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建設業が人手不足と言われている原因と解決策とは

建設業界は深刻な人手不足と言われており、就職先や転職先として検討している方も多いのではないでしょうか。実際、ここ10年ほどの間の建設工事受注高は右肩上がりでの推移が見られ、直近の有効求人倍率なども高い状態です。

今回の記事では建設業の人手不足の現状を様々な情報から確認し、その原因と解決策を解説していきます。また、東京オリンピック後の建設業界での建設需要や人手不足の状況なども説明していきますので、この業界への就職や転職などを検討している方はぜひ参考にしてください。

1 建設業界の人手不足の現状

建設業界の人手不足の現状

まず、建設業界が本当に人手不足なのか、どの程度の不足しているのかを確認していきましょう。

1-1 従業員数過不足DIで建設業はダントツの人手不足

独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の第156回中小企業景況調査の「従業員数過不足DI」({過剰-不足} 今期の水準)を見ると、建設業が全産業の中で最も人手不足の状態であることが確認できます。

2019年の1-3月期と4-6月期の従業員数過不足DI(▲は不足を意味する)の結果は下表のとおりです。

産業 1-3月期 4-6月期
全産業 ▲22.5 ▲21.6
製造業 ▲21.4 ▲18.3
建設業 ▲39.0 ▲38.0
卸売業 ▲16.6 ▲15.2
小売業 ▲12.7 ▲12.7
サービス業 ▲24.6 ▲25.3

国内の産業全般において従業員数は不足の傾向が見られますが、建設業はマイナス約40ポイントで1位であり全産業の約2倍近い人手不足であることが分かります。

*この調査は約18,000社(製造業:約4,600社、建設業:約2,300社等)の中小企業を対象に聞き取り調査した結果

1-2 建設業の有効求人倍率はトップクラス

建設業の新規求人数や有効求人倍率は全産業の中でトップクラスの高い数値を示しており、人手不足の状態が理解できるはずです。

厚生労働省は、ハローワークの求人、求職、就職の状況に関するデータを活用して新規求人件数や求人倍率などの指標を作成し、「一般職業紹介状況」として公開しています。

令和元年9月のデータでは、9月の新規求人(原数値)が前年同月比較1.5%減ですが、産業別では医療・福祉4.5%増、教育・学習支援業3.1%増、学術研究・専門・技術サービス業2.0%増、情報通信業1.6%増、建設業0.4%増となっています。

一方、製造業11.0%減、サービス業(他に分類さ れないもの)6.0%減、卸売業・小売業3.2%減、宿泊業・飲食サービス業2.8%減、生活関連サービス業・娯楽業(1.0%減)などは減少です。

また、一般職業紹介状況の「職業別一般職業紹介状況[実数](常用(含パート))」を見ると、職業計の有効求人倍率*は1.45倍になっています。職業別では「管理的職業(1.59倍)」に属する「専門的・技術的職業」が2.17倍であるのに対してその範疇にある「建築・土木・測量技術者」は6.10倍と3倍近い値です。

*有効求人倍率:公共職業安定所に登録している求職者(有効求職者数=求人登録者数)に対する企業からの求人数(有効求人数)の割合(数値が1より大きいと労働市場の需要超過)

この値は同じグループ内でのトップで、他の職業の「製造技術者」0.61倍、「情報処理・通信技術者」2.32倍などと比べ高いと言えます。

管理的職業以外の他の職業を見ると、「建設・採掘の職業」は5.44倍、「事務的職業」が0.49倍、「販売の職業」が2.26倍、サービスの職業が3.62倍、保安の職業が8.02倍、生産工程の職業が1.64倍、輸送・機械運転の職業が2.65倍などとなっています。

このように建設・採掘の職業は保安の職業に次いで超高倍率であり、建設業における人材確保が逼迫していることがわかるでしょう。

1-3 建設業の生産額と従業員数から見える人手不足の状況

総務省 平成30年度版情報通信白書の「日本の産業別実質国内生産額の推移」のデータを見ると、建設業の実質国内生産額は平成22年が51兆4,750億円→平成27年が61兆9,530億円となっており、平成22年から緩やかに増加しています。率にするとH27はH22から20.3%増加しているわけです。

一方、この間の建設業の従業員数を調べると以下のように、平成9年から平成22年までは大きく減少し、22年から27年の間ではほぼ横ばいであることが確認できます。

  • ○建設業就業者:685万人(H9)→498万人(H22)→500万人(H27)
  • ○技術者:    41万人(H9)→31万人(H22)→32万人(H27)
  • ○技能労働者: 455万人(H9)→331万人(H22)→331万人(H27)

