建設業で営業停止処分を受けるケースとは?罰則内容なども紹介!
建設業を営む上で重要になるのは、建設業法や関連法案に従って事業や業務を行うことです。仮に、建設業法や刑法など関連法案に対して違法行為があった場合や、監督官庁の指示に従わない場合には処分を受けることになります。その処分には、営業活動を行うことができなくなる「営業停止処分」があります。
営業停止処分を課された建設業者は、定められた期間を営業活動ができなくなります。また、取引先や従業員などからの信用を失う原因にもなります。
そこで今回の記事では、営業停止処分を含めた行政処分についての概要、どんな時に営業停止などの処分を受けることになるのかや、営業停止になった場合の対応方法などを解説するので、参考にしてみてください。
目次
1 監督処分と罰則
建設業を管轄する国土交通省は、2007年(平成19年)4月1日より建設業の法令遵守体制の充実を目的として、核と法整備局に『建設業法令遵守推進本部(以下「推進本部」と呼びます)』を設置しています。
この推進本部に寄せられた法令違反疑義がある苦情は、2021年(令和3年)の1年間で1,335件*になります。2022年(令和4年)3月末の日本全体の建設業許可業者数は475,293業者**になるため、単純に法令違反疑義件数を許可業者で割ると、0.2%となります。
0.2%という数値は、苦情が入った上で法令違反疑義が認められた件数であることを考慮すると、決して少ない数値ではないと言えます。別途、同年に立ち入り調査は778件となって、前年の約1.9倍になっています。
法人で事業を行う上では、法令遵守は当然の責務です。法令を理解して遵守するとともに、もし法令違反が発生した場合の監督処分や罰則について解説します。
*不動産・建設経済局建設業課「令和3年度「建設業法令遵守推進本部」の活動結果および令和4年度の活動方針」より
**国土交通省「建設業許可業者数がピーク時(H12.3)以降初めて4年連続で増加~令和4年3月末現在の建設業許可業者の現況」より
1−1 監督処分とは
監督処分とは、法令違反などが発生している場合にその規制を行うために行政機関が発する命令などです。建設業においては、国土交通大臣や都道府県知事の許可行政庁が監督権に基づいて発する行政処分になります。
●監督処分の実績
令和3年度の監督処分は前述の「令和3年度「建設業法令遵守推進本部」の活動結果および令和4年度の活動方針」によると以下の実績になります。
【令和3年度 監督処分の実績】
処分 | 令和3年実績 | 主な処分事由 |
---|---|---|
勧告 | 78件(▲4件) | 下請代金の見積もりや決定における違反(48件)、下請けとの契約における違反(7件)、追加・変更契約における違反(1件) |
指示 | 76件(▲5件) | 下労働安全衛生法違反(4件)、営業所専任技術者不設備(2件) |
営業停止 | 9件(+4件) | 主任技術者などの不設備(2件)、労働安全衛生法違反(2件)、賄賂(2件)、公契約関係競売等妨害(2件)、会社法違反(1件) |
許可取消 | 0件(▲1件) | 該当なし |
監督処分は、「指示」「営業停止」「許可取消」に分けられて、次第に処分が重くなっていきます。また、監督処分の前に行政指導に該当する「勧告」があります。最も軽微である勧告の件数が最も多く、最も重い処分である許可取消は0件となっています。
●監督処分の開示
建設業の監督処分は、各許可行政庁のホームページで公開されています。
複数の都道府県に営業所を持つ建設業者を管理・監督する国土交通省は「ネガティブ情報等検索システム」があります。このサイトにアクセスすると、建設業だけでなく一級建築士や測量業者など複数の業者を対象に勧告・指示処分・営業停止処分・許可取消処分を受けた業者を年代別や地域別、処分理由別に検索できます。
1−2 監督処分の内容
監督処分は「勧告」「指示処分」「営業停止処分」「許可取消処分」の4つに分類できます。それぞれ詳しく確認してみましょう。
・勧告
- 許可行政庁が建設業者に対してより適正な状態になるよう促すことを目的として実施する指導や助言になります。勧告は処分ではないので行動を強制させる拘束力はなく、あくまで指導や助言の範囲になります。
