建設業に税務調査が入りやすい理由とは 対策のポイントも紹介!
税務調査は、公平・適正な申告納税制度を維持するため、国税庁が行う調査です。税務調査には、その対象になりやすい業種がありますが、中でも建設業は税務調査が入りやすいといわれています。建設業に税務調査が入りやすい理由は、どこにあるのでしょうか。また、税務調査を受ける場合の有効な対策はあるのでしょうか。
本記事では、税務調査の基本に加え、建設業に税務調査が入りやすい理由や建設業における税務調査対策のポイントについて解説するので、建設業に携わる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1 税務調査とは
税務調査とは、公平・適正な申告納税制度を維持するため、国税庁が適宜行う調査をいいます。ある企業・個人の法人税・所得税の申告内容について、①売上額の計上に疑問がある、②必要経費が多過ぎではないかなどの疑念がある場合、それを確かめるために実施します。
なお、税務調査は、法人税や所得税の関係ばかりではなく、相続税や贈与税など広く税一般について行われます。実際の税務調査は、国税庁の機関である各税務署が実施しますが、必ずしも調査対象の企業や個人に直接行うものばかりではありません。調査対象企業や個人に直接行う調査の他に、市町村役場から戸籍関係書類や住民票を取り寄せる、法務局で登記簿情報を確認する、金融機関の口座情報を調べるなどの調査も含まれます。
1-1 税務調査の対象になりやすい企業
国税には、税務調査の対象を選定する基準があります。すなわち、その基準に適合した場合は、税務調査の対象になりやすいということです。それでは、どのような企業が税務調査の対象になりやすいのか見ていきましょう。
①所得率の低い企業
まず、税務調査が入りやすいのは、所得率の低い企業です。所得率とは、売上額に占める所得額の比率です。
所得は、所得額=売上額-必要経費額によって算出されるため、売上額に比べて所得額が低いということは、必要経費が水増しされて多額に計上されている可能性があります。税務署では、「この業種でこれだけの売上げがあれば、○○円位の所得があるはずだ」との疑問から税務調査を行うのです。
②勘定科目に変化がある企業
次に、勘定科目に大きな変化がある企業も税務調査の対象になりやすいといえます。特に、前年や前々年の申告内容と比較して、勘定科目に大きな変化がある企業は、税務署に不信感を抱かれる可能性があります。
勘定科目の中では、特に、給与費、外注費、広告宣伝費、交際費などの変化に目を付けられます。これらの勘定科目は、必要経費として水増し計上することにより所得額を圧縮することができるからです。
③不正が行われる確率が高い業種
税務調査は、不正が行われる確率が高い業種を重点として行われる傾向があります。国税庁では、毎年実施した税務調査の結果を公表していますが、その中で、法人税の不正発見割合が高い10業種を公開しています。
それによると、法人税の不正発見割合が高い業種は、上から「バー・クラブ」「外国料理」などの飲食店、「美容」「医療・保健」「生鮮魚介そう卸売」「一般土木建築工事」、「職別土木建築工事」などとなっています。
この中の「一般土木建築工事」および「職別土木建築工事」は、ともに建設業関連業種であることから、建設業は不正が行われる確率が高く、このため税務調査が入りやすい業種であることがわかります。
④中小企業や赤字企業も対象になる
税務調査は、中小企業や赤字企業も対象になります。「税務調査は、所得を沢山上げている大企業に入る」と考えていらっしゃる方も多いでしょう。しかし、所得があまりない中小企業や所得がマイナスの赤字企業でも、所得額をごまかして小さく、またはマイナスに細工しているところもあります。そして、それは個人事業でも同じです。
したがって、中小企業や個人事業主、赤字企業であっても、税務調査が入る可能性があります。
1-2 税務調査で見られるポイント
税務調査では、調査員に見られるポイントというものがあります。ここでは、建設業にかかわらず、広く一般的に税務調査で見られるポイントを紹介しましょう。
