建設業でチャットGPTやバードなどの生成AIはどう活用できる?
生成AIの一つであるChat-GPTが世界的に注目され、日本でも学生でのリポート作成や行政における利用の検討などで話題となりました。現在、ビジネスの分野では様々な生成AIモデルが登場して各産業での利用が進みつつあります。
そこで今回の記事では、建設業での生成AIの活用を取り上げます。生成AIの特徴、タイプ、できること、導入・利用の仕方のほか、建設業での生成AIの活用方法や注意点などをご紹介するので、建設業での起業、業務の自動化・効率化、新事業開発などに生成AIを活用してみたい方は参考にしてみてください。
1 Chat-GPTを含む生成AIの特徴
そもそもAIとは、一般的に「人間が有する様々な知覚や知性を人工的に再現する、模倣するシステム」と認識される技術や仕組です。もう少し説明を加えると、音声認識、意志決定、視覚など、人間の知能・知覚に関連するタスクをコンピューターシステムが学習して実行する仕組とも言えるでしょう。
具体的には、コンピュータが情報を解析、推論、判断、計画をするほか、最適化案の立案、課題解決の提案、データから有望な知識の発見(学習)などを行うことを指します。
AIの利用方法の身近な例としては、人間とAIシステムによるチェスや将棋等の対戦、お掃除ロボット、Google翻訳、SiriやAlexaなどのバーチャルアシスタント、などが挙げられるでしょう。
ビジネス・産業においては、自動車の自動運転、メールフィルター、生産ラインの不良品検知、各種の産業用ロボット、クレジットカード等の不正利用検知、などが挙げられます。
AIをビジネスで活用するメリットとしては、「業務のプロセスとタスクの自動化」「ヒューマンエラー等のミスの削減」「生産性の向上や運用効率の改善」「リアルタイムデータの利用による意思決定の改善(迅速化・補助、自動化 等)」「大規模・多種多様なデータの解析・学習によるニーズや事業機会等の発見」などが挙げられ、既存事業の改革や新規事業の開発を導く機能としても活用されているのです。
そして生成AI(または生成系AI)とは、ジェネレーティブAIとも呼ばれており、テキスト、音声や画像など多様なコンテンツを生成できるAIを指します。
従来のAIの利用方法は主に特定のプロセスやタスクの自動化を目的として使用されるケースが多いです。また、従来AIは、事前に大量の学習用データを与えて特徴や傾向を掴み、入力したデータに対して学習結果の特徴や傾向に該当するかしないか、正解か不正解かであるかを判別する・予測する、などに利用されます。
一方、生成AIは学習データや他の情報を入手して、それらのデータの規則性や構造を学習し、同様の特性を持つ新しいデータ、新しいコンテツを生成(創造)することを主な目的するシステムです。
生成AIは新たなアウトプットを生成・創造することを目的とするAIであり、学習したデータをもとに人間のように考えて問題を解決したり、創造的なアイデアを生み出したりできます。
1-1 生成AIの主な活用内容
ここでは生成AIの主な利用内容や「できること」について確認していきましょう。
1)生成AIのタイプや用途
生成AIは以下のようなタイプがあり、「文章の作成・要約」「コード(プログラム)生成」「画像生成」「音声・音楽生成」「動画生成」などに利用されています。
●総合型:
このタイプは、GPT-3.5(入力された単語の次に出力される単語予測を繰り返し、文章を生成していく言語モデル)等を使用エンジンとして、対話型で文章を自動的に生成するタイプです。例えば、ChatGPTやBardなどになります。
●翻訳特化型(分野特化型):
これまでにディープラーニング技術を使ってある言語から他の言語への翻訳を行う機械翻訳として「ニューラル機械翻訳技術」が利用されてきましたが、幅広い領域のコンテンツを学習元として活用する生成AIのモデルが見られるようになりました。
生成AIモデルは、翻訳専用にチューニングされた従来のニューラル機械翻訳モデル以上に高い精度の翻訳が可能となっており、特に前後の文脈やトーン(語調・書き振り)を踏まえた文章の出力が優れています。
具体的なサービスは、T-tact AN-ZIN®、ロゼッタ、ModernMT などです。
●要約特化型:
このタイプは要約に伴う様々なタスクを自動で処理する機能を保有し、学術論文など大量の情報を扱う者等に利用されています。サービスは、Catchy、QuickSummary、ELYZA DIGEST などです。