勧告は行政指導に該当して、行政手続法における行政機関が一定の行政目的の実現をするために業者への行為を求める処分に該当しない指導や助言を言います。
ただし、勧告に従わない状況で業務を継続すると次の処分に該当する「指示処分」へ移行する場合があります。
・指示処分
- 建設業法に違反して業務を実施している建設業者に対して、適正な状態になるためにとるべき具体的な措置を指示・命令を許可行政庁が実施する処分です。
指示処分を受けた建設業者は、建設業法に違反している状況にあるため、指示・命令された具体的な措置の通りに是正をしなければなりません。
指示処分は、拘束力があります。そのため、指示処分を受けた場合には、速やかに指示事項の実行をしなければなりません。
・営業停止処分
- 営業停止処分は許可行政庁の指示や命令に従わず違反した状態を継続する事業者などに対して営業行為の停止命令になります。また、指示処分を受けた時点ではその指示事項に従ったが3年以内にまた類似の不正行為などを行なった場合には情状が重く見られ営業停止処分となります。
営業停止の期間は1年以内とされており、その期間は情状によって決定します。また、営業の全部を停止する場合や一部を停止する場合などもあります。
指示処分を受けていない業者であっても、その違反内容が指示処分では十分でないと判断される場合には営業停止処分になります。指示処分なしの直接営業停止処分が課されるのは、独占禁止法や刑法などの他の法令に違反した場合などがあります。
・許可取消処分
- 許可取消処分が課されると、許可が取消された日から数えて5年間建設業許可を受けることはできません。
そのため、許可取消の処分が課されると、建設業を継続して営むことが困難になります。建設業許可を必要としない範囲の建設工事を請け負う1ーことはできますが、現実的には建設業許可を取り消しされた業者が事業を継続することはほぼないと言って過言ではありません。
●指名停止
上記の監督処分とは別に、建設業には入札参加を禁止する指名停止という措置もあります。
指名停止とは、建設業者に対して一定期間内の入札参加を禁止する行政措置になります。指名停止は、官公庁や自治体などの指定された発注者に対しての入札参加が禁止されます。
そのため、指定された発注者以外の入札に参加することは入札以外の営業活動や事業活動を実施することは可能です。事故や賄賂や不正行為が原因で指名停止の措置が課されるため、指名停止を受けた建設業者の社会的信用は失墜します。その結果、指名停止措置の対象の発注者以外の発注者も入札への参加ができない、もしくは参加したとしても受注にはつながることがない状態になります。
国土交通省が指名停止措置を実施した建設業者の情報を開示している「国土交通省ネガティブ情報等検索システム」があります。そのため、指名停止の措置対象業者は誰もが閲覧できる状況で公開されています。
1−3 罰則とその内容
罰則とは、法律を破りに違反行為をおこなった者に対して科せられる制裁や過料*を言います。
罰則は、その違反行為の重要性によって懲役期間や罰金額が異なってきます。懲役期間については6ヶ月と3年以下の2つのパターンと、罰金は300万円と100万円と10万円以下の3つのパターンがあります。そして、情状によって懲役と罰金を合わせて科されます。
罰則 | 違反事例 |
---|---|
3年以下の懲役または300万円以下**の罰金とその併科 |
|
6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金もしくはその併科 |
|
100万円以下の罰金 |
|
10万円以下の罰金 |
|
*過料とは、国や公共団体が実施する金銭納付命令を言います。
**法人の場合には、1億円以下の罰金になります。
***建築一式工事の場合には、6,000万円以下になります。
2 監督処分を受けるケースとは
監督処分は国土交通省が作成した基準に基づいて実施されます。また、基準は「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準」で取りまとめられています。
国土交通大臣が監督処分の統一的な基準を定めることで、不正行為などを行う建設業者を厳正に対処するとともに、建設業への国民の信頼確保と不正行為などの未然防止に寄与することを目的にしています。
●監督処分の基本的な考え方