①売上と経費
売上と経費の関係では、それぞれの変化が不自然でないかについてチェックされます。これは、売上高の伸びに対して、必要経費が不自然に伸び過ぎていないかということです。売上高に対して必要経費が不自然に大きく増えている場合は、経費の水増しが疑われます。
また、売上高に占める必要経費の比率が、同業種の平均値などから大きく外れている場合は、その理由も質問されます。
自社の経費が前年より大きく伸びている場合には、特別なイベントを実施した、テレビや新聞など大きな費用がかかる宣伝を行ったなど経費増加の理由について、しっかりと説明できるように準備しておく必要があります。
②人件費
人件費は、正規社員、非正規社員両方のものが見られます。ここでよくあるのが、人件費の水増しです。以下のような人件費の水増しにより、帳簿上の所得を圧縮する、裏金を作るなどの不正がないかもチェックされます。
㋐労働者を雇用していないのに、給与や賃金を支給したことにしている
実在しない社員やアルバイトに給与・賃金を支給しているものです。正規社員を雇用すると社会保険の加入手続きが必要になるため、その必要がないパートやアルバイトを雇用して人件費を支給したことにしているケースが多くみられます。この人件費は、帳簿上だけで実際に資金の動きがない場合と実際に出金されて裏金などに回っているケースとがあります。
㋑出張していないのに、出張したことにして出張旅費を支給したことにしている
いわゆる「カラ出張」というものですが、最近は少なくなっています。カラ出張の場合は、帳簿上の出張者本人は出張旅費を受け取っていないケースが多く、金銭の使途が問題になります。
㋒残業していないのに、残業したことにして超過勤務手当を支給したことにしている
これも最近は少なくなっていますが、帳簿上の残業者本人は超過勤務手当を受け取っていないケースが多く、金銭の使途が問題になります。
③修繕費
修繕費については、計上の仕方や形状の時期が適切かについてチェックを受けます。修繕を兼ねている支出であっても、それを行うことにより資産の性能や効用が従前より高められるとしたら、資本的支出となってしまいます。
また、翌期に計上すべき修繕費を今期に、今期に計上すべき修繕費が翌期に回されていないかも確認されます。
④交際費
交際費が適切に使われているかについても見られます。交際費として処理するのが適切でないものが、交際費に計上されていないかについてチェックされます。取引先の接待に要した費用は交際費に該当しますが、会社の業務と関係がない相手や自社の役員・社員など身内の飲食などは交際費として認められません。
⑤寄付金
寄付金として処理している支出が、寄付金として認められるかについてチェックを受けます。
㋐会社の代表者や役員が寄付すべきものが、会社の寄付金として処理されていないか
本来会社の代表者や役員個人が寄付すべき性格のものは、会社が支出することはできません。
㋑寄付金が会社に利益を及ぼすものでないかどうか
寄付することにより、会社に利益を及ぼすものは繰延資産とされ、寄付金と認められない場合があります。
⑥契約書
税務調査では、各種の契約書は必ず見られます。その場合、契約内容の適法性確認や収支との突合が行われますが、盲点の一つに印紙があります。印紙を貼付する必要があるにもかかわらず貼付していない、または、印紙は貼付しているが消印がされていないなどミスがある契約書が多く指摘されているため、事前に確認しておく必要があります。
2 建設業に税務調査が入りやすい理由
それでは、なぜ建設業に税務調査が入りやすいのか、その理由について見ていきましょう。
2-1 長期間の工事が多い
1つ目の理由は、建設業では、長期に渡る工事が多いことです。建設業の工事は、その種類にもよりますが、着工から完成・引渡まで数週間~数か月、長いものになると、数年間に及びます。
