建設業許可における決算変更届って何?

建設業に関して許可を取得した事業者は、毎年決算変更届(地域によっては決算報告・事業年度終了届等名称が異なる場合も)を提出する義務があります。建設業は、工事のプロセスで関連する協力会社・個人事業主が多いため、安定した運営が必須です。
許可を出している国土交通大臣・都道府県知事が建設事業者の現状を把握したり、公共工事の判断材料にする他、届け出た決算変更届の内容が一般に公開されることで、発注者や第三者が許可を受けた事業者の現在における経営状況、施工実績等を確認できます。加えて決算変更届の提出を遅延すると、ペナルティを科せられるケースもあります。
今回の記事では、建設業許可における決算変更届の内容、罰則、その他重要点について詳しく解説するので、ご参考ください。
目次
1 建設業許可における決算変更届
建設業許可を取得した事業者は、一般建設業許可・特定建設業許可を問わず、毎年決算変更届を事業年度終了後、4カ月以内に提出する義務があります。くこの4カ月は、税務の決算が終わるまでには2~3カ月を要しますので、実質的には1カ月弱で仕上げる必要があります。
まれに、税務署に提出する決算申告と、都道府県知事(もしくは国土交通大臣)に提出する決算変更届を混同する方もおられますが、両方とも異なる性質を持つものです。建設事業者であれば、必ず両方を行う必要があります。
1-1 決算変更届とは
建設業許可は、取得自体も大変ですが、取得後必要な手続も複数あり複雑です。例えば、東京都をでは、建設業取得後も必要な手続として、「決算報告」「変更届・廃業届」「更新申請」「店舗・建設現場への標識の掲示」「住宅瑕疵担保履行法に基づく届出(該当事業者のみ)の提出等が義務づけられています。2つの都道府県にまたがる国土交通大臣許可・あるいは他の道府県でも同じような内容です。
この中で、特に強調されているのが、「毎年の決算報告の届出」です。建設業法第11条に基づき、建設業許可を受けている事業者は、毎事業年度終了後「4カ月以内」に決算報告に関する届出書を提出することが義務づけられています。
期限内に提出されていない場合は、罰則規定があるほか、更新手続、一般・特殊の新規申請、業務追加申請はできません。実務上では、警告がなかったり、少しの遅れなら大目に見てもらえるケースもまれにあるかもしれませんが、その場合でもあまりよくは見られないでしょう。
1-2 決算変更届で必要な届出書類は
決算変更届で提出する書類は、思いの外多く存在します。都道府県により若干異なるケースがありますが、東京都の場合は下記の通りとなっています(令和3年8月現在)。
(1)変更届出書・(決算報告の表紙)、郵送の場合は建設業許可申請送付票兼審査票
郵送時に用いる建設業許可申請送付票兼審査票における記載事項
- ・会社名又は個人名
- ・事実上の所在地
- ・担当者名
- ・許可番号
- ・許可年月日
- ・電算入力用紙添付の有無
- ・氏名一覧表添付の有無
- ・担当者連絡先の電話・FAX・Eメールアドレス
- ・許可業種
変更届出書の記載事項
- ・許可年月日
- ・許可番号
- ・法人番号
- ・届出者
- ・事業年度
- ・提出する書類を丸で囲む
(2)工事経歴書
全ての建設工事に関して下記を記載
- ・建設工事の種類
- ・税込、税抜
- ・注文者
- ・元請または下請の別
- ・JV(ジョイントベンチャー)の別
- ・工事名
- ・工事現場のある都道府県及び市区町村名
- ・配置技術者の氏名、主任技術者または管理技術者の別
- ・請負代金の額
- ・工期について、着工年月と完成または完成予定期日
(3)直前3年の各事業年度における工事施工金額
- ・事業年度毎に、公共の元請工事・民間の元請工事・下請工事について、許可にかかる建設工事の施工金額及びその他の建設工事の施工金額、及びその合計を記入
(4)財務諸表等
【法人】財務諸表、附属明細表
財務諸表として、事業年度が記載された最新の書類を提出、また所定様式の貸借対照表に必要事項を記載
- ・様式十五号 貸借対照表(流動資産・固定資産・繰延資産・流動負債・固定負債・株式資本・評価、換算差額等、新株予約権)
- ・様式十六号 損益計算書
- ・同 完成工事原価報告書
- ・様式十七号 株主資本等変動計算書
- ・様式十七号の二 注記表
- ・様式十七号の三 附属明細表
【個人】財務諸表
- ・様式十六号 損益計算書(売上高・売上原価・販売費及び一般管理費・営業外収益・営業外費用・特別利益・特別損失)
- ・完成工事原価報告書(材料費・労務費・外注費・経費)
(5)事業報告書(任意様式)(特例有限会社を除く株式会社のみ添付)
法人で作成、様式は自由
(6)使用人数(変更のあったときのみ)
- ・営業所の名称
- ・技術関係使用人