監督処分は、建設業の適正な施工を確保し、発注者の保護と建設業の健全な発達を促進するという建設業法の目的を踏まえています。その上で、基準に従って当該不正行為などの内容と程度、社会的影響、情状などを総合的に勘案して実施します。
上記基準は、建設業法の改正に伴い随時変更されています。直近の最終の更新は2022年(令和4年)5月26日に実施されています。適時更新された内容は、国土交通省のWebサイト「監督処分基準について」というページに更新されていきます。
2−1 勧告・指示処分を受けるケース
建設業者が不正行為などを行なった場合で、程度や社会的影響が大きくないものは「勧告」が行われ、勧告以上の程度や影響の大きいものは「指示処分」となります。
●勧告を受けるケース
建設業者が注文者であって、一般的に必要とされる工期と比較して著しく短い期間の工期を定めた請負契約の締結を実施した場合、かつその必要があると認められた場合に勧告が行われます。
●指示処分を受けるケース
指示処分を受けるケースは、以下の代表例のように複数あります。
- ・建設業許可を受けた建設業者が、建設業許可の変更届や決算変更届の提出など規定された変更の届出に違反した場合
- ・建設業者が、建設工事における請負契約締結時に書面による契約を締結しないことや不適切な記載内容が含まれるなどのその契約内容が規定に違反した場合
- ・建設業者が、店舗標識や建設工事の現場毎の標識の掲示などの標識の掲示規定に違反した場合
- ・その他、建設業者が求められる規定に違反した場合
なお、規定に違反した中で、故意または重過失によるものと判断される場合には指示処分ではなく、営業停止処分になるケースがあります。そのため、一度指示処分を受けた規定について期間を空けず複数回類似した規定に違反をする場合には故意または重過失と判断される可能性が高くなります。
2−2 営業停止処分を受けるケース
営業停止処分を受けるケースは、大きく2つに分けることができます。一つは、指示処分を受けた建設業者が適正な対応を実施せず建設業法などに違反した状況が改善されない場合です。この場合には、営業停止処分を受けます。
もう一つは、以下の事例に挙げる不正行為などが故意や重過失であると判断される場合に営業停止処分となります。
《営業停止処分となり得る事例》
- ・建設業者が実施した建設工事が適切な施工でなかったことで公衆に危害を及ぼした場合や危害を及ぼす恐れが大きいと判断される場合
- ・建設業許可を受けることなく、500万円以上の建設工事を請け負った場合
- ・建設工事における請負契約に対して建設業者が遵守すべき規定に反しているなど不誠実な行為を実施した場合
- ・建設業者*または法令で定められている使用人がその業務に係る法令に違反するなどの建設業者やその使用人として不適正であると判断される場合
- ・建設業者が一括下請の禁止規定**に違反した場合
- ・監理技術者や主任技術者が工事の施工管理において著しく不適正であることと、監理技術者などの変更が公益に適うと認められる場合
- ・建設業者が、建設業法第3条第1項(建設業の許可)に違反して建設業許可を取得せずに建設業を営む建設業者と下請契約の締結を行なった場合
- ・建設業者が、特定建設業者ではない建設業者と総額4,000万円***以上の工事代金の下請契約を締結した場合
- ・建設業者が、営業停止命令や営業が禁止されている事業者と、その事情を把握していながら下請契約を締結した場合
- ・履行確保法****の規定に違反した事実がある場合
*建設業者が法人の場合には、法人とその役員などが対象となります。
**発注者から受けた依頼の全てを一括して下請けに任せる一括下請負(いわゆる丸投げ)は、発注者が建設業者に対して寄せた信頼を裏切る行為にあたるため禁止されています。
詳細は、国土交通省「一括下請請負の禁止について」で確認できます。
***建設一式工事においては、6,000万円以上になります。
****履行確保法11条(住宅販売瑕疵担保補償金の供託など)では、建設業者に対し保証金の供託を実施することを原則とする規定を定めています。
2−3 許可取消処分を受けるケース
許可取消処分は、監督処分の中でも最も重い処分になります。そのため、前述の2021年(令和3年)の監督処分実績も0件ということから分かる通り、多発している処分ではありません。