●マーケティングライティング(AIライティング):
マーケティングに適した文章を自動で生成するタイプは、AIライティングアシスタントサービスなどと呼ばれています。商品等の認知向上や集客の増進のための広告文書を迅速に自動作成するもので、サービスはJasper、Rytr(ライトル)などです。
●コーディング支援:
このタイプは、プログラムのソースコードを生成するAIになります。ゼロからコーディングを作成するという使い方ではなく、主に開発者のコーディング作業を補助し生産性を高めるのに利用されています。
主な機能は、指示されたタスクに対して、既存のコードや自然言語プロンプトに基づきコードシーケンスを予測して自動的に適切なコードを生成することで、サービスはTabNine、Hugging Face などです。
2)対象となる目的やタスク
生成AIは、定型業務の自動化・効率化、クリエイティブな業務の支援、コンテンツの作成、などの業務に利用され、企業の売上の増大やコストの削減などに役立っています。
対象となるのは以下のようなタスクです。
●テキスト生成
例えば、「謝罪メール等の作成」、「短編小説の執筆」、「商品説明書の作成」などが挙げられます。
⇒「○○という件名の謝罪メール内容を作ってください。」と入力すれば回答が得られるでしょう。
●画像生成・動画生成
「自分の写真からアバターを作る」、「ボートに乗っている犬のイラストを描く」などが可能です。
動画生成AIでは、入力した動画を全く別の動画にしたり、作りたい動画の内容をテキストで指示して、短編動画を作ったりすることもできます。
●音声合成
「電車やバス等の車内アナウンスの音声を作る」、「空港や駅などの構内アナウンスの音声を作る」、「アバターやゆるキャラの声を作る」、「スマートフォンで閲覧したニュースを読み上げる」、「英語の発音をチェックしてもらう」などが可能です。
●自動翻訳
一般的には、生成AIに英語等の文書を日本語に翻訳する、日本語の文書を外国語に翻訳する、などの指示を出して利用します。特定領域・専門分野の翻訳ではその分野に適したAIモデル(サービス)を使用するのが望ましいです。
使用方法は、「以下の文章(日本語)を英語に翻訳してください。」と入力すれば即座に返答してもらえます。
●自動要約(解説)
例えば、論文やニュース記事の要約などでの利用が可能です。また、特定の内容について解説させたり、講演の文字起こし記事を要約させたりすることもできます。
通常、生成AIに「次の文章を500字以内で要約してください。」や「生成AIについて500字以内で解説してください。」といった内容で利用するケースが多いです。
●プログラム生成
生成AIは、プログラム生成・プログラム解説生成・プログラム問題生成などのプログラミングに対応できます。
プログラム生成は、自然言語で記述された文章についてソースコードを生成することを指し、生成AIのモデルの中にはこのプログラム生成が可能です。
また、人間が作成したプログラムコードをレビューさせることも可能で、人間がレビューするよりも短時間で済み、ミスを低減できるため、プログラミング業務の効率化が期待できます。モデルの中には、人間が作成したコードを実行し、エラーをバグとして特定し自動で修正を加えるタイプも登場してきました。
3)ビジネスでの「できるること」
生成AIの「ビジネスでやれること」について確認しましょう。
(1)できること
●業務の効率化や自動化
生成AIを活用して定型業務の自動化や効率化を図ることが可能です。例えば、以下のような業務を対象にすると効果が得やすいでしょう。
- メールの自動返信
- テキストの自動生成(企画書やプレゼンテーション、議事録、FAQの作成 等)
- データの自動分類や編集・校正
- 画像の自動分類
- ビジネス文章の要約
- ビジネス文章の翻訳
例えば、生成AIを活用すれば、社内会議の録音データをテキスト化して議事録にできます。お客様相談センター等での顧客との会話を録音したデータを文字起こししてシステムに登録しマーケティングに活用する、といった利用も可能です。
なお、生成AIは完全に人間の代わりを果たせるわけではなく、生成AIを活用する際のデータの品質やセキュリティなどにも注意しておかねばなりません。
●膨大な学習データに依存しない判定・予測
