建設業に求められるESG・サステナビリティとは
近年の世界を取り巻く環境は、温暖化による自然災害、人間の活動による環境破壊、資源の枯渇のほか、感染症・伝染病の爆発的流行(パンデミック)、先進国と発展途上国との貧富の格差、性別・人種などでの差別(ジェンダー不平等)といった問題が生じており、地球および人類社会の持続可能な発展(サステナビリティ)が危ぶまれています。
そのため、サステナビリティの維持や改善が地球規模の課題となっており、世界中の国や企業等がその解決に向けて取り組んでいますが、とりわけ建設業においてその活動が注目されているのです。
今回の記事では、ESGやSDGsの内容を紹介しながら、何故、建設業でそれらに貢献する活動が求められるのかなどを説明していきます。建設業とサステナビリティ活動との関連、それらに取り組むメリット・デメリット、取り込まないことによる影響、取組内容やその際のポイント、などを把握したい方は参考にしてみてください。
目次
1 建設業にとってのESGやサステナビリティとは
ESG、SDGsとサステナビリティの内容を簡単に紹介し、建設業とそれらのとの関係およびその現状ついて説明しましょう。
1-1 ESG、サステナビリティ、SDGsとは何か
現在、世界には様々な課題がありますが、それらの解決にかかわる「サステナビリティ」「SDGs」「ESG」の内容を簡単に解説します。
1)サステナビリティ
サステナビリティ(Sustainability)とは、英語の「持続可能性」を意味する言葉です。環境負荷や資源の枯渇などの環境問題において主に用いられる用語でしたが、企業による活動の影響が多いこともあり、その社会的責任(CSR)を論じる根拠としても重要な要素であると認識されるようになりました。
明確に「サステナビリティ」という概念が登場してきたのは、1987年に開催された「環境と開発に関する世界委員会」での報告書からです。その後、1992年の「地球サミット」や「国連環境開発特別総会」でサステナビリティに関する議論が実施され、2002年にはサステナビリティを議論するための「持続可能な開発に関する世界首脳会議」が開催されました。
そして、2015年に国連で持続可能な開発目標(SDGs)が制定されことを契機に、サステナビリティの概念が世界中の企業や消費者の間でも急速に普及し始めたのです。
具体的には、各国および各企業がSDGsに沿った目標を立て、サステナビリティに資する活動(サステナビリティ活動)に取り組む必要があるという認識が広まり、実際にその動きが進み出しました。
サステナビリティ活動は、今後の人間社会を維持発展させるための必要不可欠な活動して世界中が認識しており、企業においてもその活動が求められています。
2)SDGs
SDGs(Sustainable Development Goals)は一般的に「持続可能な開発目標」と訳されており、その内容は、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」のことです。
SDGsは17のゴールと169のターゲットから構成され、気候変動や格差などの幅広い課題の解決が目指されています。このSDGsの達成に向けた取組は、先進国だけでなく発展途上国も含め全世界で実施される必要のあるユニバーサル(普遍的)なものと認識されているのです。
その17の目標には、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「質の高い教育をみんなに」「すべての人に健康と福祉を」「ジェンダー平等を実現しよう」「安全な水とトイレを世界中に」「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「産業と技術革新の基盤をつくろう」などがあり、企業の活動に直接的・間接的に関連します。
先の通りSDGsの目標を達成する取組を行うことがサステナビリティに資する取組なるため、多くの企業がSDGsに関連した目標を掲げその実現に向けて活動を始めているのです。
3)ESG
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を取った略語です。国や企業が長期的に成長を持続するためには、国の活動や企業の経営においてESGの3つの観点で貢献する行動が必要だと認識されており、その考え方が世界中で広まっています。
なお、ESGの各々で対象となる主な問題等は以下の通りです。
- E:公害問題、廃棄物問題、資源問題、生物多様性問題、地球温暖化問題