ただし、許可取消処分を受けた建設業者は建設業を営むことがほぼできなくなるため、建設業者として常に許可取消処分にならないように注意して法令を遵守する必要があります。
許可取消処分を受けるケースは、原則不正行為や違反行為などにおいて建設業者の情状が重い場合や営業停止処分に違反するなど許可行政庁の監督処分に従わない場合です。具体的には、以下のような場合があります。
《許可取消処分となる事例》
- ・建設業者において必要とされる専任技術者を営業所に配置していない場合
- ・建設業者における主たる営業所の所在地が確認できない場合
- ・法人における取締役や個人事業主における事業主自身や登記されている支配人などが覚せい剤取締法や廃棄物の処理および清掃に関する法律、道路交通法などの法律に違反して懲役や罰金などの刑に処せられた上で、その事実を許可行政庁への報告を偽って不正に更新を実施した場合
- ・法人における取締役や個人事業主における事業主自身や登記されている支配人などが、懲役刑が確定したのちも就任を続けていた場合
- ・法人における取締役や個人事業主における事業主自身や登記されている支配人などが、反社会的組織の一員であった日から5年間を経過していないことが判明した場合
3 営業停止になった場合の対応
監督処分を受けて、その対応に苦慮するのは営業停止処分を受けた場合です。勧告や指示命令は、法令違反になっている業務などを適正になるよう対応すれば問題ありません。
一方で、許可取消処分においてはすでに許可が取消されているため、取消後に状況を是正するための行動はできません。また、その後に法人の閉鎖などを実施しなければなりませんが、既に建設業許可が取消されているためそれ以上の処分が発生することはありません。
一方で、営業停止処分はその処分が下されてから速やかに対応することが求められます。この速やかな対応ができない場合には、最悪許可取消処分になってしまうため、間違いは許されません。許可取消を受けてしまうと、許可取り消しを受けた日から5年間は別の法人を設立させたとしても重要な使用になることはできません。
そのため、営業停止処分を受けないようにすることが優先されるべきですが、仮に営業停止処分を受けた場合にはそれ以上の処分が下されないよう、速やかに命令通りに営業を停止した上で、限られた期間中の時間の中で違反状態にある業務などを正常の法令遵守が認められる状況にしなければなりません。
3−1 営業停止期間中にできないこと
営業停止処分とは、1年間などの一定期間建設業の営業を行うことができない処分です。そのため、営業停止期間中は以下のことができなくなります。営業停止期間中に、以下の時効を実施した事実がある場合には、許可取消処分に進む可能性が高くなります。必ず、営業停止処分には従うようにしなければなりません。
《営業停止期間中に実施できない行為》
- ①新規の建設工事の請負契約の締結
- ②営業停止処分を受ける前に締結した請負契約における変更
- ③新規の建設工事の請負契約締結に関する入札や見積もりなどの営業行為
また、営業停止処分には対象となる地域/業種/公共工事とそれ以外の工事のようにその停止対象が限定されている場合があります。処分の対象が限定されている場合には、その対象のみ上記3つの項目が実施できません。
例えば、営業停止処分の地域が東京都に限定されている場合には、近郊の埼玉県や神奈川県など東京都以外の地域では営業することができます。
●新規の建設工事の請負契約の締結
建設工事においては、建設業法で請負契約が義務になっています。そのため、新規の建設工事を請け負おうとする場合には、請負契約が必ず必要です。建設業法第19条で、契約の締結には署名もしくは記名押印の上書面を相互に交付する義務が明確になっています。また、建設業許可を受けていない業者であっても、本義務は適用されます。
そのため、新規で建設工事を請け負う場合には、契約締結が必須です。もし、契約を締結しないで建設工事を請け負った場合には建設業法違反になります。つまり、営業停止期間中は請負契約の締結ができないため、新規での建設工事は請け負うことができないということになります。
また、営業停止処分が下される前に、仮契約を締結した場合も同様に本契約を締結することができなくなります。元来、仮契約は将来当事者間で本契約を締結する拘束力を持つ契約になります。そのため、本契約を行う前の契約の一部として考えられます。そのため、場合によっては内金などを差し入れている場合などもあります。
