建設業の求人が来ないときに見直すべきポイント7つ

建設業で求人を行っても、募集人数に応じた応募者がなかなか集まらず、慢性的な人手不足と言われています。そこで、今回の記事では、建設業の求人が来ない原因を探り、併せて、求人が来ないときに見直すべきポイントについて解説しています。建設業界の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1 建設業は人手不足
まずは建設業が人材確保でどのように困っているのかを具体的に確認してみましょう。
1-1 有効求人倍率とは
労働需給を計る指標として有効求人倍率があります。有効求人倍率とは、ハローワークに申し込まれた求人数(企業が求める人数)を求職者数(職を探している人数)で割った値をいいます。
- 〇有効求人倍率=企業の求人数 / 求職者数
(注)新規に学校を卒業する「新卒者」に対する求人と求職は、この統計には含まれていません。
例えば、ハローワークに申し込まれた企業からの求人数が100人、ハローワークに申し込まれた職を探している人の数が200人の場合は、有効求人倍率=企業の求人数100 / 求職者数200=0.5倍となります。
すなわち、この場合は、職を探している人が200人もいるのにかかわらず、企業が採用してくれる人数が100人しかいないため、2人に1人しか就職できない(合格倍率2倍)ということになり、求職者にとっては厳しい労働需給といえます。
一方で、ハローワークに申し込まれた企業からの求人数が200人、ハローワークに申し込まれた職を探している人の数が100人の場合は、有効求人倍率=企業の求人数200 / 求職者数100=2.0倍となります。
この場合、職を探している人が100人しかいないにもかかわらず、企業が求めている人数が200人と多いため、すべての人を採用しても、企業は人手不足を解消できないことになります。
このことから、有効求人倍率が高ければ高い程、企業の求人数に対する求職者数が追いつかず、人材確保難で人手不足の状況が深刻ということになります。
1-2 建設業関連の職種は有効求人倍率が高い
それでは、建設業関連の職種について、有効求人倍率はどの程度あるのでしょうか。厚生労働省の公表によると、2021年9月の有効求人倍率は、全産業平均で1.16倍となっています。これは、1人の求職者に対して企業の求人数が1.16人あるということから、選り好みをしなければ、求職者がほぼ全員就職できるという状況です。
この全産業の中から有効求人倍率が高い職種をみると、以下のようになっています。
【有効求人倍率が高い職種】
順位 | 職種 | 有効求人倍率 |
---|---|---|
1 | 建築躯体工事の職業 | 7.99 |
2 | 保安の職業 | 6.33 |
3 | 土木の職業 | 5.91 |
4 | 建築・土木・測量技術者 | 5.40 |
5 | 採掘の職業 | 4.07 |
上表で、1位の建築躯体工事の職業、3位の土木の職業、4位の建築・土木・測量技術者は、いずれも建設業関連の職種です。
例えば、1位の建築躯体工事の職業の有効求人倍率は7.99倍ですが、これは、1人の求職者に対して企業の求人数が7.99人もあることを示しています。すなわち、企業が約8人の募集を行っても、1人の労働者しか採用できないということで、建設業における人手不足の実態が示されています。
一方、有効求人倍率が低い職種をみると、以下の通りです。
【有効求人倍率が低い職種】
順位 | 職種 | 有効求人倍率 |
---|---|---|
1 | 美術家、デザイナー等 | 0.22 |
2 | 一般事務の職業 | 0.29 |
3 | 事務用機器操作の職業 | 0.36 |
4 | 船舶・航空機運転の職業 | 0.52 |
5 | 会計事務の職業 | 0.59 |
上表の職種は、いずれも有効求人倍率が1.0倍未満ですが、これは1人の求職者に対して企業の求人数が1人未満であることを示しています。職業に対して就職希望者が多く、これらの業種に求職者が流れてしまう結果、建設業関連の職種に人が集まらないことになっています。
2 建設業の求人が来ない原因
建設業で求人を行っても、応募者が思うように集まらない原因はどこにあるのでしょうか。
2-1 求人が来ないのは原因がある