*国土交通省の資料「建設産業の現状と課題」(P11より引用)

つまり、平成22年から27年の間では生産額は20%以上増加しているにも関わらず、建設業の就業者数はほとんど変わらない状態ということです。生産性が大きく向上しないのであれば、生産額が増加するにつれて就業者数も増加するはずですが、そうはなっていません。

一般社団法人日本建設業連合会の「生産性向上推進要綱」にある土木・建築の平均生産性指標(完成高・円/1人工・8H)を見ると、平成22年は80,008円、27年は81,310円です。従って、この期間の生産性の増加率は1.6%増と少なく、生産性の向上からは就業者数の伸びの低さを説明できません。

つまり、生産額は増えているものの生産性はあまり伸びず、従業員数はほぼ同じという状態であることから労働者の不足が窺えます。

1-4 若年層の建設業離れで進む人手不足

若年層の建設業離れで進む人手不足

各産業の就業者数の推移を2000年から2018年の期間で確認すると、全産業では約3.4%の増加となっているものの建設業は23.0%の大きな減少です。他の産業では鉱業40%減、農林漁業30.1%減、卸小売業27.3%減、製造業19.8%減 などとなっており、これまでの国内基幹産業での減少が目立っています。

他方、金融保険・不動産業は18.1%増、その他が44.9%となっており、金融やサービス業などでは就業者は増加しているのです。

*上記データは独立行政法人労働政策研究・研修機構 HP 「統計情報」の「図4 産業別就業者数」ページの「表 産業別就業者数」より引用

政府統計「e-stat」の「労働力調査 基本集計」から2019年の建設業の全就業者数を確認すると499万人です。これを年齢別でみると、20~29歳は54万人、30~39歳が82万人、40~49歳が130万人、50~59歳が100万人、60歳以上が130万人 となっています。

年齢層が低い20~29歳の層が最も少なく、40~49歳と高齢者層が最も多いという構成となっており、若年層の建設業離れが著しい状況です。この若者の建設業離れは今後の建設業における就業者数の更なる減少を加速させる可能性があり、このままでは人手不足はより深刻になり得ます。

2 建設業の人手不足の原因

建設業の人手不足の原因

建設業界の現状を見れば人手不足である点は間違いないですが、ここではその原因を考察してみましょう。

2-1 就業者数の低迷と若者の建設業離れ

建設業の人手不足の直接的な原因は建設業界全体の就業者数の低迷とそれに影響を及ぼしている若者の建設業離れが挙げられます。

下図は建設投資額の推移を示したものですが、1992年をピークとして2010年に底を打ちその後2018年まで緩やかに回復・増加を辿っています。しかし、「1-3」と「1-4」で確認したとおり建設業の就業者数は2000年からは大幅減少、2010年から2018年の間はほぼ横ばいです。

この間は仕事量が増加していますが、その増加の割合いほどには就業者が増えていないため人手不足の状態になっていることが窺えます。

建設業界データ集

大林組HP 「建設業界データ集」より

また、建設業就労者の年齢構成をみると20~29歳という若年層が最も少なく全体の就労者数を押し下げています。建設業界では高齢者層が増大し、若年層が減少というグラフにするとワニの口のような現象に追い込まれているのです。

厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」の「新規高卒就職者の産業分類別(大分類※1)就職後3年以内離職率」から平成22年から28年までの新規高卒就職者の離職率を見ると、建設業は45~50%程度と新卒就職者の約半分が離職しています。

他の業界では製造業が27~29%、電気・ガス・熱供給等が6~9%、情報通信業が38~43%、小売業が49~53%程度 というような状態で、建設業は小売業などとともに産業別ではトップクラスの離職率となっているのです。

このように若者の離職が建設業界での就労者の増加をより抑える形となり人手不足の大きな要因になっていると推察されます。

2-2 離職の理由から見える人手不足の原因

厚生労働省では定期的に「雇用管理現状把握実態調査」を行っており、平成24年度の調査では若年技能労働者の離職に関するアンケート*を行っています。

国土交通省の資料「建設業の働き方として目指していくべき方向性」P1より

その調査によると、「建設業離職者 建設業での仕事を辞めた一番の理由」(複数回答)の上位は以下の通りです。

「雇用が不安定である」9.6%
「遠方の作業場が多い」9.0%
「休みがとりづらい」8.4%
「労働に対して賃金が低い」7.9%
「作業に危険が伴う」6.7%
「ひと月の仕事量によって賃金額が変動する」6.2%
「将来のキャリアアップの道筋が描けない」6.2%
「労働時間が他の職業に比べて長い」5.6% 