- S:人権問題、労働問題、消費者問題、地域の問題(地域格差等)
- G:企業統治の問題(粉飾決算等)、公正な事業の問題(談合等)
企業等の活動をESGの視点で見るという概念が広まったきっかけは、2006年当時の国連事務総長のコフィー・アナン氏が発表した「責任投資原則(PRI)」の中で、投資判断の新たな評価要素としてESGが示されことにある、と言われています。
気候変動や人権問題など数多の課題を抱える人間社会の中で、それに密接にかかわる企業には環境・社会・ガバナンスの3つの観点で適正にビジネスに取り組む必要があり、そうした企業を投資先として重視する(ESG投資)ことが必要との認識が広まったのです。
ESGの問題解決に取り組む行為がサステナビリティの実現に貢献するだけでなく、ESG、SDGsやサステナビリティを重視する投資家や消費者からの支持にも繋がり資金調達や販売等の面で有利になることが期待できます。
4)サステナビリティとESG・SDGsとの関係
ESGとSDGsも人間社会や地球の持続可能性、すなわちサステナビリティに関連するものであり、その実現に必要な概念や観点になります。
従って、ESGやSDGsに取り組む活動はサステナビリティ活動の一部であり、各々に取り組むことはサステナビリティに貢献することになるわけです。たとえば、企業がESGに配慮した経営を目指し実施すれば、結果的に持続可能な社会の実現に貢献することになります。
なお、世界ではESG投資がより重視されるようになってきたため、企業が資金調達を円滑に行うに「ESG投資」の候補先として評価されると有利です。世界のESG投資額は2021年末には9,281億ドルにも及んでいます。
先の国連による「責任投資原則(PRI)」の提唱に基づき、2015年に日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)もPRIに署名し、国内でもESG投資が加速しつつあるのです。日本における2020年のESG投資額は約330兆円でが、前年比45%増で伸びています。
企業としては、資金をより円滑に確保するためにもサステナビリティ活動への取組を積極的に進めることが重要になってきたと言えるでしょう。
1-2 建設業とサステナビリティ等との関係
以上のようにサステナビリティ・ESG・SDGsに貢献する取組が企業に求められており、建設事業者においてもそれは同じと言えます。しかし、建設業という業種から見た場合に他の業種とは異なる違いがあり、その点を考慮した対応も必要なのです。
1)建設業と環境問題
建築工事や土木工事を生業とする建設業は他の業種と比較しても環境とのかかわりが多く、工事・施工に伴う環境への影響が小さくありません。
建設業で使用される天然資源は世界の約30%消費されており、固形廃棄物は約25%排出され、建設現場で使われる土砂や骨材を含めると、50%を超えているという見方もあります。
また、ビル建設とその運用において、世界のエネルギー使用量の3割強、、エネルギー関連のCO2排出量の4割弱を占めるとの試算もあるのです。このように建設工事そのものだけでなく、建築物の運用においても環境への影響が大きいため、その点を配慮した設計・施工が必要となっています。
2)サステナブル建築
一般社団法人日本建設業連合会によると、「サステナブル建築」は以下のように定義されています。
「建設工事における設計・施工・運用の各段階を通じて、地域レベルでの生態系の収容力を維持しうる範囲内で、(1)建築のライフサイクルを通じての省エネルギー・省資源・リサイクル・有害物質排出抑制を図り、(2)その他地域の気候、伝統、文化および周辺環境と調和しつつ、(3)将来にわたって人間の生活の質を適度に維持あるいは向上させていくことができる建築物を構築する」
日本の建設業は、国内全産業全体の約40%の資源を使用し、約20%の廃棄物を排出していると見られていることから、上記のサステナブル建築が注目されるようになってきたのです。
地球環境に配慮した最新技術を活用して資源利用効率の高いサステナブル建築を推進すれば、そうした使用資源と廃棄物の削減が繋がります。また、サステナブル建築は、SDGsの17の目標のうち、特に9番目の「産業と技術革新の基盤をつくろう」と、11番目の「住み続けられるまちづくりを」にかかわりが深くその達成に大きく貢献することが可能です。
特に現代では建物等の不動産は、生活の場所や仕事に従事する場所となることから、働きやすい環境、クリエイティブな能力を発揮する空間、優秀な人材を確保しやすい職場等である必要があり、人々の健康や快適さ等に優れたスペースが求められています。