どのような業種・企業においても、求人を行っているにもかかわらず応募者がなかなか来ない場合がありますが。その主な理由は、①その時代の景気など社会・経済状況によるもの、②求人を行っている業種や企業に特有な事情によるもの等があります。
①その時代の景気など社会・経済状況によるもの
【求人数が多い場合】
景気が良く、各業界・各企業で多くの求人が行われているため、その方面に求職者が持っていかれるケースがあります。いわゆる売り手市場と呼ばれる現象で、労働需給面で労働力の需要(求人)が供給(求職)を上回っている場合です。
この場合、応募者が条件の良い業界・企業に集まってしまい、条件面で見劣りする業界・企業への応募が少なくなります。
【求職者数が少ない場合】
景気は普通でも、求職者の絶対数が少ないというケースもあります。この場合は、各業界・各企業が少ないパイを取り合うため、なかなか応募者が現れないことになります。
現在、わが国は少子化に向かっており、若年層の数が減ってきていることから、昔に比べると求職者を確保するのが難しくなっている可能性はあります。
②求人を行っている業種や企業に特有な事情によるもの
求人を行っている業種や企業に、他の業種や企業にみられない特有な事情があり、それが原因で応募者が来ない状況になっているケースです。
求人が来ないときには、その原因や理由を探り、障害を取り除く必要がありますが、①その時代の景気など社会・経済状況によるものについては、1つの業界や企業の努力だけでは解決できない問題です。しかし、他の業種や企業に負けないよう、労働条件などの見直しを図ることは可能です。
また、②求人を行っている業種や企業に特有な事情によるものについては、その原因や理由を解き明かし対策を講じていく必要があります。
2-2 建設業で求人が来ない原因
ここでは、建設業で求人が来ない原因として、主に「建設業界や求人企業に特有な事情によるもの」について見ていきましょう。建設業に求人が来ない原因は、大きく分けて以下の2つをあげることができます。
①様々な条件面で他業種・他企業に見劣りしている
様々な条件というのは、給与・手当・賞与などの収入面をはじめ、労働時間・休暇・福利厚生など労働条件のことです。給与・手当・賞与などの収入面が他業種や他企業に比べ見劣りがする、労働時間・休暇・福利厚生などの面でメリットが少ないとみなされれば、応募者が減ってしまいます。
また、求人を行う企業が応募資格を設けているなどの採用条件も該当します。応募者に一定の資格や実務経験を求めれば、応募者にとってそれだけ採用へのハードルが高くなり、諦める人が多くなります。
②建設業界のイメージによる敬遠
建設業と聞いて、工事現場の仕事は危険である、作業が肉体的にきつい、屋外での仕事は熱中症や風邪にかかるリスクがあるなどと思い浮かべる人もいるでしょう。このように、建設業界の仕事は、危険でリスクがあるというイメージが付きまといます。
このイメージは、後で説明するように多分に誤解や知識不足から生じているものですが、これから就職しようとする求職者は、綺麗で楽なイメージがある仕事に流れていきやすいものです。
以上のように、建設業で求人が来ないのはそれなりの原因がありますが、企業が必要とする人材を確保するためにも、その原因や理由に応じた見直し・改善策を考え実行に移すことが非常に重要です。
3 求人が来ないときに見直すべきポイント
それでは、建設業で求人が来ないときに、何を見直したらよいかについて見ていきましょう。
3-1 労働条件を見直す
求人を行っても応募者が来ない理由として、労働条件が良くないケースをあげることができます。労働条件の代表的なものとしては、①給与・手当・賞与、②勤務時間・休暇、③社会保険、④福利厚生などがあります。
給与や賞与が同業他社と比べ見劣りしていないか、残業手当や通勤手当などの諸手当の条件が悪くないかなどについて見直してみる必要があります。収入面は、企業に応募する場合の大きな判断基準となるため、給与・手当・賞与が他社より見劣りがすると、応募する動機も弱まります。
また、勤務時間や休暇も主要な労働条件です。1週あたり、1日あたりの勤務時間は適当か、残業が多い印象を与えていないかなどをチェックします。休暇がどの程度取得できるかも大きな判断基準となります。休暇の中で特に重要なのが週休2日制かどうかです。