従来のAIは結論を導く、予測するのに膨大な学習データを必要としていましたが、生成AIはそれを前提とせず、学習データを活用しつつ既存のデータを入手・活用しながら予測を立て、答えを導き出すことが可能です。
これまでAIシステムは、各々の目的を実現するために膨大な量の学習データを読み込ませ、その情報から特徴やパターンを発見してその傾向を認識するという機能を実現します。
従って、読み込んだ学習データを前提とする従来AIは通常、人間がこれまで経験したことのない分野や珍しい事象に対して、データを自ら収集して判断していくことができません。
他方、生成AIは、そうした新規の膨大な学習用データを条件とせずに、入手可能な既存のデータを集めて予測を立て、判断していくことができるため、幅広い問題の解決や業務の開発などに活用できます。
●クリエイティブな仕事の支援・補助
生成AIは、定型業務の自動化等に有効であるほか、クリエイティブな職業や業務の支援・補助にも役立つでしょう。具体的には、デザインや設計案の作成の支援・補助などが挙げられ、クリエイティブな職業の一部も生成AIに代替される可能性は小さくありません。
現在においては「既存のものを組み合わせて、利用して新たものを作る」ということが「創造」として認識されるケースも多いため、生成AIはクリエイティブな仕事に対応できる要素があると言えるでしょう。
画像でも音声でも既存のデータを利用することで新しい作品を制作することが可能であり、それに生成AIが利用されているのです。例えば、画像でも音声でも人間のクリエイターが「こんなイラストを描きたい」や「こんな楽曲をつくりたい」とAIに要求すれば、それに必要なものを抽出してくれます。
クリエイターはそうして得られた産物を利用して最終的に作品を完成させることが容易になるのです。人間がクリエイティブな仕事に従事していると、無意識のうちに経験則や先入観の影響を受け、独創性や新規性の創出を妨げることが良く起こります。
生成AIを活用すれば、そうした影響を取り除き、独創的な成果物を創出しやすくなるでしょう。
●コストの削減
生成AIを業務で利用すれば、自動化や効率化が進み、結果として業務コストの削減に繋がるほか、各種のコンテンツ制作のコストや時間も大幅に削減できます。
例えば、製造業の製品開発業務で生成AIが利用され始め、その開発期間が大幅に短縮し、開発コストが大きく減少している例が見られるようになってきました。
需要の確認、商品コンセプトの提案、ターゲットの設定などのサポートとともに、製品のコスト、質量、材料、設計時間、製造時間を最小限に抑えた効率的な生産方法を提示してくれるのです。
また、生成AIは企業で制作している各種のコンテンツについてもコストと時間の削減に役立ちます。生成AIを活用すれば、自社内で多くの時間を使って作成していたコンテンツを短納期で制作する、外注していたものを社内で制作できるようになるため、大幅なコスト削減が可能になるのです。
例えば、製品のパンフレットやPR用動画などについて、生成AIを利用すれば、外注品にも引けを取らない出来栄えのコンテンツ制作が可能となり、コストダウンも図れるでしょう。
社内で制作することにより、顧客や社員の意見を反映しやすくなり、修正も簡単になるため、より望ましいコンテンツ制作が実現できます。
●パーソナライズの対応
インターネットの普及やデジタル技術の発展により、各顧客に対応したマーケティングが可能となってきましたが、さらに生成AIを活用することで、各顧客等にパーソナライズ(個人等の属性や興味、趣味嗜好、購買行動等に応じた最適な情報やサービス等の提供)した対応が実現できるのです。
つまり、生成AIを利用すれば、各顧客の実情に対応した商品・サービスの最適化や情報提供等が可能となります。例えば、生成AIは、広告文やキャッチコピー、バナー画像などの広告素材を作成できますが、顧客の属性や行動履歴に応じてパーソナライズした広告を提供できるのです。この方法より、広告のクリック率やコンバージョン率の向上が期待できるようになります。
一般の営業業務においても、営業担当者によるメールの作成、提案依頼書への対応(作成)、メモの整理、CRM(顧客関係管理)データ更新、などで生成AIによる支援が受けられるのです。
パーソナライズされたコンテンツや製品をリコメンドし、顧客と繋がるための最適なチャネルの提案等がシステムから提案されるでしょう。生成系AIが、各顧客等にカスタマイズしたコンテンツ制作や営業活動を支援すれば、企業は集客の向上や購買増が期待できるようになります。