以上のことから今日の建設業ではサステナブル建築に対応した事業が重要になってきたのです。
1-3 建設業と不動産の認証制度
不動産に関する環境性や快適性などを評価・認証する制度があります。人々のサステナビリティへの意識が高まる中、CO2削減など地球環境の保護や少子高齢化への対応などの課題解決に貢献する不動産が求められており、そうした不動産の環境評価を行う、認証する制度が設けられるようになってきたのです。
従って、建設事業者等はそうした不動産の認証制度に対応できる建物等を建設することが経営上必要となってきています。その認証制度はいくつもありますが、海外も含め代表的なものとしては以下の制度が挙げられるでしょう。
●日本
・CASBEE
CASBEEは、日本語では「建築環境総合性能評価システム」と訳せますが、通称「キャスビー」と呼ばれ、建築物や街区、都市等に関する環境性能を多様な視点で総合的に評価する制度と言えます。
2001年に国土交通省の主導により普及し始め、現在は国内の建設事業者や設計事務所、建物所有者、不動産投資機関など多くの業界関係者で広く利用されるようになりました。
IBEC建築省エネ機構(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)の評価員資格を持つ一級建築士によるCASBEE認定を受けた建物の数は2020年4月現在で1,000件近くあると言われています。
・ABINC
ABINCとは、一般社団法人いきもの共生事業推進協議会「ABINC」が運営している「ABINC認証」のことです。ABINCは、生物多様性の保全を目指して積極的に行動する企業集団JBIB(国内のゼネコンや不動産、損保など大手企業などが会員)が作成した「いきもの共生事業所推進ガイドライン」と「土地利用通信簿」を基本として認証が行われています。
ABINCは、湿地や草地を生かしながらの緑地の造成、ビオトープ(生物が共生できる空間)池を有する緑地を利用した工場、野鳥やチョウの誘致が可能な植生を配置した集合住宅など、自然を生かした建築物を認証事業所として認定する制度です。
●海外
・LEED(米国)
非営利団体U.S. Green Building Councilが開発、運用し、Green Business Certification Incが認証の審査を行っている、ビルト・エンバイロメント(建築や都市の環境)の環境性能評価システムです。
LEEDは、グリーンビルの設計・構造・運用に関する評価基準の提供を目的としており、最高クラスのビルト・エンバイロメントを作るための戦略やそれらをどう実現させるかを評価するグリーンビルディングの認証プログラムと言えます。
・WELL認証(米国)
WELL認証は2014年に米国の住宅開発・リフォーム会社のデロス・リビング社が考えた空間性能評価システムで、ビルやオフィスなどの空間を、「人間の健康」の視点で評価・認証する点が特徴です。建築物の環境性能だけでなく、そこで活動する人間の快適性等に焦点が当てられています。
・BREEAM(英国)
BREEAMは建築環境性能の評価制度としては最も古い不動産の環境評価制度です。英国建築研究所と、エネルギー・環境コンサルタントの「ECD」によって開発されました。
新築・既存のいずれの建築物にも適用されるもので、最終評価はマネジメント、健康、快適性、エネルギー、交通、水、廃棄物、材料など、9のカテゴリーで評価されます。
こうした認証制度が多数存在しており、それらの認証の取得は不動産価値の向上に繋がるため、建設事業者としてはその対応が重要となってきたのです。
1-4 建設業とESG投資
三菱UFJ信託銀行株式会社が公表している「不動産ESG 投資市場における新たな潮流」によると、不動産領域のサステナブル投資残高では顕著な増加傾向が見られると、指摘されています。具体的には、2015年に約4,350億円であったサステナブル投資残高が、2021年には約12兆円(2015年比で約28倍)まで増加しているのです。
日本国内の収益不動産市場は約272兆円で、J-REITや不動産私募ファンド(私募REITを含む)など金融商品化されている不動産に限定した場合の市場規模は約46兆円と推計されています。
その272兆円や46兆円とサステナブル投資残高12兆円を比較すれば、不動産ESG投資市場には更なる成長余地のあることが窺えます。