現在、国内大手企業のほとんどが、週休2日制を採用しています。それが、例えば隔週土曜日が休み(土日の2日連続休みが1週間おき、他の週は日曜のみ休み)、月4週5休(土日の2日連続休みが月1回、他の週は日曜のみ休み)などの勤務条件では、敬遠してしまう応募者もいるでしょう。
年次有給休暇の年間付与日数や休暇取得状況も確認します。建設現場では、工期が決められているため、普通の会社員のような休暇取得は期待できませんが、一定の期間の中でどの程度の有給休暇が取得できるかで判断することになるでしょう。
出産休暇や病気休暇、育児休暇、介護休暇など、将来生活していく上で必要となる制度が整備されているかも重要なポイントです。企業で働きながら、安心して結婚・出産・子育て・介護ができる環境が整えられているかが重要です。
また、社会保険では、健康保険や厚生年金保険などの社会保険が完備されているかが判断基準となります。
さらに、福利厚生では、社員の休憩室や医務室が設置されているか、社員食堂があるかなどがポイントになります。
このように、労働条件は、労働者が企業で働く場合の基本的な条件であるため、建設業においては、同業他社並みの条件に整備しておくことが求められます。
3-2 採用条件を見直す
次に、採用条件が厳し過ぎるかどうかについて見直しを行うことです。建設業では、応募者に対し一定の資格や経験を採用の条件としている場合があります。
建設業で必要となる資格保持者や業界での経験者などが多数応募してくれれば、それに越したことはありませんが、応募者の中には、何も資格を持っていない人や未経験の人も多くいるはずです。
例えば、求人票に「〇〇関係の有資格者に限る」、「建設業の経験者求む」などと記載されていれば、無資格・未経験の人はその時点で諦めざるを得ません。
資格は、入社後の勉強や研修により知識を習得して取得することが可能です。また、入社後に業務をこなしていけば、自然に実務経験も身に付いてきます。したがって、採用条件が厳し過ぎないかどうかについて見直し、厳し過ぎる場合は条件を緩めることが可能かどうかについて検討することが大切です。
3-3 求人内容の説明を充実させる
求人内容の説明を充実させることも重要です。企業が求人を行う際には、応募資格や給与、勤務時間などの労働条件を提示するとともに、仕事の内容を掲載します。
給与関係では、毎月の基本給のみでなく、その他の諸手当や年間賞与についての説明が必要です。特に、諸手当の説明が十分でないと、どのような手当がいくら位保証されているかがわかりません。
また、勤務時間では、1週あたり、1日あたりの勤務時間のほか、週休2日制の有無や有給休暇年間付与日数が必須事項です。さらに、夏季休暇や年末年始休暇がある場合は、その日数の記載も必要です。
現代の若い世代は、残業がどの程度あるか、休暇が取りやすいかなど、入社後に自分の自由時間が確保できるかどうかについて関心が高い人が多いのです。このため、勤務時間や休暇については、できるだけ詳しく説明することが求められます。
さらに、仕事内容の説明は、それを読んで仕事の内容が具体的にイメージできるように工夫する必要があります。求人に書かれている仕事内容が漠然としていて、どのような仕事をやるかがイメージできなければ、多くの人が応募を躊躇ってしまう可能性があります。
例えば、求人の仕事内容が、「建設業に関する事務」とだけ記載されていたらどうでしょうか。建設業に関する事務といっても、その幅は非常に広く、庶務、経理、人事、建物の管理、物品の管理など様々な分野に及んでいます。また、建設業に直接関係する事務でも、建設工事の見積書作成、請負契約書の作成、請負契約の締結などいろいろな業務があります。
このことから、仕事の内容は、
〇建設業に関する事務(会社の建物を維持管理する業務)
- 具体的には、玄関自動ドア、エレベーター、給排水システム、空調設備などのメンテナンスを外部に委託する業務。建物内の定期清掃を外部に委託する業務
〇建設業に関する事務(会社の物品を維持管理する業務)
- 具体的には、作業デスク、椅子、ロッカーなどの備品の維持管理業務。社員用パソコンのリース業務。文房具などの不足分を購入する業務など、具体的に仕事内容がイメージできるよう説明することが大切です。