建設業の仕事のイメージとして、「きつい」「汚い」「危険」という3Kの職場を思い浮かべる方は少なくないでしょうが、若年技能労働者の離職者の多くはそうした面のほか雇用や仕事量の不安定さ、将来のキャリアへの不安や賃金面の不満 などを感じています。

建設業の仕事のイメージ

つまり、これらの内容が離職の原因であり就労者数が増加しにくく人手不足の主要な原因になっている可能性が高いです。

2-3 建設業での労働時間の長さ

建設業での労働時間の長さ

厚生労働省の資料「建設業の働き方として目指していくべき方向性」のP7の「実労働時間および出勤日数の推移(建設業と他産業の比較)」で、建設業の労働時間の実態がまとめられています。

「年間実労働時間の推移」は下表の通りです。

建設業 製造業 調査産業計
2007年 2065時間 1993時間 1807時間
2015年 2056時間 1958時間 1734時間
▲9時間 ▲35時間 ▲73時間

産業計では2007年から2015年の8年間で73時間も減少していますが、建設業は9時間の減少にすぎません。2015年の年間労働時間においては産業計が1734時間、建設業が2056時間と322時間も多くなっています。労働時間が賃金へ十分に反映されていなければ、一層不満の原因になり得るでしょう。

「年間出勤日数の推移」は下表の通りです。

建設業 製造業 調査産業計
2007年 256日 238日 233日
2015年 251日 234日 224日
▲5日 ▲4日 ▲9日

年間出勤日数については、2015年の産業計が224日で建設業が251日となっており、建設業の方が27日も多いことがわかります。つまり、月ベースでは2.25日も建設業の出勤数が多いことになるのです。

「年間所定外労働時間の推移」は下表のようになっています。

建設業 製造業 調査産業計
2007年 198時間 128時間 132時間
2015年 191時間 164時間 131時間
▲7時間 36時間 1時間

年間所定外労働時間、すなわち残業時間等における2015年の産業計は131時間、建設業は191時間で建設業の方が60時間も多いです。月にすると5時間の差でありあまり大きな差には見えません。

しかし、作業場が遠方で労働時間が長ければ、就労日の就業後の自由な時間は少なくなるでしょう。その上毎月の休みも他の産業より少なくなれば、友人などと遊ぶ時間なども制約されるはずです。

また、実際の休日については「建設工事全体では、約65%の人が4周4休以下で就業している状況」であることが、国土交通省の資料「建設産業の現状と課題」P17で報告されています。

このように建設業の労働時間や出勤数の多さ(休みの少なさ)は離職の原因や若者の建設業離れに大きく影響していることが推察されます。

2-4 賃金水準と賃金形態の見劣り

①賃金水準

「2-2」で紹介したアンケート調査では「労働に対して賃金が低い」という理由が挙げられていましたが、その点については厚生労働省の資料「建設業を取り巻く状況」のP6「建設業における雇用環境」で確認できます。

このページでは「生産労働者等の年収額の推移」に関するデータが掲載されておりその内容は以下の通りです。

単位:千円

平成25年 平成26年
全産業・一般労働者 4,689 4,797
建設業・一般労働者 4,850 4,962
製造業・一般労働者 4,801 4,883
建設業・生産労働者(男) 3,949 4,086
製造業・生産労働者(男) 4,454 4,617

*生産労働者:主として物の生産が行われている現場、建設作業の現場等において作業に従事する者

上表の内容では建設業の生産労働者(男)の年収額は400万円前後となっており、全産業の一般労働者だけでなく製造業の生産労働者と比べて低い水準であることがわかります。

つまり、建設業は労働時間が多く休みは少ないという状況に加え、収入も多くないというケースであれば就労先としての魅力は薄れてしまうでしょう。

②賃金形態

建設業の技術系の労働者はほとんどが月給制となっている一方で、技能労働者の6割以上が日給制となっており、この日給制が収入の不安定に繋がり離職の要因になっている可能性があります。

先ほどの厚生労働省の「建設業の働き方として目指していくべき方向性」のP13には「週休2日の確保に向けたアンケートの実施結果」が掲載されており、その内容は下表の通りです。

「給与形態 週休2日モデル工事」 単位:%

月給 日給 個人事業主等 出来高制 その他
元請け技術者 98.1 1.2 0 0 0.6
下請技術者 80.3 17.1 1.3 1.3 0
技能労働者 31.7 64.9 0.5 2.5 0.5
全体 64.5 33.3 0.5 1.4 0.5