また、同資料では「不動産ESG投資に関する国内投資家の取り組み」について取り上げており、「ESG投資の実施状況」を確認することが可能です。その調査の結果によると、「実施済」を選択した回答者の割合は年金基金で5.9%、一般機関投資家で30%であり、現時点においては低い水準です。しかし、その分、今後の成長余地が大きい、と同資料は指摘しています。
なお、不動産ESG投資の現状では、環境(E)、特に省エネルギーの推進(省エネ機器の導入、水のリユース/リサイクル、雨水利用推進 等)に関する投資が多くなっています。
その背景は、SDGsに先行して気候変動・環境負荷低減という社会的課題が大きく取り上げられ、温室効果ガスの削減が社会的に強く要請されてきたことが影響している、と考察されているのです。
しかし、SDGsの認知度の向上とともに、気候変動・環境負荷低減以外の社会的課題、たとえば、自然災害への備え、地域活性化、多様な働き方、労働生産性の向上、などの課題解決への取組が必要と認識されるようになってきました。
2021年に国土交通省の主導による「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会」が発足し、国の政策としてESGの社会(S)分野への対応を推進する動きが見られ、その進展が期待されています。
このようにESG投資が各分野で増大していく可能性が高いため、ESGを考慮した不動産の建設や運用がより重要となり、建設業ではその対応がより重要になってきているのです。
2 建設業がサステナビリティ活動に取り組む必要性
建設業がESGやSDGsに取り組むことによる影響を紹介しましょう。
2-1 サステナビリティ活動に伴うメリット・デメリット
建設事業者がサステナビリティ活動に取り組むことで、どのようなメリット・デメリットが生じるかを説明します。
1)メリット
以下のようなメリットが期待できるでしょう。
●企業イメージ・信頼度やブランドの向上
現代においてESGやSDGsに貢献する取組を企業が行えば、そのステークホルダー(利害関係者)を含む社会から良い評価を受けることになり、それが企業イメージの向上に繋がります。
生活者全般に渡りSDGs等の認知度が高まってきており、社会に貢献する活動がより重視されるようになってきました。その結果、社会課題の解決に取り組む企業は人々から良い評価を受けやすくなり、その好感度から信頼度や企業ブランドの向上に繋がり、経営上の様々な点で有利な状況を生み出せるのです。
●業績の向上や事業の発展
ESG課題への取組でエネルギー消費量や廃棄物等の削減、労働生産性の向上、など業務の効率化を進めることで、コストを大幅に削減して利益を増大させることもできます。
また、環境や労働者に配慮した事業活動を展開し、省エネ性や快適性等の優れたサステナブル建築を推進していけば、スタークホルダーからの支持が得られ、取引の拡大や売上の増大に繋がる可能性も低くありません。
●人材不足の解消や社員のモチベーションアップ
スタークホルダーからの支持が得られて評価が高まれば、企業としての認知度も向上し人材確保が容易になります。たとえば、自社がSDGs活動に積極的に取り組めば、その点に共感して人材募集に応募してくれる人が増加する、という効果が期待できるのです。
また、既存の社員にとっても世間から評価される企業で働けること、社会課題の解決に役立つ事業に従事できること、などは社員として誇りを感じ労働へのモチベーションを高めることに繋がるでしょう。
●イノベーションや新事業の創出
SDGs等の目標を達成するためには、今までのビジネスシステムでは対応できず、新たなシステムを構築しなければならないケースもあり、それがイノベーションを促すこともあります。
SDGs等の目標を設定する場合に、これまで対象外だった顧客層、認識していなかったターゲットのニーズを新たなビジネスシステムで捉えるというビジネスモデルを生み出すきっかけになることもあるのです。つまり、サステナビリティ活動は新ビジネスの創出に繋がることが期待できます。
2)デメリット
以下のようなデメリットが生じる可能性が低くありません。
●サステナビリティ活動の手間と負担
サステナビリティ活動に取り組む場合、その活動が軌道に乗るまでには社員の業務上の手間や労務負担が増大し、トラブルの種になることもあります。
会社の事業がサステナビリティ活動に直結している場合を除き、従来の建設事業へサステナビリティ活動を導入していく場合、社員にとっては従来の業務にサステナビリティ活動の業務が加わることになり、その導入から運用までの手間と労力が大きな負担になりかねません。
残業の増大、それによるコスト増と社員の健康への悪影響、既存業務の能率低下、社員間の葛藤、などのトラブルに発展することもあるため注意が必要です。