また、求人の仕事内容が、「建設工事現場における業務」とだけ記載されている場合も、仕事の内容を具体的に捉えることが困難です。
一口に建設工事現場における業務といっても、道路やトンネルを作る土木作業現場と建物を作る建築現場では、投入する重機や工具、作業の内容が大きく異なります。同じ建物を作る建築現場でも、ビルを建てる現場と個人の木造住宅を建てる現場とでは、扱う資材や作業内容が異なってきます。
したがって、求人説明に、建設工事現場における業務とだけ記載されていても、応募者は仕事内容を具体的にイメージすることができません。
そのため、仕事内容は、
「〇建設工事現場における業務(木造住宅の建設にかかる業務)
- 木造住宅の基礎施工、棟上げ、屋根・外壁施工における作業補助。基礎施工は鉄筋コンクリート型枠施行。棟上げ・外壁施工は工場加工の規格材を使うため、現場での加工作業はなし」
など、具体的な作業内容が把握できるよう説明することが肝心です。
以上のように、求人情報で携わる仕事の内容が具体的に把握できれば、応募者も安心して申し込みやすくなります。
3-4 ホームページの質を高める
応募者の関心を惹きつけるには、自社のホームページの質を高めることが肝心です。現代は、就職先を探す場合、ほとんどの人がネットで情報収集することから始めます。
ネットでお目当ての企業の情報を収集してから、就活対策を練り上げます。
したがって、会社のホームページは、掲載情報の質・量ともに充実させ、常に最新の状態に更新しておく必要があります。
多くの就活者が調べる企業情報は、次のとおりです。
- ①会社の名称
- ②本店・支店の所在地
- ③業種
- ④求人情報(職種・採用予定人数・労働条件・採用試験の内容など)
- ⑤会社の規模(資本金・社員数など)
- ⑥会社の事業内容
- ⑦会社の決算状況
- ⑧今後の事業計画
- ⑨会社の将来性
- ⑩社員の体験談 など
この中で、特に重要なのが④の求人情報ですが、すでに説明したように、求人情報は、労働条件や仕事の内容が具体的にわかるよう記載する必要があります。また、就職するということは、会社に自分の生活を委ねることでもあるため、就活者は、会社の経営や業績が順調なのかどうかについて大きな関心を持っています。赤字経営で今にも倒産しそうな会社であれば、自分の生活を賭けるには大きなリスクを伴うからです。
また、現在の状況と同じく重要なのが、会社の将来性です。将来性ある会社かどうかは、事業や資本金の状況をみればわかります。将来的に有望な会社は、事業を拡大しつつ成長を続けています。就活者は、自分が受けようとする会社に将来性があるかどうかを見極めて応募してくるのです。
このため、⑤会社の規模(資本金・社員数など)、⑥会社の事業内容、⑦会社の決算状況、⑧今後の事業計画などの情報は、過去からの推移や変化がわかるよう記載しておくことが大切です。
さらに、⑨社員の体験談は、非常に重要なPR情報となります。これは、実際に入社して仕事で活躍している社員の様子をまとめたものです。
例えば、建設会社に入社して3年目の技術系社員が、現在ある橋梁工事の工期や業務スケジュールをまとめる仕事を行っているとします。本人が建設会社に入った志望動機や現在携わっている工事の工期や業務スケジュール作成の仕事について、そのやりがいや達成感、苦労話などを掲載してもらいます。
就活を行っている応募者は、若手社員がいきいきと仕事に取り組んでいる様子や苦労した点などを把握することができ、非常に参考になります。
この社員の体験談は、事務職と技術職、男性社員と女性社員、若手社員と中堅社員など、幅広く掲載すると効果があります。就活を行っている人は、事務系と技術系、男性と女性、若手と経験者など様々です。事務系の就活者は、事務の仕事に携わっている社員の体験談を中心に閲覧し、技術系の人は、技術畑の社員の話に関心があります。このため、できるだけ幅広い分野で、社員の体験談を掲載しておくと効果的です。
このように、就活者が求めている情報や関心のある事項について、わかりやすくまとめたホームページを整備しておくことが肝心です。就活者は、その情報を閲覧し、①自分のやりたい仕事ができそうだ、②社員がいきいきと働いている、③明るい雰囲気の会社だ、④業績が順調で、将来性がある会社だと感じて応募してくるでしょう。
3-5 SNSを活用した求人を行う