しかし、営業停止処分を受けている建設業者は新規の建設工事の請負契約の締結が禁止されているため、仮契約が持つ本契約への拘束力は有効ではなくなります。また、発注予定者から内金などを受け取っていた場合には、仮契約の約款に則って返還などの対応が必要です。
●営業停止処分を受ける前に締結した請負契約における変更
営業停止期間中は、請負契約を変更することができません。それは、営業停止処分の前に締結した契約の変更も対象になります。
具体的な事例として、建設工事において追加工事の依頼などが一般的に行われています。追加工事においても新規の建設工事同様に契約締結が必要です。しかし、営業停止処分を受けている建設業者は、契約締結ができません。
そのため、営業停止処分中の建設業者は追加工事であったとしても、請負契約の変更はできません。ただし、工事の特性上発注者の利益を損なうなど特別な必要性と妥当性があると認められた場合は変更ができる場合があります。
●新規の建設工事の請負契約締結に関する入札や見積もりなどの営業行為
営業停止処分を受けた以降は、新たな請負契約の締結ができないだけでなく、入札や見積もり作成や交渉などの営業行為自体を停止しなければいけません。
この営業行為は、営業停止処分の期間が満了した後の新たな請負契約締結に向けた入札や見積もりの作成などの営業行為も含まれています。つまり、営業停止期間中は、営業行為そのものを停止しなければなりません。
●営業禁止命令
営業停止処分に似たものに「営業禁止命令」があります。営業禁止命令は、営業停止処分を受けた建設業者の役員や処分の原因に相当の責任があった営業所長などが営業行為を行うことを禁止するものです(建設業法第29条の4第1項)。
営業停止処分を受ける対象は法人です。しかし、営業停止処分を受けた役員が、他の建設業者の役員になるなどして営業行為ができてしまうと、営業停止処分の効力が大幅に下がってしまいます。営業停止処分の効力を下げないために営業停止処分を受けた法人の役員や使用人も同様に営業を行うことも停止しています。
そのため、営業停止処分が行われる際には付随して営業禁止命令が行われ、その期間も同一になります。
なお、営業停止処分を受ける前に役員を辞任して処分を免れることができないように、営業停止処分を受ける60日以内に役員などだった者も営業禁止命令の対象となります。
●営業停止処分前に請負契約を締結した建設工事は施工できる
営業停止処分を受ける以前に契約締結した建設工事は、営業停止処分の期間中でも施工ができます。
流れとしては、営業停止処分を受ける処分通知が行政機関から行われます。処分通知から通常2週間が経過したタイミングで営業停止処分の開始が設定されています。この処分通知から営業停止処分の開始までの2週間のうちに、営業停止処分を受けたことを請負契約の発注者に対して通知する義務があります(建設業法第29条の3)。
通知については、主に内容を一般的には記載します。
- ・営業停止処分を受けた事実
- ・営業停止期間
- ・営業停止を命じられた営業の範囲
- ・営業停止処分前に締結した請負契約について引き続き施行する旨
この通知を受けた発注者は、通知を受けた日もしくは該当の建設業者が処分を受けることを知った日から30日以内であれば、対象の建設工事の請負契約を解除する権利があります(建設業法第29条第5項)。
なお、営業停止処分命令の到達した日から営業停止期間が開始する約2週間の間に締結した建設工事の請負契約を締結した場合、営業停止期間中の施工はできない点には注意が必要です。
3−2 営業停止期間中にもできること
営業停止処分の期間中には、前述の通り新規の建設工事の請負契約の締結や請負契約を受注するための営業活動ができません。
営業停止期間中にできることは、前述の通り処分を受ける以前に締結した請負契約に基づく建設工事は施工できます。
それ以外にも営業停止期間中にできることは以下のように定められています。
《営業停止期間中に実施できる行為》
- ①建設業の許可、経営事項審査、入札参加資格審査に係る申請
- ②営業停止処分を受ける以前に締結した請負契約に係る建設工事の施工
- ③実施した建設工事に係る瑕疵に対する修繕工事などの施工
- ④アフターサービス保証に基づく修繕工事などの施工
