【2021年最新】建設業における外国人労働者の受け入れ状況はどうなっている?

建設業は、従来から外国人労働者を受け入れることにより、十分な労働力を確保してきました。特にバブル期から十数年前までは、日本も大きく成長しており、労働先として魅力のある場所で、現在も建設業における労働者の受入は様々なところで行われています。
日本企業が外国人労働者を雇用する大きな理由としては、「若年層の外国人労働者の層が厚い」「様々な事情で母国に錦を飾るために日本に来ているため、一生懸命働いてくれる」「多業種で課題となる外国人労働者との言語の壁を、建設業など従来から受け入れている業種は取り払う体制ができている」などが挙げられます。
しかし、2020年初頭からのコロナ禍で、世界のエアラインに大きな影響が生じたことにより、外国人労働者の受入が難しくなっています。なお、人材の受け入れに関しては、従来通り人の動きは生じています。特に、労働より技能習得の要素が大きかった「技能実習生」は後述しますが微減、日本に定住し働くための、「特定技能」という資格は2.7倍増と、特定在留資格を用いた人材の受け入れは活発です。
この記事では、コロナ前、コロナ後の外国人労働者の受け入れ全般の様々な事象を踏まえ、各種制度の変化と影響、コロナ後の労働者受け入れに関する最新の状況を解説していきます。
目次
1 建設業と外国人労働者
建設業は、以前より様々な形で外国人労働者労働者を受け入れてきました。背景としては、建設業で現場に携わる担い手不足という現状があります。担い手不足に関しては、以前より建設業は体力を使い、危険性もあるという業務特性のため、いかに担い手を確保するかという課題がありました。
さらに、近年の建設業に対する投資の減少や公共事業の減少による建設会社の破綻、現場を担う技術者・職人の高齢化、団塊世代の退職などで、技能を持つ労働者の離職や他産業への移動、給与や職場環境などの処遇改善の問題もあり、人材の確保・育成は急務と言えました。
そこで、建設業が外国人労働者を積極的に受け入れる必要性が生じ、国土交通省・各種公的団体・業界団体も労働者受け入れを積極的に行ってきました。
まずは、「なぜ日本人労働者だけでなく外国人労働者もなのか」を確認していきましょう。
1-1 建設業が外国人労働者を受け入れる理由
建設業が以前より外国人労働者の受け入れに積極的だった理由は、「若く、体力があり、やる気がある人材だから」という点です。外国から来ている若年層は、様々な母国や家族の事情があります。地域・家族を背負ってきているのです。そのため、収入を得ることや技術を向上させること、また母国に戻っても技術を活かせる可能性があることなどから、仕事や技能実習に積極的に取り組んでくれます。
また、日本の少子化に伴い、人材の絶対数が減少したことも大きな要因です。過去のようにハングリー精神を持つ若者ばかりでなくなったこと、建設業界の一部の徒弟制度と、日本の若者の志向が合致しにくいこと、高度経済成長期のように主力産業が農業・建設業など第一次産業・第二次産業が多かった時代から、IT・サービス・医療福祉などの第三次産業が成長し、雇用の受け皿となっているという点も大きいと言えます。
加えて、建設業の存在が再度見直されている現状も影響しています。東日本大震災は、防災対策の重要性が高いことを国民に示しました。さらに、震災後の復興需要は極めて大きいものでした。建設需要が強いにもかかわらず供給が追いつかないという状況が、被災地域を中心に長く続きました。
相次ぐ地震・水害・雪害・台風などに対する防災対策や建設・インフラ整備・保全の需要が高まっているにもかかわらず、建設現場での作業を担う人材が不足は常態化ししています。国民の様々な実感を伴って、外国人労働者のさらなる受け入れを、建設事業者だけでなく、国土交通省・そして社会全体が必要と感じたという点も大きいと言えます。
2020年に行われる予定だった、オリンピック・パラリンピックも建設需要に大きな影響を与えたと言えます。オリンピックの東京開催が決定した当時は、オリンピック・パラリンピック東京大会にかかる会場・関連施設整備のために新規の建設需要が増えました。そのため、「ただでさえ建設業の現場を担う人材が不足している」という中で、増加した建設需要に対するさらなる人材確保という課題が顕在化しました。