これからの時代は、SNSを活用した情報発信が非常に効果的です。特に、今の若い世代は、TwitterやInstagramを利用して情報を集めたり、発信したりする傾向が顕著です。
このため、企業の求人においても、TwitterやInstagramなどのSNSを使って、広くPRしていくことが肝心です。SNSでは、若い人材を集めることに主眼を置き、情報提供したいポイントをわかりやすく簡潔に掲載します。そして、SNSから自社のホームページに導いていけば、そこで詳細な情報がわかる仕組みにしておきます。
SNSを使った情報発信のポイントは、人目を惹くような情報、閲覧する人の関心を呼び起こすような構成にすることです。SNSで、あまりにも堅く細かい情報を羅列すると、閲覧しようという意欲も失せてしまいます。
そのため、例えば、社内で育てている花や観葉植物の写真をコメント付きで掲載する、社員食堂のメニューを写真で紹介するなど、閲覧者を飽きさせない工夫も求められます。
3-6 職場環境を理解してもらう
これは、応募者を含めた世間一般の人に、建設業の職場環境について正しく理解してもらうことです。しばしば、「建設業界は3K」であると言われます。3Kとは、「きつい、汚い、危険」な職場という意味です。
建設業と聞いて念頭に浮かぶのが、建設工事の現場です。工事現場では、パワーショベルやダンプカーなどの重機・車両が立ち並び、電動ドリルや発電機などの騒音の中で作業員たちが働いています。
建設工事の現場では、足場から落下する、積み上げた資材が崩れるなど作業員に危険が及んだり、建材や重い工具を運ぶ、コンクリートや油などで体や作業着が汚れるなどのリスクもあります。
このため、オフィス内で椅子に座って作業するデスクワークに比べると、工事現場の仕事には、3K(きつい、汚い、危険)のイメージが浮かんでしまいます。
以前の建設業界は、建設現場を中心にこのような厳しい労働環境に置かれていましたが、最近は、業界団体または各企業の取組みによって改善されています。
したがって、各企業が取り組むべきことは、建設業の職場環境について、以下のポイントを世間一般に広く理解してもらうことです。
①近年は、建設工事現場において安全管理や衛生管理の徹底化が進んでいること
現在は、建設工事現場において安全管理や衛生管理の徹底化が進んでいます。また、一定時間作業を行うと休憩を入れることで、熱中症の予防や体力の消耗を防いでいます。
②建設業には様々な仕事があること
建設業にかかる3Kのイメージは、建設工事現場に由来するものがほとんどですが、工事現場は、建設業にかかる仕事場の一部にしか過ぎません。建設業界には、工事現場における作業以外にも、以下のような様々な仕事が揃っています。
- ㋐庶務や経理などの事務
- ㋑対外折衝を行う営業
- ㋒土木・建築設計、デザイン
- ㋓建設工事の見積書、契約書作成 など
上記の業務に従事している社員の多くは、工事現場で作業を行うことがないことを世間一般に周知していくことが重要です。すなわち、世間一般の人が陥りやすい建設業=工事現場という短絡的な想像を払拭するようPRに努めていく必要があります。
上の①、②の視点に基づき、ホームページやSNS、さらに宣伝広告などを利用して、建設業における職場環境や仕事の多様性について、就活者をはじめとする世間一般への周知・PRを図ることが非常に重要です。
3-7 女性を意識した求人を行う
建設業では、女性を意識した求人を行うと効果的です。なぜなら、建設業は女性の就業者の割合が非常に低いからです。すなわち、建設業を敬遠している多くの女性をターゲットにし、業界や職場への正しい理解を深めてもらえば、建設業で働こうと考える女性が増えていきます。
ここで、建設業における女性の就業割合をみてみましょう。下表は、産業別の就業者数に占める女性の比率を調べたものです。
建設業で働いている女性の比率は、他の産業に比べ、非常に低いのが現状です。
【産業別就業者数に占める女性の比率】 (万人)
順位 | 職種 | 有効求人倍率 | 有効求人倍率 |
---|---|---|---|
農業、林業 | 482 | 82 | 17.0 |
建設業 | 482 | 82 | 17.0 |
製造業 | 1037 | 311 | 30.0 |
情報通信業 | 256 | 74 | 28.9 |