●コストの増大や本業への悪影響
サステナビリティ活動を推進していくと、その過程や運用後に大きなコスト増に繋がることも少なくありません。「環境に配慮したビジネスシステムを構築したが、コストが大幅に上昇し導入前よりも利益が減少した」というケースもよく見られます。
価格が高い反面、環境に優しい原材料等の使用を増やした場合、環境性をアピールして高価格で販売できれば、コスト増を吸収して収益の増大に繋げることも可能ですが、できなければ利益が減り経営を圧迫しかねません。
つまり、これまでの本業にサステナビリティ活動を組入れていき、その結果高コスト体質だけになってしまえば、これまでの事業が成り立たなくなり経営上の窮地に追い込まれることもあります。
●社員のモチベーションの低下
先の業務上の手間が増え、労務負担が増大していくと、社員の労働意欲の低下が生じかねません。労働意欲の低下は既存業務の能率の低下を招くほか、社員の離職に繋がる可能性も高いです。
また、会社としてESGに貢献する活動を行っていても、その活動を実際に行う社員の負担が増大して疲弊するようではESGに資する活動をしているとは言えなくなってしまいます。社員の負担を増大させいない仕組で活動を回せる方法が求められます。
2-2 サステナビリティ活動に取り組まないことによる影響
企業がサステナビリティ活動に取り組まないことによる影響とは、端的に言うと先のメリットを享受できなくなることです。
たとえば、消費者や就職・転職希望者などから見れば、サステナビリティ活動に取り組まない企業は相対的に魅力が低下してしまい、業績面や人材確保等の面で不利になりかねません。
現代ではサステナビリティに対する意識が人々の間で高まってきているため、自然や社会に配慮した活動、製品・サービスの提供は支持され、販売増や収益の増大が期待できます。
また、環境や社会貢献等に関心ある就職・転職希望者はそうした企業を好んで選択することになり、それらの企業の人材確保が容易になるのです。加えて、事業者や金融機関等にとっては、そうした人々からの支持を受ける企業とのビジネスには好意的で、新たに取引を開始する・拡大する、融資するといった行動が見られるようになります。
つまり、SDGs等に取り組む企業は対事業者等においても有利になる可能性が高く、取り組まない企業は不利になる可能性が高いのです。もちろん、取り組む際にはデメリットを被る恐れもあるため、その点を踏まえた活動の計画と実行が求められます。
3 建設業のサステナビリティ活動の取組内容と事例
ここでは建設業が具体的にどのようなサステナビリティ活動をしているかを紹介しましょう。
3-1 大手建設業のサステナビリティ活動
ここでは大手ゼネコン会社の2社を説明します。
1)鹿島建設株式会社
本社所在地:東京都港区元赤坂1-3-1
●サステナビリティ活動の方針
鹿島グループは「全社一体となって、科学的合理主義と人道主義に基づく創造的な進歩と発展を図り、社業の発展を通じて社会に貢献する」という経営理念を掲げ、SDGsを含む社会・環境問題に取り組み、社会に必要とされ、持続的に成長が可能な企業グループを目指されています。
社会・環境課題の中から、社会とともに持続的に成長し企業価値を高めるために優先して取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定し、事業活動を通じた課題解決への取組がSDGsの達成に貢献すると考え取り組んでいるのです。
●サステナビリティ活動
重要課題を7項目設定し、それを通じて関連するSDGsの目標を達成できるように取り組まれています。その各項目の内容は以下の通りです。
- (1)新たなニーズに応える機能的な都市・地域・産業基盤の構築:SDGs目標 3、8、11に対応
- (2)長く使い続けられる社会インフラの追求:SDGs目標 9、11、12に対応
- (3)安全・安心を支える防災技術・サービスの提供:SDGs目標 9、11、に対応
- (4)脱炭素社会移行への積極的な貢献:SDGs目標 7、12、13、14、15に対応
- (5)たゆまぬ技術革新と鹿島品質へのこだわり:SDGs目標 11、12に対応
- (6)人とパートナーシップを重視したものづくり:SDGs目標 3、4、5、8、10、17に対応
- (7)企業倫理の実践:SDGs目標 16に対応
●具体例
先の重要課題の(1)では、社会課題への対応として、「地域社会の活性化、ワークスタイル変化への対応、都市機能の高度化」が実施されています。
