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建設業の見積書で法定福利費の明示を求められる理由とは

近年、建設業の見積書作成の際、法定福利費の明示を求められることが多くなっています。

この法定福利費は、企業の福利厚生費のうち、法令により企業が負担することが義務付けられている費用です。

なぜ、建設業の見積書に法定福利費を明示することが求められるのでしょうか。また、法定福利費と福利厚生費は、どこが違うのでしょうか。

本記事では、建設業の見積書に法定福利費を明示する理由や法定福利費を明示した見積書の作成方法およびその際の注意点などを解説しています。建設業に従事する方は、ぜひ参考にしてください。

1 法定福利費とは

法定福利費は、企業(雇用主)の福利厚生費のうち、法令により企業が負担することが義務付けられている費用であり、その多くが社会保険関連費です。法定福利費は、法令により企業に費用負担が義務付けられていますが、企業が一定割合で負担するもの、全額負担するものと様々です。

法令により企業に費用負担が義務付けられているのは、以下のものです。

  1. ①健康保険
  2. ②介護保険
  3. ③厚生年金保険
  4. ④雇用保険
  5. ⑤労災保険
  6. ⑥子ども・子育て拠出金

それでは、これらの項目を個別にみていきましょう。

①健康保険

健康保険は、労働者の医療を補償する保険です。健康保険の適用事業所で働く会社員やOLが加入し、健康保険料を支払う義務を負います。また、パートやアルバイトでも、常用的な雇用形態であれば加入義務が生じます。

保険金の給付事由は病気・怪我・出産・死亡などで、保険者は全国健康保険協会および健康保険組合です。健康保険料の負担割合は、労働者1/2、事業主1/2です。

②介護保険

介護保険は、介護が必要な人の負担を社会全体で支えるための保険制度です。40歳以上の国民が被保険者となり、介護保険料の支払い義務が生じます。保険金の給付事由は、老化や病気により介護の必要性が認定されることで、介護サービスを受ける費用に保険金が充当されます。

介護保険が適用される人は、以下のとおりです。

・65歳以上の人=第1号被保険者

要介護状態や要支援状態の場合に、介護保険が適用されます。

・40~64歳の人=第2号被保険者

老化による指定16疾病により要介護認定を受けた場合に、介護保険が適用されます。

介護保険料の負担割合は、労働者1/2、事業主1/2です。

③厚生年金保険

厚生年金保険は、会社員や公務員が所属する事業所を通じて加入義務がある年金制度で、常時雇用かつ70歳未満の人が対象です。また、パートやアルバイトでも、一定の労働時間以上働いていれば対象となります。

厚生年金保険の保険料は、被保険者が受ける給与などに応じて決まります。年金の受給は、原則65歳から開始されますが、開始時期の繰り上げ、繰り下げも可能です。また、年金の受給額は、被保険者が受けてきた給与や加入期間に応じて決定されます。

厚生年金保険料の負担割合は、労働者1/2、事業主1/2です。

④雇用保険

雇用保険は、労働者が失業した場合に生活給付を行い、再就職の支援を行うなど、労働者の生活および雇用の安定を図るための制度です。

労働者を雇用する事業は、業種や規模にかかわらずすべてが適用事業となり、雇用保険の適用を受けます。このため、適用事業所に雇用される労働者は、雇用保険の被保険者となります。

また、パートやアルバイトであっても、一定以上の雇用期間や労働時間がある場合は、雇用保険の対象になります。雇用保険料の負担割合は、業種によって異なりますが、建設業では、労働者1/3、事業主2/3です。

⑤労災保険

労災保険(労働者災害補償保険)は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷・疾病・障害または死亡に対して、労働者やその遺族のために必要な保険給付を行う制度です。

被保険者となるのは、正社員のほかパートやアルバイトも含みます。

労災の対象は、業務上および通勤途上に起因したもののみが対象になります。労災の補償対象になると、療養費用の自己負担がなく、休業時の手当が手厚い内容となっています。

労災保険は、労働者を1人でも雇用する企業に加入が義務付けられており(業種によって例外あり)、その保険料は事業主が全額負担することになっています。

⑥子ども・子育て拠出金

子ども・子育て拠出金は、国や地方自治体が実施する児童手当や子育て支援事業などに充てるための税金です。子ども・子育て拠出金の額は、労働者の給与に応じて算出されますが、労働者に支払い義務はなく、全額が労働者を雇用している事業主が納める義務を負います。