運輸業、郵便業 | 350 | 76 | 21.7 |
卸売業、小売業 | 1062 | 550 | 51.8 |
金融業、保険業 | 166 | 92 | 55.4 |
不動産業・物品賃貸業 | 141 | 58 | 41.1 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 252 | 91 | 36.1 |
宿泊業、飲食サービス業 | 369 | 229 | 62.1 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 225 | 134 | 60.0 |
教育、学習支援業 | 346 | 201 | 58.1 |
医療、福祉 | 884 | 666 | 75.3 |
サービス業(他に分類されないもの) | 449 | 182 | 40.5 |
公務 | 248 | 78 | 31.5 |
資料出所:令和3年労働力調査年報(総務省)
(注1)調査年報の数値は2021年平均。就業者数の単位は万人
(注2)女性の比率は、小数点以下第2位を4捨5入
女性の就業率が最も高い仕事は、医療・福祉系です。医療・福祉系は、看護等を人気があり、女性就業者の比率も高くなっています。また、宿泊業、飲食サービス業も、ホテルや飲食店を中心に女性の関心が高く、女性の就業率が高くなっています。
一方で、建設業は、就業者総数に占める女性就業者数の比率が17.0%と非常に低く、産業別で最低となっています。
女性就業者の比率が低い理由は、建設業界特有の事情が影響し、女性の人気が低いことによります。その建設業界特有の事情をあげると、以下のとおりです。
①建設工事現場におけるハード環境整備の遅れ
現場では仮設トイレを1台のみしか設置できないため、男女共用にならざるを得ないケースがあります。また、女性専用の更衣室や休憩所の設置も難しい場合があるため、女性も男性も心地よく働けるような環境の整備が十分ではありません。
②資材・工具の規格・重量
建設工事現場で使用する建設資材や工具の規格が大きい、重量が重いなど、女性にとっては扱い難いデメリットがあります。
③出産・子育てとの両立の難しさ
建設工事には工期があるため、天候不順などの影響で作業に遅れが生じた場合は、納期に間に合わせるために作業を急がなければならなくなります。そのような時期に、健康診断受診のための休暇や育児休暇などは取得しづらいほか、妊娠中などの現場作業は、負担も重くなります。
④3K職場のイメージ
3Kは、「きつい、汚い、危険」な職場という意味です。建設工事現場は、パワーショベルやダンプカーなどの重機や車両が動き回っており、足場からの落下や積み上げた資材の倒壊など生命・身体に危険が及ぶリスクがあります。
また、コンクリートや泥、油などで作業着や体が汚れる場合もあります。ビル内のオフィスで仕事をするOLや小売店・飲食店勤務の場合と比べると、建設工事現場の仕事は、「きつい、汚い、危険」というイメージがあります。
以上、建設業界に女性の就業希望者が少ない理由についてみてきましたが、従前、建設工事現場を中心にこのような労働環境や職場風土があったのは事実です。しかし、近年の建設業界は、業界団体や個別の企業が労働環境や職場風土の改善を進めたことにより、従前に比べ大きく改善してきています。
それにもかかわらず、その取組や改善の状況が、未だ女性をはじめとする世間一般の人に十分に周知されているとは言えない状況にあります。
建設業にかかる従前からのイメージは、そのほとんどが建設工事現場に由来するものです。
しかし、建設業には、工事現場以外での様々な職種や仕事があるということを改めて認識してもらう必要があります。
建設業界には、力の弱い方や女性が活躍できる仕事も少なくありません。建設会社では、他の業界と同じように、オフィスの中で事務や経理に携わっている女性もいれば、対外的な営業を行っている部署もあります。
また、建築設計やデザインなど専門的な職種で活躍している女性も大勢います。これらの業務に携わっている人の多くは、工事現場での作業は行いません。
このように、建設業界を取り巻く様々なイメージにより、女性の就業希望者が建設業を敬遠している実態があります。そのため、建設業は女性の就業比率が非常に低くなっていますが、逆にそこを大きな改善ポイントにしていけば高い効果が見込めるのです。