たとえば、「HANEDA INNOVATION CITY(HICity)」の案件では、研究開発施設、先端医療センター、イベントホール、日本文化体験施設、飲食施設など多彩な複合施設の整備・運営が進められました。
同社はこの施設を、先端産業拠点・クールジャパン発信拠点として、未来志向の体験や価値を創出・発信する都市となるような街づくりを進め、日本初のスマートエアポートシティの実現に取り組んでいます。
2)清水建設株式会社
本社所在地:東京都中央区京橋二丁目16番1号
●サステナビリティ活動の方針
同社は、「真摯な姿勢と絶えざる革新志向により社会の期待を超える価値を創造し持続可能な未来づくりに貢献する」という経営理念に加え、社会・環境の持続可能性(サステナビリティ)を強く意識した上で、事業活動を行うことを目指されています。
中期経営計画においても、基本方針として「ESG経営の推進」が標榜され、ESGの各分野における非財務KPI(重要業績評価指標)の設定とともに、その人財育成や知的財産への重点投資が示されているのです。
●サステナビリティ活動
「ESG経営の推進」の内容は次のようになっています。
(1)環境:持続可能な地球環境への貢献
- ・CO2削減の中長期目標「エコロジー・ミッション2030-2050」の着実な推進
- ・生物多様性の保全・指標化に向けた取り組み
- ・限りある地球資源の有効活用と廃棄物削減に向けた取り組み
(2)社会
- ・自然災害に対し、サプライチェーンと一体のBCP対応で、顧客・社会へ“安全・安心”を提供
- ・お客様の期待を超える価値の提供による顧客満足の獲得
- ・人権尊重の徹底と「働き方改革」によるサプライチェーンを含む労働環境の整備
- ・良き企業市民として地域社会と共生し、社会課題の解決に貢献
(3)ガバナンス
- ・社是「論語と算盤」に基づく企業倫理の浸透とコンプライアンスの徹底
- ・リスクマネジメントの徹底(投資リスク、地政学的リスク、自然災害リスク 等)
- ・公正で透明な企業活動の実践
- ・すべてのステークホルダーへの的確な情報開示と対話の促進によるガバナンスの向上
●具体例
たとえば、上記の(1)環境においては、環境ビジョン「SHIMZ Beyond Zero 2050」が策定され、以下のような内容に取り組まれているのです。
自社活動による負の影響 ZEROへの活動 |
+顧客や社会に環境価値を提供 Beyond Zeroへの活動 |
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脱炭素社会 | 自社のオフィス、作業所からCO2の排出ゼロ |
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資源循環社会 | 自社事業による廃棄物の最終処分ゼロ |
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自然共生社会 | 自社事業で自然に与える負の影響ゼロ |
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3-2 中堅建設業のサステナビリティ活動
中堅建設業等におけるサステナビリティ活動の内容を紹介しましょう。
1)株式会社山翠舎
本社所在地:長野県長野市大字大豆島4349-10
●サステナビリティ活動の方針
山翠舎は古木を通じてSDGsに貢献する新たな価値を提供し、「古民家・古木サーキュラーエコノミー」を推進しています。同社は2006年から古木を活用した事業を始めるほか、持続可能な社会づくりに取り組んできており、同社の活動はSDGsの理念と相通じているのです。
●サステナビリティ活動
2019年に環境に配慮した企業として、長野県SDGs推進企業の第1期に登録され、2020年には古民家の解体から古木にまつわる一連のシステムを「古民家・古木サーキュラーエコノミー」として、明確なかたちで体系化してGOOD DESIGN賞も受賞しています。
●具体例
- ・カーボンニュートラル実現に向けた古木サーキュラーエコノミー
同社は、古民家から得られる上質で入手ルーツが明確な古い木材を「古木」と名付けて(商標を取得)販売するほか、古民家の解体からそれらを再利用した設計、施工まで対応する事業を展開しています。
このビジネスモデルは、現在では入手が難しい木材、仕口・継手などの建築技法、斧・鉞・釿による手仕事、などの伝統文化の保全に貢献するほか、職人の育成、古民家や古木のデータベース化、自社設計・施工による付加価値のある用途の開発など、SDGsの実現に役立つものとして期待されているのです。
