建設業許可の承継制度とは 制度の特徴やメリット、手続きの流れを解説
建設業者が事業を譲渡する場合、2020年10月以前まで「建設業許可」を承継することができなかったことをご存じでしょうか。しかし、建設業法が改正され、建設業許可の承認制度が新設されたことにより改善されたため、今回の記事では、建設業許可の承認制度とはどんな制度かを解説するとともに、建設業許可の承認制度の特徴やメリット、手続きの流れを解説していきます。
建設業許可事業を譲渡したい方や、逆に譲り受けたい方はもちろん、相続したいと考えている方などは、参考にしてみてください。
目次
1 建設業許可の承継制度とは
建設業許可の承継制度とは、建設業法の改正により令和2年(2020年)10月から新設された建設業許可の事業承継および相続に関する制度のことです。ここでいう事業承継とは、事業譲渡・合併・分割のことを言います。
ここでは、建設業許可の承継制度について、新設前と新設後に分けて解説します。
- ・新設前の建設業許可の承継
- ・新設された建設業許可の承継制度
1-1 新設前の建設業許可の承継
建設業法の改正前、すなわち新設前の建設業許可の承継については、建設業者が事業承継をする場合、「建設業許可」を承継することができませんでした。例えば、建設業者が事業を譲渡する場合、「建設業許可」は廃業届の提出をもって失効するため、譲り受けた法人(または個人事業主)は新たに建設業許可申請をする必要がありました。
新たに建設業許可を申請した場合、審査結果が出るまで1か月~4か月程度かかります。そのため、事業譲渡をしてから新規の建設業許可が下りるまでの間、無許可状態になってしまうのです。
その結果、空白期間が生じてしまうため、譲り受けた法人(または個人事業主)は建設業の事業ができないなどの不利益を被っていたのです。建設業許可を相続する場合も、廃業届を提出した上で新たに建設許可申請をする必要がありました。
このように事業を譲り受けた法人(または個人事業主)の建設業の無許可状態を解消するため、新設されたのが建設業許可の承継制度です。
1-2 新設された建設業許可の承継制度
新設された建設業許可の承継制度では、あらかじめ認可を受ければ、建設業許可事業を譲渡された法人(または個人事業主)は譲渡した法人(または個人事業主)の建設業許可を受けた地位を承継することができるようになりました。
その結果、改正前は無許可状態だった空白期間が生じることがなくなりました。
1-2-1 建設業許可の承継制度(事業譲渡・合併・分割)のポイント
実際に建設業許可事業を承継(事業譲渡・合併・分割)する際のポイントは、次のとおりです。
- ・建設業許可の事業承継は、全部を承継する場合のみ可能だが、一部のみを承継することはできない
- ・認可を申請する許可行政庁は、都道府県知事または国土交通大臣
- ・認可を受けたら、事業承継の効力が発生する日に「建設業許可を受けた地位」を承継できる
- ・建設業許可の有効期間は5年
- ・承継の日における承継される建設業許可等の有効期間は、残存期間にかかわらず更新され、承継の日の翌日から改めて起算される
1-2-1-1 建設業許可の承継パターン
建設業許可の承継パターンについて、いくつかの例を挙げてみました。承継できるか、できないかを示しましたので、参考にしてください。
異業種間 | 承継できる |
---|---|
一般建設業 → 特定建設業 | 承継できない |
特定建設業 → 一般建設業 | 承継できない |
個人事業主 → 法人 | 承継できる |
法人 → 個人事業主 | 承継できる |
一般建設業の許可事業者が、特定建設業の許可事業者の地位を承継することはできない(他の業種(土木業、鉄筋業、大工業、左官業など)も同様)
1-2-2 建設業許可の承継制度(相続)のポイント
同じ建設業許可の承継制度でも「相続」の場合は、「事業譲渡・合併・分割」の場合とは少し違っています。
相続により建設業許可事業を承継する際のポイントは、次のとおりです。
- ・被相続人が死亡した場合、30日以内に相続人が認可を申請する
- ・認可を申請すると、被相続人が死亡した日から認可される日まで、被相続人の「建設業許可」は相続人に対する許可とみなされる
- ・認可された場合、建設業許可の承継の効力は被相続人が死亡した日に遡って生じる
2 建設業許可の承継制度の特徴
建設業許可の承継制度の特徴として、建設業許可事業の譲渡(または合併・分割)の際、事前に認可を受ければ、建設業許可を受けた地位を承継できることが挙げられます。そのため、建設業法の改正前のように建設業の無許可状態だった空白期間が生じることがなくなりました。
同様に建設業許可事業の相続の際にも、被相続人の死亡後に相続人が認可を受ければ、建設業許可を受けた地位を承継することができます。
2-1 建設業許可を受けた地位の承継の性質
建設業許可を受けた地位を承継することによって、承継人は被承継人が受けた監督処分や経営事項審査の結果などを承継することになります。経営事項審査とは、公共工事を建設業者が請け負う際に各発注機関が行う建設業者への資格審査のことです。
一方、建設業法上の罰則について、被承継人(法人または個人)に課された罰則の構成要件である違反行為は、承継人(法人または個人)に承継されません。というのは、本来罰則というのは、違反行為を犯した本人に課されるものだからです。