このように、建設工事が長期に渡り決算期をまたぐ場合は、当期に計上する売上額を確定して申告する必要があります。しかし、決算期ごとに建設工事の売上額を確定させることは、言葉で言う程簡単なことではありません。決算期ごとに建設工事の売上額を確定させるには、以下のような問題があります。
- ①建設工事は連続しているため、決算期ごとに明確な区切りがない
建設工事は一連の流れの中で連続しており、明確な区切りがないため、「ここまでが当期分、ここから先が来期分」などと区分けするのが困難です。 - ②建設工事は、天候やその他の要因で工期が変わってしまう
建設工事は、天候の影響を大きく受けます。台風や長雨、強風などの影響を受ければ、工事の進捗が遅れ、当初予定していたスケジュールどおりに進まない可能性があります。また、予定していた建設資材が順調に入ってこない、現場作業員が急に辞めてしまい補充が見つからないなどの要因も工事の遅れに繋がります。
さらに、足場の倒壊やクレーン車の横転などによる人身事故など、突発的なハプニングも起きます。突発的な人身事故が発生すると、現場の復旧、さらなる事故予防措置などを講じる必要があり、工事スケジュールが大幅に狂ってしまいます。
その一方で、天候に恵まれ、建設資材や作業員の不足がなく、事故などのハプニングもない場合は、当初の工事スケジュールより早く進むこともあり得ます。
このように、建設工事はいわゆる「生モノ」ということができ、天候やその他の要因により当初のスケジュールどおりには進捗しないという性格を持っています。このため、決算期ごとに工事内容を区分けする場合に、工期やスケジュール表によることは困難なケースが多く、実際の工事の進捗状況を見積りながら当期分の計上内容を決めていく必要があるのです。
しかし、企業が実際の工事の進捗状況を見積って当期分の売上額を求める方法によると、企業の恣意的な判断が介入する余地が生じます。そして、企業の恣意的な判断が介入すると、次のような問題が生じる可能性があります。
- ①当期に含まれるべき工事をその売上額も含めて来期以降に回すことにより、当期の黒字幅を圧縮し、税額を安くする
- ②来期に見込まれる赤字分の工事を当期に持ってくることにより、当期の黒字と相殺し、税額を安くする
建設業では、このように当期の計上分を見積る際に、所得を圧縮できるよう工事の振り分けを恣意的に行う例がみられます。これは、工事期間が決算期をまたいで長期に渡るという建設業の性格に由来するものです。
以上のように、建設工事の振り分けによる売上げのごまかしや誤りがないかについて調べる必要があることが、建設業に税務調査が入りやすい理由となっています。
2-2 工事金額が大きい
2つ目の理由は、建設工事の工事金額が大きいことです。建設工事の請負金額は、小売業や飲食業など他の業種と比較して桁違いに大きい傾向があります。小売業や飲食業などでは、1件あたりの売買契約が数百円から数千円であるのに対し、建設業の工事金額は、数百万円から数千万円、中には数億円から数十億円などと非常に高額となります。
そして、1件あたりの売上額が巨額になると、それだけ納める税金の額も大きくなります。
このように、巨額の工事金額が動く業界で、売上額や必要経費の計上をごまかしたり、計上方法を誤ったりすれば、税額に大きな影響が及ぶことになり、税の公平性の面からもそのままにしておくことができません。
以上のように、建設業の請負契約は、国の税収に与える影響も大きいのです。
2-3 間接工事費の按分がルール化されていない
間接工事費の按分方法が規則化されていないことも、税務調査が入りやすい理由の一つです。間接工事費の按分とは、どの工事にどれだけの間接工事費がかかるか按分を行うという意味です。
工事費は、工事原価と一般管理費に分けることができます。この中で、工事現場で必要となる費用は工事原価ですが、その工事原価は、次の2つに分けることができます。
①直接工事費
工事の施工対象に直接必要な費用をいいます。
(内訳)
- ・建設資材費
- ・建設用機械費
- ・現場労務費 など
②間接工事費
工事の施工に間接的に必要な費用をいいます。
(内訳)
- ・仮囲い・足場構築費