1-2 Chat-GPTと利用の仕方
Chat-GPTの概要とその利用法について見ていきましょう。
1)ChatGPTとは
ChatGPT(Chat Generative Pre-trained Transformer:生成可能な事前学習済みチャットボット)とは、まるで人間同士が自然に会話しているように、応答できる対話型AIチャットサービスのことです。
ChatGPTは生成AIのアプリケーションの一種であり、ユーザーが入力した質問(要望)に対して適切な答えを返信してくれます。学生、社会人や企業人等を問わず、生活やビジネスの様々な場面で利用されており、さらなる活用分野の拡大が見込まれているのです。
このAIチャットサービスは、米国のOpenAI社によって開発され2022年11月に初版が公開されました。同サービスは、無料で利用できる上に、生成した文章の優秀さや人間のような回答が評価・注目され、リリース後たった2カ月でユーザー数が1億人を突破したのです。
さらに2023年3月には、性能が向上した「GPT-4」がリリースされ、20ドル/月の有料プランである「ChatGPT Plus」も提供されています。GPT-4は従来型のモデル(使用エンジン:GPT-3、GPT3.5)以上に出力精度が向上しており、ChatGPT(API)を活用することでユーザーは様々なサービスの開発や、コミュニティでの議論、などがより容易になりました。
ChatGPTと従来のチャットボットとの相違点は、「人間が作成したような自然な文章の生成が可能である」や「インターネット上の大量のデータからの学習が可能で、回答領域が幅広い」などが挙げられます。
従来のチャットボットは、受けた質問に対して事前に用意された答えを主に返信するサービスであるため、想定外の質問には回答が難しいです。しかし、ChatGPTは、文意や文脈を理解しネット等(WEBページ、ニュース、書籍、ブログ、ツイートなど)から情報を収集・解析・活用するため、適切な答えを柔軟に返信できます。
例えば、一般的な知識や時事、エンターテインメント、スポーツ等のほか、専門的な科学技術、ビジネス、医療、教育、歴史、文化、などに関する質問への対応も可能です。
しかし、機械学習に基づく技術を使用していて、ネット等の情報を収集・解析しているため、情報の正確性や詳細性に疑問が生ずる可能性があるほか、回答の内容は一般的に保証されるものではありません。また、現在では倫理的な問題やプライバシーの問題がある場合には、回答が得られないこともあります。
2 建設業における生成AIの利用
ここでは生成AIが建設業でどのように利用されているか、その状況を紹介しましょう。
2-1 建設業の生成AIの活用状況
建設業における生成AIの実際の活用状況は以下の通りです。
1)生成AIの活用の程度
株式会社エクサウィザーズのWEBサイトで、同社の行った調査から「ChatGPTなど生成AIを1割弱が「業務で日常的に活用」、金融・保険が9割以上の利用経験、製造は3割が未使用」の記事が公表されています。
この調査では、「ChatGPT」などの生成AIの利用状況が、レベル1(関心なし)、レベル2(関心はある)、レベル3(試しに利用)、レベル4(時々使用)、レベル5(日常的に使用)の5段階で分類され、その結果がまとめられています。
業種ごとの結果を見ると、レベル5は、専門サービス(22.2%)、サービス(13.6%)、IT/Webサービス(12.5%)で1割を超え、卸・小売も7.7%と平均を上回る結果となりました。
一方、製造は2.8%で、建設と電気・ガス・運輸等では0%となっており、これらの業種では「日常的な本格利用が後れている」という実態が明らかになったのです。
建設業だけをみると、レベル5が0%、レベル4が31.1%、レベル3が44.4%、レベル2が22.2%、レベル1が2.2%、となっており、建設業界全体での利用があまり進んでいないことが確認できます。
2)生成AIの活用方針
また、日経XTECHの記事では以下のような調査結果が2023年5月31日に発表されました。
*上記の調査結果は、調査依頼を行った50社のうち、同年5月25日までに回答された計25社の回答結果をまとめた内容です(回答企業の内訳は建設会社が11社、住宅会社が6社、設計事務所が8社)。
調査結果の一部は以下の通りです。
●「生成AI」の業務利用を従業員に認めているか?