「給与形態 週休2日モデル工事以外」 単位:%

月給 日給 個人事業主等 出来高制 その他
元請け技術者 98.0 1.7 0 0.3 0
下請技術者 84.4 15.0 0.6 0 0
技能労働者 35.6 63.2 0.5 0.7 0
全体 61.7 37.5 0.4 0.5 0

上表の内容を見ると、技術者の8割以上は月給制で給与が安定していると考えられます。一方、技能労働者の6割程度は日給制となっており、労働日数の変動で収入が上下することになるのです。

収入の不安定要因は日給制という給与形態であり、これが建設業での就労の定着化を阻害する要因の1つになっていると考えられます。

2-5 危険度の高さと作業負担の重さ

危険度の高さと作業負担の重さ

離職について「仕事が危険、作業がきつい」といった理由が少なくないですが、その点について確認してみましょう。

①危険度

厚生労働省が公開している「労働災害統計確定値」によると、死亡災害状況と死傷災害状況は下表の通りです。

死亡災害 死傷災害
平成30年(1月~12月) 平成30年(1月~12月)
業種 死亡者数(人) 構成比(%) 死傷者数(人) 構成比(%)
全産業 909 100.0 127,329 100.0
製造業 183 20.1 27,842 21.9
鉱業 2 0.2 214 0.2
建設業 309 34.0 15,374 12.1
交通運輸事業 16 1.8 3,407 2.7
陸上貨物運送事業 102 11.2 15,818 12.4
港湾運送業 4 0.4 330 0.3
林業 31 3.4 1,342 1.1
農業、畜産・水産業 19 2.1 2,949 2.3
第三次産業 243 26.7 60,053 47.2

*労働災害統計確定値のエクセルデータを加工

平成30年の労働災害状況を見ると、死亡災害では建設業が34%と最も高い割合になっています。死傷災害については製造業が最も高い割合で、次いで陸上貨物運送業、建設業は3番目で12.1%です。

事業者数や各業種の事業形態などの違いもあるため、単純な比較はできないですが、労働災害統計のデータだけで判断すると建設業の仕事の危険度は低いとは言えないでしょう。

こうした災害・事故の多さを目の当たりにしたり、聞いたりする場合の若者の建設業離れが危惧されます。

②作業負担

一般社団法人富山県建設業協会が「平成29年度 建設業の雇用実態と経営状況に関する調査報告書」を公表しており、「建設業の仕事に関する意識調査結果(若手技術者・技能者)」(回答者608人)が報告されています。

その報告の中で「建設業を辞めたいと思った理由」について問うていますが、14項目の理由が回答されておりその上位5つは以下の通りです。

*建設業を辞めたいと思ったことがあると回答した444人に対する414名からの回答結果

賃金が低い 36.2%
休みが少ない 30.2%
労働時間が長い 18.4%
将来が不安 17.9%
仕事内容がキツイ 16.4%

「仕事内容がキツイ」が5番目に上がっており、作業負担が重いこと等が確認でき、このことも就労の定着を阻害し離職を促進する要因になっている可能性が窺えます。

3 建設業の人手不足の解決策

建設業の人手不足の解決策

建設業の人手不足は業界全体に関わる問題であることから政府が中心となって対策を講じる必要があります。ここでは国の解決策を中心に説明していきましょう。

3-1 人手不足の解決策の方向性

平成26年度の雇用管理現状把握実態調査(国土交通省の資料「建設業の働き方として目指していくべき方向性」P1より)では、企業に対して「若年技能労働者を定着させるための取り組み(複数回答)」のアンケート調査を行っています。

資料では調査の結果から、若年技能労働者の定着を達成した企業と未達の企業とを対比させた結果に基づき以下の取り組みに効果があると判断しているのです。

  • ●週休2日制の推進
  • ●社会保険の加入
  • ●福利厚生の充実
  • ●仕事の内容に対応した賃金
  • ●能力や資格を反映した賃金
  • ●月給制の導入
  • ●将来のキャリアアップの道筋の提示
  • ●技能教育の推進、資格取得の支援

以上の内容が離職者の不安や不満に対する取り組みとして実施され、一定の効果が表れていると考えられています。こうした点を踏まえて国は建設業での人材確保に向けた「建設業働き方改革加速化プログラム」などを策定し、人手不足の対策を実施しつつあるのです。