そこで、平成26年頃から、建設分野における外国人材を活用するために、特別に措置を行おうという動きが国土交通省主導の下、具体化されました。(更に、平成30年より特定技能1号、2号を加え更に具体化)具体的には、外国人在留資格で「特定活動」という分野を創設し、既にある程度技能を持つ人材を日本に招聘しようという施策です。
1-2 外国人労働者受け入れに関する従来の制度と新制度
次に、外国人労働者受け入れに関し、従来の制度を踏まえ、新しい制度でどのような点が変わったかを検討します。
従来は、建設業界の人材受け入れは、「技能」という枠で高度人材を受け入れるか、「技能実習生」という形で、人材としてはこれからだが、実務を通した実習を行うことで技能を習得するというケースが一般的でした。(一部指摘では、実習生という名の労働力、という意見もあります)
ただし、「技能」の場合、現場作業を担う人材とは全く異なるスキルが求められます。技能人材として要求される、技術や日本語の認定基準も高いです。一方、受け入れ人材のハードルを下げた「技能実習」だと、あくまで「外国人労働者に技能を取得してもらい、母国で日本にて取得した技能を活かしてもらう」ということが主眼のため、最大で2年間という期限があります。そのため、「技能」と「技能実習」の中間となる制度が各方面から求められました。
そこで、当初のオリンピック開始前に行われたのが、「特定活動」という在留資格を新設、活用した人材の受け入れの制度です。特定活動の在留許可を取得するためには、下記の条件が必要となります。(出典:厚生労働省 建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置(外国人建設就労者受入事業))
この制度が本格的にスタートしたのは、平成30年(2018年)です。在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」の創設がなされました。
まず、構想当初の2015年はどのような制度・対象者だったかを整理します。オリンピック・パラリンピックの建設需要に対応する人材の確保を目指し、下記の通りの制度となっていました。
- ・建設分野における技能実習終了の経験がある
- ・一旦本国に帰国している
- ・再入国後は、技能実習生という立場ではなく、正式に事業者と雇用関係を締結する
- ・制度期間は2020年度までに限ると定められている
- ・計画上は、法務省による在留資格審査を経て、令和3年3月31日までに入国して就労を開始する事となっている(2021年1月中旬現在)
さらに、平成30年には、建設業界だけではなく、他の業界も含めた特定技能制度の導入により、さらなる制度変更がありました。特定技能は特定技能1号、特定技能2号と2つに分類されるようになりました。特に、重要な人材として見なされている特定技能2号については、これまでと異なり家族の帯同も許可される可能性があるなど、技能実習から大きく枠を広げた変更がありました。
違い | 技能実習1号 | 技能実習2号 | 技能実習3号 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
---|---|---|---|---|---|
定義 | 技能等を修得し、祖国に活かすこと | 技能等に習熟し所定の試験に合格すること | 技能等に熟達し、実技も含めた試験に合格すること | 特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格 | 特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格 |
期間 | 1年間 | 2年間(1年ごとに更新必要)、第3号技能実習開始前または開始後1年以内に一旦帰国 | 2年間(1年ごとに更新必要)、その後帰国(技能実習としての在留は最大通算で5年までになる) | 1年,6か月または4か月ごとの更新,通算で上限5年まで | 3年,1年または6ヶ月毎の更新とされ、「通算の上限がない」ため、実質定住に近い形で在留することが可能 |
求められる技能水準 | 特になし | 実習生が学科と実技試験に合格 | 実習生が実技試験に合格 | 試験等で確認(技能実習2号を終了した場合は外国語免除) | 試験等で確認 |
日本語能力 | 実習期間などで学習するが、試験はない | 学科試験に合格 | 特になし | 日本における生活や業務に必要な日本語能力を試験で確認(技能実習2号2号を終了した場合は外国語免除) | 特定技能1号の認定を得ているため、試験等での確認は行わない |