 1-1 法定福利費と福利厚生費との違い

法定福利費は福利厚生費の一部です。通常、企業の福利厚生費は、法定福利費法定外福利費に分けることができます。法定福利費は、上でみたように、法令に基づき企業に費用負担が義務付けられている福利費です。

それに対して、法定外福利費は、法令によらないで企業が労働者の福利厚生に拠出している費用をいいます。一般的に、企業の福利厚生費という場合は、この法定外福利費を指すことが多くなっています。

法令に基づかない法定外福利費には、例えば以下のような費用が含まれます。

①通勤手当 従業員の通勤にかかる支出に対する補助です。
②出張手当 従業員の出張にかかる支出に対する補助です。
③社宅の家賃補助 従業員の社宅にかかる家賃に対する補助です。
④社員旅行 従業員の慰安旅行にかかる支出に対する補助です。ただし、従業員自ら積み立てた資金で旅行する場合は該当しません。
⑤各種親睦会 忘年会、新年会、歓送迎会、暑気払いなどの親睦会にかかる支出に対する補助です。
ただし、従業員自ら積み立てた資金で親睦会を開催する場合は該当しません。
⑥残業時の食事 従業員の残業時の食事にかかる支出に対する補助です。ただし、従業員が自ら全額支払う場合は該当しません。
⑦保養所 従業員の結婚祝金、出産祝金、傷病見舞金、災害見舞金、死亡弔慰金など
⑨人間ドック補助 従業員が人間ドック受診時にかかる支出に対する補助です。
⑩その他 資格取得費用補助、永年勤続表彰など

 1-2 法定福利費の計算方法

それでは、労働者1人あたりの法定福利費を、どのように計算して求めるかについてみていきましょう。社会保険料は、労働者の賃金に応じて保険料が算出されるため、賃金額にそれぞれの社会保険料率を乗じたものに、事業主負担割合を乗じて算出します。

①健康保険

法定福利費(事業主負担分)=標準報酬月額×健康保険料率9.84%×事業主負担割合1/2となります。

②介護保険

法定福利費(事業主負担分)=標準報酬月額×介護保険料率1.8%×事業主負担割合1/2となります。

③厚生年金保険

法定福利費(事業主負担分)=標準報酬月額×厚生年金保険料率18.3%×事業主負担割合1/2となります。

④雇用保険

法定福利費(事業主負担分)=賃金総額×雇用保険料率1.2%×事業主負担割合2/3(建設業)となります。

⑤労災保険

法定福利費(事業主負担分)=賃金総額×労災保険料率(注)%×事業主負担割合1/1となります。

(注)労災保険料率は、業種によって細かく分かれています。令和3年度の建設事業では、水力発電施設、ずい道等新設事業62%、道路新設事業11%、舗装工事業9%などとなっています。

⑥子ども・子育て拠出金

法定福利費(事業主負担分)=標準報酬月額×子ども・子育て拠出金率0.36%×事業主負担割合1/1となります。

上の標準報酬月額とは、社会保険料を算出するための賃金額ですが、実際に支給する賃金額ではありません。標準報酬月額は、決められた時期に実際に支払った賃金の平均額を一定の区分に当てはめた金額です。

この一定の区分は、健康保険料では1~50等級、厚生年金保険料では1~32等級に分かれています。また、それぞれの社会保険料率ですが、健康保険、介護保険、厚生年金保険については、地域により率が異なります。上に記載したのは東京都の率です。

2 建設業の見積書に法定福利費を明示する理由

それでは、なぜ建設業の見積書に法定福利費を求められるのか、その理由をみていきましょう。

 2-1 根底は社会保険未加入問題

建設業の見積書に法定福利費を求められる理由は、産業界に社会保険未加入の実態があるからです。その中でも、特に建設業界は、社会保険未加入の企業が多く存在する傾向にありました。

これは、社会保険に適切に加入せず、社会保険料などの法定福利費を負担しない企業が存在することです。すなわち、社会保険未加入の企業は、社会保険料など法定福利費の事業主負担分を支払わないまま労働者を雇用し続けています。

それでは、社会保険未加入の実態があると、社会的にどのような影響があるのでしょうか。

社会保険未加入による社会的な影響は、大きく分けて次の3つになります。

  1. ①労働者の公的保障が確保されない
  2. ②若年入職者が減少してしまう
  3. ③競争の公平性が損なわれる

①労働者の公的保障が確保されない

職場で、健康保険や厚生年金保険への加入手続きがされないと、そこで働く労働者は社会保険の被保険者としての地位を得ることができません。健康保険に加入していなければ医療面で、厚生年金保険に未加入であれば将来の年金面で、公的な保障を受けることができません。