回答企業の24%が「認めている」、12%が「対象者や業務内容を限定して認めている」という結果で、利用を認める企業は約3分の1でした。一方、「禁止している」と回答した企業は16%で、最も多かったのは48%の「特に方針を示していない」です。
大手ゼネコンでも対応が分かれており、大成建設や大林組、竹中工務店は利用を認める一方、鹿島は禁止しており、清水建設は「特に方針を示していない」と回答しています。
●「生成AI」の業務利用に関するルールや指針を作成しているか?
業務利用に関するルールや指針の作成状況について質問した結果、「作成済み」が21%、「今後作成する予定」が67%で、回答企業の9割弱が対応を検討しているという内容でした。
「作成済み」と回答したのは、大林組と鹿島、大成建設、竹中工務店、旭化成ホームズの5社です。
以上の通り、建設業界では従業員の「生成AI」に関する業務利用についてはまだ消極的な状況です。建設業で生成AIの活用を進めるには、従業員及び会社全体でどのように取り組むかの方針をまず、決定し社内に示していくことが求められるでしょう。
2-2 建設業の生成AIの活用事例
日経クロステック(XTECH)のサイトの「徹底リポート『生成AI×建設』」などから生成AIの活用事例を紹介しましょう。
1)3次元(3D)モデルの作成ツール
●「大林組のAIツールはビル外観を生成して3次元化もこなす、7月に社内運用開始」
大林組は2023年7月に、AIを活用した設計支援ツール「AiCorb(アイコルブ)」を社内で運用し始めると発表しています。
AiCorbは、手描きのスケッチと建物をイメージした文章に従って、様々なファサード(建物の正面外観)のデザイン案を短時間で生成し、そのデザインを基に3次元(3D)モデルを作成するツールです。
例えば、ラフなスケッチと「湾曲したガラスカーテンウオールが特徴的な、都会的なオフィスビル」という指示に加えて、周辺環境や時間帯などの要素を入力すると、約40秒でそれらを反映したファサードデザインが3枚提示されます。
スケッチとデザインのイメージを文章で指示できるため、発注者の要望に対してより直感的な提案が可能となるのです。
2)情報収集ツール
●「対話でデザインする『AI建築家』構想も、建設向け生成AIを次々に手掛けるmign」
VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用した建築・土木関連のソフトウェア開発に従事する「mign(マイン)」社は、大規模言語モデル(LLM)や画像生成AIを利用し、建設会社などの業務効率の向上を支援しています。
同社は2023年3月20日に情報収集ツールとして使える「Chact」(チャクト)の提供開始を発表しました。これは対話型AIのChatGPTに使用されているLLM「GPT-3 davinci」に、国土開発や都市計画、建築・住宅関連の法令を計429も学習させており(文字数は約65万字)、建設分野の専門的な内容にも対応できます。
追加学習により、これまで質問内容と関係のない回答内容の発生を抑制させており、また関係する法令や情報の収集方法を提示できるようになっているため、建設の計画・設計などの業務効率の向上に役立つのです。
3)AI建設コンシェルジュ
●「チャットでBIMの操作も可能、ChatGPTなどを建設業に特化させた東大発・燈の野望」
東京大学発スタートアップ企業の「燈(あかり)」は、大規模言語モデルを建設業に特化させた「AKARI Construction LLM」(CoLLM)を提供しています。
AKARIは、対話形式で過去の議事録や図面データ等の検索、仕様書などの文章の自動生成が可能です。建設関連の法令やユーザー企業の社内資料を学習させて、その検索能力や出力する情報の精度を向上させており、BIM(ビル建設プロジェクトの設計フェーズや建築フェーズを管理する仕組)の操作もできます。
ChatGPTはインターネット上の様々な分野の文書を学習させた汎用LLMであり、専門領域での正確な回答が難しく、そのまま建設業務に組み込むことが困難でした。
燈社は、LLMに建築基準法などの関連法規や国の標準仕様書、取引先企業の社内資料などを学習させて、専門性の高い質問にも適切な回答ができるようにしたのです。また、段階を踏んだ情報検索や引用元データの表示などが特徴になっています。
例えば、チャット画面に質問を入力すると、AIの思考過程と検索結果が表示され、参照するデータをユーザーが選択し、検索フローを構築できるため、利用者はファクトチェックが行いやすいです。