家族の帯同 | 基本的に認めず | 基本的に認めず | 基本的に認めず | 基本的に認めず | 配偶者・子どもに関しては、要件を満たせば可能 |
外国人労働者受け入れ機関または登録支援機関の支援 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 | 不要であり、支援の対象外 |
対象となる産業分野 | 80職種144作業 | 左と同様 | 基本的に左と同様だが、一部職種で対象とならない業種がある(例:ビルクリーニング・リネンサプライなど) | 人員が少ない特定産業分野とされる、介護、ビルクリーニング、素形材産業産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業 | 建設、造船・舶用工業の2分野のみ |
以上の通り、特定技能に認定されるには、非常に厳しい基準があります。特に、家族を帯同し実質的に定住することも可能な特定技能2号は、条件・業種とも厳しく限定されています。
1-3 新制度による外国人労働者の受け入れの現状
ここまでが、コロナ禍発生前に決まっていた外国人労働者受け入れの変更ですが、現在は様々な状況が一変しています。
法務省の統計では、令和元年度末における技能実習生は、410,972人になります。技能実習1号から技能実習2号への以降は、平成29年時点でのデータまでしか現在公表されていません。平成29年の技能実習生274,233人の中で、技能実習2号への移行者は86,583人と、技能実習生の中で3分の1が技能実習2号へ以降しているため、現在も多くの割合で技能実習2号に移行していることが考えられます。加えて、技能実習3号への移行も進んでいることが推測されます。
技能実習生の受け入れが多い国上位五位を並べると、下記の通りになります。
- 1位 ベトナム(過半数を超える)
- 2位 中国
- 3位 フィリピン
- 4位 インドネシア
- 5位 タイ
以上となります。
上記の通り、これまでの技能実習生の受入数は世界全体から40万人以上と相当数にわたるわけですが、新型コロナの影響で、「実習生が本国へ帰国できない」「技能検定の受検が速やかにできない」などのトラブルが発生しています。
上記のようなトラブルに対し、出入国在留管理庁は、下記のような措置を設けています。
状況 | 措置 |
---|---|
本国への帰国が困難 | 「特定活動(6か月・就労可)」または「特定活動(6か月・就労不可)」への在留資格変更が可能(これまでと同一の業務か、従前と同一の業務に関係する業務(技能実習で従事した職種・作業が属する「移行対象職種・作業一覧」の各表内の職種・作業」で就労帰国できない事情が継続(出入国制限)している場合は、更新を受けることが可能 |
技能検定等の受検ができないために次段階の技能実習へ移行できない | 受検・移行ができるようになるまでの間,「特定活動(4か月・就労可)」への在留資格変更が可能 |
実習先の経営悪化等により技能実習の継続が困難となり、新たな受け入れ先が見つからない | 特定技能外国人の業務に必要な技能を身に付けることを希望するなど一定の条件を満たす場合、特定産業分野(介護,農業等の14分野)で就労が認められる「特定活動(最大1年・就労可)」への在留資格変更が可能。予定された技能実習を修了した技能実習生であって,本国への帰国が困難な人も対象 |
その他 | 技能実習2号を修了→移行準備の間,「特定活動(4か月・就労可)」への在留資格変更が可能「技能実習3号」への移行を希望→優良な監理団体および実習実施者の下であれば,「技能実習3号」への在留資格変更が可能 |
上記の通り、コロナ禍という状況を踏まえて、従来よりも柔軟な対応がなされています。
また、諸外国への出入国に対しては、外務省ホームページにも示されている通り、多くの国で入国制限措置・条件や行動制限措置を取っている国が多々あります。技能実習生の受け入れが多い上位5カ国のベトナム・中国・フィリピン・インドネシア・タイについては、2021年1月19日現在、全て入国制限措置が取られています。各国で取られている措置は、2021年1月19日現在、以下の通りです。
国名 | 制限 |
---|---|
ベトナム | 原則2020年3月22日から、全ての国・地域からの外国人の入国を停止する。ただし、専門家、企業管理者、高技能労働者等特別なケースはビザを発給 |
中国 | 新型コロナPCR検査陰性証明書が必要など、一定の条件を満たすケースでビザ発給 |