これより建設業働き方改革加速化プログラムの内容を中心に国等の人手不足対策を説明していきましょう。

3-2 長時間労働の是正

長時間労働の是正や週休2日の実現に向けた対応策が実施されています。

長時間労働の是正

①週休2日制導入の促進に向けた対策

1)週休2日工事の推進

国や自治体では一定額以上の公共工事などにおいて週休2日が可能となる工事を実現できるように推進しています。

たとえば、週休2日対象工事を拡大するため、災害復旧・維持工事を除く工期等に制約がない場合の週休2日を対象とする工事の適用拡大です。

週休2日対象工事の実施件数は、平成28年度が824件、平成29年度が2,546件、平成30年度はさらに適用件数の拡大が図られています。自治体の中には「○○市週休2日モデル工事実施要領」を作成し推進しているのです。

2)週休2日を考慮した間接費の支援

事業者における週休2日の費用負担を軽減するため、国は週休2日の実施に向けて労務費、機械経費(賃料)、共通仮設費、現場管理費に関して、現場閉所の状況に対応した補正係数を乗じ、必要経費を計上できるようにしています。

補正係数(土木工事の場合)

平成29年 平成30年
労務費 最大1.05
機械経費(賃料) 最大1.04
共通仮設費 1.02 最大1.04
現場管理費 1.04 最大1.05

上表のとおり、平成30年も補正係数が見直されており、請負代金へ週休2日の費用負担の一部が反映されます。

3)働き方改革に積極的に取り組む企業への評価を推進

週休2日を達成した企業、女性活躍を推進する企業など働き方改革を積極的に進める企業を評価するという取り組みが推進されます。

具体的には関係省庁が「建設業が取り組む『働き方改革』を支援するため独自の表彰制度を創設」し実施するという仕組みです。たとえば、国土交通省 関東地方整備局では平成31年2月26日に「品木ダム水質管理所 表彰制度創設」を発表しています。

こうした表彰制度の推進により企業側の週休2日に対する意識の醸成並びに実施が期待されます。

4)週休2日制工事・現場の見える化

工事事業者等への啓発のため、モデル現場を設置して週休2日を試行し、達成時には優良表彰するなどの取り組みが実施されます。また、「週休2日確保や工期適正化等に取り組む民間発注者を対象に先導的モデル事業の事例集」の拡充などが推進されることになっているのです。

②適正な工期設定の推進

1)「適正な工期設定等のためのガイドライン」の策定とその推進

建設業の長時間労働の是正に向け、平成29年6月に全ての建設工事(公共・民間)において働き方改革に向けた生産性向上や適正な工期設定等が実施されるために「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」が策定されました。

また、働き方改革関連法の成立等により上記ガイドラインは平成30年7月2日に改訂され、適正な工期設定の実現による時間外労働への規制に対応できる取組が推進されています。

たとえば、ガイドラインでは「適正な工期設定・施工時期の平準化」に向けて
工期の設定において建設工事従事者が時間外労働の上限規制に抵触するような長時間労働を回避できるように、工事の規模および難易度、地域の実情、自然条件、工事内容、施工条件等のほか、建設工事に従事する者の週休2日を確保することなどが要請されているのです。

国等ではこのガイドラインに沿って適正な工期設定が計画され施工時期が平準化されるよう指導しています。

2)工期設定支援システム活用の推進

工期設定支援システムは、「期設定に際し、歩掛かり毎の標準的な作業日数や、標準的な作業手順を自動で算出するシステム」です。これは建設工事において週休2日制を推進するためのツールで、建設工事のスケジュールを週休2日制に合わせて自動計算してくれます。

適正な工期設定等を検討するに当たり、以下のシステムを適宜参考とすることが要請されています。

土木工事は国土交通省の「工期設定支援システム」

建築工事は「公共建築工事における工期設定の基本的考え方」および(一社)日本建設業連合会の「建築工事適正工期算定プログラム」

3-3 賃金水準の改善と社会保険加入の徹底

賃金水準の改善と社会保険加入の徹底

技能と経験にマッチする処遇(給与)と社会保険加入の徹底といった環境整備が進められています。

賃金水準の改善と社会保険加入の徹底

①賃金水準の改善

1)発注関係団体等に対する労務単価の活用や適切な賃金水準の確保の要請

平成30年3月から適用する公共工事設計労務単価について「最近の労働市場の実勢価格を適切かつ迅速に反映する」取り組みが実施されています。また、社会保険への加入徹底を促進するため必要な法定福利費相当額の反映も行われました。

その結果、建設業の全職種平均(全国平均)は18,632円で平成29年3月比+2.8%増になっています(平成24年度比+43.3%)。被災三県平均は20,384円で平成29年3月比+1.9%増(平成24年度比+58.3%)です。

また、設計労務単価や技術者単価の改定が行われ以下のような結果になりました。

A 公共工事の設計労務単価(全国平均)
H30:職種平均18,632円(平成29年比;+2.8%)
B 設計業務委託等の技術者単価
H30:職種平均37,665円(平成29年比;+3.0%)