具体的には、AKARIは以下のように利用できます。
- ・ある案件のうち最も広い部屋の内装に費やした金額を知りたい場合、仕様書や設計図書などをAIに読み込ませる
- ・チャットボットに「床の面積が一番広い部屋の仕上げ材の種類と合計金額はいくら?」と質問を入力する
- ・AIが質問文を基に必要な情報を検索して回答する
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4)AIヘルプデスク
●「AIヘルプデスクを全社展開、月400時間の削減を見込む」
*株式会社インプレスが運営する「IT Leaders」より
東亜建設工業(本社:東京都新宿区)は、AIを活用したヘルプデスクシステムを導入しました。このシステムは、PKSHA Workplaceの「AIヘルプデスク for Microsoft Teams」を採用したもので、問い合わせ窓口を一元化でき、対応効率を改善させます。
同社は、このシステムのQ&Aの自動作成機能を活用し、業界特有の専門性の高いものを含め、約700件のQ&Aのセットを作成しており、導入効果として、月間400時間程度の業務時間の削減を見込んでいるのです。
AIヘルプデスク for Microsoft Teamsは生成AIであり、同システムは問合せ履歴からのFAQ自動生成やチャットボットによる自動応対をTeams上でワンストップ対応できるサービスです。
5)設計のプラットフォーム
●オーストラリアのアーキスター(Archistar)のソフトウェアプラットフォーム
*日本経済新聞社サイトの「生成AIの事業活用、有望6分野 設計時間を9割短縮」の記事等より
アーキスター社は、オーストラリアの不動産開発企業向けに、建物の設計時間を短縮できるソフトウェアプラットフォームを提供しています。このプラットフォームにより、不動産開発企業は複数の建物を一斉に設計して比較したり、環境分析や資金的に実現可能なモデルを作成したりすることが可能です。
例えば、不動産の専門家や住宅の所有者が土地の任意のブロックを指定(クリック)すると、何を構築できるかを即座に確認できます。また、光、換気、プライバシーなどの設計要因を評価する生成機能も提供されているのです。
3 建設業における生成AIの活用の可能性
ここでは建設業での従来AI活用や他の業種での生成AIの活用などを踏まえて、今後建設業でどのように活用されるかについて考えていきます。
3-1 創業・新事業・マーケティングへの活用
ChatGPTやBardなどは、建設業においても創業・新事業・マーケティングなどの構想に利用されていくでしょう。
例えば、建設業で起業する際にその重要点を生成AIで5つ挙げてもらうと以下のような答えが得られます。
- ・資金の確保
- ・事務所や備品の準備
- ・建設業許可の取得
- ・専任技術者の確保
- ・仕事の受注
これらの内容は個人事業とするか会社形態にするかで内容が多少異なってきますが、それを踏まえて各項目の内容をさらに深めて質問すれば、重要ポイントが把握できるでしょう。
また、既存の建設事業者が新事業を検討する場合、どの分野が有望であるかを質問すれば以下のような答えが得られます。
- ・スマートシティ
- ・リノベーション
- ・エコリフォーム
- ・プレハブ住宅
生成AIモデルの中には、新事業のアイデアの創出を支援するサービスも登場してきました。
また、マーケティングで利用されている生成AIモデルは、テキスト生成AI、画像生成AI、動画生成AI、音声生成AI、などですが、例えば、テキスト生成AIを用いたマーケティングの例としては、以下のような内容が挙げられるでしょう。
- ・カスタマーサービスやテクニカルサポートのチャットボット
- ・ブログ記事の作成
- ・返信メール等の文章作成
- ・SNS投稿文の作成
以上のように、生成AIはビジネスの様々な場面で活用されており、建設業での利用も進むと考えられます。
3-2 建設デザインへの活用
建設業界において、生成AIの活用が最も進んでいる分野の一つは建設デザインでしょう。
建築物の設計や建築計画の策定は建設プロジェクトの基盤を決定する重要なプロセスですが、これらに生成AIの活用が始められています。例えば、過去の建築事例をデータ化の上、該当事例を条件として要求される条件に合致するデザインを生成する、といった活用です。
設計士は建築物の要求内容と望ましい着地点をパラメータとして設定することで、AIのデザイン生成ソフトウェアが無数の組み合わせの中から最適解を回答してくれます。建設業において、こうした画像やデザインを自動生成してくれるソフトウェアの利用は益々広がるでしょう。