- ・事務関係使用人
- ・使用人の合計
- ・建設業法施工例第3条に規定する使用人の一覧(営業所の名称・職名・氏名)
(7)定款または変更の議事録(変更のあったときのみ)
定款または変更議事録の写し
(8)健康保険の加入状況(加入の人数に変更がある場合のみ)
- ・営業所の名称
- ・従業員数
- ・保険の加入状況(健康保険・厚生年金保険・雇用保険)
- ・事務所整理記号等
(9)別綴じ表紙、事業税の納税証明書
以上の通り、これだけの書類を毎年提出する必要があります。実際に、各都道府県等のホームページで資料を確認すると、新規申請の際ほどではないですが、更新作業には相当な手間がかかること認識できます。
日々業務を行う傍ら、決算終了後上記のような書類を作成・提出する事は非常に大変です。そのため、事業者の多くは、行政書士資格を持つ税理士や、建設業許可に長けた行政書士に毎年の決算変更届を依頼します。ある程度バックオフィスが充実し、内部でも決算や各種届出ができる体制を作れれば、自社でも手続が容易になりますが、少数精鋭の場合はなおさら専門家に任せたほうが良いでしょう。
建設業許可の更新は5年ごとのため、人によっては「決算変更届は、更新の時にまとめて提出してもいいのではないか」と考える方もおられますが、実際は毎事業年度終了後ごとに提出する必要があります。特に近年は、建設業法施行規則の改正が頻繁に行われるため、決算期の時期によって使用する様式が異なってきます。
毎年のように変わる様式を、それぞれ探しながら記入する作業を行うというのは、相当大きな負担になります。ましてや、5年分をまとめて作成しようとすると、1年ごとの報告よりも相当な労力・時間がかかります。
加えて、決算変更届の事業年度終了後の4カ月以内の提出がないと、業種追加申請や更新申請はできなくなります。経審・公共事業への参加もできなくなります。あわせて、過去の決算期の納税証明書が取得できない場合も商事、建設業許可の継続そのものが困難になるケースもあります。
そのため、必ず「事業年度毎に事業年度終了後4カ月以内に提出をする」ということを念頭に置く必要があります。
なお、決算報告で提出する事業報告書の様式は、具体的には定められていません。取締役が定時株主総会に提出して、その内容を報告した事業報告書と同一のものを、毎事業年度経過後、届け出る必要がありますが、様式については会社法第438条の規定に則って、一般的な様式であれば問題ありません。
加えて、決算変更届は、大半の都道府県で郵送にて行うことが原則となっています。
1-3 決算報告届はスピード感重視で作成する
決算変更届の提出期限は4カ月となっていますが、前述の通り、決算報告届のベースとなる、税務署に提出する確定申告等諸手続の作成にかかる期間は、概ね2~3カ月かかる可能性があります。
そのため、建設業許可における決算報告届に利用できる時間は、1カ月から2カ月と限られます。そのため、スピード感をもって事前に準備をしておく必要があります。
前述の通り、決算報告届の内容は、他事業者や第三者でも有料で閲覧できるため、依頼を検討している事業者が決算報告を閲覧したときに。決算報告届の提出がされていない、もしくは遅いと、「この事業者に発注して大丈夫だろうか」という懸念を与えてしまいます。
他の建設業者やクライアント、第三者に安心感・信頼感を与えるためにも、決算変更届の迅速な提出は必須といえます。決算変更届を提出する際に、工事経歴書も合わせて提出するため、第三者にとっては、「この事業者はこういう工事を手がけている実績があるのだ」ということがわかります。
なお、建設業法第50条では、決算変更届の遅延に対し、罰則規定を定めています。
第五十条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
- 一 第五条(第十七条において準用する場合を含む。)の規定による許可申請書又は第六条第一項(第十七条において準用する場合を含む。)の規定による書類に虚偽の記載をしてこれを提出した者
- 二 第十一条第一項から第四項まで(第十七条において準用する場合を含む。)の規定による書類を提出せず、又は虚偽の記載をしてこれを提出した者
- 三 第十一条第五項(第十七条において準用する場合を含む。)の規定による届出をしなかつた者
- 四 第二十七条の二十四第二項若しくは第二十七条の二十六第二項の申請書又は第二十七条の二十四第三項若しくは第二十七条の二十六第三項の書類に虚偽の記載をしてこれを提出した者
- 五 前項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。
以上の通り、建設業の決算変更届の提出遅れや虚偽記載があった場合や、届出をしなかった場合、6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金に処するという規定があります。
