適応や年金・保険等様々な部分に関わるため、改めて自身の雇用形態を確認しておく必要があります。
一方、フリーランスは、比較的新しい概念であり、近年増えた業種の多くもフリーランスに分類されるケースがあるため、一概に定義できない部分があります。
フリーランスに関しては、自由な働き方が、フレキシブルかつ、業種によっては場所・通勤を伴わない働き方が出来る分、補償等いざという時のセーフティネットが、まだ不十分な点があります。不十分な点に関しては、団体の保険制度や民間の保険制度でしっかりと補えるようにしていく必要があります。
一人親方・フリーランスはどちらも、自分自身の才覚一つで生きていく世界と言えます。日々、技術の研鑽を怠ることがないよう心がけるのはもちろんですが、自分の心身の健康管理や、業務の進捗管理、フリーランスであることに伴う納税・各種手続きの雑務など、大変な面も多いです。
自由には責任が伴うという言葉がありますが、責任を取るような事態が起こることのないよう、また万一なんらかの自体が起こっても、責任を最大限カバーできる体制を整えておくことは重要です。