設計労務単価・技術者単価はH24年度以降6年連続での引き上げが実現されています。
設計労務単価:H24~30⇒約43%増
技術者単価:H24~30⇒ 設計約20%増、測量約37%増、地質約23%増

国ではこうした労務単価の改定が発注団体等へ行き渡るように指導しています。

2)「建設キャリアアップシステム」の稼働と加入の推進

建設キャリアアップシステムは、各建設技能者の就業実績や資格を登録し、技能の公正な評価、工事の品質向上、現場作業の効率化等に結びつけるためのシステムです。

技能者にとっては、自身の資格や就業履歴等を事業者側に認識してもらえるため就業機会の増加や、働く現場等に関係なく適正な評価と処遇が受けやすくなります。

事業者にとっては、技能者の就業状況や能力等が簡単に掴めるだけでなく、ICカードを入場管理に利用することで現場の入場管理等の効率化も可能です。

3)建設技能者の能力評価制度の策定と運用

建設キャリアアップシステムの運用開始により、各建設技能者の経験や技能について、業界横断的に把握することが可能となりました。これに伴い建設業全体として客観的に技能者を評価する仕組みを構築し、技能や経験に応じた処遇を実現するための取組を行うことになったのです。

その取組の一環として、建設技能者の能力評価制度に関するガイドラインが策定されました。このガイドライン等に従い職種毎の能力評価基準が策定され、建設技能者に対して4段階の客観的な技能レベルが与えられます。

そして、平成31年4月1日 「建設技能者の能力評価制度」がスタートしました

レベル1 初級技能者
レベル2 中堅技能者
レベル3 職長
レベル4 高度なマネジメント能力を有する者

こうした制度が充実していくことで技能者は目指すべきキャリアやそれに到達するための道筋などが掴みやすくなるでしょう。

②社会保険の加入推進

建設業界における社会保険の加入は徐々に改善されているものの、下位の下請になるほど加入率は低い状態であるため、さらなる対策が必要と考えられています。

国土交通省では「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を策定し、建設事業者に対して建設技能者の社会保険への加入を要請するとともに以下のような取組を進めているのです。

  1. 1)「全ての発注者に対して、工事施工について、下請の建設企業を含め、社会保険加入業者に限定するよう要請する」
  2. 2)「社会保険に未加入の建設企業は、建設業の許可や更新を認めない仕組みを構築する」

また、社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインでは「適切な保険に加入していることを確認できない作業員ついては、元請企業は特段の理由がない限り現場入場を認めないとの取扱いとすべき」と明示しています。

こうした取り組みを推進することで国等は技能者の社会保険への加入を徹底させようとしているのです。

3-4 生産性の向上

長時間労働の是正や週休二日の確保は、建設業における生産性の向上が前提となるためその取組が一層求められています。

「建設業働き方改革加速化プログラム」では、「i-Construction」の推進等により建設生産システムの全段階におけるICTの活用等で生産性向上を図ることが明記されています。そのプログラムの重要ポイントは以下の通りです。

生産性の向上

①生産性向上に取り組む建設企業へのバックアップ

1)積極的なICT活用に向けた公共工事の積算基準等の改善

具体的な改善策としては、ICT建機のみで施工する単価が新設され、通常建機のみで施工する単価と区分されることになりました。
⇒これまでのICT単価についてはICT建機の使用割合を25%で一律設定されることとなり、ICT建機の稼働実態に応じた積算・精算が可能になります。

2)生産性向上に積極的に取り組む建設企業等の表彰

国土交通省は、ICTなどを活用した建設現場の生産性向上(i-Construction)に係る優れた取組を表彰する「i-Construction大賞」を制定し毎年受賞者を発表しています。

2019年度は地方公共団体などの取り組みも対象とするなど、対象の範囲が拡大されました。

*2019年度 計25団体(国土交通大臣賞4団体、優秀賞21団体

3)建設リカレント教育の推進(人材育成を通じた生産性向上のため)

国土交通省は、建設技能者を育成するため、ICT等を活用し効果的・継続的に技能訓練や学び直しを行う「建設リカレント教育」を推進しています。

同省は業界団体と連携して各職種の人材育成のニーズや効率的な手法に関して調査を行い、遠隔地でも受講できる映像コンテンツの作成や、技能訓練の実施を支援しようとしているのです。