実際の所は、遅れたからすぐに罰則が適用されるというわけではなく、各種指導など段階を踏んで処分が行われていくケースが多いですが、いずれにしても遅延が酷くなると、今後の建設業許可更新に影響を与える恐れや、後述のデータベースへの処分歴掲載による信用失墜など、マイナス面は計り知れません。
加えて、建設業法で処罰を受けると、建設業の更新や登録が長期間にわたりできなくなり、事実上建設業界の表舞台から排除されることになります。この点も強く念頭に置く必要があります。
1-4 「都道府県庁から連絡がないから大丈夫」ではない
決算変更届の提出がない場合でも、都道府県庁から連絡が来ないケースがあります。この場合、連絡がないから大丈夫と思う人もいるかもしれませんが、注意したほうが良いでしょう。
一般・特定含め、建設事業者は膨大な数に上りますので、一件ごとに提出遅延に対し連絡をしていては、事務作業が大変になります。そのため、よほどの遅延でない限り、連絡を行わないというケースも少なくありません。
また、決算報告届は前述の通り、第三者でも閲覧できるため、許可を受けた会社の側は気にしていなくても、これから依頼を行う会社は依頼を躊躇する可能性が高まります。各都道府県の建設業課閲覧コーナーで、建設業許可業者1件につき300円(東京都の場合)を支払うことで閲覧可能になります。
例えば、今後建設業者への発注を検討している事業者が、候補先の決算変更届を閲覧したときに、きちんと更新がなされている事業者と、更新がされていなかったり、期限に遅れている事業者があった場合、どちらの事業者が信頼できそうに映るかを考えると、きちんと更新している事業者の方が信頼性は高いと言えます。
提出が遅れていると、「この事業者はいい加減である」と印象を与えかねません。そのため、期日を厳守し、正確な内容の決算変更届を提出することが、結果として信頼の強化につながります。
1-5 決算変更届遅延による指導監督のリスク
決算変更届の遅延があると、都道府県知事もしくは国土交通大臣から、指導監督の処分を受ける可能性もゼロではありません。実務上の運営は、各都道府県により異なりますが、通知を経て、処分に至るケースだけでなく、通知なしに処分がされたり、あるいは他の違反とあわせて処分されるというケースも想定されます。
国土交通大臣及び都道府県知事は、建設業者に対し、指導監督処分として、指示処分、営業停止処分、許可取消処分を行う権限を持っています。公式では下記の行為が指導監督の対象となっています。例えば東京都のホームページでは、下記の通りの記載があります。
- ・通常必要と認められる期間に比べ著しく短い期間を工期とした下請契約を締結した場合
- ・役員、政令で定める使用人又は個人事業主が業務に関して法律に違反し、刑に処せられた場合
- ・独占禁止法に基づく排除勧告の応諾等があった場合
- ・経営事項審査申請、入札参加資格申請等において虚偽の申請を行った場合
- ・主任技術者又は監理技術者を現場に配置しなかった場合
- ・虚偽の施工体制台帳、施工体系図の作成等を行った場合
- ・建設工事の施工等に関し建設業法以外の他法令違反を行った場合
- ・公衆又は工事関係者に対して事故を起こした場合
- ・一括下請負(いわゆる「丸投げ」、「丸請け」)を行った場合
東京都の「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準」では、「建設業許可又は経営事項審査に係る虚偽申請等建設業法に規定する罰則の適用対象となる不正行為等については、告発をもって臨むなど、法の厳正な運用に努める」と、虚偽申請「等」と含みを持たせているため、建設業許可における決算変更届の虚偽申請はもちろんとして、遅延も対象になる可能性はゼロではありません。
万が一、営業停止処分など「建設業の仕事をしないで下さい」という処分が下ると、例え数日の営業停止であっても、現在抱えている仕事を全部手放す必要があり、クライアントは悪印象を持つ可能性があります。
工期が遅れるだけでなく、他の事業者への依頼なり、費用の問題なり、クライアントに多大な迷惑をかけることになります。
また、処分を受けた場合は、国土交通省ネガティブ情報等検索サイト等に処分内容が登録され、こちらのデータは第三者が無料で自由に閲覧でき、Web検索に引っかかる可能性もあるので、「企業名で検索したら処分歴が出てきた」となると、致命的なイメージダウンになりかねません。