- ・建設資材・機械運搬費
- ・現場事務所の営繕費
- ・安全訓練費
- ・現場に常駐する社員の給与費 など
上の中で、直接工事費は、いずれも工事の施工対象に直接かかる費用であるため、どの工事にいくら直接工事費がかかるかは、明確に算出できます。
しかし、一方の間接工事費は、工事の施工対象に直接かかる費用ではないため、どの工事にいくら間接工事費がかかるかは、按分して振り分ける必要があります。
例えば、間接工事費の中の安全訓練費は、どこの工事現場で100%かかるとは明確にいえません。安全訓練費は、Aの工事のためでもあり、同時にBの工事のためでもあるという性格を持っているからです。
また、建設資材・機械運搬費なども、特定の工事のためだけに建設資材や機械を運搬する場合もあれば、資材置場や機械の中継所を経由して複数の工事現場に運ぶ場合もあります。
このように、間接工事費は、工事ごとにかかる費用が明確になっていないため、企業が按分計算してそれぞれの工事に振り分けを行うのです。
振り分けを行う場合に、一定の規則などがありその方法が細かく決められていれば問題がありませんが、そのような業界統一的なルールがないため、そこに企業の恣意的な判断が入る余地があります。
企業の恣意的な判断により間接工事費を振り分けて黒字幅を圧縮する、赤字にするなどの例があることで、税務調査が入りやすくなるのです。
2-4 外注が多い
外注が多いことも建設業に税務調査が入りやすい理由の一つです。なぜなら、給与で対応すべきところを外注費として計上している例があるからです。給与とは、雇用契約に基づく労働の対価です。一方の外注費は、請負契約またはこれに準じる契約に基づく対価をいいます。
建設業と一言でいっても、その範囲は非常に広く、様々な職種の人が働いています。住宅建設現場をみても、木工職人(大工)、左官工、建具職人、水道業者、造園業者、リフォーム業者など、その道の専門家が集まって1軒の家を作っていきます。
住宅建設を請け負う業者が総合建築業者で、すべての職種の職人や技術者を社員として抱えていれば、外部に依頼する範囲はあまりないかもしれません。しかし、現実には、あらゆる職種の職人や技術者を社員として雇用しておくことは一部の大企業を除き稀なケースです。多くの建設会社は、自社で対応しきれない箇所は、外注に出して仕上げてもらっています。
例えば、A工務店が住宅建設を請け負いましたが、A工務店には大工と左官工が社員でいるだけで、建具や水道、造園などを扱うことができる職人や技術者はいないとします。この場合は、住宅の基礎工事や木工工事はA工務店の社員が対応できますが、建具、水道、造園部分は外注に出すことになります。細かい話ですが、住宅の基礎工事や木工工事はA工務店の社員が対応できるといっても、基礎のコンクリートを打つ時のミキサー車や住宅の棟上げを行う場合のクレーン車などの配車は、外注になるでしょう。
このように、1軒の個人住宅を建てる場合でも、外注で対応する範囲が多くあります。これが、高層ビルを建てるなどの大工事になると、外注や下請に出す範囲はより多くなるのがおわかりいただけると思います。
問題は、本来は給与で計上すべきものを外注費として処理していないかどうかです。なぜなら、給与と比較して外注費として処理する方が、下記のように会社側にメリットがあるからです。
①社会保険の加入義務がない
社員を雇用して給与を払う場合は社会保険に加入する義務があり、雇用主である会社は社会保険料の半額を負担しなければなりません。しかし、社員を雇用せずに外注すれば、社会保険に入る必要がありません。
②仕入税額控除ができる
給与は、不課税取引として消費税がかからず、仕入税額控除の対象となりません。それに対し、外注費は、課税仕入取引として取り扱われるため、仕入税額控除ができます。
(注)仕入税額控除は、二重課税を防ぐため、原材料などを仕入れた時に払った消費税分は、商品売上時に受け取った消費税から控除できる(差額を納付すればよい)という仕組み
③金額の調整ができる