こうした人材育成を通じた建設業での生産性向上が期待されます。

②仕事の効率化

1)建設業許可等の手続負担の軽減に向けた申請手続の電子化

国土交通省は2022年度より建設業許可申請や経営事項審査申請に関して電子申請をスタートさせると発表しています。

*従来は書面・窓口申請のみで郵送も不可でした。

2)公共工事での関係する基準類の改定、施工品質の向上と省力化の推進

工事書類の作成負担を軽減するために、公共工事での関係する基準類が改定され、IoTや新技術の導入等による施工品質の向上や省力化が推進されます。

たとえば、「タブレットによるペーパーレス化やウェアラブルカメラの活用等、IoT技術や新技術の導入により、施工品質の向上と省力化を図る」などの取組が推進されるのです。

また、入札時における簡易確認型(簡易技術資料の提出等による入札参加)の拡大や、施工時の関係基準類(工事成績評定要領、共通仕様書)の改定による書類の作成負担の軽減も進められます。

3)建設キャリアアップシステムの活用による現場管理の効率化

建設キャリアアップシステムの技能者情報等により、「施工体制台帳や作業員名簿の作成の手間やミスの削減」や「技能者に証紙を交付する際の事務作業の軽減(現在は手作業で必要書面を作成)」が期待できます。

③限られた人材・資機材の効率的な活用の促進

1)技術者配置要件の合理化

建設業法および「公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律」(「入契法」)の一括改正案が令和元年6月12日に公布されました。今回の法改正では、監理技術者の配置要件の緩和が推進され、元請の監理技術者を用意する負担が軽減されたのです。

また、「専門工事一括管理施工制度」が新設され、一次下請の会社で一定の指導監督的な実務経験を有する者を専任で配置することで二次下請の会社における主任技術者の設置が不要になりました。つまり、下請においても主任技術者の設置負担が軽くなったのです。

2)施工時期の平準化の推進

単年度予算の消化ために無理な施工期間にならないように複数年度で消化できる仕組みが作られ利用できるようになっています。
⇒平準化を推進し適正な工期を確保するために2カ年国債(国庫債務負担行為*)などが活用できます。

*国庫債務負担行為は、工事等の実施が複数年度に亘る場合に後年度に亘って債務を負担(契約)出来る制度。2カ年度に亘るものは「2カ年国債」

3-5 その他

ほかにも以下のような取り組みが見られます。

1)女性活躍推進

「女性の活躍に地域ぐるみで取り組む活動への支援や、経営者向けの研修を通じて、女性も働きやすい職場環境を整備」

(例)
女性同士の交流会を通じ、経営者等へ職場環境の改善を提言
メーカーと連携し、女性目線から負担軽減につながる保護具を開発

2)職場環境の改善

「建設現場の仮設トイレについて、直轄工事では10月より快適トイレ(女性も活用しやすいトイレ)の設置を原則化し、職場環境を改善」

3)教育訓練の充実

「富士教育センターをH29年度からリニューアルオープン、教育訓練プログラムの質を充実」

「地域の建設業者等による『職人育成塾』などを支援」

4 オリンピック後建設業はどうなる?人手不足は?

最後に東京オリンピック後の建設需要や建設業界の人手不足の状況について考察してみましょう。

4-1 オリンピック後の景気が悪くなるとは限らない

景気の悪化は世界経済やその国自体の事情などが影響するため、東京オリンピック後において世界経済が大きく落ち込まなければ日本の景気も過度に心配する必要はないでしょう。

みずほ総合研究所の「日本経済は五輪ロスに陥るのか」の分析では、1992年のスペインから2016年のブラジルまでの7大会中、GDP成長率がオリンピック開催翌年に低下したケースは4大会です。つまり、この間のオリンピック後の景気減速確率は約6割と高く見えますが、次のような世界的な経済状況が影響しました。

1992年のスペインではヨーロッパ通貨危機、2000年のオーストラリアではITバブルの崩壊、2008年の中国はリーマンショック による影響が大きかったと見られています。

つまり、他の要因を考慮しなければ2020年東京オリンピック後の景気をさほど心配する必要はありません。ただし、現状では新型コロナウィルス感染症の影響が懸念されるため、五輪後の景気は安心できる状態とは言えないでしょう。

4-2 国内建設需要は底堅い

東京オリンピック後では2025年の大阪万博の開催、都内大規模ビルの建設需要、地方中枢都市のインフラ需要や社会資本の維持・更新 などもあり、国内建設需要は底堅く人手不足は急激には解消されにくいです。