特にコンプライアンスが重視される現在、処分歴があることは、経営において相当な負の要素になります。ネットで検索すると、処分情報がすぐに出てきたり、スタートアップ企業が,気軽な金額で使える反社チェック・リファレンスチェックを運営しています。サービスによっては、名刺を読み込むだけで、その企業が反社会的企業でないか、コンプライアンス違反の行動を行っていないかなどをチェックしてくれるサービスもあります。
コンプライアンス遵守に問題がある企業と関わると、関わった企業も関連して信用失墜につながることがあります。後半では、順調に経営していた設備会社が、社長の反社会的勢力との交際が判明し、一気に倒産に追い込まれた事例も紹介しています。
様々な意味で、企業がコンプライアンス・クリーンさを重視している現在、違反行為や批判される行為を行わないことは、極めて重要です。
例え軽微な違反であったとしても、違反を受けたという事実は、事業の信頼性に致命的なダメージを与えかねません。その点も踏まえ、適正な手続を心がける必要があります。
1-6 工事経歴書の作成の煩雑さ
決算変更届においては、既存の書類を出せば済む書類もいくつかありますが、独自の様式で作成しなければならない書類の中で、「工事経歴書」の作成は非常に工数のかかる作業と言えます。特に、書類作成に不慣れな方が独力で取り組もうとすると、様々なところで引っかかり、作業が進まず、「最初から行政書士にお願いしておけばよかった」となるケースも想定できます。
行政書士への依頼費用がかかる場合でも、多くの場合は半日~1日、責任者が実務にかかれば十分カバーできる金額であるケースが多いです。行政書士の側は、様々な事例を見ているため、パターンを熟知しているため、短い時間で書類作成をできるのです。
経営者になると、「自身の時給・自身が重要な経営リソースである」ということを重視する必要があります。確かに自分でやれば無料かもしれませんが、その時間を仕事や他の事に充てたほうが生産的な場合もあります。
工事経歴書の内容に戻ると、業種毎に作成する必要があります。建設業許可を受けている業種が単独であれば、許可業種に該当しない工事はその他工事に振り分けられますので、比較的シンプルです。
ただ、慣れていないとエネルギー・時間を消費する可能性は大いにあります。
しかし、これが2つ以上の建設業許可を有する場合は、非常に複雑になります。「この工事はこの業種、この工事はこの業種、この工事はその他に該当」など、きちんと工事ごとに業種を振り分けていく必要がありますが、様々な工程で、明確に振り分けることが難しいケースがあります。
判断に迷う場合は、都道府県の担当部局に相談するという方法もあります。しかし、平日午前・午後しか確認できません。代表者も含め早朝に現場に出て、作業が終わったら帰るという事業者の場合、事務スタッフでもいない限り、容易に確認する事は難しいと言えます。
例えば、改修を請け負った場合、どこがどの自社の許可にかかる工事で、どこがその他に該当するのかを仕分けるのは、慣れていればともかく、業務を始めたばかりの法人代表・事業主にとっては、難しいケースもあると想定されます。
この分別の難しさ・確認の必要性及び、誤りがあった際経審や免許更新でマイナスになる可能性などがあるため、決算変更届を行政書士に委託している事業者も少なくありません。
さらに、工事の現場毎に、現場専任の担当者を置くことが求められるケースがあります。この際、工事経歴書には、前述の通り、下記の内容を書く必要があります。
- ・工事名
- ・工事現場のある都道府県及び市区町村名
- ・配置技術者の氏名、主任技術者または管理技術者の別
- ・請負代金の額
- ・工期について、着工年月と完成または完成予定期日
現場専任の担当者を配置する工事がある場合、同じ時期・時間に、同一の主任技術者・主任管理者が担当するということは認められません。もし同一の人物が同じ時期・時間に別の工事を行っていれば、「専任ではない、つまり規定に反した行為」という判断をされかねません。
当然ながら、同一の担当者の重複や、事実と異なる記載があれば、建設業許可に関する何らかのペナルティ等を受ける可能性があります。そのため、きちんと事実に基づき、かつ要件を遵守した記載が必要です。
1-7 財産要件の問題
一般建設業・特定建設業とも、許可取得の時点だけでなく、毎年の更新時に、下記の要件を満たすことが必要です。あくまで申請時には条件を満たす必要はありません。
ただし、これから依頼する事業者や第三者が最新の書類を確認して、一般建設業の更新要件を満たさない財務状況であったり、特定建設業の更新条件を満たさない財務状況であることがわかると、発注側としても、依頼を躊躇する可能性は存在します。
この財産的要件の具体的要件は下記の通りです。
一般建設業
次のいずれかに該当すること
- ・自己資本が500万円以上であることもしくは500万円以上の資金調達能力を有すること
- ・許可申請直前の過去5年間許可を受けて継続して営業した実績を有すること