フィリピン | 2020年12月30日から2021年1月31日までの間、新型コロナウイルス変異株が確認されている日本を含む国・地域からの外国人の入国を禁止 |
インドネシア | 2021年1月1日から2021年1月25日までは、入国が認められるのは一時滞在許可(KITAS)や定住許可(KITAP)の保持者のみで、PCR陰性など、所定の要件、自主隔離などが要される。 |
タイ | 条件付きで渡航可能であるが、全ての渡航者は、タイ入国前の入国許可書の取得等および入国後の14日間隔離等の入国条件・行動制限に従うことが必要である |
以上の通り、入国禁止か、入国条件に対する厳しい制限が付されており、研修生・特定技能労働者の出国は、極めて難しいケースが多く、入国にも制限が付くと推測されます。
1-4 技能実習制度に関する課題
外国人の受け入れに関して、技能実習制度は「実習生の受け入れ」だけでなく、「これから育てる労働者の受け入れ」という側面も存在します。技能実習制度の元々の目的は、海外の若い労働者に、技術や知識を習得してもらい、帰国後にその技術を母国で発揮してほしいということが本来のあり方ですが、実質的、安価な労働者の確保となっている点は否めません。
一部の企業・団体では不当な扱いがあったり、実習生が様々な理由で逃亡するなどの事態が起きているという現状もあります。
技能実習に関する課題に関しては、様々な期間から是正・改善・自主規制の動きが出ています。ただ、実効性のある対策となること、また、来日した実習生に負の印象を与えないこと、安価な労働力として扱わず、教育するための人材としてしっかりと育てることなど、今後さらに技能実習に対する負の印象が広がらないようにする必要はあると言えます。
1-5 建設産業の課題
ここまでは、技能実習生や特定技能など、入国管理上の制度に関して触れました。ここからは、国土交通省の「建設就労者受入事業について」という資料を踏まえながら、そもそもなぜ外国人労働者が必要とされているのかについて、さらに掘り下げていきます。
まず、建設産業の課題を再度整理します。
課題 | 具体的状況 |
---|---|
国・地方自治体の建設投資そのものの減少 | 建設投資の減少により、建設企業の倒産が発生したり、地域によっては雪かきができない、破損した建築物や道路、その他インフラ整備ができないなどの問題が生じている |
技能労働者が建設業界から離れる | 業種の多様化や企業の倒産・縮小により、建設業界を離れ、多業種に移行したり、年齢の関係で退職・引退する人が増えている、また熟練技能者の技術が承継できない |
建設企業の処遇改善(特に中小零細)が進んでいない | 中小零細の場合は、処遇が良くない会社も存在するため、もっと楽で、儲かる仕事に労働者側がシフトしている。確かに、業界として、社会的意義を示すことは重要である。それ以前に労働者は生活者でもあるので、重労働・高賃金であればともかく、重労働・低賃金であれば若年層から敬遠されるため、やはり相応絵の賃金を支給できる効率化・利益率の向上は課題である。それでも取れる人材を、となると様々な意味で課題のある人材を取らざるを得ない |
担い手不足という現実の発生と今後の悪化 | 現在における担い手不足の状況は、今後も悪化していくことが明白なため、現在の外国人労働者受入に加え、中長期的観点で施策が必要になる |
建設業事態のイメージが、旧態依然としている | 建設業が3K(きつい・きたない・危険)というイメージがまだ一部で残っており、その印象が十分に払拭し切れていない |
Con-tech(建設業テック)のように、ITを用いて現場を効率化する取り組みが、普及しきっていない | 建設現場は、ITに対応可能な現場・事業者と、対応が難しい現場・事業者に二極化しており、旧来の手法にこだわる事業者や、教育でも昔の「背中を見て盗め」という考え方の事業者・労働者も存在する |
男性社会で女性が入りにくい | 様々な意味で現場は男性社会の為、女性が活躍しにくい職場も依然として存在する。また、男性社会におけるコミュニケーションが、女性から見るとパワハラ・セクハラなどにあたるケースも想定される |
この他にも様々な課題があると推測されますが、社会のIT化と、建設業界が昔から積み重ねた商慣習の乖離が発生しているということも思わされます。
1-6 OTIT外国人技能実習機構と技能実習生マニュアル