- ⑤災害時などにおける緊急を要する建設工事の施工
- ⑥請負代金などの請求、受領、支払いなど
- ⑦企業運営上必要な借入などの資金調達など
- ⑧海外建設工事
- ⑨建設工事請負契約以外の契約行為
●建設業の許可、経営事項審査、入札参加資格審査に係る申請
建設業許可の維持や更新に係る申請は、営業停止処分中でも変わらず実施する必要があります。建設業許可の維持・更新の申請は処分期間中である無しに関わらず同じ規則になります。
経営事項審査は、公共工事を発注者から直接請け負う建設業者が受けなければいけない審査になります。営業停止処分中は公共工事を請け負うことはできませんが、経営事項審査の申請を行うことはできます。経営事項審査の有効期限は審査基準日*から1年7ヶ月になります。
入札参加資格審査は、国や都道府県や市町村などが発注する建設工事について競争入札に建設業者が請負契約の締結に適切かどうかを確認するための審査になります。入札参加資格審査を申請して資格が得られると資格名簿に掲載されて、入札参加資格を得ることができます。入札参加資格審査も1年から3年の有効期限があります。
*審査基準日は、申請をする日の直前の事業年度終了日になります。
●営業停止処分を受ける以前に締結した請負契約に係る建設工事の施工
(前章の記載の通りです。)
●実施した建設工事に係る瑕疵に対する修繕工事などの施工
- 建設工事を施工した建設業者は瑕疵担保責任を負います。民法改正後の2022年7月現在では、建設工事の引き渡しから1年以内に注文者からの契約の内容と異なる旨の通知を受けた場合には、その契約不適合に対する責任を建設業者は負うこととなり、修繕工事をしなければなりません。
発注者を保護することを目的とした瑕疵担保責任を果たす上での修繕工事については、営業停止処分期間中であっても工事を実施することができます。
●アフターサービス保証に基づく修繕工事などの施工
- アフターサービス保証とは、建設工事の完了後の一定の期間において建物や建築物の構造や設備や使用について保守点検や修繕などを実施することを保証するサービスを言います。保証期間中に修繕工事が必要となった場合には、営業停止処分の期間中であっても実施することができます。
2000年の品確法によって、新築住宅においては基礎や屋根や柱などの構造耐力上必要な部分や雨水の侵入を防止する部分は、最低10年間の保証期間が建設業者側に義務付けられています。
●災害時などにおける緊急を要する建設工事の施工
- 国土交通省が発注する工事は、原則一般競争方式を適用して、競争性や公正性の確保を行なっています。
一方で、災害時などの緊急を要する復旧工事では現場の状況に応じた措置を講じて、早期の復旧を努める動きがとられます。
そのため、例え営業停止処分の期間中であったとしても災害時などの緊急を要する局面においては早期の復旧を実現させるための建設工事の施工が許されています。
●請負代金などの請求、受領、支払いなど
- 建設工事の請負代金は、工事目的物の引渡しが完了したのちに請求や支払いがされることが一般的です。また、営業停止処分中であっても、請負代金の請求や支払いがなされない状況になると、すでに建設工事を実施して人件費や資材費などのコストをかけたのちの建設業者の経営に深刻な打撃を与えることになります。
そのため、営業停止処分期間中でも請負代金についての支払いはもちろん請求や受領することができます。
●企業運営上必要な借入などの資金調達など
- 営業停止処分期間中は、新規の請負契約の締結ができず、新たな建設工事もできなくなるため、資金運用は平時に比較して簡単ではなくなります。
そのため、会社運営を維持するために借入などの資金調達ニーズが高くなります。ただし、営業停止処分期間中に貸付を行う金融機関は多くはありません。前述の通り、金融機関でも確認を行えば営業停止処分を受けている建設業者であることは確認できます。
営業停止処分期間が長ければ、資金運営が苦しく、返済原資の確保が難しいと判断する金融機関も少なくありません。
●海外建設工事
- 営業停止処分は、国内の建設工事の施工や営業活動を対象としています。そのため、営業停止処分期間中であっても、日本国外の建設工事における請負契約の締結ならびに工事施工は実施できます。
●建設工事請負契約以外の契約行為