さらに、女性を意識した求人を行うのは、女性の持つ能力を期待するという理由もあります。すなわち、女性は男性に比べて、次のような能力に秀でているといわれています。
①優しさ・繊細さ
もちろん人にもよりますが、女性は話し相手の感情の変化を読み取り、相手を傷つけずに言葉を選んでコミュニケーションを図る能力が、男性に比べ秀でているといわれます。また、物造りの分野でも、男性には真似ができない丁寧さや繊細さが伝わってくる作品を仕上げることができます。このような女性特有の優しさ・繊細さを生かせる職種は、設計士やインテリア・コーディネーター、左官・建具職人などの分野です。
②コミュニケーション能力
女性は、他人とのコミュニケーション能力に秀でています。男性であれば一言二言と、結論だけ相手に伝えがちですが、女性は丁寧に説明して相手に理解してもらおうと努力します。
このような女性のコミュニケーション能力を生かせる職種は、営業職、設計士や工事施工管理士、インテリア・コーディネーターなどの分野です。設計士やインテリア・コーディネーターは、発注者や施工業者と連絡・調整を行うためのコミュニケーションが必要です。また、工事施工管理士は、設計士・発注者・行政機関などの関係者や現場作業員との連絡・調整が必要になるからです。
③生活センス
女性は、安全・安心・快適・便利に生活ができる工夫について、女性の視点から想像し判断する能力が秀でています。生活センスは、日々生活する上で必要となる主婦の目線です。
- ・動線からみて、どのような部屋の配置が最善か
- ・衣料や寝具を収めるには、どこにどの位の規模の収納庫があればよいか
- ・どのような家具がセンス良く便利か
- ・日々生活する際に、どの程度の距離にどのような店があれば便利か
- ・自宅付近に、保育園、幼稚園、小・中学校、病院、役所があるか
など、日常生活を便利・快適に過ごすための生活感覚に秀でています。
建設業界でこの優れた生活センスを生かせる職種は、設計士やインテリア・コーディネーターの分野です。
④色彩感覚
女性は、色彩感覚が秀でているといわれます。実際に、絵画やデザインの分野でも、多くの女性が活躍しています。
建設業界で、色彩感覚を生かせる職種は、設計士やインテリア・コーディネーターなどの分野です。
⑤辛抱強さ
女性は、仕事や勉強で辛抱強く頑張り続け、一段階ずつ確実にステップアップしていく能力に秀でています。このような辛抱強く着実に継続していける能力が生かせる職種は、事務・経理全般、CADオペレーター、設計士などです。
それでは、建設業界で女性が活躍している職種を確認してみましょう。
①設計士
設計士の中でも女性は、土木部門より建築部門、特に個人住宅設計の分野で才能を発揮しています。住宅設計は、女性ならではの生活感覚が生かされるジャンルといえます。
住宅設計では、日常生活における主婦の動線に基づく部屋や収納庫の配置、使いやすさを優先した家具の配置など、女性でなければ判断し難い個所が多くあります。
夫婦が、注文住宅の打合せや建売住宅の選定を行う場合、キッチンや浴室、洗面所などの水回り、リビングの広さや形、収納庫の場所や数などは、妻が主導して決める例が多くみられます。
これは、妻の方が実際に家事を多く分担していることが多いのに加え、女性の方が、快適で住みやすい住宅の造りや使いやすい建具・家具などに対する感覚が優れているからともいわれているのです。このように、住宅などの設計分野は、女性が能力を発揮しやすい職種といえます。
②CADオペレーター
CADオペレーターは、CADシステムを使い、設計士が設計した建設物のデータをパソコンに入力して設計図面を作成します。CADオペレーターは、肉体労働を伴わずにパソコンを使った作業が中心であるため、多くの女性が進出しているジャンルです。CADを習得するには一定の学習期間が必要ですが、現在の建設業では設計図面の多くをCADで作成するため、建設業界ではニーズの高い職種です。
③インテリア・コーディネーター
インテリア・コーディネーターも女性が多く活躍している分野です。インテリア・コーディネーターは、建物の内装をデザインし形作る職種です。天井、床、壁や建具の材質・色・模様などを決めて組合せ、家具を選択して配置を決め、快適に過ごせる空間にしていく職種です。