OTIT(Organization for Technical Intern Training):外国人技能実習機構という、政府の認可を受けて設立された外国人人材の技能実習を主とした団体が存在します。外国人技能実習機構では、技能実習計画の認定、実習実施者・監理団体への報告要求、実地検査実習実施者の届出の受理、監理団体の許可に関する調査、技能実習生に対する相談・援助などを行っています。
同時に、中国語・ベトナム語・フィリピン語・インドネシア語・タイ語・英語・カンボジア語・ミャンマー語での母国語相談も行っています。加えて、技能実習生安全衛生対策マニュアルという建設業向けマニュアルも作成しています。
このマニュアルには、建設業における外国人労働者における課題を始め、様々な要素が詰まっています。重要な点をピックアップします。
建設業における外国人労働者の課題 | 具体例 |
---|---|
言葉が通じない・通じにくいなどのコミュニケーションが取りにくい | 日本人同士であれば、言葉が通じたり、ニュアンス・非言語コミュニケーションで、「これはよい」「これは危険である」などの指摘がしやすい。しかし、外国人労働者の場合、言語に関する理解の幅が大きいため、外国人労働者側が理解しきれないところがある |
日本の教育制度の中でおそわったことや、日々のニュース等に接しているからこそわかる危険な事象が、わからないときがある | 高所からの転落・機械への巻き込み、オペレーションミスや、建設資材の扱い、アスベストなど有害物質の扱い等、日本人であれば前提となっている条件が、外国人だと通用しないケースもある |
雇用者・外国人労働者双方に求められる法令遵守 | 雇用者側が、労働基準法や安全衛生基準法、労働者災害補償保険法を遵守する(労働災害を発生させない安全配慮に加え、万一労災が発生しても労災隠しをしない)ことや、適正な賃金を外国人労働者に支払う、相応の快適性がある住居などを用意するなどの法令遵守は当然である。加えて、外国人労働者側にとっては、「母国で当たり前に行っていることが、日本では法律・条例等に反する」ということがあり得ることを、教育機関・事業所ではしっかりと教えていく必要がある |
体調不良や疲労による注意不足に注意する必要性 | 外国人労働者の場合、怠けるケースは論外としても、過度に働きすぎたり、疲労があったり心身に不調があっても、状況を他のスタッフに伝えられないことも想定できる。心身とも健康に作業できるよう配慮することが欠かせない |
文化の違いの尊重 | 特に外国人労働者を受け入れる上で注意すべきは、相手国の文化・宗教などアイデンティティに関わる部分に細心の注意を持って配慮することである。宗教や国によっては、飲酒や豚肉などを行わない、ハラール認証の食べ物以外を食べさせない、礼拝の時間には必ず礼拝のための休憩・場所を確保する、相手国の文化・宗教を尊重するなど、ともかくこの点に関しては最大の尊重をする。文化・宗教は人間に取ってアイデンティティであるからだ。この配慮を現場責任者・指導員・作業者が「この人はこういう文化的背景があるから、尊重し、特に文化・宗教については理解をしよう」という共通認識を持つことが重要。 |
暴力を始めとする身体的な接触を伴う指導はしない | 昔の建設現場では、危険を避けるために、問題行動があれば拳が飛ぶ現場もあった話は聞く。しかし現在は、パワハラ・セクハラなどが厳しく糾弾される社会情勢である。ましてや意思疎通が難しい外国人労働者労働者に行うなどは論外。事務所・現場で不適切な接触指導がないよう目を配る必要がある |
安全衛生対策の強化 | 外国人労働者は、受入施設などで日本語教育などの座学は受けていても、実際のオペレーションでは、思い通りにできるとは限らない。日本人でも運転免許を取る際、講義を受けて自動車に乗るという段階で戸惑った人もいるであろうが、外国人労働者は、見知らぬ国で、見知らぬ文字が溢れた現場で働くため、絵や図の活用、映像教材の活用(場合によってはVRなども)を通し、安全対策を行う必要がある |
緊急時に「緊急事態」であることを理解させる | 日本語に通じていれば、「危ない」「逃げろ」「そこはいっちゃダメ」などの、「べからず」ワードが瞬時に理解できる。外国人労働者の場合、危険な事態にあっても、「危ない」と言われていることがわからない可能性がある。建設現場での重大インシデント発生時に、瞬時に「回避する」という行動が取れなければ、大事故に繋がるおそれもある。緊急時ワードの教育や、緊急連絡先への連絡方法などは、十分過ぎるくらいに繰り返す必要がある |