- 営業停止処分期間中は、建設工事の請負契約以外は契約を締結できます。具体的には、建設業で実施することの多い資材調達契約や保守管理契約などはできます。
ただし、契約の名義がどうなっていたとしても、その契約内容が実質的に建設工事を完成させることを目的とした契約である場合には建設工事の請負契約とみなされて営業停止処分に抵触します(建設業法第24条)。
3−3 営業停止の事例とプロセス
監督処分として、営業停止処分は非常に重い処分と言えます。そのため、営業停止処分を受けると処分期間中はもちろん、処分を終えた後の営業活動や経営に大きな影響が出る場合があります。
そのため、営業停止処分を含めて監督処分を受けることがないよう法令を遵守した経営や工事施工が必要になります。ただし、以下の事例のように大手ゼネコンも営業停止処分を受けることがあり、多くの建設業者にとってもあり得ない話ではありません。
●リニア談合事件
リニア談合事件とは、東京都から大阪市に至るリニア中央新幹線の路線工事における大手ゼネコン4社による工事受注時の談合が独占禁止法違反であったという事件です。
談合とは、公共工事などの建設工事の施工業社を決定するための競争入札において、本来競争すべき建設業者同士があらかじめ落札者と価格を決めてしまう不公正な事前協議を言います。
本来、入札を実施すると競争原理から公正かつ適正な価格になることが期待されています。しかし、談合を行うことで競争が働かず、工事代金を不当に吊り上げることや受注業者が持ち回りで決まっていくなどの問題が発生します。
そのため、談合は「公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにする」ことを目的とした独占禁止法で禁止されています。
リニア談合事件では大手2社については2018年10月の裁判で大林組に2億円、清水建設に1億8千万円の罰金刑が課されました。また、2021年3月の東京地裁で「無罪を訴えていた」大成建設と鹿島の2社ならびに元幹部に対して有罪の判決が出ています。大成建設には罰金2億5千万円、鹿島には罰金3億円の判決が出ています。
すでに有罪が確定した大林組と清水建設については、2019年2月2日から同年6月1日までの120日の期間において土木工事(民間工事に限る)について営業停止処分となりました。
また、公共工事については関与したとされる4社全てに対して2018年3月からの4ヶ月間指名停止となっていました。
一方で、判決が確定していない大成建設と鹿島については2022年7月現在もリニア談合に起因する処分はありません。
●営業停止処分までの流れ
- 営業停止処分は一方的に処分がおこなわれるのではありません。まずは、「告知」と言われる処分内容やその根拠となる法令などが記載された通知書面が処分対象者に郵送されます。その後、営業停止処分などの不利益処分を受ける者には、「意見陳述の機会」が与えられます。そして、最終的に「処分の通知」が実施されます。
●不利益処分
- 不利益処分とは、法人や個人の権利を制限することや義務を課すことを言います。営業停止処分も建設業者の「営業する権利」を制限する処分になるため、不利益処分に該当します。
権利の制限や義務を課されるため、当然その処分は適正な処分でなければなりません。また、処分を受ける対象者の意見を述べる機会を与えなければいけないというのが意見陳述の付与の原則です(行政手続法第13条)。
●告知
- 不利益処分とは、法人や個人の権利を制限することや義務を課すことを言います。営業停止処分も建設業者の「営業する権利」を制限する処分になるため、不利益処分に該当します。
告知においては、以下の項目を行政機関から処分対象者に以下の通知内容が記載された通知書面にて行われます。
《通知内容》
- ・予定される不利益処分の内容
- ・処分の根拠となる法令
- ・意見陳述の方法と期日
- ・意見陳述に関する事務を所掌する組織の名称と所在地
●意見陳述の方法『聴聞』と『弁明の機会の付与』
意見陳述の方法は、『聴聞』と『弁明の機会の付与』の2つがあります。
- 聴聞とは、不利益処分の対象者が処分に対しての意見を述べることやその意見を証明する証拠を提出する機会になります。また、行政庁の担当職員に対して質問を行うこともできます。
聴聞は、以下に該当する不利益処分の場合に実施されます。