特定建設業
次のすべてに該当すること
- ・欠損の額が資本金の20%を超えていないこと
- ・流動比率が75%以上であること
- ・資本金の額が2,000万円以上であり、かつ、自己資本の額が4,000万円以上であること
一般建設業に関しては、条件のクリアはさほど難しいことではありません。ただし、特定建設業にステップアップするためには、毎年の変更届の提出は不可欠です。
問題は、特定建設業の場合です。特定建設業の場合は、大規模工事を行うことが多い関係上、発注者・協力業者・協力職人など利害関係者が多くなります。そのため、万が一、支払いが行われず、連鎖倒産や職人の不払い被害を食い止めるためにも、より厳しい条件が定められています。
「欠損の額が資本金の20%を超えていない」かつ「資本流動比率が75%以上である」という条件をクリアした上で、「資本金の額が2,000万円以上」+「提出時点の自己資本の額が4,000万円以上」であることという条件を全て満たすためには、財務内容が健全でないとクリアは難しくなります。
また、一般建設業のように、「資金が調達できる見込み」ではなく、実際に「資本金の額が2,000万円以上」+「提出時点の自己資本の額が4,000万円以上」存在する必要があるため、資本金・自己資本を常に手厚くしておく必要があります。
特に大規模な建設になるほど、依頼者側は最新の財務情報等を確認する可能性が出てきます。その際、内容をみた依頼者が、「この会社、更新要件を満たしていない」ということがわかれば、依頼する事を思いとどまる可能性は極めて大きいと言えます。
そのため、更新申請の時期だけでなく、毎年の更新の際も、財産要件を満たす内容の書類を提出できるように、注意する必要があります。
1-8 公共事業に参入できない
公共事業を請け負うためには、経営事項審査(経審)を受け、その上で算入する事が必要ですが、決算変更届を提出していなかったり、経営状況に問題がある場合は、公共事業への参入事実上極めて難しいと言えます。
役所としても、業務を依頼した事業者が経営破綻して工事が宙に浮いてしまっては責任問題になります。決算報告届を提出していない、もしくは経営状況に問題のある業者に関しては、公共事業から排除されてしまうのは、仕方のない場合もあります。
1-9 コンプライアンス遵守の問題
現在の社会は、これまで以上にコンプライアンス(法令遵守)が重要視されたり、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが重視されたりと、「社会の一員として、ふさわしい行動・法令遵守を行う企業・事業者であるか」が問われる傾向にあります。
コンプライアンス重視の一例として、「代表取締役が暴力団関係者との食事会に参加し、指定暴力団幹部との密接交際が公表」されたことにより、ある設備会社が一気に受注を失い破産手続を行うこととなりました。
このような、代表が反社会的勢力と食事をしたことで、致命的な反社会的勢力の関係企業と見なされ、各会社から取引を停止され、経営破綻という事態になりました。
さらに、その会社に勤めていた従業員は、再就職の際、「コンプライアンス上、暴力団と付き合いのあった会社の人間は採用できない」と、直接関係ない社員まで「再就職ができない」「反社会的勢力絡みの会社に属していたことに対する中傷」など大きな被害を受け、社会的に再起が極めて難しい状況に追い込まれています。
現在は警察はもとより、企業・金融機関・自治体など、様々な企業が反社会的勢力と関わりのある企業に厳しい対処をしています。
九州の事例では、地場大手の業績良好だった設備工事会社が、県警から、県や市、国土交通庁へ排除通報が行われました。公共工事からの排除と、得意先からの取引解消、メインバンクの取引停止・口座凍結が行われ年商50億を誇った会社は、あっという間に30億円の負債を背負い倒産しました。
この事例に関しては、他の関連事業者の代表者複数人が、指定暴力団幹部を交えて、月一回の食事会を開いたり、幹部が実質的経営者である飲食店を訪れることもあるなど、行動としては完全に致命的でした。
このように、業績好調の会社でも、反社会的勢力との関与など、コンプライアンス違反が疑われる行為を行うだけで、全てが崩れてしまいますので、関与する相手には十分に注意を払う必要があります。
2 まとめ
建設業許可における決算変更届に関しては、毎年の作業で、かつ税務の決算が終了後、迅速な作成が求められます。
加えて、工事ごとの仕分けなど、慣れないと難しい部分も多く、経営者が独力で行うのは、実際に過去同じような手続を行った経験がない限り難しいと言えます。そのため、エネルギー・時間を重要な経営の方に振り分けるためにも、行政書士、行政書士登録をしている税理士など、専門家への依頼をおすすめします。