このように、企業が社会保険の適正な加入手続きを行わなければ、そこで働く労働者は社会的に不利な立場に置かれ続けることになります。

②若年入職者が減少してしまう

社会保険未加入により、そこで働く労働者の公的保障が確保されないことは、若年入職者に対して良い影響を及ぼしません。特に、建設業は社会保険未加入企業が多く、いざという時の公的な保障がないという理由から、将来性のある若い労働者が入職を敬遠する傾向にあります。

このことからも、建設業全体で社会保険に適切に加入し、労働者の公的保障の環境を整えることにより、将来を期待される若年入職者を増やしていくことが求められます。

③競争の公平性が損なわれる

社会保険に加入せず、法定福利費を負担しない企業は、工事の見積書に法定福利費を含めていません。

一方で、社会保険に適切に加入して法定福利費を負担している企業は、見積書に法定福利費を上乗せするため、その分割高の見積額を提示することになります。そのため、適正に法定福利費を負担する企業が競争上不利になり、事業の公平性を保つことが困難になってしまいます。

このように社会保険未加入問題は、社会的に様々な悪影響を及ぼしていることから、その実態を改善する取組が官民一体となって進められています。その代表的な取組の一つが、元請業者などが下請から建設工事の見積書を求める際、そこに法定福利費を明記するよう指導するというものです。

 2-2 社会保険未加入解消に向けた取組

社会保険未加入解消に向けた取組は、以下のように官民一体となって進められています。

【建設業許可における社会保険加入要件】

令和元年度の建設業法等の一部改正において、建設業許可基準の見直しが行われ、建設業者の社会保険の加入が建設業許可・更新の要件とされるなど、社会保険加入確認がより厳格化されました。

この法改正により、以下のように、建設業許可の要件として、健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法に規定する適用事業所に該当するすべての営業所について、適正に届出がされていることが求められることになりました。

①健康保険・厚生年金保険への加入

法人の場合は、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。個人の場合は、家族従業員を除く従業員が5人以上いれば、原則として適用事業所となります。

②雇用保険への加入

従業員を1人でも雇用していれば、原則として雇用保険の適用事業所となります。

このように、社会保険の適用事業所であるにもかかわらず、適正な加入がされていなければ、建設業許可を取得することができなくなりました。

【社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインの策定】

国土交通省では、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン(改訂版)」(令和2年10月1日より適用)を策定し、以下のように業界の指導を行っています。

①元請企業は、自社の労働者を社会保険に加入させること

②元請企業は、下請企業(含む2次下請以下)に対し社会保険に入るよう指導すること

・協力会社に対しては、社会保険に加入しているか定期的に把握する
・下請企業に対しては、下請契約締結前に社会保険加入状況を確認する

施工体制台帳や再下請通知書の「健康保険等の加入状況」欄により、2次以下の下請も含め確認

③元請企業は、工事現場に新規労働者を受け入れる際に、社会保険加入状況を確認すること

・作業員名簿の社会保険欄により確認する
・遅くとも、平成29年度以降は、適切な社会保険への加入が確認できない作業員は、現場入場を認めない取扱いとすべき

④元請企業は、協力会社組織も活用し、工事現場でのポスター掲示、講習会などにより、周知啓発に努めること

⑤元請企業は、工事の発注者から法定福利費を確保し、下請に適正に支払うこと

・下請労働者の法定福利費を含む金額の見積書を作成・提出し、法定福利費が確保された契約を結ぶよう発注者に要請する
・下請企業に対して、見積依頼時には、法定福利費を内訳明示した見積書を提出するよう依頼する
・下請企業との契約時には、下請見積書で内訳明示された法定福利費の額を尊重し、法定福利費を圧迫しないようにする

⑥平成24年11月から、建設業の許可・更新時、経営事項審査時、事業所への立入検査時に、行政による社会保険加入状況の確認がなされ、未加入の場合は加入指導が行われること

建設業の見積書で法定福利費を求められるのは、上のガイドラインの⑤に根拠を見出すことができます。

なお同ガイドラインには、下請企業に対しても、その役割と責任として以下のものが明記されています。

  1. ①雇用する労働者の適切な社会保険への加入
  2. ②元請企業が行う指導等への協力
  3. ③雇用する労働者にかかる法定福利費の適正な確保
  4. ④再下請負にかかる適正な法定福利費の確保