具体的な内容は以下の通りです。
- (1)循環社会に貢献する事業
同社は古民家を職人の丁寧な手仕事で解体し、貴重な部材を管理・保管して再利用へと繋げています(古木の在庫量は国内トップ)。この古木の循環を円滑に進めるために活用しているのが、同社独自のマッチングシステムです。
古民家の所有者から管理業務を請け負い、古民家をデータベース化して、希望者はその計画に最適な古民家や古木を見つけ出せます。 - (2)SDGsの目標と合致する同社の活動
同社の「古木の循環」は、古木の持続可能な消費と生産のバランスを維持するに貢献しており、SDGs目標の12番目の「つくる責任 つかう責任」に合致するはずです。また、この古木による一連の事業は新たな産業を生むため、9番目の目標の「産業と技術革新の基盤をつくろう」も実現します。
さらに空き家問題の解消にも役立つため、11番目の目標の「住み続けられるまちづくりを」に結び付くはずです。ほかにも古木に精通した建築家等との協力、古民家の廃棄処理の軽減に伴うCO2排出の削減など他のSDGs目標の達成にも貢献します。
2)八州建設株式会社
本社所在地:愛知県半田市吉田町一丁目60番地
●サステナビリティ活動の方針
同社は「もっと人へ。もっと多様に。未来に誇れる街づくり」という理念のもと、持続可能な社会の実現に向け脱炭素、循環型社会づくりを中心とした取組を推進しているのです。
●サステナビリティ活動
具体的な取組として、SDGsの理念に則って2030年までに8棟以上(概ね年間1棟ペース)のZEH-M(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション)の供給を手掛けて、脱炭素社会の実現や快適で健康的な住環境の創出に尽力していることが挙げられます。
そのために、同社では、お客に省エネ効果、快適性、健康への影響などについて積極的な提案ができる体制を整備しているのです。
●具体例
(1)SDGs目標の取組
同社およびそのグループでは、2030年を目標とするアクションプランを策定しSDGs目標に関連して下記の目標を定め取り組んでいます。
- ・事業活動による使用電力に関する再生可能エネルギー使用率 50%(2040年では100%へ)
- (・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)およびZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の建設棟数 累計20棟以上
- ・事業活動に伴う温室効果ガス排出量 2018年比50%削減(2040年にカーボンフリー達成)
- ・週5日間工事率 100%
- ・健康経営・多様性に関する認証・認定取得
- ・協力会社におけるSDGs取組率 100%
(2)ESG関連の事業推進
同社は建築・土木等の建設事業を基盤に、不動産、住宅、介護、食産の事業とともに再生可能エネルギー事業(太陽光発電、バイオガス発電、地下水熱発電)も行っています。
たとえば、地下水熱発電事業では、(株)にじまちの太陽光利用型植物工場での実績があります。この施設は、約18℃の地下水を汲み上げ、ヒートポンプシステムと併用して温度管理する環境制御システムが導入されており、冬は暖房、夏は冷房としての利用が可能です。このシステムの導入の結果、重油代は年間で約65%削減、それに相当するCO2の排出削減が可能となっています。
4 建設業がサステナビリティ活動に取り組む際の重要ポイント
最後に建設業がサステナビリティ活動を進める場合に、特に重要となるポイントを示しておきましょう。
4-1 建設事業の活動による環境負荷の低減
建設業が営む、住宅やビル等の建設工事や解体工事等から排出されるCO2の排出量は他の産業に比べて多いです。また、そうした工事で排出される廃棄物の量も多く、その処理が社会問題になることも少なくありません。
つまり、建設業の事業は環境や社会への負荷が大きいため、サステナビリティへの意識が高い現代社会から厳しい目で見られるのです。そのため、まず、既存の建設事業における環境負荷の低減に積極的に取り組まねばなりません。
現在、多くの建設事業者において、経営理念の中でサステナビリティに関する内容を掲げ、それをもとにサステナビリティ活動の方針を設定し、ESGやSDGsへの取組を進めるケースが多いです。
まず、この方針や取組内容の決定で自社事業における環境負荷の低減を組み込み、サステナブル経営を進めることが求められます。
4-2 サステナブル建築の実施