なお、従来のAIを活用した構造設計支援システム「部材グルーピングシステム」などが開発されています(生成AIではない)。このAIシステムは、限られた期限・時間内で最適な構造計算を行い、従業員の作業効率化を図ることが可能です。
「部材グルーピングシステム」の利用により、誰もが熟練した構造設計者と同等の提案が可能となるほか、資料作成時間が大幅に短縮できますが、こうした構造計算などにも今後、生成AIの利用が進むでしょう。
3-3 自律制御ロボットへの活用
建設工事においてAI搭載の自動走行ロボットや自動操縦ロボットなどが活用され始めましたが、今後は生成AIを活用したロボットの導入も進むと考えられます。
生成AIを活用することで、自律制御ロボットがより高度な判断を下すことが可能です。例えば、自律制御ロボットが環境を認識し、その環境に応じて適切な作業を判断し実行できるようになります。
現代では重機、掘削機、ブルドーザーなどでAIが搭載され、自律制御の建機として活躍し、それぞれの特定業務で人間の作業者にかわって負荷の大きい作業を行ってくれています。
これらの建機の屋外での使用は、室内環境とは異なり環境条件の変化や予想外の状況が発生する可能性が十分あるため、よりフレキシブルな自律性が必要です。こうした自律性の向上に生成AIの活用が期待されます。
3-4 検査への活用
建設工事では様々な検査が伴いますが、その検査にAIが活用されており、今後は生成AIの利用も具体化する可能性が高いです。
現在、ドローンで撮影した赤外線画像から、AIが建物の外壁タイルの浮きを自動判定するシステムや、ビル等の建設現場で撮影した鉄筋継手の画像をもとに画像認識AIが外観検査するシステム、などが開発されており、今後はそれらに生成AIの利用が進むと考えられます。
他の業種の検査では、生成AIは、医療分野での画像診断(医師が診断する際に必要となる画像を自動生成する)、製造業での欠陥検査、自動車産業での自動運転技術の開発、など多くの分野で利用が進められてきました。今後は建設業での検査にも積極的に利用されることが期待されます。
3-5 ビルマネジメントへの活用
SDGs等が重視される現代においては建物・構造物及び建設工事においても環境や社会等に配慮した対応が不可欠となっているため、建設・運用にかかわるマネジメントは重要です。
既にIoTやAIを活用して、建物で働く人の「快適性」「健康」「利便性」「安全性」に着目した最適な建物管理が可能なビルマネジメントシステムの開発が進められてきました。こうしたシステムに今後は生成AIも活用される可能性は小さくありません。
実際、ビルマネジメントにおいて、生成AIは、建物設計の自動化、建物のエネルギー消費量の最適化、建物内の環境データの収集・分析、などに利用されており、更なる活用が期待されます。
4 生成AIの導入方法と利用時等での注意点
生成AIの導入のポイントとその際の注意点などを見ていきましょう。
4-1 生成AIの特徴や利用上のメリットの把握
生成AIを建設事業で活用するには、経営層が生成AIの特徴や導入のメリットなどを認識することが不可欠です。
ITやデジタル技術を事業で活用する場合、それらを経営戦略の実行に必要な手段として捉え、自社事業とその技術の内容などの特徴から構想する必要があります。どんな技術、設備・機械、システムも企業が目指す事業に有効に活用されることが前提にならなければなりません。
このことは従来のAI及び生成AIの利用についても同様です。そのため生成AIの性質やできることなどを正確に理解し、自社の事業やこれから取り組む事業でどう活用できるかを認識する必要があります。
昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目され、国を挙げてその推進が叫ばれていますが、従来のAIがDXを実現する要素として活用され始めました。そして、現在では生成AIがDXをさらに進展させるものとして期待されています。
生成AIの活用によりこれまで実現が困難だった業務効率の向上や業務の自動化が実現でき、革新的な取組や製品・サービスの提供が多く見られるようになってきたのです。
経営者層はこうした事実を認識して他社に先駆けて導入する、という意思を第一に持たなければなりません。
4-2 生成AIの利用方針の設定と明示
生成AIを企業に導入するには、経営者層の上記の認識のもとに全社的な利用方針を決めて社内に示すことが必要です。