3 法定福利費を明示した見積書の作成方法

次に、法定福利費を明示した見積書の作成方法について見ていきましょう。

法定福利費を明示した見積書は、次の手順で作成します。

  1. ①工事ごとに労務費を求める
  2. ②求めた労務費から法定福利費を算出する
  3. ③見積書に法定福利費を明示する

また、法定福利費には、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・労災保険料・子ども・子育て拠出金がありますが、国土交通省の見積書作成手順では、見積書に明記する法定福利費は、次の5つとされています。

  1. ①健康保険料
  2. ②介護保険料
  3. ③厚生年金保険料
  4. ④雇用保険料
  5. ⑤子ども・子育て拠出金

労災保険料については、見積書に加えても差し支えありませんが、その際は記載範囲の内訳(労災保険料を加えた旨)を明示するとされています。

 3-1 工事ごとに労務費を求める

通常、建設工事の見積書は1件の工事ごとに提出を求められるため、そこに記載する法定福利費も工事ごとに算出する必要があります。工事ごとの法定福利費を算出するには、1件の工事にかかる労務費を求めることから始めます。

一般的に、労務費を算出するには、以下の計算式を用います。

〇労務費=1日あたりの賃金×人工数

上の人工数は、工事1件を仕上げるために必要な労働力をいいます。仮に、工事1件を仕上げるために10人の労働力が必要であれば、人工数は10人工となります。この場合の10人工とは、必ずしも同時に10人の労働者が必要ということではありません。10人工の工事を1日で仕上げるためには、1日に10人の労働者を必要としますが、10日間で仕上げる場合は、1日あたり1人の労働者で充足します。

ここで、上の計算式を使って労務費を計算してみましょう。

〇水道配管工事

  1. ・1日あたりの賃金=20,000円
  2. ・必要な人工数=8人工
  3. ・労務費=1日あたりの賃金20,000円×必要な人工数8人工=160,000円

この水道配管工事の労務費は、16万円となります。

なお、上記では、「1日あたりの賃金×人工数」により工事ごとの労務費を算出しましたが、厚生労働省が定めている「労務費率」を利用する方法もあります。労務費率は、本体工事費に占める労務費の比率を表しています。

具体的には、労務費率は、建設事業では「水力発電・ずい道等新設事業」が19%、舗装工事業が17%など平均的な数値が設定されています。したがって、例えば、舗装工事の本体工事費が300万円であれば、本体工事費300万円×舗装工事業の労務費率17%=舗装工事の労務費51万円と算出します。

 3-2 求めた労務費から法定福利費を算出する

次に、上で求めた労務費から見積書に明示する法定福利費を算出します。法定福利費の算出は、労務費に保険料率を乗じて行います。

以下の表は、令和3年度の各保険料率およびその事業主負担割合を示したものです。

【令和3年度の保険料率】

区分 保険料率 事業主負担分 備考
健康保険料 9.84% 4.92% 事業主負担=1/2
介護保険料 1.8%×50% 0.9%×50% 事業主負担=1/2
厚生年金保険料 18.3% 9.15% 事業主負担=1/2
雇用保険料 建設事業は1.2% 建設事業は0.8% 事業主負担=
建設事業は2/3
子ども・子育て拠出金 0.36% 0.36% 事業主負担=全額

(注)

1 健康保険料率、介護保険料率、厚生年金保険料率は、全国健康保険協会「令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都分)」を参照

2 雇用保険料率は、厚生労働省「令和3年度の雇用保険料率について」を参照

3 子ども・子育て拠出金負担率は、令和3年度分を日本年金機構が公表

上表の中で、介護保険料は、40~64歳までの人が第2号保険者として1.8%の保険料がかかりますが、全労働者に占める第2号保険者の比率は、ここでは便宜上50%とします。

また、雇用保険料は、業種によって保険料率も異なりますが、建設事業の保険料率は1.2%となっています。

なお、保険料の事業主負担割合は、

  1. ・健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料は1/2
  2. ・雇用保険料は業種によって事業主負担割合が異なってきますが、建設事業は2/3
  3. ・子ども・子育て拠出金は、全額が事業主負担

・子ども・子育て拠出金は、全額が事業主負担

見積書に明示する法定福利費は、それぞれの保険料のうち、この事業主負担分です。上で例にあげた水道配管工事の労務費16万円を使って各保険料の事業主負担分を算出してみましょう。