外国人労働者が体調不良を伝えにくいことへの配慮 | 外国人労働者が体調不良になった場合、「自分がどういう症状なのか」を医師や職場などに正確に伝えることが難しいケースがある。違和感を感じたら、すぐ病院を受診させると共に、受入機関等で通訳を担当する人を介した医師とのコミュニケーションなど、体調を悪化させる前に対応、気軽に相談できる体制作りをしていく |
衛生面・周囲への配慮 | 外国人労働者の場合、宿舎・寮などでまとまって暮らすケースが多いと思われる。それ故に、母国との求められる衛生レベルの違い、ゴミ出しや道路でのマナー・宿舎・寮近辺で近隣住民の迷惑になるコミュニケーションを行ったり、ゴミ捨て等の問題により、周囲と軋轢を起こさないように配慮する必要がある。また、宿舎が「事業附属寄宿舎」に当たる場合、寄宿舎で発生した事故・疾病が労働災害と認定されるケースもあるため、特に注意する必要がある |
メディアの情報・生活上の注意を伝える | 暑いときは高温注意報、雪の日には積雪注意報などで、それぞれ熱中症・積雪・路面凍結に注意する必要がある。また、2020年から流行している新型コロナに関しても、予防策や感染するとどのような症状が発生するか、医療機関のかかり方はどうするかなど、各種注意事項を繰り返し教える必要がある |
化学物質の取扱について注意する | 有機溶剤・特定化学物質・鉛・アスベスト・粉塵・一酸化炭素中毒など、事故に繋がる物質の取扱については、厳重に、繰り返し教育・注意喚起を行う。得に、知識がない労働者には、なにが問題のない物質で、何が有毒物質かもわからない。 |
この他、上記マニュアルには様々な現場での注意事項が書かれていますので、外国人労働者を雇用する組織では、ぜひ全体を一読することをお勧めします。
1-7 特定技能の在留資格にかかる資料から見る、今後の運用
特定技能の在留資格に関し、平成30年12月の閣議決定において、「特定技能の在留資格にかかる制度の運用に関する方針について」という資料があります。当該資料で、「別紙6 建設分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」という資料がありますので、こちらを整理し、今後の特定技能在留資格の運用における方向性も見ていきます。
まず、資料の中から伝わることは、「建設業界に従事する絶対的な人材の少なさ」です。人材を確保することが困難な状況にあることを、明確に提示しています。危機的な現状を踏まえ、外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に関して、「建設分野」、つまり、建設関係全体が人不足なのだということを、踏み込んで述べています。また、これまでやれること、例えば生産性向上や、国内人材の確保は最大限行ってきているということを示しています。
具体的に行われた取り組みを整理します。
◯生産性向上のための取り組み
・2025年度までに建設現場の生産性を2割向上させるという目標設定
・施工時期の平準化
・新技術導入やICT等の活用によるi-Constructionの推進、建設リカレント教育や多能◯工化の推進等による人材育成の強化
・今後、建設生産・管理システムのあらゆる段階におけるICT等の活用
・建設キャリアアップシステムを活用した現場管理の効率化等の取組
◯国内人材確保のための取り組み
・公共工事設計労務単価の引上げ(それに連動した、建設事業者の利益向上や労働者の待遇向上)
・社会保険の加入徹底等による建設技能者の処遇改善
・建設キャリアアップシステムの構築等によって建設技能者の就業履歴や保有資格を業界横断的に蓄積
・適正な工期設定・施工時期の平準化等による長時間労働の是正等、建設業における働き方改革の推進
このような取り組みをしている一方で、「それでは、なぜ外国人労働者を積極的に受け入れる必要があるのか」という課題に対しては、既に発生したと推測される事象も含め、下記の理由を挙げています。
・高齢の熟練技能者の大量引退
・資料作成当時の見込みでは、平成30年度には建設技能者約329万人、2023年度には
約326万人へと建設業従事者が減る一方、必要となる労働力は、平成30年度は約331万人、2023年度には約347万人と、平成30年度時点でも約2万人不足するのに、2023年度時点では約21万人と大幅な不足が発生することが推計されている
・平成29年度の建設分野の有効求人倍率は4.13倍である