建設施工時のCO2排出量の削減、廃棄物の削減、エネルギーや材料等の使用料の低減、などの取組は必須ですが、施行により提供する「建築物」「構造物」がサステナビリティ面で良い評価を受けられるような「サステナブル建築」への対応も重要です。
サステナブルな建築物(省エネ性や快適性等がよい建物等)が社会で求められつつあるため、その対応を図ることで社会ニーズを満足させ他社との差別化を図ることもできます。
省エネに優れ低コスト運用が可能である、地域の気候・文化等の周辺環境に調和している、生活者や労働者が快適に暮らし働ける、といった住みやすい、働きやすい、居心地がよい、というような建物が求められ始めました。そのため、建設事業者にはZEH・ZEB等を含むサステナビリティを重視した建物等の提供が必要になっています。
4-3 再生可能エネルギー関連事業の展開
国土交通省が発表している「令和4年度(2022年度)建設投資見通し(概要)」によると、2022年度の建設投資は、66兆億円9900億円になるとの見通し(前年度比0.6%増)です。
近年は東日本大震災からの復興工事、東京オリンピック関連工事、首都圏の再開発案件や物流施設の増加などを背景に、国内の建設投資額は拡大傾向にありました。しかし、2023年では新型コロナの感染拡大や物価高騰などが景気の後退を促し、建設需要の停滞が危惧されています。
加えて建築資材の高騰等による建築価格の上昇圧力が建築需要を圧迫する恐れもあり、建設業界ではこれまで以上に価格競争が深刻化し厳しい経営に迫られる恐れがあるのです。
そうした厳しい状況を乗り越えるためには、既存の建設事業以外の新分野に活路を求めることも必要であり、その分野の1つが再生可能エネルギーや省エネルギー関連の事業になります。
たとえば、再生可能エネルギーの導入は世界的に進展しており、日本でも2012年7月のFIT制度(固定価格買取制度)開始に伴い、再エネの導入は大幅に増加しました(2011年度10.4%から2020年度19.8%に拡大)。
また、2030年度の温室効果ガス46%削減の達成に向けて、電源構成36~38%(合計3,360~3,530億kWh程度)の導入という野心的な目標も設定されています。
こうした目標とともに、国内での環境意識やSDGs等への関心の高まりを背景に再エネ導入はさらに進展するものと期待されるため、再エネ関連の施設を建設する事業や支援する事業などがより求められる可能性は低くありません。
建設事業者としては、自社事業で実施したSDGs等に関する取組の経験やノウハウを活かし、再エネ・省エネ等の分野を新事業として展開し、新たな中核事業することは有益でしょう。
4-4 労働者が働きたい職業・職場への改善
建設業は、「きつい、危険、汚い」の3Kのイメージが多くの人に持たれており、労働者の人材確保が難しい業界の1つです。その上、賃金が仕事の内容に見合っていない、他の業種と比べて低い、などの印象を持つ人も少なくありません。
こうした状況を改善するために、政府は建設業においても「働き方改革」を進め、その結果労働者の賃金の引上げや労働条件の是正(残業の抑制や休日の確保等)が少しずつですが進んでいます。
そして、3Kのイメージの払しょくや労働条件等の改善をさらに促すためには、サステナビリティの視点からも労働者が働きたい職業・職場へと建設業を改善する必要があるのです。
たとえば、施工に関する新技術の考案、それに対応する機械・機器の導入などにより施工方法や検査方法を改善し、労働者の作業負担の小さい業務を確立し、3Kの解消を進めなくてはなりません。
また、効率性や省エネ性の優れた施工方法を導入することで生産性を高め、加えてサステナビリティ性の高い建築物を提供することで収益を増大させれば、賃金アップや週5日勤務などの労働条件の改善に繋げられるでしょう。
さらに自社のサステナビリティ活動が社会で認知されるようになれば、その姿勢に共感してくれる者が集まりやすくなり、人手不足や協力者不足などに苦しむことも少なくなります。何より社員が働きがいのある仕事と感じて従事してくれるでしょう。
5 まとめ
建設業は環境への負荷が大きい産業であるため、サステナビリティ活動への取組は重要であり、その対応を避けることは自社の経営を不利にする可能性が高いです。
環境や社会への負荷を小さくする、環境に優しい建築物を提供する、そうしたノウハウを再エネ・省エネ施設等の建設事業として展開する、労働者に優しい職場を作る、などが今、建設事業者に求められています。建設業で今後も発展していくためにサステナビリティ活動への取組を検討してみてください。