- ・許認可などの取り消し
- ・資格や地位の直接のはく奪
- ・法人の役員の解任、業務に従事する者の解任や会員の除名
- ・上記の不利益処分に相当する処分と行政庁が認める場合
意見陳述の方法が聴聞と定められている事項以外の不利益処分については弁明の機会の付与になります。
弁明の機会の付与においては、行政庁が口頭での弁明を認めた場合以外は、弁明書の提出を行うことになります。弁明書の提出と合わせて証拠書類などを提出することも可能です。
聴聞でも弁明機会の付与であっても、代理人の選任ができます。
なお、すべての不利益処分に意見陳述の機会が認められているわけではありません。以下に紹介する事例のような不利益処分は例外的に意見陳述の機会が認められないケースもあります。
《意見陳述の機会がないケース》
- ・公益上、緊急的な不利益処分が必要とされる場合で、意見陳述のための手続きを取れない場合
- ・法令上で必要な資格が無かったまたは喪失したことが判明すると必ず実施される不利益処分である場合で、かつ資格が無かったこともしくは喪失の事実が裁判所の判決書などの客観的な資料によって直接的に証明できる場合
- ・施設や設備の設置や維持や管理などについて遵守すべき事項が法令で技術的な明確に定められている基準を満たしていないことについて従うべきことを命ずる不利益処分である場合で、不充足の事実が計測や実験などの客観的な設定方法で確認できる場合
- ・納付すべき金銭について納付を命じ、または金銭給付決定の取り消しその他の金銭給付を制限する不利益処分を実施する場合
- ・不利益処分の性質上、課される義務や制限の内容が非常に軽微であることが理由で処分対象者の意見をあらかじめ聴く必要性がないと政令で定められている処分
●通知
意見陳述の期間が終了すると、聴聞調書がまとめられて、陳述の要旨が明らかにされます。
そして、行政庁は意見陳述によって新たに考慮すべき証拠に基づく事実の有無や対象者の事情の有無を確認して、最終的な不利益処分を決定することになります。そして、最終的な不利益処分が決定すると対象者に対して通知が実施されます。
3−4 許可取り消し処分のデメリットと回避方法
監督処分の最も重い処分が、許可取り消しになります。許可取消になると、そこから建設業の営業ができなくなるため、事実上存続が難しくなります。さらに、許可の取消処分が実施された日から5年間はその事業主や法人で新しく建設業許可を取得できなくなります。
●許可取消処分からの回避方法
前述の通り、許可取消処分を命じられる場合には意見陳述の機会などの一連のプロセスを介する必要があります。
そのため、期間も時間も多くあるとは言えませんが、一定の期間はあります。この期間を使って、処分が確定するより先に自ら建設業許可を届け出によって取り消しすることができます。
この建設業許可を自らの申請で取消することを『手続き上の許可取消』と言います。手続き上の許可取消とは、建設業許可の維持ができない状況に陥った場合に実施します。
建設業許可の維持ができない状況とは、大きく以下の4つに分類できます。
- ・拒否事由(建設業許可申請時に故意に情報の虚偽や重要な不告知)に該当する場合
- ・欠格事由(法人の役員や個人事業主などが資格を喪失する事由)に該当する場合
- ・建設業許可の基準に該当しなくなった場合
- ・営業停止処分に従わないなど重大な行政処分の対象事業者となった場合
手続き上の許可取消を実施することで、建設業を一時的には実施できない期間は発生します。しかし、許可取消処分になる要件を排除することができたタイミングで建設業の再取得ができます。この場合の再取得は、手続き上の許可取消から5年などの期間を待つ必要はありません。
4 まとめ
今回は、行政機関が建設業法などを遵守させるために実施する監督処分ならびにその処分の一つである営業停止処分とその処分までのプロセスなどを解説しました。
監督処分に該当しないよう日々法令を遵守した会社経営や事業運営が求められることは当然です。それでも、建設業許可の取り消しや営業停止処分を受ける業者がいる事実も理解して、問題が起きないようにしなければなりません。また、万が一監督処分を受けた場合には『勧告』や『指示』など比較的軽い監督処分のうちに問題を解決させ、『営業停止』や『許可取消』などの処分にならないようスピーディーな対応がとる姿勢が求められます。