給与は給料表で基本給が決まっているため、会社がその時の都合で勝手に増減できません。しかし、外注する場合は、依頼する仕事の内容によって自由に調整ができます。
④源泉徴収の必要がない
給与を支払う場合は所得税を源泉徴収し、それを国に納めなければなりません。それに対し外注費は、所得税を源泉徴収する必要はありません。
以上のように、外注は会社側に様々なメリットがあるため、本来は給与として支払うべきところを外注費として処理してしまう例がみられ、そのことが建設業に税務調査が入りやすい理由の一つになっています。
仮に、税務調査で、外注費として処理していたものが給与と認定されてしまうと、消費税や源泉所得税が追徴され、それに伴う加算金や延滞金も払わなければならなくなる可能性があります。
国税では、給与となるか外注費となるかについては、①契約の内容や②業務の実態をみて総合的に判断を行います。
①契約の内容では、外注費となるためには、請負契約またはこれに準じる契約に基づいていることが必要ですが、それは単に「請負契約書」を作っておけばよいというものではありません。名ばかりの請負契約書があっても、その内容が外注と認められなければ意味がありません。
②業務の実態では、国税庁の通達により、以下の判断基準が示されています。
㋐外注は、役務の提供が他者で代替できる
例えば、作業員Aに外注したところ、急病によりAが作業不可能になったため、AがBを手配して作業を完了させ、報酬はAに支払うなどの場合は、外注と認められる可能性が高くなります。
㋑外注は、作業時間の指定を受けない
作業時間にかかわらず、作業内容によって報酬が支払われれば外注と認められる可能性が高くなります。それに対し、作業時間を指定する、時間単位の報酬を設定するなどの場合は、給与と認定される可能性があります。
㋒外注は、作業内容について指揮監督を受けない
作業の内容や方法について、作業者に任せている場合は、外注と認められる可能性が高くなります。
㋓外注は、引渡し前の完成品が滅失した場合に、報酬を請求できない
完成品の引き渡しが報酬支払の条件となっており、引渡し前の完成品が不可抗力で滅失した場合は報酬を請求できない場合は、外注と認められる可能性が高くなります。
㋔外注は、材料や用具は作業者が負担する
作業者が材料や用具を負担していれば、外注と認められる可能性が高くなります。
以上のように、外注費となるか給与となるかは、契約の内容、および上の判断基準に基づく業務の実態をみて総合的に判断されます。
3 建設業における税務調査対策のポイント
それでは、税務調査に対してどのような対策を講じるのが有効か、そのポイントをみていきましょう。
3-1 毎年適切に申告を行う
税務調査対策のポイントとして、最も重要なのは、毎年適切に申告を行うことです。売上のごまかしや経費の水増しなどを行わず、毎年正しい内容で申告を行っていれば、税務署の信頼を得ることができます。
それに対し、毎年の申告内容を少しずつごまかして、税金を安く済まそうなどの行為を続けていると、税務署から目を付けられることになってしまいます。
今年の申告内容に少々疑問が生じても、過去適正に申告を続けてきた優良企業であれば、税務署は、「もう少し様子を見よう」と直ぐに税務調査に入ることはあまりありません。逆に、これまで疑問点がある申告を度々行ってきた企業が、今年も同じような申告書を提出すれば、税務署が「この際、徹底的に調べよう」と税務調査に入る契機となります。
この毎年適切に申告を行っておくことは、税務調査を受ける場合の対策というよりは、税務調査を避けるための対策ですが、税務調査対策の中では最良の方法となります。
3-2 各種帳簿の整備
税務調査の対策では、会社の各種帳簿や記録を整備することが基本となります。整備しておく帳簿類は、主に以下のものとなります。
①建設業法第40条の3に基づく帳簿の整備
建設業法第40条の3では、建設業者は営業所ごとに、以下の営業に関する事項を記載した帳簿を備え付けなければならないとされています。
- ・営業所代表者の氏名およびその者が営業所代表者となった年月日