①2025年の大阪万博等での建設需要

東京オリンピック後の大きなイベントとして、2025年の大阪万博が予定されており国内建設需要の維持に貢献してくれます。

東京都オリンピック・パラリンピック準備局は平成29年4月に「東京2020会開催に伴う東京都の需要増加額は、直接的効果で約2兆円、レガシー効果で約12兆円、合計で約14兆円」という試算を発表しており、東京オリンピックの経済波及効果の大きさが確認できるでしょう。

他方、2025日本万国博覧会誘致委員会事務局によると、大阪万博での経済波及効果は約2兆円と試算しています。波及効果の規模は小さいものの、万博会場の建設のほか、周辺地域の開発、2,800万人の来場客に対応できる交通インフラ整備などの建設業の需要の増加が期待されます。

また、大阪万博の開催場所である人工島の「夢洲」(ゆめしま)はカジノを併設する統合型リゾート(IR)の誘致候補地でもあり、ホテルや商業施設、国際会議場の誘致も計画されているのです。

ほかにも関西国際空港のある泉佐野市では、関西空港の出入口にあたる「りんくう中央公園用地」を売却し、MICE(会議、視察、国際会議、展示会・見本市)施設、ホテル、サービスアパートメントなどの複合施設の建設を計画しています。

外国からの観光客の増加、万博の開催などがあり関西での建設需要の見通しは明るいと言えるでしょう。

②東京23区の大規模オフィスビルの需要

森ビル株式会社は「東京23区の大規模オフィスビル市場動向調査2019」(2019年4月16日)で「東京23区の大規模オフィスビルの供給量は20年と23年は高水準、21年と22年は低水準の見込みで、今後5年間の平均は過去平均と同水準となる」との予測を発表しています。

また、1物件当たりの平均供給量は増加傾向であり、10万㎡以上の大規模オフィスの供給量と供給割合は、23年が調査以来最大になると予想しており、供給物件の大規模化の進行が指摘されています。

東京オリンピック後も東京23区での大規模オフィスビル建設の工事量は比較的安定しており、その対応のための人員確保は今後も必要になるでしょう。

③社会資本の維持・更新

国土交通省の「国土交通省所管分野における社会資本の将来の維持管理・更新費の推計(2018年度)」によると、2018年度の維持管理・更新費の推計が約5.2兆円であるのに対し、2023年度は約5.5~6.0兆円、2028年度は約5.8~6.4兆円と今後益々増大するものと予測しています。

国内建設投資における公共工事の割合は約4割(約23兆円・平成30年)ありますが、既存のインフラの老朽化が懸念されており、それらの維持管理や更新が必要になってくるのです。

国土交通省は予防保全の重要性を認識しており、事後保全に加え予防保全の工事も進められることになるでしょう。そのためこの分野での人員確保も不可欠になっていきます。

④災害復旧等に向けた地方のインフラ整備の推進

全国の自治体では地震・台風等の災害復旧や対策のほか、インバウンド需要の取り込み等に向けたインフラ整備が活発化しており、これらに関連した建設需要が期待できます。

2019年は台風や大雨の被害が続出しましたが、東京オリンピックの建設需要への対応等もあり復旧工事が小出しに進められているケースも少なくありません。そのためオリンピック後ではこの災害復旧工事や災害対策工事などの増加が見込まれます。

また、外国観光客を取り込むためのインフラ整備を進める自治体も少なくなく、自治体の投資的経費*は増加傾向です。投資的経費の平成28年度決算額は15兆1,252億円で前年度と比べ1.4%増となっています。

*投資的経費;道路・橋りょう、公園、学校、公営住宅の建設等社会資本の整備に必要な経費

以上の内容から東京オリンピック後の国内建設需要が急激に落ち込むとは考えにくいです。また、国・業界等の人材確保に向けた各種の対策は効果が出始めているものの短期間での劇的な効果を期待するのは困難でしょう。

そのため新型コロナウィルスによる景気への悪影響が長期間に亘って生じなければオリンピック後もしばらくの間は人手不足の状態が続くと予想されます。

5 まとめ

建設業は3Kのイメージに加え休めない、賃金が低い、将来が不安 といった理由から若者の建設業離れが進むとともに、東京オリンピックや災害復旧工事等の建設需要の増大などもあり人手不足の状態が続いています。

こうした状況を踏まえ国は建設業での人手不足を解消するため働き方改革法案を制定するなどして様々な対策を打ち出し、建設従事者の離職の防止や就業者の増加に努め少しずつ効果も現れ始めているところです。

東京オリンピック後も建設需要は比較的底堅く推移する可能性があり、人手不足はまだ継続する可能性があり建設業での就職・転職の機会は比較的良好と考えられます。就職等を検討している方は、志望する業界として建設業も候補に入れてみてください。

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