①健康保険料

事業主負担分=労務費160,000円×健康保険料率9.84%×事業主負担割合1/2=7,872円

②介護保険料

事業主負担分=労務費160,000円×介護保険料率1.8%×全労働者に占める第2号保険者の比率50%×事業主負担割合1/2=720円

③厚生年金保険料

事業主負担分=労務費160,000円×厚生年金保険料率18.3%×事業主負担割合1/2=14,640円

④雇用保険料

事業主負担分=労務費160,000円×雇用保険料率1.2%×事業主負担割合2/3=1,280円

⑤子ども・子育て拠出金は、全額が事業主負担

事業主負担分=労務費160,000円×子ども・子育て拠出金負担率0.36%×事業主負担割合1/1=576円

 3-3 見積書に法定福利費を明示する

それぞれの保険料について、法定福利費を算出したら、その数字を基に見積書を作成します。以下は、見積書の例ですが、一般的な建設工事にかかる見積書では、材料費、労務費、経費、法定福利費のそれぞれを合計して見積額を求めます。

●見積書の例

見積金額(D+E+F) 366,396円
項目  
材料費A 120,000円
労務費(法定福利費を除く)B 160,000円
経費(法定福利費を除く)C((A+B)×10%) 28,000円
小計D(A+B+C) 308,000円

【法定福利費(事業主負担分)】

保険料の種類 対象となる労務費 保険料率
(事業主負担分)
法定福利費
健康保険料 160,000円 4.92% 7,872円
介護保険料 160,000円 0.9%×50% 720円
厚生年金保険料 160,000円 9.15% 14,640円
雇用保険料 160,000円 0.8% 1,280円
子ども・子育て拠出金 160,000円 0.36% 576円
小計E 15.68% 25,088円

【消費税】

工事価格(D+E) 消費税率 消費税額F
333,088円 10% 33,308円

上の見積書では、材料費、労務費、経費には法定福利費は含まれていません。法定福利費は、別枠で保険料ごとに明記し、合計を記載します。

材料費、労務費、経費に法定福利費を合算した金額に10%を乗じて消費税額を算出します。

材料費、労務費、経費、法定福利費、消費税額の合計額が見積額になるわけです。

4 見積書に法定福利費を明示する際の注意点

次に、見積書に法定福利費を明示する際に、どのような点に注意すればよいかについてみていきましょう。

 4-1 法定福利費には事業主負担分のみを計上する

見積書に明記する法定福利費は、事業主負担分のみ計上します。その理由は、事業主負担分以外の法定福利費は雇用者負担分であり、その雇用者負担分を計上してしまうと、事業主負担分を必要コストとして見積額に算入する趣旨から外れてしまうからです。

なお、事業主負担分以外の法定福利費を見積額に含める場合は、その旨の明記が必要です。

この場合は、含めた事業主負担分以外の法定福利費分を労務費から控除しておかなければいけません。

 4-2 経費には法定福利費を含めない

見積書には、事業主負担分の法定福利費は別枠で独立して明記します。したがって、経費には、事業主負担分の法定福利費は含めないよう注意が必要です。

 4-3 介護保険料率は加入率を加味する

介護保険料は、すべての労働者に課されるわけではありません。介護保険料は、40~64歳までの人が第2号保険者として1.8%の保険料が課され、40歳未満の人にはかかりません。

したがって、法定福利費を求める場合は、介護保険の加入率を加味する必要があります。

しかし、介護保険の対象となる40歳以上の現場労働者の割合を工事ごとに把握することは困難です。そのため、厚生労働省の「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」では、全国健康保険協会が公表する「介護保険被保険者数及び被扶養者の年齢構成割合」(被保険者全体に占める40~64歳の割合)を勘案して設定する方法が示されています。

 4-4 法定福利費は消費税の対象になる

法定福利費は、消費税の対象となります。

したがって、見積書の作成において、法定福利費を加えた工事価格に対して消費税率を乗じて消費税額を算出することになります。

5 まとめ

法定福利費は、企業の福利厚生費のうち、法令により企業が負担することが義務付けられている費用です。建設業の見積書に法定福利費を求められるのは、業界に社会保険未加入企業が多い実態があったことが大きな理由です。

社会保険未加入問題は、①労働者の公的保障が確保されない、②若年入職者が減少してしまう、③競争の公平性が損なわれるなどの様々な社会的悪影響を及ぼします。

社会保険への適切な加入は、建設業で働く労働者にいざという時の公的な保障を確保するとともに、安心して働く環境を整備することにより若年入職者の減少に歯止めをかけることなど、非常に大きな効果が見込めます。また、それと同時に、建設業界全体の公平な競争性を保つという業界の健全化に資するものです。

これからの建設業界において、社会保険への適正な加入は、業界の将来をも左右する非常に重要な責務といえるでしょう。

建設業許可申請が全国一律76,000円!KiND行政書士事務所:東京