- ・建設工事の請負契約に関する事項
- ・発注者と締結した住宅新築請負契約に関する事項
- ・下請と締結した下請契約に関する事項 など
建設業法第40条の3に基づく帳簿は、営業所の業務内容を明らかにする書類であるため、日頃から整備に努める必要があります。
②工事台帳の整備
工事台帳とは、工事ごとの原価を集計する台帳で、必ず工事ごとに記録することとされています。工事台帳は、材料費・労務費・外注費・その他の経費などを記録することで、原価計算を明確にするとともに、工事の進捗状況や収支の状況を明らかにすることができる帳簿です。
税務調査では、高い確率で工事台帳がチェックされるため、誤りがないよう整備しておく必要があります。
③工事請負契約書・工事完了報告書・請求書の整備
工事請負契約書・工事完了報告書・請求書は、工事台帳に記載された個々の工事について、実際の契約内容はどうだったか、問題なく完成したか、支払いは完了したかなどを証明する書類です。
④外注契約書・請求書の整備
外注契約書(請負契約書)は、外注費の内容を個別に説明する証拠書類です。外注契約書がなければ外注費として認められないため、必ず整備しておく必要があります。また、外注業者に用具を提供した場合などは、その理由や経緯がわかるよう契約書や記録に残しておくことが肝心です。
⑤間接工事費を按分・振り分けるルール
間接工事費を各工事に振り分ける業界統一的なルールがないことから、自社内でルール化した基準を明文化しておき、税務調査当日説明できるようにしておくことが重要です。
会社の営業に関する帳簿や請負契約にかかる書類が整備されていないと、税務調査の際に、調査員の求めに応じて速やかに提出することが困難となります。調査員から要求されたら、直ちに提出できるよう各種帳簿・書類は整備しておき、説明ができる準備を整えておくことが重要です。
3-3 見られるポイントの準備
税務調査で見られるポイントは、「1-3 税務調査で見られるポイント」でも紹介した、①売上と経費、②人件費、③修繕費、④交際費、⑤寄付金、⑥契約書などが重要です。
また、①当期に含まれるべき工事をその売上額も含めて来期以降に回すことにより、当期の黒字幅を圧縮していないか、②来期に見込まれる赤字分の工事を当期に持ってくることにより、当期の黒字と相殺していないか、③間接工事費を恣意的に振り分けて黒字幅を圧縮し、赤字にしていないか、④本来は給与として支払うべきところを外注費として処理していないかなどがポイントになります。
税務調査を受ける際は、以上の見られるポイントを重点的に整備しておくこと、当日質問を受けた時に説明して調査員に理解してもらえるよう準備しておくことが求められます。
3-4 税理士の力を借りる
税理士の力を借りることも重要なポイントの一つです。この場合は、法人税の申告書作成や税務調査への対応についての実績が豊富で、かつ建設業に精通している税理士に依頼することが肝心です。
企業の経理担当者であっても、税務調査を受けた経験がある人はあまり多くないでしょう。
税務調査に備えて社内の書類を整備するにしても、調査当日に質疑応答を行うにしても、それぞれポイントや要領があります。
建設業に精通し、税務調査対応の実績が豊富な税理士であれば、準備しておく書類やその作成方法、調査における質疑応答の要領などについて、わかりやすく指導してくれます。また、調査当日に同席して、企業の担当者をフォローし、代わりに説明や回答を行ってくれることも可能です。
企業の担当者の説明不足により多額の追徴税を課される危険を考えれば、報酬はかかりますが、信頼できる税理士の力を借りることが効果的です。
4 まとめ
建設業は、税務調査が入りやすいといわれています。それは、長期かつ金額が大きい工事が多いこと、間接工事費の按分がルール化されていないこと、外注が多いことなどによります。
建設業における税務調査対策のポイントとしては、①毎年適切に申告を行う、②各種帳簿を整備しておく、③見られるポイントの準備を行う、④税理士の力を借りることが挙げられるので、参考にしてみてください。