・上記を踏まえ、特定技能外国人を受け入れ、向こう5年間で21万人程度の人手不足が見込まれる中、毎年1%程度(5年間で16万人程度)を受け入れる
また、外国人材の受け入れに関する懸念も踏まえ、下記の措置・配慮もされています。
・外国人の雇用形態を直接雇用に限る
・治安悪化のないよう、関係機関と情報共有
・特定技能外国人が大都市圏や特定地域に集中することとならない措置
資料全体からシンプルに、「建設業界が人材不足であり、日本人に加え、外国人労働者の確保も欠かせない」ということが伝わります。
1-8 出入国在留管理庁の最新データからみる現状
出入国在留管理庁では、令和2年6月末現在における在留外国人数の最新データを公開しています。まず、全体における令和2年6月末の在留外国人数は,288万5,904人で,前年末に比べ47,233人(1.6%)の減少を示しています。
この中で、特に建設業界にかかる部分を見ていきます。建設人材等、特に増加が要される人材を確保するために創設された特定技能に関しては、令和元年末の1,621人から、令和2年6月末には5,950人(現在は制度の関係上、全員特定技能1号)と、267.1%の伸びを示しています。(その中での建設事業従事者の割合は示されていません)
また、技能実習においては令和元年度の410,972人から、令和2年6月末で402,422人と-2.1%の微減となっています。特定技能について、半年間で約267%の伸びを見せたというのは大きいと言えます。
1-9 外国人を受け入れる建設会社は、どのような会社が多い?
これまで外国人労働者を受け入れる建設会社は、「技術習得に熱心で、労働を通した技能実習や、ベーシックな現場作業を担ってくれる人材」として受け入れるケースが多かったように見受けられます。言い方を変えると、勤勉で安価な労働力を求めていた会社や、日本人から様々な事情で敬遠され、人手不足に困っていた会社が多いとも言えます。
その中で、技能実習生を育てようとする真面目な受け入れ機関・建設会社がある一方、体制や様々な点で課題のある受け入れ機関・事業者が、時折ニュースを賑わすこともありました。
しかし、日本という国自体が、アジアだけでなく、全世界でプレゼンスを低下させつつある現在、以前のように「外国人労働者が日本を魅力的な国と思ってきてくれる」という状況では、年々なくなりつつあると言えます。
特に近年は、ベトナムからの技能実習生が、様々な業界で問題のある扱いを受けたり、様々な事情で職を失ったベトナム人が事件など問題行動を起こす(起こさざるを得ない環境まで追い込まれてしまう)など、在留外国人がコロナで職を失い、何らかの問題を起こしニュースになるケースも散見されます。
ただ、多くの外国人労働者は真面目に働く存在であるということは、強調します。特に建設業界の中でもとび職・鉄筋工など、体力が必要で、ケガの可能性が高い業種には、日本の若者は携わりたがりません。一方、海外の若者の場合は、様々なものを背負って日本に来ていますので熱心に働くケースが多いと言われます。
コロナ禍で、建設業界も大変な時期であります。その中で人手が足りない分野・地域は存在し、手間はかかるものの、現在は同業種で転籍をできる制度が整備されるなど、せっかく日本に来た外国人労働者が労働できない状況を無くすという施策は行われています。(同時に転籍に手間・時間がかかるなど課題なども指摘されています)
やはり現状としては、特定技能を持つ外国人労働者は別として、技能実習生として日本へ来た外国人は、日本人労働者がカバーしきれない部分を担っていると言えます。
農業・漁業(生産・加工)や縫製など、コストなどの問題で外国人労働者でないと成立しない分野というのも存在します。
1-10 外国人労働者の労働環境に関する課題
外国人労働者の置かれた状況を考える上で、気になる統計があります。「外国人技能実習生の実習実施者に対する平成31年・令和元年の監督指導、送検等の状況」にかかる公表ですが、労働基準関係法令に違反する事業所がけして少なくないという統計です。
労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,455事業場(実習実施者)のうち6,796事業場(71.9%)になるという結果、もちろん監督指導が入るわけですから、何らかの問題を内在する可能性が高い事業所であるという可能性はありますが、監督指導を実施した7割の事業所に法令違反があるという状況、しかも件数が1年で7千件に近いというデータは、軽視できないでしょう。
また、主な違反事項としては、下記の事項が存在します。