女性の美的感覚や生活センスが最大限に生かされる仕事といえ、女性の人気も衰えることがありません。
その他、物造りや造形に関心がある女性が左官や建具職人として、また、車の運転が好きな女性が大型車の運転手として活躍するなど、建設業の専門的・技術的な分野にも広く女性が進出しています。
そして、このような建設業における女性の活躍をさらに進め、多くの女性が建設業に就業してもらうためには、次のような取組みが必要です。
①女性が快適に就業を継続できる職場環境をつくる
建設工事現場や重機・車両倉庫などに、トイレ・更衣室など女性が働きやすい環境を整備することが必要です。また、長時間労働を見直して縮減し、休暇が取得しやすい社内環境を整備することも重要です。
さらに、結婚・出産後も引き続き活躍してもらうため、産休・育休など仕事と家庭を両立させるための制度の導入・活用も併せて促進します。
②女性のスキルアップを支える環境をつくる
女性の活用を図る研修や教育訓練の充実、公平かつ客観的な人事考課制度の導入など女性が働きながらスキルアップできる環境を整備します。
③女性が快適に就業を継続できる職場環境や女性の活躍する姿をPRする
建設業の職場環境整備状況について、ホームページやSNSを使って広く情報を発信しPRしていきます。
また、自社で活躍する女性について、仕事の体験談などを通じて広く情報を発信していきます。
以上のように、女性が働きやすい環境を整備し、その改善状況を広くPRしていけば、建設業に対する女性の受け止め方が変わり、就業希望者の増加が期待できます。多くの女性が敬遠して就業を躊躇しているからこそ、その多くの女性に建設業の実態を正しく理解してもらい、建設業に目を向けてもらうことが効果的な求人対策となるのです。
4 まとめ
建設業で求人が来ない原因は、大きく分けて次の2つとなります。
①様々な条件面で他業種・他企業に見劣りしている
給与・手当・賞与などの収入面や勤務時間・休暇などの労働条件が、他業種や他企業に比べ見劣りしている場合です。
②建設業界のイメージによる敬遠
3Kといわれる職場の危険、きついイメージが建設業界への参入者を少なくしています。
建設業で求人が来ないときに見直すべきポイントは、次の7つです。
①労働条件を見直す
給与・諸手当・賞与などの収入面や勤務時間・休暇・社会保険などの労働条件が同業他社と比べ見劣りしていないか見直し、他社と同程度の条件に整備しておきます。
②採用条件を見直す
応募者に一定の資格や実務経験を求めるなど、採用条件が厳し過ぎないかについて見直し、改善の余地があれば、条件を緩和します。
③求人内容の説明を充実させる
求人内容は、基本給をはじめ、諸手当や年間賞与について説明します。
また、勤務時間では、1週あたり、1日あたりの勤務時間のほか、週休2日制の有無や有給休暇年間付与日数、夏季休暇や年末年始休暇がある場合は、その日数を説明します。この勤務時間や週休2日制、休暇の説明は特に重要です。
募集職種では、どのような仕事を募集しているか、具体的にイメージができるよう記載する必要があります。
④ホームページの質を高める
求人情報は、労働条件や仕事の内容が具体的にわかるよう記載することが肝心です。また、会社の規模、事業内容、決算状況、今後の事業計画などの情報も詳しく掲載します。
自社社員の体験談も掲載すると、仕事内容や社風がよくわかります。
⑤SNSを活用した求人を行う
TwitterやInstagramなどのSNSを使って広く企業をPRしていくことは、若年層に対して非常に効果があります。
⑥職場環境を理解してもらう
建設工事現場の安全管理・衛生管理が徹底されてきていることを広く理解してもらうとともに、建設業は、工事現場以外に様々な仕事があることを社会に知ってもらうよう働きかけます。
⑦女性を意識した求人を行う
女性が快適に働き続けることができるようなハード、ソフト両面の整備を行い、その改善状況を広くPRするとともに、建設業界で活躍する女性の姿を見てもらうことで、建設業界への理解を深めてもらいます。
以上の見直しポイントには、直ぐに実行できるものと中・長期的な視点に立って行う必要があるものとがありますが、見直し・改善・PRを着実に進めていけば、建設業の就業希望者は確実に増えていくでしょう。