特に生成AIを経営戦略遂行の重要な手段等として位置づける場合、この作業は欠かせません。デジタル技術の導入やIT投資の実施などと同様に、新しい技術や設備等の導入は単に多額の資金が必要となるというだけでなく、既存の業務の内容に影響を与えるため、従業員の理解と積極的な関与が必須です。
そのことから生成AIの導入を従業員が納得し、積極的に業務で活用するといった態度を促す必要があり、利用方針を設定し従業員にそのことを明示しなければなりません。
4-3 生成AIの活用と経営戦略との整合性
生成AIの導入・活用は、あくまで目指すべき事業を実現するための経営戦略の一環として行う必要があります。
「業務の効率化や自動化に役立つから導入する」というケースは多いですが、「成し遂げたい事業内容や業務の実現のために導入・運用する」という姿勢がデジタル投資などをより意味あるものにします。
デジタル技術の導入により、新たなニーズを取込んでいく新事業を創出したり、業務プロセスを抜本的に変えて競争力を強化したりするDXの推進が行われていますが、その同様の姿勢で生成AIの導入にも取り組まなければなりません。
生成AIの活用により、業務プロセスを刷新して他社との差別化を図ったり、新サービスを提供したりすることも可能となり得るため、その採用した生成AIの機能は事業戦略を実現するためのコアシステムとして活躍します。
そのため、生成AIの自動化等の長所を単に業務で利用するという姿勢ではなく、事業の成長や企業の発展のために戦略へ組み込み活用するという姿勢が必要になるわけです。
4-4 生成AIの活用に向けての体制整備
生成AIの活用を進めるには、以下のような点に留意して体制を整えることが求められます。
●生成AI活用方法の検討
これについては上記の1)~3)の内容が参考になります。
●生成AI導入に必要な人材の確保
人材確保には以下のような方法が有効です。
- ・ITチーム等の中から担当者を選定する。また、適当な人材がいない場合は他の部署や外部から探す
- ・データサイエンティスト、機械学習エンジニア、ソフトウェアエンジニア、ビジネスアナリスト、などから候補者を選定する
- ・従業員を育成する場合、専門的な知識やスキルを身につけるための教育プログラムやトレーニングプログラムを用意する
- ・仕事での実証と学習を可能にする
また、AI人材に必要なスキル・知識としては、以下が挙げられます。
- プログラミング
- 機械学習・ディープラーニング
- データサイエンス
- 数学の知識
なお、AI人材の育成方法として、AI教育サービスを活用することも重要です。
●生成AI導入に必要なデータの収集・整備
具体的な方法としては、以下のような方法があります。
- データの収集
- データの前処理
- データの分析
データの収集では、自社で保有しているデータを活用するほか、外部からデータを収集することも必要です。また、データの前処理では、データの欠損値や異常値を除去することが求められます。さらに、データの分析では、データを可視化して、データの傾向や特徴を把握することが必要です。
●生成AI導入に必要なシステム・インフラの整備
システム・インフラの整備については、以下の点が重要になります。
- クラウドサービスの利用
- ハードウェアの整備
- ソフトウェアの整備
クラウドサービスを利用すれば、システム・インフラの整備を簡単に実施でき自社の投資負担も軽減されます。なお、ハードウェアの整備では、高性能なCPUやGPUの用意が必要です。
さらに、ソフトウェアの整備では、生成AIを実行するためのプログラム開発や、生成AIモデルサービスの利用も検討しなくてはいけません。
●生成AI導入後の運用体制の確立
運用体制の重要点として、以下のような点が挙げられます。
- 人材の育成
- システムの監視
- セキュリティ対策
生成AIを運用するための人材育成も必要ですが、先に示した人材確保の内容が参考になるでしょう。また、システムが正常に動作しているかどうかの監視と、生成AIによって生成された情報が漏洩しないなどのセキュリティ対策が必要です。
これらを参考に生成AIの導入を検討してみてください。
5 まとめ
建設業界では、人手不足の深刻化、利益率の低迷、業務の非効率性、高齢化等による人材不足、低賃金・長時間労働、などの課題があり、厳しい経営に直面している事業者も多いです。
こうした課題を解決するためには生成AIの活用は役立ちます。高度なAIシステムを導入するのは容易ではないですが、ChatGPTなどのテキスト生成AI等の活用からなら、取り組みやすく投資負担も少なくて済みます。生成AIの性質や活用の可能性などを把握し、戦略遂行の手段として検討してみてください。