- 1位 労働時間(21.5%)、
- 2位 使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準(20.9%)、
- 3位 割増賃金の支払(16.3%)
- 4位 賃金台帳の不備(11.5%)
- 5位 就業規則の不整備(8.9%)
など、労働時間に関する問題の割合や、業務の内部管理体制が不充分な指摘のパーセンテージが高いところに、重い課題を感じます。
ただ、監督指導を受けた業種の割合としては、建設業界は3位となっています。順位を列挙します。
監督指導を受けた業界における違反事業場数
- 1位 機械・金属 2,134事業所
- 2位 食料品製造 1,117事業所
- 3位 建設 1,048事業所
- 4位 繊維・衣服 550事業所
- 5位 農業 378事業所
建設業界が違反した事項の上位3位は、以下の事項です。
- 1位 賃金台帳の不備 358件(27.2%)
- 2位 割増賃金 357件(27.1%)
- 3位 賃金の支払 290件(10.5%)
以上の通り、賃金絡みの監督指導が多いのが実情です。なお、建設業では重大な事例は記載されていませんが、業種によっては、事業者の逮捕・送検に当たる事例もありました。
個人経営の縫製業で、基本給が時間額換算で450円、時間外労働が法定割増率を下回る時間額換算500円、虚偽の賃金台帳の提出、事業主の賃金不払いはないという供述などから、事業者を逮捕・送検(起訴されると裁判になり、懲役・罰金などの判決が下る可能性もあります)
技能実習生ではなく特定技能など、一定の戦力となり、かつ日本人と同等以上の賃金支払いが求められるケースになると、労働実習という枠組みから外れることや、雇用主などの信頼関係構築・適正な報酬の支払いなど、しかるべき待遇は行われているかと思われます。技能実習生の問題に関しては、以前、そして今後もどのように適正な待遇を行うか、各種機関や海外との連携などは課題となってくると推察されます。
1-11 海外からみた特定人材制度と日本
特定技能制度に関しては、現状と目指す方向性の乖離があるという意見もあります。Wedge Onlineの記事では、「「特定技能」外国人はなぜ増えないのか?」という率直な問題提起をしています。
当初は5年間で最大34万5000人の受け入れが見込まれつつも、導入から丸1年が経った2020年3月時点で、資格を得た外国人は3987人に過ぎないとしており(その後、前述の通り6月末で5.950人)、特定技能人員確保の上で最も期待されたのが「ベトナムでありながらも、日本とベトナム間で考えの相違や問題があり、加えてベトナム人も、日本に魅力を感じていない、永住を望んでいない人が相当数おり、また特定技能の試験のハードルの高さと、賃金の課題などもあり、想定通りには進んでいないという状況が指摘されています。
やはり、日本が外国人労働者を「安価でよく働く人材」とだけ見ていれば、相手国側も「この国に働きに行ってこういうひどい目にあった」と広がり、優良な人材確保は望めないです。外国人労働者の日本への適応に配慮を見せる経営者がいる一方、制度を違法にならないギリギリのラインで利用するという姿勢が日本側に少しでもあるようでは、今後の外国人労働者の受入は伸展しない可能性が生じます。
2 まとめ
ここまで、建設業における外国人労働者の受け入れについて、様々な角度から見てきました。現実問題として、建設業界は労働力不足・技術者不足という問題に直面しています。解決策として、外国人労働者の適用、特に特定技能人材の育成などが重要課題です。
今後日本の労働人口が更に減少する中で、外国人労働者の力なしに建設業を成立させることは、よほどロボティクス・IoTなど建設現場のITによる進化がないと難しいでしょう。各種送り出し機関の厳格な管理や厚生労働省・国土交通省を始めとする官公庁・地方自治体による、外国人労働者の保護・待遇向上などを真剣に考え、日本に来て良かったと思える体制に変えていかない限り、外国人労働者の受入を更に増やしていくことは難しくなる可能性があります。
現在でこそ、新型コロナで移動が制限されている現状です。外国人労働者にとって、日本で技能実習を受けることや働くことが魅力的でなければ、他の欧米・アジアの国が選択肢として選ばれます。様々なメディアを通し、外国人労働者に関する課題が提言されている現状で、官民一体となった、外国人労働者の受入の健全化に関する取り組みを進めていくことが重要です。