3 建設業許可の承継制度のメリット
建設業法の改正により新設された建設業許可の承継制度の最大のメリットは、建設業の無許可状態である空白期間がなくなったことです。空白期間がなくなったことにより、無許可状態もなくなったため、新たな工事が受注できないということはなくなりました。
建設業許可を相続する場合、新たに建設業許可を申請しなくても、建設業許可事業を相続できるようになりました。
建設業許可の承継制度の主なメリットは、次のとおりです。
- ・新たに許可申請する際、必要となる審査手数料9万円が不要になった
- ・無許可状態が解消したため、元請けや下請けに迷惑をかけることがなくなった
4 建設業許可の承継制度のデメリット
建設業許可の承継制度が新設されたことによるメリットは非常に大きいものがありますが、デメリットもあります。ここでは、建設業許可の承継制度のデメリットを解説します。
建設業許可の承継制度のデメリットは、次の2つに関するデメリットになります。
- ・建設業許可を受けた地位の承継に伴い、被承継人から承継人に承継される監督処分や経営事項審査
- ・個人事業主の法人成り
4-1 被承継人から承継人に承継される監督処分や経営事項審査
「2-1 建設業許可を受けた地位の承継の性質」のところで解説したとおり、被承継人が受けた監督処分や経営事項審査の結果は、承継人に承継されます。
4-1-1 監督処分が承継される
監督処分とは、ある業者が法令違反などをしたときの行政機関による命令のことなので、被承継人が1回でも監督処分を受けている場合、事業譲渡をすると、その監督処分も承継人に承継されます。
そのため、監督処分が承継されることはデメリットになります。
4-1-2 経営事項審査の営業年数は承継されない
公共工事を建設業者が請け負う際に発注機関が行う建設業者への資格検査である経営事項審査も、事業譲渡の際、被承継人から承継人に承継されます。しかし、経営事項審査の項目である「営業年数」は承継されないため、リセットされゼロになります。
経営事項審査において「営業年数」は長さによって評価されるため、建設許可事業が譲渡されると評価が下がってしまうのです。そのため、経営事項審査の営業年数が承継されないことはデメリットになります。
4-2 個人事業主の法人成り
個人事業主の法人成りとは、個人事業主が一定の手続きを経て株式会社などの法人になることを言います。法人になることで、節税ができたり、社会的信用が高まリ資金調達がしやすくなったりするなどのメリットがあります。
4-2-1 建設業許可事業の譲渡日まで法人として活動できない
建設業許可事業の承継とともに個人事業主が法人成りする場合、譲渡日まで個人事業主として継続していく必要があるため、すぐに法人として活動できません。
4-2-2 経営業務管理責任者・専任技術者の社会保険に要注意
経営業務管理責任者(経管)とは、建設業の個人事業主や法人における経営業務を実施する責任者のことを言います。専任技術者(専技)とは、建設業者における技術面の責任者のことです。
建設業許可事業の承継とともに個人事業主が法人成りする場合、経管や専技が不在にならないよう、社会保険の移行手続きに注意する必要があります。というのは、経管や専技が不在になったら、建設業許可が取り消されるからです。
建設業許可は一旦取り消されると、5年間許可を得ることができないため、注意が必要なのです。
5 建設業許可の承継制度における認可申請手続きの流れ
建設業許可の承継制度における認可申請手続きの流れ(国土交通大臣・都道府県知事の認可)は、次のとおりです。
【国土交通大臣の認可】
-
①事前相談(各地方整備局)
↓
②国土交通大臣の認可
↓
③都道府県知事へ届出書を提出
【都道府県知事の認可】
-
①事前相談
↓
②申請書を提出(窓口審査)
↓
③受付
↓
④審査
↓
⑤都道府県知事の認可
↓
⑥申請者へ通知書を送付
↓
⑦資料を提出
・事前相談、申請書の提出(窓口審査)
認可申請にかかる「書類の作成相談」は、承継予定日の4か月前から受け付けています。
・受付
認可申請の受付は、承継予定日の前日の2か月前から25日前(土日祝日、その他の閉庁日を除く)まで受け付けています。
認可申請にあたっては、関係者の連名で申請書を提出します。
・審査・都道府県知事の認可
申請書受付後、認可までの期間はおおよそ25日程度(土日祝日、その他の閉庁日を除く)です。
承継者と被承継者が共に建設業許可事業者の場合、承継予定日は「建設業許可の有効期間が満了する日の30日前よりも前の日」でなければなりません。
6 まとめ
建設業許可の承認制度が新設されたことにより、あらかじめ認可を受ければ、建設業許可事業を譲渡した人の建設業許可を受けた地位を譲受人は承継することができるようになりました。そのため、建設業の無許可状態である長期間の空白期間がなくなり、譲受人は譲渡人の建設業許可を受けた地位を承継できるようになりました。
このように建設業許可が承継できるようになったことにより、譲受人が新たに建設業許可を受ける必要がなくなりました。建設業許可の承継を考えている方で、認可申請をしたいという方は、この記事を参考に手続きを進めてみてください。